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民泊の業者が次々と撤退を決める、実に興味深い「裏事情」

もしかして、わざと厳しくしてる?

高すぎる「書類」のハードル

連日、大変な猛暑である。にもかかわらず、夏休みに入って、街には家族連れや外国人観光客の姿が目立つ。観光推進の柱の1つとして、6月15日に住宅宿泊事業法、いわゆる「民泊新法」が施行された。だが、現場では混乱が続いている。

政府の規制改革推進会議は混乱を受けて6月26日、関係省庁と業者を招いてヒアリングを実施した。それで分かったのは、新法にもかかわらず、手続きが煩雑で、事業の拡大どころか撤退する既存の民泊ホスト(空き家・部屋の提供者)が相次いでいる現状である(議事録は、http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/committee/20180626/gijiroku0626.pdf)。

まず、民泊ホストのグループをまとめている団体「Japan Hosts Community(以下JHC)」の声を紹介しよう。代表の日下太介氏は「ゲスト客に地元の名店を紹介して商店街に喜ばれていた夫妻」や「脱サラでフルタイムの民泊ホストになった青年」など、いくつかの撤退例を紹介した。

理由は、役所に提出する書類の多さ、時間がかかる手続き、それに届け出自体を受理しない自治体があることなどだ。

 

東京都世田谷区の例を挙げると、住民票の抄本から始まって、計18もの書類を用意する必要がある。特に入手が難しい書類として、マンション管理組合の民泊許可、不在民泊の場合は業者との管理受託契約書類、マンションでもホテル並みの消防施設を証する書類、安全を証明する建築士の書面の4つを挙げた。

このうち、業者管理受託契約は6月15日以前は業者自体が少なくて、入手しようがなかった事情もある。

規制改革推進会議は関係省庁に「届け出手続きはオンラインで完結するように」要望していた。ところが、JHCがホストたちにアンケート調査すると、ネットだけで完結した例は1つもない。

保健所に4回、消防署に2回、区役所に1回、法務局に1回などと自ら出向かなければならず、立ち入り検査をした後でないと書類自体を受け付けなかった新宿区のような例もあるという。

民泊仲介大手、Airbnbの山本美香氏は、6月15日時点で3728件の届け出があったのに対して、受理されたのは2210件にとどまっている、と指摘した。数字は観光庁も確認した。本来ならば、行政手続法上、形式要件が満たされ、書類が提出された時点で届け出が終わるはずなのだ。

そのうえで、分譲マンションだと住民の一部に反対意見があると実質的に禁止扱いになってしまう例や、消防法の規制が厳しく、1室の民泊活用でも建物全体に消防設備を設けなければならないケースがあり、設備投資負担の大きさを問題点として指摘した。