モモンガさんが冒険者にならないお話 作:きりP
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さて、どうするか。みんなも揃っていることだしこのままお披露目と行くべきかな。頭の中でどう説明したもんかと考えながら、皆を伴い会議室からぞろぞろと玉座の間に移動する。
まずはそうだな、こいつを紹介しなくてはと座した玉座から目線を下げると、斜に構え、左手を腰に、そして右手で顔を隠すように立っているパンドラが見える……
他の守護者達の冷たい視線を浴びてはいるが、まあ何も言うまい。
「さて話の前に彼奴の紹介だな。名前ぐらいは知っている者もいるだろうが、宝物殿領域守護者パンドラズ・アクターだ。ではパンドラよ」
「はっ!」
カツンカツンと踵を鳴らしながら、玉座の下まで歩み来るパンドラ。そしてくるっと半回転して指を鳴らす。すると何故か辺りが薄暗くなりスポットライトが彼を照らす。
「只今ご紹介に上がりました! んー、パンド「いやまてまてまて!」」
なんでスポットライトがあたってるんだよ! え、やだ、もうこの子怖い。
なんやかんやでパンドラの自己紹介も終わり、おもむろに左腕の時計を見ると、時刻は朝の5時。そしてここでまた気づく。一日は24時間であるのかと。一年は365日であるのかと。
本当にこんな初歩的なことすら解っていなかったんだなあと、心底自分に呆れてしまうのであった。
「まずはここへ来た目的なのだが……すまんが少し時間をくれないか」
守護者達の返事を聞く前におもむろに中空から取り出した指輪をはめる。そして例のごとく旧世代の魔法少女の変身シーンのように光り輝き、可憐な少女が現れた。
「!?」
驚愕する面々ではあるが、あの御姿の少女がアインズ様であることはわかる。目の前で何かしらのアイテムを使ったことによる理解と、それとは別にナザリックの者たちが持つ独特の気というかオーラというものが少女から発せられているのがわかるのだ。
そしてそれとは別に何故か懐かしいと言うのだろうか、少女の容姿、雰囲気から追慕されるこの感情はなんなのだろうか。
守護者達は跪いたまま面を上げ言葉を発することができないでいる。
「玉座がちょっと大きいかな……まあいいか、マスターソース・オープン」
「え!?」
その声を聴き、声を漏らしてしまった彼女を誰も咎められないであろう。誰もが驚愕していたのはもちろんだが、その声の持ち主である創造主から作られた双子を咎めるというのは酷と言うものである。
もちろん彼女の片割れも口をパクパクと、こちらは声も出なかったという事であったようだ。
そしてそれとは別に一人のオート・マトンがある共通項を見つけてしまい、高速思考によるオーバーヒート寸前だったのは誰にも気づかれてはいなかった。
「レベル15か……思っていたよりも低かったが……わからん……」
旧世代の魔法少女は、旧世代の鈍感系主人公であった。守護者達そっちのけで思考の海に沈んでいく。
●
マスターソースコンソール内のPC(プレイヤー・キャラクター)タグ内から見た自身の設定はこうである。
属性―――― 中立~善 ―――[カルマ値+100]
種族レベル― 人間種のため、種族レベル無し。
4,906,942
名前の欄の『モモンガ』が『†ももんが†』になっているのは無視して、思考に集中する。
なんだこれは……まず
だが
アインズが宝物殿で感じた違和感の正体。それはレベルが下がったとしたら
死霊系統魔法職に特化しすぎたものだけが総合計Lv95に到達した時習得できるその
そして『チョーセン・オブ・アンデッド』などの
そうして考えていたら、人間種でも取れる
実際にはアインズが糞運営ってことを思い出せば大体理解できるのだが、正解はプレイヤーステータスから前衛傾向ならファイターLv15、後衛傾向ならウィザードLv15と、たった二種類の
プリーストやレンジャー、ほか多くの
そしてもう一つの違和感は通常時のように頭の中に魔法が浮かんでこないのだ。いや頭の中に低位階の無数の魔法が浮かんではいるのだが、なにか靄がかかったような感じがしているのである。
「……でもあのメモには確かに種族レベルがなくなることによりレベルが下がるって書いてあったよな」
それならあんな書き方するだろうか? これならウィザードLv15になりますよって書くんじゃないだろうか?
「すると答えはこの数字になるわけで……ああ、そういうことか」
ここで一つユグドラシルにおけるレベルが上がるという現象について説明する。
通常のMMORPGや家庭用ゲームにおけるレベルは、敵を倒して経験値が入り、自動的にレベルが上がって強くなるといった寸法だ。中にはレベルが上がってステータスを自由に振り分けて強くなるなんてゲームもあるだろう。
だがユグドラシルでは経験値を種族レベルや
「つまりこの数字は……多分レベル60までの振り分けていない経験値ってことか?」
多分Lv100までではないと思う。こんなに少なくはないはずだ。これならメモ書きの説明も納得できる。ユグドラシルでは多分このあとLv60までの
「……現状それでどうやってレベルを割り振れと」
いくらマスターソースでもここからプレイヤーキャラクターのレベルを上げることは当然できない。そして自身のコンソールも開けない。完全に詰みである。
「覚悟はできていたんだが……うん、そうだなポジティブにいくか」
とある設定書の影響が蝕んでいるのかいないのか、意外にもすっぱりと割り切ったアインズは次なる実験へと挑む。
「第三位階までだなこれは……いけるか? <
頭の中にある無数の低位階魔法の内、この場で試せる魔法をと、第三位階から<
頭の中でカチリと音が鳴り、靄が晴れてその魔法が浮かび上がってきたのが分かった。
玉座からふわりと中空に舞い上がり、惜しげもなくピンクのパンツとガーターベルトを守護者達に見せつけながら、これまたふわりと、そしてなぜかキラキラと舞い散る光のエフェクトを伴って守護者達の前に着地する。
ちなみにこの時、アウラとマーレの顔は真っ赤に染まり、シャルティアはこの映像を脳裏に焼き付けようと、血走った目がどこかのバードマンにそっくりだったのは、どうでもいいことなので割愛する。
●
「よしっ! ビンゴ! 多分だが第二位階までを……42種類と第三位階を3種類まで使えるんじゃない……あぁあ!?」
それに気づいて頭を抱える。<
「んーでもまあいいか、それほど悪い選択肢でもないし……では待たせたな、守護者達よ」
完全にこれはアインズらしい思考ではないのだが、それに気づくのは次に指輪を外した時であった。そして目の前の守護者達をあらためて正面に見つめ、
「ひぃ!?」
と、かわいらしい悲鳴を上げてしまうのも、仕方がないと言えば仕方がなかった。
「ど、どうした!? お前たちなんか怖いぞ!?」
「ア、アインズ様……でよろしいのですよね?」
我先にと全員が前傾姿勢になりながら、見つめてくるが、まずどう声をかけていいのかわからないでいるが故の形相だった。
そして意を決して最初にかけられた声は守護者統括アルベドだった。金色の瞳に困惑の表情を浮かべて、おそるおそる尋ねてくる。
「うむ! ああそうだとも、アインズで間違いないぞ」
先ほどの涙はなんだったのかと(注、エフェクトです)思うような晴れ晴れとした笑顔でにこにこと微笑む。
「うっ!? つ、つまりはその指輪がそのお姿になるマジックアイテムであるという理解でよろしいでしょうか」
あまりにも無邪気な表情と普段とのギャップで何故か頬を染めるアルベド。憎んではみたものの創造主の業からは逃れられないといったところか。
「そうだな、他の40人の仲間からのプレゼントになるんだが、今の今までその存在を知らなくてだな……変装アイテムを探していたところ、パンドラが見つけてきてくれたんだ」
目尻に涙をためながら(注、エフェクトです)それでもにこにこと、まるで何かを耐えるような表情をしながら微笑むアインズ。まあそう見えるだけなのだが、本人としては普通の笑顔のつもりのようだ。
「あああ!? そんなお顔を見せないでくださいませ!」
庇護欲と言うのであろうか、もしくは情欲であったのかもしれない。そんな表情を見せられたアルベドは、アインズを抱きしめようとしたところで、空から三体のエイトエッジ・アサシンが着地し二人の間をふさぐ。そしてパンドラはアインズを抱えて三歩ほど後ずさる。
アルベドの足には鞭のようなものが巻き付き、シャルティア、コキュートス、マーレが身体を抑える。そして一番近くにいたデミウルゴスとセバスの渾身のパンチがアルベドの腹筋に突き刺さりようやく動きを止めた。
「な!? なにをするの!?」
効いちゃいねぇ、こいつなんて腹筋してるんだと思いもしたが、デミウルゴスは額の汗をぬぐい説明する。
「まあ気持ちがわからないわけではないのですが……あなたはアインズ様を殺す気ですか!」
アインズが隠していたわけではないものの、あの玉座での独り言は当然守護者達にも、頭上で待機していたエイトエッジ・アサシンにも聞こえていたわけで、現在15Lvのアインズ様が
そんな目の前の風のような、実際には嵐のような展開に全く付いて行けないアインズ。動体視力や他の運動能力もそのレベルまで下がっている今のアインズには、いつのまにか目の前で絡み合っている守護者達の行動に付いて行けない。
その大きな目を見開き、まるで小動物のようにくりくりと頭を動かすその姿は、某オート・マトンをついにはオーバーヒートに追い込み、ますます玉座の間は混乱していく。
そう、まだ会議は始まってもいないのである。
そう、全然お話が進まなくて終われないのである;;
次回は多分来週になるかも。どんどん伸びる投稿間隔。すまんねw