「最近の若者たちは、“チル化”している。そこをちゃんと理解した上で、採用や育成の戦略を立てなければいけない」──最近の若者たちの特徴について、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平氏はこう指摘する。年々深刻化する人手不足問題に直面する日本企業にとって、若い世代の獲得、育成、活用は最優先課題。 『若者わからん!「ミレニアル世代」はこう動かせ』 ワニブックス)を上梓した原田氏に、若者たちの思考を理解し、うまくコミュニケーションを取り、育成していくための方法を聞いた。

ミレニアル世代の3つの特徴とは?

博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーの原田曜平氏
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――日本のミレニアル世代(1989~95年生まれ)の若者たちは「チルってる」ということですが、チルとは「落ち着く」「まったり」というニュアンスの「chill out」が語源ですよね。そうなった背景を、まず教えてください。

原田曜平氏(以下、原田):一つは、彼らが育ってきた時代背景による影響があります。彼らは人生のほとんどを、平成不況やデフレ経済といった暗い時代を生きてきました。やはり経済がすごく発展していた時代に育ってきた世代と比べると、なんとなく「日本の将来は危ない」「今より明日の方が状況が悪化するかもしれない」という感覚を持っています。

 最近の若者はお金を使わないとか、元気がないとか、よく言われていますが、それは時代背景による要因がすごく大きい。例えばスポーツカーを買ったとしても、ローンを払い続けることはできるかなという不安が湧いてきてしまう。高額品だけではなくて、そもそも無駄にお金を使いたくないという意識から消費意欲が非常に低くなっているのです。

 二つ目の特徴は、スマホネイティブであるということです。米国では「デジタルネイティブ」という言葉が使われますが、日本の場合は「スマホネイティブ」というほうが正確です。なぜかというと、すでに今の若者はパソコンを操作できないケースが珍しくないからです。大学のレポートもスマホのフリック入力で書いて、後でワードに貼り付けて印刷する子も少なくありません。

 日本の若者たちは、平均すると中学三年生あたりからスマホを持ち始めます。世界に比べると、低年齢のうちに多くがスマホを持ち始め、常習的に使いながら生きてきました。だから、私の研究所にいる若者たちと会食をすると、みんなスマホをいじり始めてしまうんです。禁止していますが、それでもスマホに触れる。人前でスマホを使うということが失礼だという意識が希薄です。

 スマホネイティブに関連して、彼らは「SNS世代」でもあります。SNS依存が極めて強いので、常に遠くにいる友人たちとずっと連絡を取り合っている。 昔だったら、SNSで友人たちとつながっていなかったので、普段は職場の人たちと向き合うしかありませんでした。でも、今の若者たちは、とにかく仕事さえこなしてしまえば、職場の人間関係を密にしなくとも、SNSの中に遊んだり話をしたりする人間関係がある。「最近の若者は、会社での付き合いが悪い」という話をよく聞きますが、原因の一つはSNSではないかと思います。

 三つ目に、上昇志向が弱いということが挙げられます。確かに不景気にはなりましたが、ベースとしての生活は以前より豊かです。もし、貧しい生活を送ってきたのなら、あれもこれも欲しがるでしょうが、そこそこ豊かな生活環境の中で育ってきたので、多くを望まなければある程度満足できてしまう。その結果、上昇志向が弱くなってしまうのです。

 昔のように、努力した分だけ経済成長できる時代であれば見返りがあるけれど、今はそれが望めない時代。だったら長時間働いてたくさん稼ぐのではなく、あまり給料は高くなくても、定時に帰れて、ワークライフバランスが取れるほうがいいよね、という価値観になるわけです。