【ニューヨーク=平野麻理子】積極投資に伴う赤字決算が売りだった米アマゾン・ドット・コムがすっかり変貌を遂げつつある。同社が26日発表した2018年4~6月期の純利益は前年同期比13倍の25億3400万ドル(約2800億円)で、四半期ベースの最高益を達成した。利益率の高いクラウドや広告事業が安定して利益を稼ぎ、米国外や新規事業に投資する好循環が起きている。
「今回までの数四半期の立役者は、最も収益性が高いビジネスと広告事業の力強い成長であるのは明らかだ」。アマゾンのブライアン・オルサブスキー最高財務責任者(CFO)は26日の電話会見で、好決算の背景をこう説明した。
同氏がいう「最も収益性が高いビジネス」の筆頭株がクラウドサービスの「AWS」だ。同事業の売上高は4~6月期も49%増と力強い成長を続けた。調査会社カナリスによると、クラウド市場におけるAWSのシェアは3割。データセンターの効率化を進め、稼ぐ力が一段と高まった。
消費者に近い小売りの分野でも、アマゾンが在庫を抱える直接販売から第三者に商品を販売する場を提供する「マーケットプレイス」事業に比重を置きつつある。出品者から手数料をとり自前のインフラを貸すだけで、利幅が大きい。4~6月期は同事業で39%の増収を確保した。
加えて台頭してきたのが、決算資料の部門別売上高で「その他」に分類される広告事業だ。「その他」の売上高は前年同期の2.3倍に増えた。アマゾンは消費者の購買行動の情報を提供できる魅力を広告主に訴え、フェイスブックやグーグルの2強から広告を奪い始めている。
こうした利幅の大きいビジネスの堅調な伸びが最高益につながった。本業の稼ぐ力を示す売上高営業利益率は5.6%で、1~3月期の3.8%から急拡大。一株あたり利益(EPS)は5.07ドルと、事前の市場予想(2.50ドル)を大きく上回った。赤字続きだったかつてのアマゾンの姿はない。
もっとも、将来への投資の手を緩めているわけではない。地域別でみると北米だけで18億ドル超の営業利益を稼ぐ一方、米国外ではまだ営業赤字が続く。たとえば、オーストラリアでは今年6月に有料会員サービスを始めたばかり。インドでも、ウォルマートが買収したネット通販最大手フリップカートと激しく争う。オルサブスキーCFOは「海外事業は投資の段階だ」と強調する。
米国内でも6月末にオンライン薬局のピルパックの買収を発表したばかりだ。アマゾンはヘルスケアや金融を有望分野と目して、投資を加速させている。
ただ、アマゾンの快進撃がいつまで続くかは予断を許さない。小売りとクラウドの分野で最大のライバルであるウォルマートとマイクロソフトが戦略的提携を始めるなど、対アマゾン包囲網は日に日に強まっている。米最高裁が6月に州政府がネット通販業者から日本の消費税にあたる売上税を徴収することを認める判決を出したのも、アマゾンにとっては逆風だ。
アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が保有する米ワシントン・ポストの論調に不満を抱くトランプ米大統領の動きも読めない。トランプ氏は常々、アマゾンが米国内配達の大部分を委託している米郵政公社(USPS)を「安く使っている」と批判している。今月23日にはツイッターでアマゾンについて「競争政策上の問題がある」と指摘した。「問題」の内容は明らかではないが、規制強化などの実弾が飛んでくれば業績を下押しする可能性も否定できない。