記事一覧

ガイルの話

[ナッシュの復活とガイルの死]


 皮肉なことであるが、ストリートファイターⅤでの復讐者ナッシュの復活によって、ストⅡで生まれ、以来二十数年間、復讐者としてあり続けた〝ガイル〟というキャラクターは、一旦の死を迎えたと言えよう。
 あらかじめ死者であった、そして当然、死者であり続けるはずであったナッシュがまさかの復活を遂げ、自身の復讐を自らの手で執行するようになった今、〝復讐の戦士〟としてのガイルの存在は、(全てではないにしろ)ほとんど意味を失ったと言っても過言ではないのである。


 ここで一旦、彼の初出作品であるストリートファイターⅡにおけるガイルの物語を確認したいと思う。と言っても、彼に限らず、ストリートファイターⅡのキャラクター達のストーリーは至極シンプルで、それ故に非常にインパクトが強い。
 ガイルに与えられたストーリーは、すなわち「復讐」である。シャドルーの総帥ベガに殺された親友、ナッシュの仇を取るため、最愛の家族を捨て、守るべき国を捨て、孤独な闘いの旅に赴く復讐の戦士。それがガイル少佐であった。世界各国の強敵との闘いを乗り越え、シャドルー四天王の三人を倒し、ついにガイルは最後の一人、怨敵ベガの元に辿り着く。死闘の果てにベガを下し、憎きその首を討たんとしたガイルを止めるのは、国に捨ててきたはずの愛しい家族の姿――「あなた、お茶が入ったわよ」そんな平和な声で目覚めたガイルは、たった今まで、自分が眠りがもたらした過去の記憶の中にいたことを悟る。ガイルの首に抱きついた娘が無邪気に笑っている。「長い夢を見ていたようだ。」おそらくは苦笑交じりのガイルの呟きで、彼の物語は終わる。 


 さて、ストⅡから始まり、いくつかの外伝的作品を挟んで、ストⅣに至るまで、ガイルという〝キャラクター〟はナッシュという【設定】に強く依存し続けてきた。重要なのは、ガイルがガイルであるために不可欠であったのは、ナッシュというキャラクターそのものではなく、「死んだ親友とその復讐」という設定でしかなかったということだ。
 本来、【ナッシュ】とは、一個の独立した存在ではなく〝ガイル〟を構成する一部品にすぎなかった。ただし、その部品は〝ガイル〟にとって、言わば土台たる最重要パーツである。経緯を逆流させた結果論にはなるが、ともかくそのようにして生まれた以上、最早ナッシュなくしてガイルはガイルとして存在することは出来ない。【親友の死】という設定を下敷きに、全てを捨てて復讐に燃える哀しき戦士、すなわち、我々の知るキャラクター〝ガイル〟は誕生したのだ。
 復讐者ガイルの存在に、ナッシュの死は前提である。箒頭のアメリカ軍人という入れ物に過ぎない体に、復讐という行動原理を宿したその時に、始めてガイルは、僕らのガイル少佐として存在した。


 上で述べたように、当初はガイルの一部品であったにすぎない【ナッシュ】であるが、シリーズが進むにつれ、彼もまたただの設定ではなくなった。ストリートファイターⅡから四年後、ストⅡの前日譚であるストリートファイターzeroで、一個の存在としてガイルから独立したキャラクター、〝ナッシュ〟が登場する。
 このレポートではガイルについて取り上げているのでzeroの正史性についてやその他細かいことは省略するが、この時点で、早くも前に述べた論と矛盾が生まれてしまう。ガイルはナッシュの死を土台としたキャラクターであることは述べたとおりだが、それはつまり、ガイルとナッシュは、キャラクターとして同時に存在することが出来ないことを意味する。しかし、事実ストzeroで彼らは共演しているではないか。これは一体どういうことか。この疑問に関する答えは非常に単純である。
 結論から言うと、ストリートファイターzeroにおいて、ストリートファイターⅡで登場したガイルと、親友ナッシュは共演などしていないのだ。並び立つ二人は一見してガイルとナッシュの姿形を持っているように見えるが、その本質はまったくの別物である。「まだ」存在していないのはガイルの方だ。
 ガイルの本質を単純にストⅡで与えられた復讐者という役割と見るならば、あえて乱暴に言おう、ストzeroの段階では、まだガイルは世界に生まれていないのである。ストーリーが進み、エンディングを迎え、その死でもってナッシュという存在感を取り込むことによって、ようやくガイルはガイルとして誕生する。ナッシュの死の物語は、見方を変えれば、同時にガイルの誕生の物語でもあるのだ。そもそも、ストⅡでガイル「少佐」であった彼は、zeroではガイル「中尉」として登場する。一見雑な理屈に思えるかもしれないが、これは実際全く文字通りで、ガイル「少佐」とガイル「中尉」は、少なくとも物語が始まる時点では全くの別人なのだ。


 ここで少し切り口を変え、ナッシュについて軽く考察する。彼がガイルを語る上で絶対に避けては通れない存在であることは今更改めて言うまでもない。親友ナッシュの死によって生まれたガイルであるが、一方で、ナッシュ自身はどうなのだろうか。かつてはガイルの一部、ガイルのパーツとしての設定にすぎなかった彼が、ガイルから独立して一個のキャラクターとして存在する時、意外にも事はガイルほどには複雑ではない。
 ガイルがナッシュという設定に大きく依存しているのは繰り返し述べる通りだが、それに対して、ナッシュというキャラクターは、ナッシュとして存在するために、実はまったく言ってよいほどに、ガイルという設定など必要としない。
 ストⅡのガイルが、親友への愛故に友を殺した悪への復讐に走った、言わば愛の男であるとすれば、ストzeroのナッシュは正義の男だ。ガイルの本質がたった一人ナッシュという個への愛であるのに比べ、ナッシュの本質は「正義」という抽象的な概念への愛である。無論、親友という設定である以上、設定上はナッシュもガイルを愛していることだろう。しかしそれはあくまでキャラクターへより深みを与える背景でしかない。キャラクターの構造のみを見る時、仮に設定【ガイル】が消えたとしても、〝正義の軍人・ナッシュ〟というキャラクターの致命傷とはならない。
 名前だけはストⅡの時点で登場していた彼だが、実質的にキャラクターとしての肉付けを与えられたのはzeroシリーズによってである。あらかじめ決められていたナッシュの死を取り込んで生まれるガイルとは対象的に、ナッシュは、既存のキャラクターであるガイルという古い肉を脱ぎ捨てて生まれたキャラクターというわけだ。だからこそナッシュはガイルに依存することなく存在することが出来る。


 話をガイルに戻そう。
 ストⅡで役割を与えられ、ストzeroでナッシュの死による誕生を語られたガイルだが、続くナンバリングタイトル、ストリートファイターⅣではどうだろうか。ストⅣでも、ガイルはことあるごとにナッシュを回想し、いかにも痛ましくその名を呼び、二人の怨敵、ベガを追い続けている。しかし、ストⅣの段階で、既にガイルはその土台を揺らがせ始めている。
 まず第一に、ナッシュの生存がストーリー上で示唆され始めた。ガイル自身、ナッシュの生存を信じているような台詞を口にしたり、そのわりには墓に語りかけてみたりと行動が妙に一貫しないのだが、アベルという新キャラクターのエピソードも後押しもあったのか、「ナッシュ生存(復活)説」は、にわかに説得力をもって囁かれ始めた。
 また、それに呼応するように、宿敵ベガに対するガイルのスタンスにも若干の変化が現れているように思われる。ストⅣのガイルは未だ強くベガに執着しているが、ストⅡに比べれば、はっきりと台詞で示されることこそないものの、かつての孤独な怒りはややなりを潜め、代わりに自らの正義感から行動しているような節が見受けられるのではないだろうか。ストⅡの頃、少なくとも形式上、ガイルの本質は正義には無かった。その役割はどちらかというと春麗が担っていたように思われる(とは言えそれも「どちらかと言えば」程度のものである。ストⅡの話をしだすと長くなるので割愛)。ストリートファイターというシリーズが進むにつれ、かつては最低限の枠組みだけを与えられていたシンプルなキャラクター達にも、それぞれに様々な設定や背景が与えられた。その結果、シャドルー(悪)と対峙するもっともわかりやすい陣営の一つとして、正義の役割が幾人かのキャラクターに分散されることとなった。ガイルはその役割を与えられたうちの代表的な一人と言えるだろう。
 ①ナッシュの死亡が確定情報ではなくなり、②ガイルのキャラクター性に正義というロールが追加された。ガイルの「復讐者」の役割が薄れ始めた要因としてはこの二つが特に大きなものであると考えている。それでも、まだナッシュの生存が明らかになっていない以上は、【親友の仇討ち】という設定は、当然ガイルの土台であった。


 そしてストリートファイターⅣから八年を経て、先日、とうとう我々はストリートファイターⅤの発売日を迎えた。長年に渡りナッシュの死を中心とした物語を軸として存在し続けたガイルだが、ストⅤでその軸を獲得したのは、ガイルではなく、なんとナッシュ本人であった。
 ついにこの時点で、ガイルはストⅡで与えられたアイデンティティをほぼ完全に喪失したことになる。ガイルの内心はともあれ、形式上は、ガイルは死者であったナッシュの代行として復讐を執行する者であった。しかし、死者ナッシュが亡霊として復活し、しかも自身の復讐を望み、自らの手でそれを執行する今、ガイルが同じことを行ったところで、所詮それは他人事でしかないのである。
 かくして、かつての復讐物語の主人公であったガイルは、より正当な主人公の資格を持った存在、【蘇った死者】ナッシュの出現により、少なくとも復讐というストーリーにおける彼の地位は脇役へと繰り下げられる。


 ナッシュが蘇り、ガイルが死んだ。しかし、ガイルはストⅤで我々の元へ帰ってきてくれる。長年、本当に長い間、己の軸であり続けた設定を失っても、ガイルは我々の元に帰ってきてくれるのだ。ナッシュが蘇り、ナッシュの死によって生まれたガイルは死んだ。しかし、ガイルには、多くのプレイヤー達に愛され続けてきたこれまでの時間がある。ガイルは最早、ただ一個の設定によってのみキャラクターたりえるような、脆弱な、希薄な存在ではないのである。かつて自分そのものであった死者ナッシュを手放しても、今やガイルは変わらずガイルとして在り続けてくれるであろう。今後、ガイルがどのような新たな物語を獲得するのか、その物語で、どのような活躍を見せてくれるのか、それはまだわからない。しかし一ガイルファンとして、一ストリートファイターファンとして、彼の一層の大暴れを祈ってやまぬものである。




 大好きだ、ガイル!!!
スポンサーサイト
「コレを続ける事ができなければ…そもそも絶対にダイエットは無理!!」って位...
坂上忍が絶賛!?バイキング放送後大反響のダイエット法
ラクに痩せるから「ストレス0」1ヶ月で-9kg痩せるダイエット法!?

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

6サムズマン

Author:6サムズマン
サムズマンのゴミ箱

まあ大体ストリートファイターっていうか、ガイルだと思う

最新コメント