東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

最低賃金改定 格差是正へまだ足りぬ

 二〇一八年度の最低賃金の引き上げ幅は時給二十六円となる。大幅引き上げとなった一昨年度、昨年度を上回ったが、手放しでは喜べない。額に汗して働いて生活できる額にはほど遠いままだ。

 フランスは時給千三百円、英国千百七十円、ドイツ千百六十円。米国は八百十円だが州により千円を超える。各国の最低賃金額である。

 それに比べると厚生労働省の審議会が示した目安は全国平均で八百七十四円だ。二十六円引き上げられるといっても日本の労働者は依然として低い最低賃金で働いている。

 年収にすると二百万円にも満たない額である。働く人の四割を占める非正規労働者は二千百三十三万人に達した。最低賃金に近い賃金で働く人にとってはとても安心して暮らせる額ではない。

 最低賃金は、企業が払う賃金の最低額で働く人すべてに適用される。改定は労使が参加する審議会で議論され、非正規労働者の“春闘”といえる。

 安倍政権は昨年三月にまとめた「働き方改革実行計画」で3%程度の引き上げ目標を掲げた。改定はそれに沿って決着した。率は三年連続の3%程度のアップだ。

 確かに引き上げは着実に進む。だが、政府は以前から全国平均千円を目標に掲げているが届かない。欧州とはさらに差がある。

 格差は都市と地方との間にもある。最高額の東京と最低額の沖縄などとの差は今より四円広がる。都市部では千円に迫るが、十九県がなお時給七百円台にとどまる。

 政府は「働き方改革」で非正規労働者の「同一労働同一賃金」の実現を掲げる。最低賃金アップは実現へ重要な労働条件のはずだ。

 非正規の正社員化への取り組みを進めながら、最低賃金の底上げへさらなる努力をすべきだ。今回の引き上げを安倍政権の実績にするのは早計だろう。

 六月に成立した「働き方」関連法では非正規の待遇改善が盛り込まれた。企業の対応は急務だ。人件費を抑えることより、商品価格や賃金を上げられる生産性の向上に取り組んでほしい。

 審議会の議論では経営側から、「生産性向上に向けた政府の支援策は不十分だ」との注文がついた。政府は積極的に税制優遇や設備投資などへの支援、後継者難の事業者への支援をすべきだ。

 最低賃金で保証すべきは、だれでもどこでも普通に働いて暮らせる社会の実現だということを忘れないでほしい。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】