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民泊の業者が次々と撤退を決める、実に興味深い「裏事情」

もしかして、わざと厳しくしてる?
長谷川 幸洋 プロフィール

勝手に厳しくしているのか、それとも…

マンションで民泊を検討する場合は、どうしたらいいのか。

世田谷区は「管理組合に住宅宿泊事業を禁止する意思がないことを証する書類」の提出を求めている。平たく言えば「このマンションで民泊はダメ、と決めてはいません」という書類である。

「ダメとは決めていない」のを、どうやって証明するのだろうか。私(規制改革推進会議委員)が質問すると、先の日下氏は「管理組合で証明をもらう」と答えた。だが、組合で決めていない話は組合理事長でも勝手に返事できないだろう。すると「おっしゃる通り、だから入手が困難なのです」と認めた。

 

この点を観光庁に確認すると、担当課長は最初「禁止する意思がないことを証明、宣誓していただければ、いいです」と答えた。そうだとすると、管理組合は「禁止する意思がない」こと自体を決定しなければならない。「将来にわたって決めないことを決める」という話であり、ハードルが相当高い。まず無理ではないか。

実は、観光庁などは規則の運用を定めたガイドラインを作っている。17ページには、次のように書かれている(http://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdf)。

「管理組合に届出住宅において住宅宿泊事業を営むことを禁止する意思がないことを確認したことを証する書類」とは、届出者が管理組合に事前に住宅宿泊事業の実施を報告し、届出時点で住宅宿泊事業を禁止する方針が総会や理事会で決議されていない旨を確認した誓約書(様式C)、又は本法成立以降の総会及び理事会の議事録その他の管理組合に届出住宅において住宅宿泊事業を営むことを禁止する意思がないことを確認したことを証明する書類をいう。

ここで、重要なのは「届出時点で」という部分である。つまり、民泊事業を役所に届け出た時点で「禁止が決議されていないことを確認できれば、オーケー」なのだ。べつに「将来もずっとダメとは言わない」ことを確認してもらう必要はない。

この点を問いただすと、担当課長は「その時点で禁止の方針がないというだけで、これを宣誓していただければいい。つまり、将来にわたって禁止しないよということを決めていただいていなくても、そこは受け付ける」と認めた。

世田谷区の例に戻ると、実際の運用で「届け出時点で」という前提がなく「将来にわたって禁止する意思がないことを証する書類」の提出を求めているのだとすれば、国が定めたガイドラインよりはるかに厳しい「上乗せ規制」になる。

さらに「管理規約に特段の定めがない場合は原則オーケーなのか」と質問すると、観光庁の回答は「管理人さんのところに行って、そういう規約がないというのを署名していただいて証する書類、宣誓書類のようなものを出していただければ、大丈夫」とのことだった。それなら、ハードルはずっと低くなるかもしれない。

役所の仕事では、こういうケースがままある。国はそれほど厳しく定めていないのに、自治体が運用で勝手に厳しくしてしまうのだ。これではガイドラインの趣旨をなさない。国はあらためて運用の実態を調べて、制度の趣旨を徹底してもらいたい。

自治体が確信的に上乗せ規制をしているなら、それは自治体側の問題になる。ぜひ柔軟な姿勢で臨んでいただきたい。