相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、26人(うち職員2人)が負傷した事件から2年がたった。事件は大量殺人の被告が同施設の元職員だったこと、犯行の理由として「障がい者は生きていても仕方がない」と述べたことから衝撃を与えた。

 被告は逮捕直後から現在も変わらず、障がい者は社会にいない方がいいとして「あれしか方法はなかった」と犯行を正当化し続けている。根底にあるのは「障がい者は社会のお荷物」という考え方で、「優生思想」にも通じる。

 事件前に被告が措置入院していたこと、犯行の理由としてこれらの考え方を挙げていることから、被告は現在2度目の精神鑑定中。ただ被告の主張は、決してまれな考え方ではない。

 共同通信が今年6~7月に実施したアンケートでは、事件にあった元入所者やその家族、遺族が事件後「(障がいがあるから)病気がうつる」「国の税金を使っている」との発言を受けていたことが分かった。一つ一つの発言に、被告と同じく障がい者を排除する思考が見て取れる。

 神奈川県で開かれた追悼式で黒岩祐治知事は、被害者19人の氏名を伏せてエピソードを読み上げた。式後に「名前を言ってしのびたい気持ちはあったが、現時点では機が熟していない」とした知事の言葉に、障がい者が実名報道されない社会の現状がある。

 それは、障がい者を個人として見ない社会であり、障がい者の権利を奪う社会だ。

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 149人の障がい者が居住する大規模施設で起き、多くの入所者が犠牲になった事件は、障がい者を地域から切り離し、1カ所に集めておこうとする社会の課題も示した。

 1981年の国際障害者年を機に、誰もが地域で普通に暮らす「ノーマライゼーション」の理念が知られるようになったが、日本では以降も入所施設が増加。国際的には障がい者の「地域移行」が進む中、著しく遅れをとっている。

 事件を受け神奈川県は、現地に大規模施設を再建する当初の計画を撤回し、今年5月から、同園を2カ所に分け整備。入所者の地域での生活も推進するという。

 一方で、かつての同園のような入所施設は現在も全国に約3千カ所ある。

 事件直前の2016年4月には「障害者差別解消法」が施行されたが、こうした状況を見れば、同法の実現は、はるか遠いと言わざるを得ない。

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 私たちが直面する超高齢化社会は、誰もが障がい者になる社会でもある。障がい者を差別し、施設に隔離する社会を放置すれば、いずれわが身に及ぶ。そう思えば、なぜ事件が起きたか、一人一人が自分のこととして考える必要があるのではないか。

 事件後、元入所者の中には実名を出す人や、地域での生活を実践している人もいる。彼らに寄り添い、支援する一人になる。二度と同じ事件を起こさないために、求められるのは、障がいのある人もない人も本当の意味で共に生きる社会の実現だ。