アドウェイズ社長の岡村陽久が、ユーザーの悩みや疑問に答える人生相談シリーズ、第36回。7月に入り、連日猛烈な暑さが続く日本。気温が40度を超えるエリアもあり、熱中症への警戒が呼びかけられる中、アドウェイズ社長の岡村もこの暑さに負けない“熱い話”を日本中に届けたいと考えていた。自らセッティングをした飲み会の場で、岡村は自分の思いの丈を打ち明けていく。
おくりバント高山:岡村さん、遅いですね……。今日ってみんな、何の集まりか知っててここに来ているんですか?
集まった一同:いえ、全然聞いていないんです。「ちょっと話したいことがあるから」って言われて、場所と時間だけを教えてもらってここに来ることになって…。
高山:あー。僕もそうなんですよ。3ヶ月ぶりの「勝手にしやがれ」だから話したいことが結構積もっていたのはわかるんですけど、こんなに大人数を集めるとは…。一体何を話したいのかな、岡村さん。
「勝手にしやがれ」の連載が休んでいた3ヶ月間、おくりバント高山は今更ながら歌が下手な事に気づきカラオケ練習にハマって毎日を過ごしていた。ちなみに上達はしていない。
アドウェイズ岡村:遅れてすみません、お疲れ様です!
岡村:ちょっと野暮用で遅くなりまして。僕から誘ったのに遅刻をするなんて、本当に申し訳ありません。謹んでお詫び申し上げます。
高山:いやいやそんな、頭を上げてください。ここにいる全員が気にしていないですよ。そんなことより、今日は一体なんのお話なんですか? こんな大世帯の「勝手にしやがれ」って珍しいですよね。
岡村:そう、そうなんです。3ヶ月振りのブログ更新にふさわしい内容をお話しようと思いまして、皆さんに集まってもらいました。今日は経営にとって一番の悪である「あきらめ」について話をします。
高山:あきらめ…?
岡村:えっと、高山さんはアドウェイズ社史の中で「07ショック」と呼ばれる時期をご存知ですか。
高山:……はい。僕が入社する前の、アドウェイズ社内におけるひと騒動のことですよね?
岡村:ええ。上場後間もない2006年10月に、業績がガクンと落ちてしまったんです。これをアドウェイズでは「07ショック」と呼んでいまして。
高山:大変な騒ぎだったとベテラン社員に聞いた記憶があります。一応、ブログを読んでいる読者に向けて、どんな騒動かを詳しく説明していただいても良いですか?
岡村:もちろんです。えっと、2007年までアドウェイズの広告収入の中心となる顧客はクレジットカード会社やキャッシングカード会社だったのですが、上限金利の引き下げにより各社の広告費が半減したんですね。新入社員の大量採用を進めていたことも併せて赤字が大幅に拡大して…。新規事業の撤退や社内体制の改革だけでなく、僕自身も役員報酬を8割カットし、4畳半風呂なしアパートに移り住んだ“事件”です。
高山:改めて聞くと、確かに事件ですね。
岡村:はい。そして、先ほどチラッと話しましたが、次の年に新卒社員が70人入社する予定だったんですよ。当初はこの70人全員を既存の事業部に配属する予定でしたが、業績悪化が原因で各事業部が全員を引き受けられなくなったんです。そうなると既存事業部が新卒社員を引き受けられるのは、結局50人のみになってしまって。
高山:つまり、20人の新卒社員が余ってしまったんですね。
岡村:いえ。余ってしまった訳ではありません。“創出”です。
高山:創出…?
烏龍茶を飲み続けるアドウェイズ岡村は、酒がなくても酔っ払える特殊な体の構造の持ち主である。食べた米を体の中で発酵させてアルコールにし、酔っ払うことができるのだそう。なお、自分で発酵しようと胃に思わせないと、体が発酵しないのだとか。
岡村:この新たに創出された20人をどうするのかが3月の役員会議で議論され、新規の事業部をつくることが決まりました。それが、2007年4月に設立された新事業部署「キャリアコンサルティングディビジョン」、通称「キャリコン」です。新入社員20名は、キャリコンに創出されました。
高山:ってなると、全員新卒の事業部ってことですか。そんな学生の寄せ集めのような集団が一事業部を担っていたなんて相当な事ですよ。
岡村:学生の寄せ集めではありません、創出メンバーです。そして、今ここにいる彼らたちが、キャリコンのメンバーなんです。
高山:なるほど! そういうことだったんですね。
岡村:メンバーは20名の新卒と僕のみ。いちおうアシスタントとして、2年目の先輩が一名私の秘書として付いていましたが、実質新卒のみの、社長直属の事業部です。キャリコンへの配属先が決まった瞬間、不本意な配属先に絶望して泣き出す者もいましたから。
高山:地獄絵図じゃないですか。
岡村 :会社として、こんなのあってはなりませんよね。キャリコンメンバーの初日の仕事は、泣いている仲間たちを熱い言葉で奮い立たせるという壮絶なものでしたから。「とにかくやるしかない」「俺たちならできる」と、根拠のない根性論で鼓舞することしかできませんでした。
高山:目を背けたくなるような光景ですね…。それで…キャリコンの皆さんは具体的にはどんな仕事をしていたんですか?
岡村:配布されていたフリーペーパーの求人雑誌を東京中から集めて、そこに掲載している店舗や会社にとにかく電話をしていく…。要するに“テレアポ”ですね。
高山:岡村さんが得意の“営業”ですか。
岡村:ええ。未経験の新卒たちを前に、「まずは見ておけ」と自ら受話器を取りました。僕としては、彼らの目の前で、サクッと1本目の電話でアポをとっちゃって、「へえ、テレアポって簡単なんだ」と思わせたかったんですよ。しかしこれがなかなか取れなくて、内心「やべえな」と焦りましたね。
元・換気扇フィルターのプロ営業マンであるアドウェイズ岡村。「営業はテクニックではなく、売りたいっていう気持ちが必要。売ることに対して、人生を賭けているのかが大切だ」と豪語していたが、テレアポに関しては運も必要なのかもしれない。
岡村:その後、スタートから1ヶ月くらいで2人が辞めただけで、キャリコン事業部は走り続けていました。しかし、なかなか掲げた事業部の月間目標数字には届かなかったんです。
そうだよね、鈴木くん。
鈴木:はい、その通りです。毎月毎月目標に届かず部署内の誰もが諦めようとしていたのですが、ある月の最終日に電話が鳴ったんです。それは出張先の岡村さんからでした。「今月達成できなかったら一生達成できないぞ。今月達成できるようにみんなでなんとかしろ」って。
高山:おお。
鈴木:そしてその日、他部署の社員に声をかけ協力してもらい、結局23時に達成したんです。達成した旨を出張先の岡村さんに伝えると、「よし、お前ら今から飲みに行け」と指示されたのを覚えてますね。
高山:めっちゃ良い話じゃないですか。
岡村:一方その頃、業績の落ちていた既存の事業部に回復の兆しが見え、人が足らなくなり始めていたんです。そうなるとキャリコンのメンバーを既存事業部に回して欲しいとなるわけで。元々はそのつもりで採用した新卒たちですし。
高山:チームとしてまとまってきたのに、解散の危機が訪れてしまったと。
岡村:そう。毎日のように「キャリコンを解散させ、こちらに人を回してもらえないか」という旨の依頼が僕の耳に入っていて。でも、ここまで頑張って来た彼らとしてもそこで解散するのは不本意っていうのも理解出来るんです。そこで、キャリコンのメンバーたちに「毎月の目標数字を達成できなかったら解散」という厳しい約束をしました。「未達=解散」ということならみんな納得するだろうと。
そうだったよね、腰高さん。
腰高:そうですね…。解散をするかしないか、私たちは毎月崖っぷちの状態でした。ある月は、最終日に目標金額に30万くらい足りていなく、要するにこのままだと解散ってことになってしまう状況にあって。ただ「ここで諦めたくはない」とチームは団結して、私たちは夜の20時くらいから西新宿の電気がついてるオフィスに片っ端から飛び込んで行ったんですよ(笑)。
高山:最終日の20時に30万足りない…さすがに達成は無理じゃないですかね。
腰高:するとそのとき、営業の一人に1本の電話が鳴ったんです。それは、「麻雀で勝ったら契約しますよ」という話でした。
高山:すごい展開っすね。
腰高:急遽みんなで会社に集まり、麻雀が得意な社員を探しましたが、残念ながらキャリコン内にはいませんでした。そこで、麻雀が得意だという他部署のシステムエンジニアの2人を見つけて代わりに行ってもらう事にして。
高山:麻雀に勝てば事業部存続。負ければ即解散。なんだか漫画のクライマックスみたいですね。
岡村:キャリコンのメンバーみんなと僕で雀荘に行き、全員で卓を囲んで局のながれを見守りました。あの時の事は記憶に鮮明に残っています。「このゲーム、めっちゃ時間かかるな」って思ったのが大半ですが。
当時のアドウェイズ岡村は麻雀のルールを一切理解しておらず、1ゲーム15分ほどで決着するものだと思っていた。長すぎる麻雀の勝負に飽きた岡村は、耐えきれず雀荘を飛び出しコンビニのアイスを食べながらその熱い夜を過ごしたという。
腰高:そして翌朝、麻雀に勝って契約書にサインをしてもらったんです。その時の麻雀相手が、当時のpixivの社長、現在DMM社長の片桐さんで。
高山:うわすっご!
岡村:この勝負により、キャリコンは10月も達成することとなりました。これがきっかけになって、以前までは会社の雰囲気的には「キャリコン要らなくない?」という反応だったのですが、こう毎月達成するものだから「今月達成できるのかできないのか」と会社のみんなが気にするようになってきたんですよ。
高山:「あきらめない」という精神がキャリコンを社内・社内のみんなに知らしめたのですね。あ、ってことは、岡村さんもキャリコンを解散させたくなくなったんじゃないんですか?
岡村:ええ、キャリコンはその後も成績は右肩上がりでしたし、会社にもなくてはならない存在になっていて……
しかし年が明けた2月、僕はキャリコンを自らの手で潰したんです。
高山:えっえっ? どうして…?
岡村:…………僕は、キャリコンが怖くなってしまったんです。
「あきらめない」を手に入れたキャリコンを潰す、そう思ったんです。
高山:すみません、笑っちゃうくらい全然よくわからないのですが…。
だって岡村さん、この記事の最初に「経営にとって一番の悪であるのは、あきらめだ」って言ってたじゃないですか。彼らは諦めていないんですよ。
岡村:そうです。彼らは諦めていません。ただ、どうしても僕はここで潰しておかないといけないなと、そう思ったんですよ。僕を救ってくれた20人のキャリコンのみんなのためを思って。
それでは、その理由は、後編でお楽しみください。
高山:え、後編? 今回の勝手にしやがれ、後編があるんですか?
岡村:そりゃそうですよ。だって3ヶ月の間休載してましたからね。前編だけでは終われないです。
高山:うわー気になる……。
岡村:次回は「不死鳥編」です。楽しみに待っていてください。
ということで後編は8月末に公開予定となります。
次回「不死鳥編」お楽しみに!