セルアニメの撮影技法
カメラ:フィルム・露出・レンズ
露出(露光)効果 Exposure
撮影素材の明るさに関係する効果はカメラの露出コントロールで行います。
アニメーションに使うカメラは基本的には一般の映画用カメラと同じものですが、下向きにセットされるのが特徴です。
カメラの構造
カメラはレンズ・マガジン・ボディの3つのパーツからなっています。
- レンズ
- アニメ撮影では固定焦点(中望遠)でズームレンズは使いません。
- 光量を調整する「絞り」が内蔵されています
- マガジン
- フィルムを収納する場所です。
- 未露光のフィルムが引き出され、ボディ内で感光して、マガジンに戻ります。
- ボディ
- フィルムを規則正しく送り、露光中は静止させる機構があります。
- 光を通過させる窓「アパーチュア」があり、この大きさによってフィルム上のフレームの大きさが決まります。
- 光を一定時間だけ通す「シャッター」があります。
露光の仕組み
- 映画用カメラのシャッターは2枚の半円形の板で出来ていて、角度を変えることが出来ます。
- この開いている角度を「開角度」と呼びます。(0°から170°くらい)
- シャッター板は2枚一緒に回転するようになっていて、シャッターの開いている部分がアパーチュアを通る時にフィルムが感光します。そして光を遮っている間にフィルムが1コマ分移動します。
- シャッターの回転スピードは一定(秒24回転)ですが、開角度が広いと露光時間が長くなり、狭いと短くなります。つまり開角度=シャッタースピードなのです。
- AfterFxのカメラも映画カメラをシミュレートしているので、「コンポジション設定」の「モーションブラー」を「シャッター角度」で調整するのです。(720° = 1/24secになっています。)
- レンズの「絞り」は原則として固定したままです。その理由は、複数のカメラ(撮影台)やレンズ特性のばらつきを「絞り」や「フィルター」で調整しているからです。
フィルムと露光量
- ご存知のように写真はフィルムに光を当てて撮影します。当てる光の量が適正でないと綺麗な写真になりません。露光不足や露出オーバーです。しかしこれを逆手にとって映像効果を作り出すことができます。
多重露出
- 多重露出は読んで字のごとく、1つのコマを複数回露出します。
- カメラで正常に1コマずつ撮影した後に、フィルムを始めのコマまで巻き戻し、再び撮影をするのです。
- 主な技法はダブラシ、スーパー、透過光、オーバーラップなどです。
- ダブラシ
- Double exposure(二重露出)が元になっています。
- 1回目に適正露出の1/2の露出で撮影して、2回目も適正露出の1/2の露出で撮影して、合計で適正露出にします。
- ただし2回目の撮影で一部分を外すと、そこは下の絵が半分重なって露出されるので透明の表現になります。
- 同じ技法で黒ベタを使って影などを表現する場合を特に「半露出」と呼びます。
1回目
- 全てのセルを重ねて50%の露出で撮影
2回目
- 窓と地面影のセルを外して50%の露出で撮影
3.ダブラシ・結果
- 全体は50%+50%で適正露出になります。
- 窓の部分が半透明の表現になります。
- 影(黒ベタ)部分が「半露出」
- 車の影をぼかすことは出来ません。
- スーパー
- スーパーインポーズ(テロップなどを重ねること)から。
- これも二重露出ですが露出の配分がダブラシと違います。
- スーパーでは1回目に適正露出で撮影してしまいます。2回目は一部分だけ更に露光します。(露出量は任意)
- つまり露出オーバーにします。結果として白っぽくなります。これは光っている明るいものの表現に使います。
- スーパーの部分は一度適正露出されているので、暗いものは写りません。基本的には明るい色を2回目の被写体にします。
- 撮影時は明るくしたい部分だけを黒ベタの上に置きます。この時にフィルターでぼかして「にじみ効果」を追加することもあります。
- 「雨」や「雪」セルの撮影にも使われました。
- 透過光
- これも露出方法はスーパーと同じです。
- 違いは、2回目の露出の時に撮影台に穴の開いたマスクを置いて、下から光を当てて撮影します。(撮影台の項を参照)
- 本物の光を使うのでスーパーよりもずっと強い露光になります。
- 輪郭に光のにじみができるなど本物ならではの味が出ます。
4.透過光&スーパー
- ヘッドライトは「透過光」
- スモールランプは「スーパー」
- ダブラシとスーパーの違いは
- ダブラシ:1/2 + 1/2 → 適正露出
- スーパー:1 + x → 露出オーバー
- この例ではダブラシで1回、透過光で1回、スーパーで1回、合計3回フィルムを巻き戻しての撮影です。カメラワークがある時は3回ともまったく同じ動きをしないと絵がぶれてしまいます。
- F.I F.O(フェードイン・アウト)
- シャッターの開角度を指定のコマ数に合わせて、1コマごとに少しずつ変化させて撮影します。
- O.L オーバーラップ(ディゾルブ)
- 1回目の撮影で1コマ毎に露光量を徐々に減らして最後に0にします。(Fade-out)
- フィルムを巻き戻して、2回目の撮影は逆に0から適正露出にします。(Fade-in)
その他
フォーカス・イン&アウト
- ピント(フォーカス)ボケのコントロールのことです。
- レンズの距離またはカメラの前後動によって行ないます。
- ピントを前に移動するか後ろにするかで、ぼける絵のサイズが変わってきます。
フィルター
- ソフト効果など、レンズの前において画面に変化を付けます。
- 透過光のクロスフィルタは回転させて動きを作ります。
- カラーフィルター(パラフィン)を画面の上下等に入れることもあります。(パラを入れる)
- 波ガラスは実際に歪みのあるガラス板をレンズ前でスライドさせてゆらゆらさせます。各撮影スタジオ毎に特徴がありました。
消しこみ
- 線が伸びたり、雪の上に足跡を付けていくなどの表現で使います。
- これはカット尻から逆転撮影をして、不要になった絵の一部分を撮影時にその場で削って消してしまいます。
- AfterFxではマスクを使って同様の処理が出来ますね。
入射光・投射光
- 画面外から光が差し込む効果で、スーパー処理します。
- 黒ベタの上に光る素材を置いて、光を実際に反射させたり、フレネルレンズで虹色に光線を引かせたり、各撮影スタジオ毎に特徴がありました。