モモンガさんが冒険者にならないお話 作:きりP
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通勤のお世話になっている、他作者さんには頭が下がる思いです。
私のSS一駅持たんねw
カルネ村の騒動を終え、ナザリックに帰還し、
「冒険者になってみようと思う」
などと某海賊王ばりな勢いで言ってみたものの、守護者全員からのダメだしを食らってしまった。いくら必要なことであると説いてみても、アルベドからは鬼気迫る勢いで考えを改めてくださいと懇願されてしまう。
―――ここで沈黙、思考にふける―――
逆にもしアルベドが「私、海賊王になります!」などと言ったらどうするか……
いや、まて、落ち着け。止めるけどそうじゃない。
どんな脅威があるかもわからない場所に放り出し、その最前線の冒険者になろうだなどと言うことに、了承できるだろうか。
ある意味大事な娘が「私、東京でアイドルになる!」と本気で家を出ていこうとしているのだ。
……アルベドがアイドルになるのはアリなんじゃないか……
いや、違う、そうじゃない。
なにはともあれ、守護者達が本気で心配してくれて、必死に説得してくれようとしているのだ。これはすごく嬉しいものだなあ、なんて思いつつも、やはり精神の安定というか休暇は欲しい……ん?
残り強固なまでに、冒険者になることを否定する……というか、自身の同行を懇願するアルベドを説得すれば、なんとか旅立てると思った矢先、頭に浮かんだのは自分の本当にやりたいことであった。
この新たな世界で冒険がしてみたい!
ああ、確かに自分はそう考えてはいたが、今考えているのは違うのではないだろうかと。ナザリックでの支配者ロールがきつくて、ちょっと息抜きがしたいだけじゃないだろうかと。息抜きだけなら未知の世界での、冒険者という戦闘をもってしての見聞じゃなくてもいいんじゃないか?
目の端に涙を溜めてまで自身の身を案じる守護者統括を見る。
あぁ……これは私が間違っていたな……
ぼそぼそとデミウルゴスがアルベドに耳打ちしているのを見ながら(たぶん何か私に対してのフォローをしてくれているんだろうか)先にこちらから皆の心配を払拭すべきだろうと声を出した。
「すまなかった」
ちょっと声が大きくなってしまっただろうか。
「皆の気持ちはよくわかった。此度の件は一旦保留とする。皆は通常の任務に戻るように、では解散だ」
少し恥ずかしさというか照れくささもあり、そそくさと転移で自室に戻るアインズであった。
●
『モモンガ様! ご依頼のアイテムですが数種類ほど発見いたしましたっ!』
自室に転移した直後、耳に届いたのはパンドラズ・アクターからの<
冒険者になって情報収集をしようと思い立ったは良いが、アインズにはある懸念があった。
自身に人間種に見える幻術をかけ、この場合はマジックキャスターとして冒険者になる。あるいは以前のように≪上位道具生成≫で作り出したフルプレートと剣を装備して、戦士として冒険者になるか。
もしこの世界に、幻術を看破するスキルや魔道具があったとしたら。ヘルムや仮面をつけていても、正体を見破られてしまう感知能力、もしくは透視スキルなんてものがあったりしたら。
考え出したらきりがないが、実際ユグドラシルではそのようなスキルや魔道具があったのだから、懸念材料にもなろう。
情報収集の観点から考えてみても、いささか問題がある。それは飲食が出来ないといった点だ。
カルネ村の村長宅で、白湯を差し出され早々に断ってしまった件も尾を引いているが、実際問題コミュニケーションを構築する上で、共に飲食が出来ないというのは大きなデメリットだ。
リアルでだって「ちょっとコーヒーでも飲んで休憩しようぜ」なんてよくある誘いを毎回断っていたらどうなることだろう。まあ誘われたことはないんだが……
それにカルネ村の状況を鑑みれば、魔法はあるが中世によく似たこの世界。大衆の娯楽なんて飲んで食べてぐらいしか無いのではなかろうか。
それら懸念材料に対処すべく、人間種もしくはそれに近い見た目になり、なおかつ飲食が可能になるアイテムを自室で探してみたものの、この素敵骸骨の見た目にまったく不自由していないどころか、恰好良いとさえ思っている自分がそんなものを持っているはずがなく、嫌々ながらもパンドラに連絡を取り宝物殿内でのアイテム捜索を依頼していたのだ。
冒険者になることは保留にしたものの、実際にあれば役に立つことは間違いないのだから、その報告に嬉々として宝物殿に向かった。
●
転移した宝物殿ではタブラさんに変身していたパンドラに驚くも、会話から納得し、敬礼やドイツ語に精神をゴリゴリ削られながらもようやく本題に入る。
「まーずはっ! こちらのふたつのアイテムでございます!」
まるでTVショッピングの掛け声のようだと思いつつも、パンドラが差し出してきたものを手に取る。
「あー……なるほど、だがこれは使えないな……」
『昇天の羽』と『堕落の種子』、それぞれ天使と小悪魔に種族変更できるアイテムではあるのだが
「元に戻れないんじゃ意味がないな」
「確かに。一応ご依頼の件に当てはまるアイテムであったのでお持ちしましたが、モモンガ様に使っていただく訳にはまいりませんね」
確か使用するのに前提条件があったはずだが、自分は満たしていただろうか。
初期で選べない種族であり、愛らしい見た目になれることから、ユグドラシルではかなり高額で取引されるアイテムである。
まあ外装がいじれるユグドラシルにおいてはあまり関係ないのだが、その種族レベルにこそ真価があるのだろう。
それはともかく現時点ではまったく使えない物であることは当然だ。
考えてみたらパンドラにナザリックが転移したこと、そしてアインズ・ウール・ゴウンと名を改めたことなどを全く説明せずに依頼を出してしまったのだから、こんなアイテムが出てくるのもまた当然か。
アインズは改めてこれまでの事の経緯を伝えるのだった。
「それで三つ目のアイテムは?」
「はっ! こちらでございます!」
それは銀の飾りに緑色の宝石がはまったイヤリングであった。
「……まあ現時点で耳がないってことは置いておくとして、アイテムの効果はなんなのだ?」
耳ってアクセサリー効果対象枠だったか? 顔面か頭装備枠になるのかな? まあこの世界ではどう転ぶかわからないのだからパンドラに先を促す。
「これは『森妖精のイヤリング』という名のエルフに偽装できるアイテムのようなのです」
「……まあ、お前も耳がないからな」
…………
……
…
「さぁて! 気を取り直しましてっ! こちらでーございますっ!」
「うるさい!!」
そして出てきたのは赤い宝石が嵌った首飾りだった。
「それは『炭鉱夫の首飾り』という名のドワーフに偽装できるアイテムです。どうやら先ほどのアイテムを含めて、鑑定結果から同一種類の偽装系アイテムのようです」
「ふむ……では実験してみるか」
一応鑑定魔法ををかけて効果の齟齬がないかを確認してから装備してみると……
「おぉ!」
どこに出しても恥ずかしくない立派な髭もじゃのドワーフが佇んでいた。
パンドラに用意してもらった姿見を見ながら「これはこれで面白いものだな」などとつぶやいてみたが、まずは実験である。
懐から無限の水差しとコップを用意して、飲んでみるがやはり……
「だめか……」
顎付近から水がだだ漏れして床を濡らす。
「まぁ偽装って言葉がどのアイテムにもついてる時点で無理だなとは感じたが、幻術系のお遊びアイテムだったのかな」
現在のナザリックでさえ、幻術系を修めているのは自分とナーベラル・ガンマ、そしてエントマ・ヴァシリッサ・ゼータの三名しかいない。
ユグドラシルでも同じような割合であったようにも思うし、それなりのお遊びとしての需要はあったのだろう。
そのほかの人種・亜人種になれるアイテムも同様の結果であった。
その後、パンドラの謝罪からの全てを許そうコンボにつながり、なぜか主を絶賛する歌を唄いだす埴輪に無い胃をキリキリされながら続きを促す。
「さて、最後になるのか?」
「はいっ! ですがこれは私がお開けしてよいもではありまーせんので、んーアインズ様っ! こちらをっ」
そして手渡されたのは、身に覚えがある淡い白色の指輪ケースだった。
「なっ!? 何故お前がこれを知っている!!」
思わず激高し、精神安定化がはたらくも何度も身体が光り続ける。
「!? そっ、それは至高の御方々がこの場で制作していたのを見ていましたもので……」
「へっ?」
「なんでも『ここまでやればモモンガさんも気に入ってくれるだろう』という話でしたが……」
「……」
さっぱり意味が分からないが……どうやら外見は同じだが自分が思っていた物ではないのか?
パンドラに渡された指輪を嵌め、取扱説明書らしき冊子を見て、アインズが膝から崩れ落ちるのはそれから数分後の事であった。
次話ユグドラシル時代の話になります。