杉田水脈氏と民意の絶望的な関係

2018年7月27日(金)

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 あるいは、彼らは、「人権」や「社会的包摂」を言い立てる人たちに比べて多数派であるのかもしれず、だからこそ、「人権」という言葉を口にする人間がいろいろな場所で煙たがられる空気が広まっているのかもしれない。

 ともあれ、この子供と老人への予算配分ついて考察したツイートは、原稿執筆時点で5921回RTされており、9845件の「いいね」がつけられている。
 それだけ多くの人々が、高い評価を与えたということなのだと思う。

 このツイートの背景には、おそらく、21世紀になってから流行語のようになっている「経営者目線」という言葉の影響がある。

 経営者目線という言葉に込められているのは、おそらく、個人の近視眼的なものの見方を離れて、「マクロ」な視点からものを見ることの大切さを訴える思想なのだと思う。

 で、経営者目線で、自分の身の回りを捉え直すことを学習している人々は、「マクロで」ものを見ている自分の視点を、「個人的なエゴから離れた」公正な観察であり、さらに言えば、ベタついた感傷を排した「冷徹」な評価であると自負していたりするのだろう。

 それが間違っているというのではない。
 ただ、「経営者目線」は、結局のところ

 「そんなこと言ったって、みんなが定時で帰ったらうちの会社はどうなると思う?」
 「全員が定時退社して経営が傾いたら、それこそワークライフバランスだのを言う以前に、オレら全員失業者になっちまうんじゃないのか?」

 といった「個」をかえりみない上からの目線の強制に落着しがちなもので、運用次第では
 「欲しがりません勝つまでは」
 「進め一億火の玉だ」
 式の国策標語精神とそんなに遠いものではなくなる。そこのところに私はうんざりしている。

 本当はもっとたくさん書きたいことがあったのだが、根気が尽きてしまった。
 まだ、気力が戻っていないようだ。

 結論を述べる。
 杉田議員の主張は、言葉の使い方こそ無神経ではあるものの、日本の「民意」を代表する言説のひとつだ。
 だからこそ、私は、絶望している。

 念のために説明しておく。
 私は、彼女の言葉の使い方の無神経さに絶望しているのではない。
 むしろ、彼女の無神経さにはシンパシーに近い感情を抱いていると言っても良い。

 私が絶望しているのは、彼女の主張が代表的な民意であるような国で自分が暮らしている、そのことに対してだ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

「絶望に慣れることは絶望そのものよりもさらに悪い」(カミュ『ペスト』)
だそうです…。はやく体調快復して下さいね。

 小田嶋さんの新刊が久しぶりに出ます。本連載担当編集者も初耳の、抱腹絶倒かつ壮絶なエピソードが語られていて、嬉しいような、悔しいような。以下、版元ミシマ社さんからの紹介です。


 なぜ、オレだけが抜け出せたのか?
 30 代でアル中となり、医者に「50で人格崩壊、60で死にますよ」
 と宣告された著者が、酒をやめて20年以上が経った今、語る真実。
 なぜ人は、何かに依存するのか? 

上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白

<<目次>>
告白
一日目 アル中に理由なし
二日目 オレはアル中じゃない
三日目 そして金と人が去った
四日目 酒と創作
五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
六日目 飲まない生活
七日目 アル中予備軍たちへ
八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
告白を終えて

 日本随一のコラムニストが自らの体験を初告白し、
 現代の新たな依存「コミュニケーション依存症」に警鐘を鳴らす!

(本の紹介はこちらから)

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「杉田水脈氏と民意の絶望的な関係」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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