なぜ、泳ぎ方や自転車の乗り方は一度 覚えたら忘れないのでしょうか?
なのに、どうして、泳ぎ方や自転車の乗り方を口で説明するのは難しいのでしょうか?
これらの疑問について、わかりやすく解説します!
泳ぎ方や自転車の乗り方は忘れない?
昨日の晩御飯、なにを食べたか覚えていますか?
学生の時、英語や社会などの勉強で暗記に苦労しませんでしたか?
新しい物事を覚えるのはとても大変で、それなのにすぐ忘れてしまいます。
一方、泳ぎ方や自転車の乗り方を忘れたという人を聞いたことがありますか?
これらの体で覚えた記憶は忘れにくいとされています。
同じ記憶なのに、頭で覚えるものと体で覚えるものとは、特徴が全くちがいますよね。
実は、これは記憶の種類のちがいによるものなのです。
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記憶には大きく2種類に分けられる
記憶は、頭で覚える「陳述記憶」と体で覚える「手続き記憶」があります。
これから詳しく説明していきますね。
陳述記憶 (宣言的記憶)
「陳述記憶」とは、言葉として表現したり、頭の中でイメージできたりする記憶のことです。
口頭で話すことができるという意味から、「陳述記憶」や「宣言的記憶」とよばれます。
教科書で学んだり、人の話を聞いて覚えたりしたことは忘れやすいですが、この記憶にあてはまります。
陳述記憶は、さらに「意味記憶」と「エピソード記憶」の2種類に分けられます。
意味記憶とは、「dog は犬という意味だ」「鎌倉幕府をひらいたのは源頼朝だ」という学習で得られた記憶のことです。
エピソード記憶とは、「昨日、友達のAちゃんと会った」「10年前、沖縄に旅行した」という出来事の記憶です。
手続き記憶 (非陳述記憶)
「手続き記憶」とは、体の動作で覚えた記憶のことです。
意識をしなくても動作を再現でき、いちど覚えると忘れにくいという特徴があります。
小学校でリコーダーの吹き方を練習しましたよね。
最初は「ドの時は、えっと…」とリコーダーを見ながら指を動かすので精一杯ですが、慣れると何も見なくても指はスラスラ動きます。
自転車に乗ることができるようになれば、歳を取っても乗り方は忘れません。
元々カナヅチの人もいますが、「昔は泳げたのに今は溺れてしまう」という人はめったにいないでしょう。
「手続き記憶」とは、「非陳述記憶」ともいわれます。
つまり、「言葉で表現することができない(難しい)」ということです。
子どもに泳ぎ方を教えるときは、実際に一緒にプールに入って手とり足とり面倒をみますよね。
「自転車の乗り方を口だけで教えて」と言われても、かなり難しいと思います。
これらはそもそも言葉やイメージで覚えた記憶ではないので、口頭で説明するのが難しいのは当然なんです。
それでは、どうして「陳述記憶」と「手続き記憶」とで、これほど特徴が異なるのでしょうか。
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記憶を貯蔵する場所がちがう
実は、「陳述記憶」と「手続き記憶」では、記憶が貯蔵される脳の部位がことなります。
陳述記憶は「海馬」に貯蔵
陳述記憶として新しく覚えたことは、大脳の「辺縁系」という場所で保持されています。
大脳辺縁系は、大脳の内側にあり、本能や記憶など動物として必要な機能がある領域です。
さらに細かく説明すると、大脳辺縁系の「海馬」とよばれる部位が記憶の中心です。
海馬では、新しいことを覚えると同時に、使わない(要らない)記憶はどんどん忘却されていきます。
不要な記憶は「短期記憶」としてすぐに消去され、必要な記憶は大脳皮質とよばれる部位に送られ「長期記憶」として残ります。
認知症のアルツハイマー病では、この海馬が障害されるため、学習能力が低下します。
手続き記憶は「大脳基底核」と「小脳」に保持
一方、体で覚えた手続き記憶は、大脳にある「基底核」と「小脳」が関連しています。
「大脳基底核」とは、大脳の奥深くにあり、運動や学習のコントロールしています。
筋肉を動かしたり止めたりを自由に行えるのは、この「大脳基底核」のはたらきです。
「小脳」は大脳の後ろ側に存在し、姿勢や細かい運動の調整をしています。
すっと立ち上がったり、まっすぐに歩いたりできるのは、この「小脳」が調整してくれるからです。
もうお気づきでしょう。
泳ぐときに手足を同時にスムーズに動かすことができるのも、自転車に乗るときにバランスよく運転できるのも、この「大脳基底核」と「小脳」のはたらきのおかげです。
はじめは水泳も自転車の運転もうまくできませんが、練習を重ねるうちに効率的な体の動かし方を学び、修正していきます。
大脳基底核と小脳のネットワークにより、正しい動きを「体で覚える」のです。
おわりに
私は大学で脳の機能や記憶の種類について学びました。
脳はいまだに解明されていないことが多く、現在進行形で研究が行われています。
私の経験が、この記事にうまく活かせているかわかりませんが、「わかりやすい」「おもしろい」と思っていただければ幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
以上、なぜ泳ぎ方や自転車の乗り方は忘れないの? どうして口で説明しづらいの? 記憶について解説! でした。