​飲食店が食べログに感じていること

人気の高い飲食店のレビューサイト。高い点数が付くと、それだけで客が増えるとも言われますが、実際飲食店の人たちはどう感じているのでしょうか。bar bossa店主・林伸次さんが考察します。林さんはじめての小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』も大好評掲載中です。

「取材拒否の店」は頑固親父だから、ではない

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

「テレビ取材拒否のお店」ってありますよね。あれってどうしてだかご存じですか? よくあるパターンは、カウンターだけのご主人ひとりだけでやっている小さいお店で、テレビなんかに出てしまったら、お客様が入りきれなくなったり、問い合わせの電話の対応だけでいっぱいになるから、というのがあります。

あとよく聞くパターンは、「テレビを見て来店するお客様は1回きり」というのがあります。例えば、こぢんまりとした商店街にある昔からやっている肉じゃがや焼き魚が美味しい「定食屋さん」だとします。普段は近所に住んでいる家族や単身者たちが「あそこ安くて美味しいよね」って感じで使っていたのに、テレビに出てしまったせいで、一ヶ月くらいずっと満席で普通に使っていたお客様が入れなくなります。

でもテレビを見て来る人たちって、本当に「一回だけ」なんです。あなたもなんとなく経験ありますよね。何かメディアで見て、「行ってみたいな」と思ってわざわざ行くお店ってまずリピートしないですよね。一回行って、「ほんとテレビで見たとおりだ」って感じてそれで終わりです。

そんなお客様が1ヶ月くらい続いて、近所のかつては常連だったお客様たちが、「あのお店いつ行っても入れないから」って印象を持ってしまって、いつの間にか常連のお客様もテレビの1回だけのお客様もいなくなって「お店はつぶれる」というパターンがあるんです。

だから「テレビ取材はお断りしています」ってお店、結構あるんです。「地元の人たちや、常連の人たちだけでちゃんと回っていて経営はうまくいってるんだから、外から来てかき回さないで」って感覚なのでしょう。

食べログによって現れた、新しいタイプの客

飲食店側としては、「ダイナース・カードのお客様だけが読んでいる冊子だったら大丈夫かな」とか色々と日々、メディア露出は考えています。ところがインターネットの出現以降、困ることが起き始めています。

食べログで高得点になってしまうと、お店側が想定していない方たちが来店してしまうっていうのはご存じでしょうか。デートに行く店は食べログで3.5以上のお店じゃなきゃいけない、って人たちがいるそうなんですね。だから男性は青山で食事ってことになると、食べログを開いて、「青山」で検索して、点数が高いところから、「この店、彼女気に入りそうかな」って検討するわけです。

そういう行為を、あまりレストランで食事をしたことがない人も、あるいは学生でもやってしまうわけです。そうなると、普通イタリア料理のお店だと、前菜にパスタ、メインのお肉という風に組み立てて、それにあわせてワインをという感じで、「お客様が注文してくれるもの」として経営しているのに、パスタだけを頼んで、「飲み物はお水でいいです」なんていう方が来店してしまうそうなんです。

「客単価」という言葉をご存知だと思いますが、家賃も高くて、高い食材を使って、高い料理人を使っていれば、当然最初から客単価を高く設定します。なのに、そういうパスタしか頼まないお客様が全体の2割、3割となってしまうと、当然経営が続かなくなります。

先日、麻布十番の客単価2~3万円の寿司屋さんと対談してきたんですね。なんと「原価が55%」ということで驚きました。普通、飲食店って「原価は30%」なんですね。それで驚いて、色んなお寿司関係者に聞いたところ、日本のお寿司屋さんの原価は「45%」が基準らしいんです。だからお寿司屋さんって、「お酒、ドリンク」に売り上げの多くを頼っているそうで、高級なお寿司屋さんで、「お茶でいいです」って言われると本当に大変だという話を聞きました。

あと、インターネットが原因で「お店にそぐわないお客様が来てしまう問題」で、下町の方の立ち飲みのお店が、「お洒落な人たちでいっぱいになってしまって、地元の人たちがどうも落ち着かない」という話もよく耳にします。今までは地元の人たちが仕事が終わってホッとして、ホッピーを飲んでテレビで野球中継なんかを見ていられる場所だったのに、お洒落な人たちが占拠してしまって、居場所がなくなってしまう、なんて状況なのでしょうか。

だから、小さいお店で単価が高いお店なんかは、そういう「お水でいいです」なんてお客様を入れないよう完全予約制にして、さらにお店の電話は入れないで、店主の携帯電話のみの予約にしているそうです。そして、何度も通って、店主に気に入られたら、携帯電話の番号を教えてくれる、というようになっているそうです。

これ、もう要するに、「会員制」っていうことですよね。もちろんインターネットの出現で、今まであまり知られていなかった名店を、みんなが知ることができるようになりました。あるいは、門構えが良くても味もサービスも良くない店を、入る前に知れるようになりました。でもそうやってみんなに情報が届くかと思ったら、逆に高級店に行く余裕のある人しか知りえない情報というのが増えてきてもいます。インターネットが作った新しい格差といえるかもしれません。

林伸次さん、はじめての小説。

ケイクス

この連載について

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ワイングラスのむこう側

林伸次

東京・渋谷で16年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けて...もっと読む

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コメント

rosebourbon 飲食店が食べログに感じていること| 4分前 replyretweetfavorite

fumicado これは面白い話。凄いわかる。 40分前 replyretweetfavorite

shigwaio 京都の「一見さんお断り」も同じことですよね。 あと、店主同士で客を紹介するとか、客が客を紹介するとか。どんどん内輪化していく。 41分前 replyretweetfavorite

kawazzi16 芸能人の商店街ウロウロもウザい😕 #テレビ # 約1時間前 replyretweetfavorite