俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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最短で世界を救おうとした魔王は気づく。
遠回りの大切さを。


第二話 遠回りの大切さ

ドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』の摂政会ではその日、

 

『御伽噺』の存在が外交をするため訪れていた。

 

当初誰も信じていなかったが、時間が経つにつれて信じるほかなくなった。これが事実だと。

 

 

 

「このように私は生と死を凌駕する存在だ」

 

『死者』から『生者』に代わる目の前の存在。

 

 

そのアンデッドと思われた存在が、

 

不可能なはずの信仰系回復魔法を行使するところまで目の前で見せられた。

 

 

 

目の前の、御伽噺の『魔王』と名乗る存在が『事実』だと誰もが納得した。

 

 

 

「我々は共存共栄できると思う。これから説明する」

 

『魔王』の言う、ドワーフ国と魔王国が共存共栄できるという指針。

 

 

実情は『従属』だろう。

 

やがては併合される運命になるだろうと『摂政会』の八人全員は確信した。

 

 

「私は今、ドワーフ国の南の都市『フェオ・ライゾ』、旧王都『フェオ・ベルカナ』を占領している」

 

『魔王』はそう言い切った。

 

 

事前に『フェオ・ライゾ』が何者かに支配されていることは、

 

ゴンド・ファイアビアドが報告していた。

 

 

さらに、ドワーフ国と国交のある帝国も『魔王国』の行為を認めている。

 

『魔王国』の全てを追認する旨の伝令が『魔王』と共に来ていた。

 

 

ドワーフ国の外交手段が封じられた以上、これらの都市を取り戻すのは不可能だ。

 

…そのはずだった。

 

 

「二つの条件を飲み、『魔王国』と交易してくれるなら二つの都市をドワーフ国に返す

 

 …我が『財』を貸し出すことも提案する」

 

…『魔王国』と交易さえすれば、その二つの都市をドワーフにそのまま返すと言い出した。

 

 

詳細を聞けば、この提案に即答すれば、

 

場合によるが、破壊された建物すら無料で修復をして返すという。

 

 

実際、旧王都『フェオ・ベルカナ』は修復済みだという。

 

…流石に、旧王都の宝物殿の中身までは保証されなかったが。そこは仕方がない。

 

 

また、『魔王』が引き連れてきた『聖者』を思わせるアンデット集団。

 

 

魔王に『財』と呼ばれる彼らは、

 

希少なはずのその他系統のトンネルドクターの魔法に加え、回復魔法まで使えるという。

 

 

『洞窟鉱山長』と『大地神殿長』が間違いないと太鼓判を押した。

 

 

『魔王』はそれを低額で貸し出すという。

 

同様に、スケルトン等、鉱山開発用アンデッドまでも低額で貸し出してくれるという。

 

 

 

…二つの条件を飲めば、

 

一つは『ルーン工匠』全員。

 

もう一つは、過去・現在・未来の全ての熱鉱石と引き換えに、だ。

 

 

『ルーン工匠』については、『魔王国』の招聘という形で送別会まで開きたいというが実質生け贄だろう。

 

…定期的に『魔王国』が彼らを、奴隷扱いしていないか確認することは許可されたが。

 

 

『熱鉱石』に至っては代替以上のマジックアイテムと交換してくれるという。

 

見せられたそれは、熱鉱石は永遠に不要になるであろう『神』のマジックアイテムだった。

 

無限に増やせるし、取り出せる熱鉱石と言っても良い物だった。

 

 

…これを断るのは馬鹿しかいない。

 

…たとえ『魔王国』に依存しても仕方がない。

 

 

それに最低限、ドワーフ国の『鍛冶』のブランドは守られる。

 

魔王は熱鉱石以外の鉱物は不要だと断言した。

 

 

…共存共栄は確かにできるだろう。これほどの好条件なら。

 

 

『魔王』は、ドワーフ国に繁栄して欲しいと言った。

 

 

 

「『魔王』様、我々で、少し話し合いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

事務総長が恐る恐る尋ねる。

 

全員最終的なところは同じ気持ちだと思うが、多数決を取るべきだ。

 

 

「許す。好きなだけ話し合うが良い」

 

『魔王』はそう言って席をたった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

摂政会では、喧々諤々の議論の末、『鍛冶工房長』以外は魔王の提案に賛成した。

 

 

それ以外に『総司令官』は魔王の軍事力を借りたいと言い出したが、

 

それは後日、皆で話し合うことになった。

 

 

だが、『鍛冶工房長』は『ルーン工匠』が奴隷になると最後まで反対した。

 

結局、摂政会の他全員の賛成に渋々従ったが。

 

 

「もう、いいかね?」

 

話が済んだというところで声がかかる。

 

扉や壁の厚さから話は聞かれてないはずだが、聞かれたような気がして怖い。

 

 

『鍛冶工房長』の暴言の数々を。

 

 

「…納得いってないような者が一名いるな」

 

『魔王』はそれを察した。

 

皆、不味いと思うが次の瞬間、

 

 

『魔王』の周りにありとあらゆる武器が、数百を超える武器が現れた。

 

 

「これは…」

 

『鍛冶工房長』は気づく、

 

これらの武器に使われている金属は全て自分の知らない物しかないと。

 

 

摂政会の面々も『魔王』が武力で脅しているわけではないとすぐに気がついた。

 

 

「私はかつて九つの世界を滅ぼそうとする愚か者を相手にしてきた。

 

 変化を受け入れられない愚か者だった。…言い方が悪いが、君はそれに近い。

 

 はっきり言って、私にとって君たちは今、『価値』がない。

 

 …とはいえ、現段階で君らを否定してはあの者達と何も変わらない。

 

 だから、せめて私の知らない『鉱物』と『技術』がまず欲しいと思っただけだ。

 

 繁栄しないで閉じこもるなら結構だ。

 

 我らは自分達で繁栄する。…もう、同じ失敗はごめんなのだ」

 

魔王は悲しげに、哀れな者を見る目で『鍛冶工房長』を見つめる。

 

 

『繁栄』に、ドワーフ国のみ取り残される。

 

もう『鍛冶工房長』すら反論できない。しない。

 

 

ドワーフ国に『価値』がないというこれ以上ない侮辱をされたが、

 

これらの『財』を魅せつけられては反論できない。

 

 

そして、気づいた。魔王の発言は全て『本音』だと。

 

 

「故に、我が名『アインズ・ウール・ゴウン』にかけて誓おう。君たちの繁栄を」

 

魔王のその名において誓われた。

 

 

もはや、誰もが受け入れざるを負えなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

…言い方が酷いが、上記の内容は本音だ。

 

 

今のところ、『今』のドワーフ国にはほぼ価値がない。

 

唯一の『価値』ルーン工匠の扱いすら酷いものだった。

 

それはデミウルゴス達の資料で知った。確認していた。

 

ドワーフの、新しい『友』からも聞いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ドワーフ国との交渉前、

 

…俺はアゼルシア山脈の『溶岩地帯』の研究初日にある発見をした。

 

 

俺は、『溶岩地帯』を研究するのに邪魔だった提灯アンコウもどきを退治することにしていた。

 

しかし、提灯アンコウもどきがLv45相当でオリハルコン以上の硬度の鱗を持っていることがわかり、ボール・シリーズで捕まえた。

 

オリハルコン以上の硬度を持つ鱗を毎日狩れると喜んだ後、我に返って『溶岩地帯』を調べさせた。

 

 

アゼルシア山脈の『溶岩地帯』は、アゼルシア山脈から遠く離れた山と繋がっていたとすぐに判明した。

 

繋がりはないはずの場所から行き来できる空間が存在した。

 

 

完全に天然の『転移門(ゲート)』だった。仕組みは違うみたいだが。

 

 

俺の憶測は正しかった。

 

 

…この発見だけで不確定要素のドワーフ国を素早く支配せざるを得なくなった。

 

絶対に発見されてはならない。自然現象。

 

今の、『常識』で見過ごされている段階で対処しなくてはならなかった。

 

 

たとえ、旧王都『フェオ・ベルカナ』宝物庫の財を返すことができなくなっても、だ。

 

それ自体が目くらましになるのだ。

 

…俺の個人的な罪悪感以上に、重大な発見だった。

 

 

それこそ本当に『世界』を変えてしまう程の。

 

 

 

俺は放棄されたドワーフ国の南の都市『フェオ・ライゾ』を支配し、

 

それをドワーフ国に旧王都『フェオ・ベルカナ』とともに返す。

 

速攻でドワーフ国を『従属』させる方針に決めた。

 

 

 

『フェオ・ライゾ』を支配している最中、

 

『ルーン開発家』のゴンド・ファイアビアドに出会った。

 

 

俺は『ルーン工匠』をどれだけ価値を見出しているかを説明し、彼に協力してもらった。

 

 

俺は既にドワーフ国の内実を知っていたから、説得は容易であった。

 

俺と話していたら、ゴンドは積極的にドワーフ国を見限るようになった。

 

 

ゴンドは、俺と同じ『思い』の持ち主だった。

 

 

ドワーフ国との話合いの後、

 

うろおぼえだが、確実な『原作』同様の手で『ルーン工匠』達を説得できれば詰みだった。

 

 

そう思っていたら、ゴンドとの会話の中で『熱鉱石』の存在を知った。

 

 

彼は、研究資源の確保のために鉱山採取のアルバイトをしていたという。

 

俺も鉱山を持っているので何かと馬が合った。

 

ヘロヘロさんから窘めるほど自分の鉱山を調べていた。

 

 

ルーン技術に『価値』見出していたこと、

 

『思い』という共通の物もあり、ゴンドとは数瞬で『友』となれた。

 

 

ゴンドにルーン技術を必ずや永遠不滅にしてみせると約束した。

 

 

話が盛り上がり、ドワーフ国そっちのけで話す俺達だったが、

 

ふと、『熱鉱石』は明らかに怪しいと思った。

 

名前が似ているからとかでなく、物凄く弱い『熱素石』に似た性質とも思えたからだ。

 

 

ナザリックにメッセージを送り、即座に『現物』を取り寄せ調べさせた。

 

というか、ドワーフ国からこっそり一部拝借した。

 

 

俺の推測通りならそんなこと言っている場合じゃないし、

 

バレない様にしているから問題ない。

 

 

結果、『熱鉱石』は…熱素石の成分を本当にごく微量に含むものだった。

 

 

アゼルシア山脈全体から回収して、精錬してようやく熱素石になるくらい微量だ。

 

これは現地では絶対に熱素石にできないくらい微量なものだった。

 

デミウルゴス達ですら見逃していたくらいだ。

 

 

ゴンドにはこの発見の感謝と俺の友好の証として、「時飛ばしの腕輪」を贈った。

 

 

そんな微量な『熱鉱石』だが、熱素石を知っているナザリックなら長期スパンで回収できる。

 

長期になるが定期的に『熱素石』が作れる。難しいだろうが、可能と断言できた。

 

たとえプレイヤー等にバレてもほぼ作れないだろう。

 

ナザリック鉱山の希少金属の比でない相当量が必要だ。

 

どんなに誤魔化しても、絶対に足がつく。『熱素石』を作る前にバレる。

 

 

 

とはいえ、ドワーフ国引いてはアゼルシア山脈の直接統治は愚策と判断できた。

 

直接統治して、ナザリックがアゼルシア山脈の鉱山に拘ってしまえば、

 

ナザリックの鉱山ほどの持ち主が、気に留める何かあると勘付かれる可能性が高いからだ。

 

 

それに防衛戦力を意味もなく分ける愚策を犯したくなかった。

 

アインズ・ウール・ゴウン時代、全盛期すら消耗させられた。

 

鉱山に戦力を割いたせいで。

 

 

そのため、ドワーフ国が表に立っていてくれた方が寧ろありがたかった。

 

採掘量が少量になるとしても。

 

 

なので、この『世界』でナザリックの鉱山から初めて取れた熱素石に、

 

アゼルシア山脈全体で使用可能な『熱鉱石』の代替品を願った。

 

 

俺が、ワールドアイテム『乞食の肉』を知っているからできた願いだった。

 

あれは無限の食料だ。しかも、低確率とはいえ問答無用で敵に状態異常を起こせる。

 

…酷い名前に騙されるが、熱鉱石の代替品等よりも遥かに価値が高い。

 

だから、『願い』の範囲内だと俺は確信できた。

 

 

結果、熱素石に願った簡易ワールドアイテムは、

 

『熱鉱石』より扱いやすく、無限に増やせるようになった。

 

これならドワーフ国に文句言われるはずがないと確信する程のものになった。

 

 

惜しいが、長期的に考えれば得だった。『世界』を守るなら必要経費だ。

 

 

 

これで、魔王国とドワーフ国との共存共栄が可能になった。

 

…偶々見つけた鉱物のお陰で。

 

 

同時に、ドワーフ国を魔王国に依存させる体制を取らざる負えなくなった。

 

…偶々見つけた鉱物のせいで。

 

 

 

この『世界』はやはり脅威がある。知られていないだけで。

 

たった数日の発見でこれなのだ。

 

おそらく、旧王都『フェオ・ベルカナ』の宝物庫からもいずれ発見があるだろう。

 

 

…俺はこれまでの行動を調べなおす必要が出てきた。

 

冒険者モモンとして、商人として、国として、あらゆる手段で『常識』は学んだ。

 

 

だが、今回アゼルシア山脈で二つも、『常識』の中の『非常識』の存在に気づいた。

 

 

これまでの有害なタレント持ちとされてきた者達。

 

カルネ村のファーマー等のありふれた、ユグドラシルにはない謎職業。

 

何故、この世界の住民にできることが、ユグドラシルの者にはできないのか。

 

…王国、帝国等ももう一度精査する必要がでてきた。

 

 

この『世界』の当たり前の『常識』が脅威になるかもしれない。

 

 

今まで単に魔法と片づけられていたことも科学的視点で解析すれば、

 

ユグドラシルに対抗できるかもしれないとはっきりわかった。発見できた。

 

 

...俺は近道をし過ぎたかも知れない。

 

 

 







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