俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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第一話 未知なる脅威
ラナーとの答え合わせの後、
俺は無理やりラナーに連れられてナーベラルの下へ行った。
俺は、ナーベラルに『旅』を突然切り上げたこと、色々迷惑をかけたことを謝罪した。
また、時間ができたら『旅』の続きをしないか誘おうとした。
だが、途中でアルベドが俺に縋り付いてきた。
…この前の反応から察するにアルベドの最近の暴走の原因は、
アルベドにワールドアイテムを付与したとき、
タブラさんの『誓いの儀式』発言が原因だと思った。
あれは勘違いするだろう。
…実際は、一番近くにいる能力を与えやすい存在だっただけだが。
なので、俺から説明した方が良いと判断した。
「アルベドよ。あの『儀式』はタブラ・スマラグディナさんから頼まれて行った」
目を見開くアルベド。反応でわかった。暴走の原因が。
「だから、お前はあの時にいた皆から祝福を受けている。それは私が保証しよう」
アルベドは構って欲しいのだ。
自分を否定された気がしたのだろう。
だから、認める。お前は愛されていたのだと。
「モモンガ様!認めてくださるのですね!?」
歓喜するアルベド。やはりそうだったか。
「ああ。私が認めよう」
皆から愛されていたことを。
「もう――我慢しなくて良いのですね!」
ん?
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端的にいえば、アルベドは暴走した。
何故かアルベドは俺を押し倒した。
俺は皆の力を借りて何とかアルベドを引きはがした。
...アルベドには謹慎三日を言い渡した。
騒動後、駆けつけた皆を解散させた。
今ここにいるのは、
ラナーとアルベドを事後処理を行っているパンドラズ・アクターだけだ。
ナーベラルには『旅』の報告の続きを指示した。
ナーベラルには、謝罪だけになってしまったがまぁこれで良いか。
…そう思っていたら、
「なんでしょうか?馬鹿なのですかねこの男?」
ラナーが罵倒してきた。
「我が父は手遅れです。…これらの対応から見ても明らかでしょう。
下手に刺激するよりもこれ以上は放置が適切かと思われます」
パンドラズ・アクターにも暴言を吐かれた。
仲良すぎないかこの二人?何故か阿吽の呼吸で俺を罵倒にしてくるのだが。
俺、パンドラズ・アクターの創造主だよな?
先ほど、ラナーに勝ったばかりなのに負けた気しかしない。
少しして騒動を聞きつけたのか、シマバラが物凄く良い笑顔で挨拶してきた。
これは『策』について勘違いしているに違いないと俺は察した。
…その解決手段にはならなかったとしっかり伝えた。
シマバラの噂話の伝染力は知っていた。今回の件でも大活躍だったようだ。
故に、この場で否定しないと不味いと判断した。
が、
「ようやく私は真理を理解しました。つまり、モモンガ様は恋人や…」
物凄く嫌な予感がしたのでその場から転移してしまった。
聞いたら死ぬと何故か確信した。
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玉座の間にナザリックの皆を集めた。もちろん離れられない者は別だが。
俺は今回の件に関わった『全て』を許した。
俺のために行動してくれたことを寧ろ感謝した。
だが、ああいうことはもうしないように厳命した。
心の底から。
俺にはまだ気が付かない欠点が山ほどあるだろう。
しかし、もうあのような形で利用されたくはなかった。
あの『策』が完全に嵌っていたら、俺はラナーを『側』にはおけなかった。
…たとえ愛していても、だ。
俺の願いには、その場にいるナザリックの全存在が承知してくれた。
一応、ナーベラルには詳しいことを言わないように厳命した。
ナーベラルはこの集まりにも来ていない。
『旅』の報告書を書くよう命じている。
…情けない話だが、俺はしばらく心を落ち着かせたかった。
正直、意識するだけで心が揺れるのだ。
…ラナーと一緒にナーベラルと話していたときはそうでもなかったのだが。
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色々皆に話が終わった俺は、
ドワーフ国の旧王都『フェオ・ベルカナ』の宝物殿の中身を全て即座に回収させた。
それ以外の書物等も含めて、旧王都の全てのものを一時的に回収させた。
『フェオ・ベルカナ』が他の勢力から攻め込まれる可能性を思いついたからだ。
宝物庫の財を放置するのも『フェオ・ベルカナ』を放置するのも不味い。
19匹のドラゴンの巣という脅威はある種の抑止力にもなっていたはずだ。
…恐らく、あの『霜の巨人』も他勢力の偵察か何かだったのかもしれない。
Lv40前後の『霜の巨人』だ。現地の『強者』を安易に逃がしたことを俺は後悔した。
俺はユグドラシルの時の感覚で他国の宝物庫を盗掘した自分を恥じたが、
必要な行為なのでさらに追加の指示をした。
ドワーフ国の交渉まで、宝物殿の中身や城にあった書物等を研究することにした。
ドワーフ国の危険はクアゴアの『従属』により、ほぼ無くなった。
故に旧王都の財宝等を調べ終わってからでも交渉はできると判断した。
道具や武器、アイテムの解析、本等の文献の解析をナザリックNPC達に任せた。
文献は、技術書や歴史、文化等、全て解析させる。
特に文献は丸写ししてナザリックで保管する。翻訳も作成する。
こういう時、俺が作った大量にいるエルダーリッチ達が有能なのだ、本当に俺より凄い。
文献は、現在に通じるかはわからないが、交渉の際に役立つ。
ドワーフの古典や技術等を軽く知っているだけで、知識層或いは上層部との交渉に使える。
知っていれば意外と簡単なのだ、専門性の高い人物を惹きつけるのは。
アルシェやフールーダがそうだ。フールーダは簡単過ぎたが。
あらゆるドワーフの『知識』を集めさせた。
ドワーフにできることできないこと全てを解き明かす勢いで。
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…ここまでやらせているが、ドワーフ国の現状はもうナザリックが把握している。
ラナーを中心に、俺を嵌める為だけにナザリックが『全力』を挙げていた。
結果、帝国からドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』経路だけでなく、
現在のドワーフ国の現状を調べ尽くしていた。
ドワーフ国の内情すら手に入れていた。
何に使うのかわからない程の情報があった。
全てが俺を嵌めるためだけに用意された資料だった。
それを流用するだけで、ドワーフ達を『支配』するのが容易だ。はっきり言って。
…俺があの時にデミウルゴスの提案を飲んでいたら、
確実に『策』は成功したと確信できた。
本当にギリギリだった。俺は幸運に感謝した。
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俺は宝物庫について、調べている間はドワーフ国との交渉は中止した。
もはや、ドワーフ国の安全はほぼ保障されている。
最も、アゼルシア山脈には他の脅威はいる。そのとき助けるかは状況次第だが。
…リユロの件でドワーフを助けるのもおかしい気がした。
実際、まだドワーフを調べている途中だが、
『魔王国』にとって『鍛冶技術』と『ルーン技術』くらいしか目ぼしいものがない。
もちろん、食料等の輸出先などにはなる。
『顧客』としてはそれで十分だし有益な取引相手にはなるだろう。
エ・ランテルが平和的に支配できたから、
『鍛冶職人』は確かに足りていないが時間さえかければいずれ集まる。
...ドワーフ国は、本当にブランド力しかない。
『魔王国』は、彼らの鉱石はいらない。
『魔王国』の『産業』として『ルーン技術』を全て貰えれば話は別なのだが。
なお、旧王都『フェオ・ベルカナ』は従属ギルドNPC達に守らせている。
旧王都の隠蔽工作も完璧だ。
今や、ドワーフ国の旧王都『フェオ・ベルカナ』は、ナザリックの要塞と化している。
…ちょっと実験に使わせてもらったが、バレなければ問題ない。
だが、これらの行為によって、ドワーフ国との交渉によっては、
事実上の『従属』になる可能性が出てきた。
別に支配したいわけではないが、ドワーフ国は優先度が低い相手になってしまった。
世界征服したいわけではない。
ただ、わかっている情報を纏めれば、『魔王国』にドワーフ国が依存してしまう。
『魔王国』ならドワーフ国側の需要をほぼ満たせる。
だが、『魔王国』にとってドワーフ国の物はほぼいらないのだ。
『ルーン技術』を除いて。
故に依存する。してしまう国だ。ドワーフ国というのは。
共存共栄路線が取りずらい。
正直、『従属』させるまたは『魔王国』に編入した方が利益になる。お互いに。
世界征服したいわけでは断じてないが、理詰めで考えれば考えるほどそういう結論になる。なってしまう。
感情で嫌なだけだと理解してしまった。
ドワーフからすればふざけるなというだろうが。
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旧王都に近づいてくる奴がいたら確保するように命令してある。
…あの『霧の巨人』を逃がしたのは完全に俺のミスだ。
もはや、あの時に友好関係を築くのが難しいから、逃がして正解だった可能性もあるが。
オラサーダルクやリユロに聞けばよいと思い直し色々聞き取りをした。
聞き取りをして大体わかったのは、アゼルシア山脈にはほぼ雑魚しかいないことだった。
それとアゼルシア山脈のおおまかな位置関係がわかった。
今後の活動はその情報を下に作成した地図で行われることになった。
トブの大森林ルートや王国ルートも時間さえあれば作成は容易い。
今後、現地でさらに調べれば、ドワーフ国と交易する際の道路を作るのも容易だ。
だが、気になる情報があった。『溶岩地帯』だ。ここは不味い。
ここだけは支配すべきだと思った。
クアゴアがドワーフ国の現首都『フェオ・ジュラ』の攻略のために、
進軍しようとして何度失敗した3つの難所の一つ『溶岩地帯』。
これは、デミウルゴス達が俺を嵌めるために集めた情報と、
クアゴアの証言、旧王都にあった書物を統合してわかった憶測でしかない。
転移門(ゲート)に類する能力を持つ、天然の門が『溶岩地帯』にはある。
明らかにそこだけ異常なのだ。
地表から数キロも潜ってないのにマグマの海が流れている。
高熱の海のようになっているという。これはあり得ない。
さらに、溶岩の海では、およそ体長50m超の提灯アンコウもどきが泳いでいるという。
こんな現象や存在は魔法的要素がないと有り得ない。
それこそ、どこか別の場所からマグマ等が行き来してでもいない限り。
どう考えても、この『世界』の常識でも有り得ない現象と存在。
この規模となれば『転移門(ゲート)』でもないと無理だと俺は推測した。
仮に推測通りなら最上位の転移魔法が『自然現象』として起こっている。
…この世界の技術で『転移門(ゲート)』が再現可能かもしれない。
自然界にあるなら、再現可能な現象だと思った。
『科学』は自然を解き明かして発展してきた。
この『世界』は、『魔法』が科学の代わりとなっている。
…ふと最悪の可能性が頭に浮かんだ。
俺は、この溶岩地帯の研究を現段階のアゼルシア山脈の重大研究と位置付けた。
極秘に『溶岩地帯』を支配し、研究する。
この現象をこの世界で再現されてしまえば、『進軍』や『流通』等が完全に変わる。
…パラダイムシフトだ。まだこの時代では起こしてはいけない類の。
重大な研究と判断するには十分だった。
やはりこの『世界』には未知の脅威がある。知られていないだけで。