新たなる冒険 作:hiro19931215
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彼の前には、50名のマジックキャスターが隊列を組んで前進している。スレイン法国の六色聖典の一つ「陽光聖典」の精鋭たちである。その隊長である彼は、ニグン・グリッド・ルーイン。
ニグンは、任務中にも関わらず隊長である彼は深い溜息を吐いていた。
(いくら、我が国の為とはいえ。斥候隊のような下劣な者たちと隊を組み。我らが同胞である、人間同士で殺しあわなければならないのだ...)
ニグンの祖国であるスレイン法国は、六大神を信仰する宗教国家である。
国力は周辺国家最大であり軍事力にも長ける。四大神信仰の周辺国家との仲はあまり良くないが、人間こそ選ばれた民であるという宗教的概念により、亜人等の討伐に全力を尽くしているため、人間の国家に対して軍事行動を起こしたりはしない。ただし、水面下ではちょっとした謀略を行っているようで、送り込んだ工作員などが抗争を引き起こすことがある。
国の重要課題は神官長会議によって決められている。神官達はそれぞれ信仰する神こそ異なるものの、人類の守り手としての理念を共有しているため、各員の利益ではなく全体の利益のため共調して行動する。
強者が少なかった頃、血を濃く保つ必要性があった歴史上の慣習から、許可制ではあるが一夫多妻が認められている。周辺国家では戸籍台帳を整える唯一の国であり、才能を持つものを効率的に発見することができる。また、神殿勢力が運営する国家という特殊性により、信仰系魔法詠唱者の育成が非常に進んでいることで有名である。
その為、彼ニグンは殺人に対してかなりの抵抗があり。先の村を襲ったのは、信仰心が薄い者たちばかりの隊である。
そんなこと考えながら、ガゼフ討伐の隊を進めている最中。隊の前方に一人の男が立っていた。いつから?どうやって?なぜ気づかなかった?そのような、疑問を抱きながらニグンが男に問う
「そこをどいてくれないか?私達は、この先の村で急いでやらなければならないことがあるのでな」
「どーも、皆さん。はじめまして。私は、モモン。この先にある村にお世話になっている旅人です。残念ながら、この先の村にはお通しできません」
「ふん、旅人如きが我等の進行を妨げないでいただきたい。我々には人類の為に遂行しなけばならないことがあるのだからな」
「それは、ガゼフストロノーフの抹殺か?」
モモンの言葉から任務対象の名前が出た瞬間。ニグンの隊は隊列を即座に組みニグンを最後尾になるように横並びの3列隊形に陣形を組んだ。
「ほぅ、大した精鋭部隊ですね。その判断能力と行動力。流石というべきですね」
「貴様、何者だ?我々を「陽光聖典」と知っての行動なら無謀だな」
既に、お互いは戦闘状態。モモンは余裕そうに相手の先手を許していた
「天使を展開!2列目は天使を強化!3列目は攻撃魔法を放て!」
陽光聖典は炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)」を大量に召喚し、一気に相手を殲滅する戦い方を得意とする。ニグンは監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を召喚し、召喚されたアークエンジェル・フレイムを強化できる。更にプリンシパリティ・オブザベイションはニグンのタレントによって強化されているので、その相乗効果はそれなりに大きい。
そして、天使を盾として後衛から魔法を放つ。攻守優れた陣形である。
モモンガは、相手の魔法と天使を見て驚愕した。それは以前プレイしていた「ユグドラシル」にでてくる魔法と天使だ。だが、モモンガは冷静にそれらを全て躱した。「ユグドラシル」にでてくるものと一緒なら対処方法を熟知していたので、さほど苦労は無いが。
「誰だ!誰が!それらを教えた!!」
突然の叫びにその場の全員が硬直した。男の顔が先ほどと違い悪魔のような形相になった。そしてモモンガは、背中の大剣を抜き天使と対峙し始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
戦闘が始まって20分経過
(この男!なんて強さだ!!我々を相手にたった一人で!!)
モモンガは、相手の波状攻撃の魔法を全て避け。天使達の攻撃を紙一重で避けHPを削っていた。人間一人に対して、天使20体攻撃特科のマジックキャスター10人。ガゼフのフル装備でも勝てるかどうかの戦力差だ。
だが、世の中には人知を超えた人間もいるとニグンは知っている。その中にはガゼフも含まれている
(だがこの男も、所詮は人間!勝利は時間の問題だな)
それを思ったのがモモンガの速さが遅くなっていたことが証拠と感じていたから。
と、突然モモンガは一気に距離を取り動きを止めた。その行動に不信を感じた、ニグン。一度、隊列を整えるために追撃を止めモモンガの様子を見ていた。
最初は、単にスタミナ切れと思われ追撃を考えたが。ニグンの直感がそれを止めた。
(あのまま行けば死んでいた...のか?)
ニグンは直接戦闘はしていないものの、ニグンの額から頬にかけて冷や汗が流れていた。お互いに沈黙が生まれモモンガは何かを考え、ニグンはモモンガの様子を見ている。
「やっと、慣れてきたな。そろそろ外すか?」
その場の沈黙を破ったのはモモンガからだ。
モモンガは、言葉の後に自分の右中指にある指は一つ外した。その瞬間...
世界が変わったように感じた。ニグン達はそう感じた。例えるなら、突然目の前に山岳ができたような強大な存在が生まれたかのように感じ。同時に、恐怖した。先ほど流れていた汗は、滝のように流れだし。腰を抜かす者や、突然倒れだす者。
「貴様!!何をした!!!」
もはや、恐怖を紛らわすかのようにニグンは叫んだ。
「あぁこれか?「修験の指輪」と言ってな。ステータスが10分の1になる代わり、経験値が倍になる効果だ。まぁ、割に合わないから眠らせていたんだが。今回の実験の為に引っ張り出したんだ」
「修験の指輪」
全ステータスが10分の1になる代わり、得られる経験値が倍になる。
スキルはそのまま使えるが、威力も並行して効果も下がるといった使用。
ステータスが大幅にダウンする割に、経験値が2倍のみなので熟練者プレイヤーにはガラクタ当然の代物である。運営側が初心者救済の為に作られたと思われる。
今まで、モモンガはこの指輪を着けて戦闘していたので本来の能力では戦闘していない。実際この指輪を着けていない状態で戦闘していたらニグン達程度秒殺である。なぜ、指輪を着けて戦闘していたかというと。モモンガ自身、今まで近接の戦闘は皆無なのでこの機会に近接の経験を積んだのである。
戦闘中も自身の新しいアバターのスキルも確認というなの余所見をしていた。
「さてニグンとやら」
「なんだ!!」
「お前はなぜこんなことをする?」
突然のモモンガの問いにニグンは戸惑う。
これは、何かを試しているのか?
我々の情報を引き出すためか?
何かの時間稼ぎなのか?
考えられるのは、たくさんあるが。ニグンは自身の気持ちをぶつける。
「我は、我が神の為!我が信じる祖国の為!我が国民の為!その為なら、どんな汚名を被ろうと構わない!!」
ニグンの心からの叫びである。
「なるほどな、悲しき者よ...」
「動ける者、総員攻撃」
ニグンは即攻撃命令を出した。これ以上時間を空けてしまっては良くないと感じとり。恐怖を押し殺しながらも。
<スキル 亡者の叫び>
突然、モモンガの前に死体のような体が浮き出た壁が現れた。その壁で、魔法は打ち消された。そして、壁の死体のような彫刻が動きだし。天使達を両手で潰していた。
あまりにも、一瞬で攻撃が無効化され。召喚した天使達が瞬殺された事により。ニグン達の中で、驚愕と声にならないような声を上げていた。
「えy??!?なにがおきた?」
「スキルを使っただけだよ」
ニグンは、今の状況で冷静な判断能力を欠け。監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を前衛に出してきた。本来であれば後衛の天使なのだが最早そこまでの判断力は無い。
モモンガにメイスを振り上げ、振り下ろす。
ガンッ
上位の天使の攻撃を指一本で止めるモモンガ。
「ふんっ、こんなものか...消えろ」
モモンガは、大剣を横に一閃ただそれだけで監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を両断した。
最早ニグン達は絶望しかなかった
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