俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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「時よ止まれ お前は美しい」
そう叫んだ女は、時が動き出し、さらに美しいものを見た。


第二部最終回 答え合わせ

ナザリック地下大墳墓に設けられた私の自室。

 

私はそこで『答え』を待っていた。

 

もはや、『村娘』の策ですらないような真似までした。

 

正直、失敗したかもしれない。

 

そう思っていると異常に気が付いた。周りの音が消えている。

 

 

 

まるで最初のあのときと同じ。自室にいるはずなのに、そこではない空間。

 

まるで世界が切り離され、『時』が止まったかのようだった。

 

 

そこでまた同じように、いや今回は突然『彼』は現れた。

 

楕円の闇はなく、いつものような『人間』で現れた。

 

 

「答え合わせと行こうかラナー。二つの意味で」

 

そう言って、手を差し伸べる彼。

 

 

私は、その意味を正確に理解し歓喜した。

 

 

 

「ええ、何でしょうか?」

 

手を受け取りながらも、その思いを面に出さずに完璧に答える。

 

偽装は完璧だ。だから、真摯に聞ける。何であろうとも。

 

 

「まず、最初の答え合わせは、『勇者』だ」

 

それは言っていない。どこで気が付いたのか?

 

 

「『番外席次』はこう言ったよ。

 

 『私は『勇者』なんかじゃない。『人間』ですもの』」

 

彼女と同じ声で話す。

 

 

「魔法ですか?それともアイテム」

 

関係ないことではぐらかす。本当は早く聞きたいがこれは『答え合わせ』だ。

 

 

「マジックアイテムだ。友に貰った」

 

彼には、中々面白い性格の友がいたらしい。彼女の声色から何までが同一だった。

 

 

「あのとき俺は確信した『番外席次』は本気で言っていると。

 

 それは間違いではなく、彼女は『人間』だった。

 

 俺が思い違いをしていたのは、『歪み』を治せないと自分で結論していたことだ。

 

 俺が彼女に結論を下してしまった」

 

そこはもう手遅れだったが、言わない。

 

その方が彼女のためになる。私のせいでもあるから。

 

 

「次はこれだ。

 

 『誰かが…いいえ、それで構いません』

 

 ラナー。お前はここで言い淀んだな?」

 

覚えている。あのプライドを捨てた告白だ。

 

一言一句違わぬ自分の言葉だ。自分の声は理解している。

 

 

「ええ、そうですね。続きを」

 

私は促す。彼はどうあれ『答え』を得たと確信する。

 

 

「これは『勇者』を待っていたんだな?

 

 しかも、『魔王』を倒すのではなく、救う『愛』の勇者だ」

 

その通りだ。つまり彼はもう自分を愛せている。

 

だから確認する。

 

 

「『勇者』と愛し合ったのですか?」

 

激怒するだろう答えを待つ。彼がそれを望んでいないのは明白だったから。

 

彼の『側』にいられなくなる。そう覚悟して『答え』だけを待っていたから。

 

 

ところが、

 

「いいや。全く。途中で気が付いた。あまりに不自然だったから」

 

…おかしい。彼が自分でそれに気づくのは無理だ。

 

私達が用意していた『策』を全否定して、

 

帝国ではなく、王国からアゼルシア山脈に行ったのだから。

 

 

「不自然?あなたの意思でしょう?」

 

敢えて気に障るように言う。気になるから。

 

 

「不自然なのは、お前だ。

 

 『酒でも飲んで寝たらどうですか?』

 

 これは明らかにお前じゃない。お前ならもっとマシな案を出す。

 

 つまり、意図的な状況を用意していたのにそれができなくなったのだろう?」

 

合っている。そこだけは『村娘』の策とも言えないものを使う他なかった。

 

どうしようもなく私たちの手から離れていたから。

 

 

私は沈黙する。

 

 

「デミウルゴスは俺が王国から開拓すると言った時猛反発していたよ。

 

 俺は『旅』という定義が常人とは違ったらしい」

 

今更そんなこと言っても『答え』ではない。

 

焦れる。

 

 

「でしたら、何故気づけたのですか?」

 

もう直接聞く。有り得ない『答え』の真実を。

 

 

「簡単だ。俺はナーベラルを愛していたからだ」

 

断言する。だが、答えになっていない。いや、答えかもしれない。

 

 

「どうして、それが答えなのですか?」

 

私は二重の意味を重ねてしまう。どうしてなのかと焦りが込み上げる。

 

 

「俺は『孤独』だったからだ。致命的な欠陥。

 

 自分を愛せない。だから気が付いた。

 

 お前の予想通りの展開になったときに、計画がおかしいと。

 

 ...俺はその『旅』しか知らないからできなかったのだと」

 

…理解した。

 

理解できた。この男、『愛されたから愛せた』のだ自分を。

 

 

「完敗ですね…私が考えた前の段階で愛されたと確信したから気づけたのですね」

 

そうだ。そこで逆転できる精神力がおかしい。

 

 

普通はそれに飲まれる。

 

 

愛に飲まれそこから逃げられなくして気づかせるのが、私の『策』だった。

 

 

「お前の『策』は見事だった。実際『勇者』に救われたのだ。

 

 全く、『愛』に負ける『魔王』など陳腐化も甚だしい」

 

そう自嘲する『魔王』。

 

私が知らないだけでそういう話がたくさんあるのだろうか?

 

 

「そうですか…ではもう一つの『答え』を聞かせて貰えますか?」

 

もう知っている。

 

 

『勇者』を愛しているのに自覚した『魔王』が『化け物』を愛するはずが…

 

 

「愛しているよ。お前も」

 

…気が動転する。

 

彼は、この『答え』を誠実に言っている。

 

間違えない。でも、何故どうして?

 

 

「何故ですか?わかりません」

 

声が震える。望んでいたが望んでない答えだから。

 

 

「はぁ…お前のお陰で『愛』に気づけたのだ。

 

 俺がお前を愛してないわけないだろう」

 

私は『世界』に満足していた。

 

だが、『世界』はそれ以上に美しかったことを知った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

数分。だが、数時間にも感じる時間を私は過ごした。

 

『時』は動き出し、『世界』は彩に満ちた。

 

 

 

「私はどういう扱いになるのですか?」

 

私は、気持ちがようやく落ち着き聞いてみる。

 

 

「そのままだ。ただ…」

 

言い淀む。叶えられることなら叶えたい。全てを。

 

 

「『番外席次』がなぁ…どうやっても愛せないんだ…」

 

完全に私のせいだった。

 

しかも取り返しがつかない。叶えられない…

 

 

「私が言うのも何ですが、彼女は『側』にいるだけで幸せだそうです。

 

 美しい『世界』を魅せたあなたに全てを捧げる覚悟でした」

 

せめて事実だけは伝える。謝罪等、私には無理だから。

 

 

「そうか…なら、愛せるのかなぁ…」

 

見るからに凹んでいるが、一つふと気になる。

 

 

「『勇者』はどうしたのですか?」

 

先ほどの話からすると…まさか。

 

 

「え、ああ、今『旅』の報告を任せているが?」

 

この大馬鹿者が!

 

 

「とっとと迎えに行きなさい!こんなところでぼさついているんじゃありません!!

 

 早く行きなさい!急いで!」

 

呆れて話にならない。覚悟を決めた女になんて男なのだと激怒する。

 

 

「いや、今忙しいだろうし、迷惑だろう」

 

…素で言っている。この男ダメだ。

 

 

「ええ、一緒に行きますよ!ほら立って!行きますよ!!」

 

手を差し出す。最初とは逆に私から。

 

 

嫌がる彼を部屋の外へ連れ出した。

 

 

 







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