俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
<< 前の話 次の話 >>

50 / 51
魔王が働いた濃密な二日間。


閑話 休もう

仕事中、突然ふらついて倒れた俺は、

 

ドクタースキル持ちNPC等から強制的に診断を受けさせられた。

 

 

診断後、俺は問題ないと判断した。アレは一時的なものだと確信した。

 

こっそり残りの仕事をしようとしたら何故かすぐにバレた。

 

 

全力で仕事を止められた。

 

 

 

仕方がなくなった俺は、自室のベッドで横になることを強制された。

 

現在、デミウルゴスから診断結果の報告を受けていた。

 

 

「心因性の過労?」

 

俺はあり得ないと思った。

 

 

何せ、この身は超越者(オーバーロード)。

 

人化しても不眠不休で働けることは確認済みだ。

 

 

とはいえ、寝ることはできるから普段は二時間程寝ていたが。

 

最近は仕事に逃げて不眠不休で働いていた。

 

だが、問題ないはずだ。

 

 

しかし、

 

「はい。私を始め、プルチネッラ等様々な意見がありましたが、その結論に至りました」

 

そうだと断言された。

 

 

…流石にデミウルゴスの言葉を疑えない。

 

 

それにこの規模の事件なら、

 

ナザリックの全ての者が協力して、俺を騙すくらいでないとありえない。

 

 

デミウルゴスは報告を続けた。

 

曰く、

 

極度の緊張感の中で仕事をしている。

 

著しいプレッシャーを常に感じている。

 

極端に長い労働時間で働いている。

 

故に心因性の過労だろうとのことだった。

 

 

…合っている。

 

しかし、仕事をしなければ不味い。

 

…俺がいなくても良いような気もしてきた最近だが、やることはあるのだ。

 

責任者として。

 

 

故に、デミウルゴスをどう誤魔化すかを考えていたら、

 

「モモンガ様のお仕事に関しましては、

 

御身に万に一のことがあった場合に備えて、

 

その業務を引継ぎできる体制を整えておりました。

 

先日、ラナー王女らと話し合っていたのはその件でした。

 

確か…避難訓練という『りある』の危機対策でございます」

 

…素晴らしい!

 

 

いつか俺がやろうと思っていたことを自ら言い出すなんて、流石はナザリックの英知達だ。

 

危機管理上、最悪の可能性、俺が死亡した提等の『訓練』をやろうと思ってはいた。

 

中々実行が難しく先延ばしにしていたが、俺が提案する前に言ってくれるとは!

 

 

俺は自分のことなんて放り投げて感動した。皆のその成長に。

 

 

 

…いや、まて。おかしい。

 

ナザリックの者が俺の死或いは不慮の事態を想定するのは、

 

流石に無理があるような気がする。

 

 

デミウルゴス等が死亡した際の報告書等は確かにあった。

 

俺のは報告はまだだ。つい先日だったこともあり遅れているのはわかる。

 

 

だが、俺から言わなければ、『俺』を想定した『避難訓練』等思いつかないはず。

 

 

…ナザリックの者が『それ』を認めるわけがない。

 

その思いはかつてナーベラルからしっかり聞いた。

 

 

いや、少し違う。

 

 

『この身は創造された御方々のためにあります』

 

ナーベラルはそう言った。言っていた。

 

 

…デミウルゴスの報告を聞く前、

 

倒れる前に俺はラナーとお茶会をしていたはず。

 

 

そこで『何か』を盛られれば?

 

パンドラズ・アクターが『完全なる狂騒』等、精神作用するアイテムを改良していれば?

 

途中、お茶会に乱入してきたアルベドすら巻き込んでいたのなら?

 

 

…『ラナー』ならできてもおかしくない。

 

外部の『人間』だから。ナザリックの者にできない発想ができる。

 

 

 

だが、そこまで思考を飛躍させていた俺の疑惑は次の言葉で消し飛んだ。

 

「私共は、モモンガ様のために日々研鑽を積んでおりました。

 

 …故にこのような真似を相談していたなどと報告できませんでした。

 

 御身の不幸を想定するなど使える者にあるまじき所業!本当に申し訳ございません!!」

 

全身全霊を込めて謝るデミウルゴス。

 

これは『本気』で謝っている。

 

『嘘』ではない。俺は確信できる。

 

 

「いいや、寧ろ私が悪いのだ。デミウルゴス。

 

 そこまで考え、研鑽していたお前達を誰が怒れようか。

 

 褒めるこそすれ、決して罪等ではない。現にこうして役立っているじゃないか」

 

ここは褒めるべきところだ。何故、俺はナザリックの皆を疑ったのだ。

 

俺は自分を恥じるしかなかった。

 

 

「申し訳ございません!」

 

感涙にむせび泣くデミウルゴス。

 

謝るところではないという無粋なことは言わない。

 

 

「…それで私はいつまで休むべきなのだ?」

 

休む期間によってはドワーフとの交流も諦めなければならない。

 

 

万が一あと数か月もクアゴアを足止めしていれば、

 

流石にナザリックの手が及んでいることがバレかねない。

 

 

帝国を通して折角足掛かりを掴んだが、デミウルゴス達の『配慮』の方が上だ。

 

 

…正直、他で補える。ついでなのだ。

 

冷たい言い方だが、あれは自然の営みとも言えなくはない。

 

それを崩すのはどうかとも思っていた。

 

 

そこまで考えているとデミウルゴスが発言する。

 

「いえ、モモンガ様。

 

診察結果によるとストレス解消のために『趣味』等をするのが良いそうです。

 

以前モモンガ様は仰っていました。至高の御方々と旅をするのが『趣味』だったと」

 

確かに、言った。

 

 

皆に休めと言ったら、休日に何をすれば良いかわからないと言われたことがあった。

 

 

…俺にはユグドラシルしか趣味がなく、

 

その内容も大体強奪やら死闘やら戦争やら、酷かった。

 

 

…大義名分はいつも作っていたが。

 

 

なので、九人の自殺点(ナインズ・オウン・ゴール)時代の、

 

最も楽しかった頃の未知への探求を『趣味』と語った。

 

 

「故に、アゼルリシア山脈への旅行等はいかがでしょうか?

 

 供には…」

 

デミウルゴスの提案は、

 

俺の考えていた『仕事』と『趣味』を両立できる素晴らしいものだった。

 

 

『趣味』としてついでに仕事をしても全く嘘にはならない。バレなければ良い。

 

 

しかし、

 

「だが、供として連れて行って大丈夫なのか?私には不満はないなど一切ないが」

 

そう疑問に思う。

 

当初の『仕事』では、コキュートスを連れて行く予定だった。

 

それに急に供を頼んで迷惑じゃないかと思った。

 

 

「いいえ、大丈夫です。モモンガ様。全て万全の準備が整っております。

 

 …本当に、そのことに関しては、全く問題ございません」

 

そう言い切るデミウルゴス。

 

ならば、良いか。

 

 

俺はとても楽しみだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺が倒れる心労の原因は実は腐る程あった。

 

やり過ぎたのだ。色々。

 

 

 

一昨日、倒れる前、俺が仕事に没頭していたとき、

 

スルメさんにも『番外席次』の告白の件を報告すべきか悩んだ。

 

 

今考えるとスルメさんは、矯正したかったのだろう。彼女の『歪さ』を。

 

 

法国の改革で忙しいスルメさんでは、

 

彼女を治すのが不可能だから俺に寄越したのだと今ならわかる。理解できる。

 

 

最初の『破滅の竜王』での、『番外席次』のあの発言で俺がブチ切れてしまい、

 

どういう『意図』で彼女を送ったのか聞けなかったが故の失態だ。

 

 

…報告すべきだろう。

 

俺はスルメさんにメッセージを送った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

俺のメッセージに感謝と感動の言葉を並びたてるスルメさんを無視して、

 

真っ先に『番外席次』のことを話した。

 

 

 

スルメさんから返って来た反応は暗いものだった。

 

「…そうですか。申し訳ありません。

 

 我が下では彼女は、友の唯一の子孫は、もはや修正不可能と考えておりました。

 

 彼女は、この国で『世界』の醜さだけを見て育ってきました。

 

 それも、閉じ込められた『空間』で。

 

 …法国では、修正不可能だと我は確信しました。

 

 だからこそ、『魔王』様の下へ向かわせました。

 

 本来であれば、こちらからしっかりと詳細を伝えるべきでした。

 

 完全に御身に甘えてしまい、申し訳ありません。

 

 …『否定』されながらも受け入れてくださったこと、

 

 この『死神』感謝の言葉を思いつかない程、感謝いたします」

 

スルメさんは想定していたらしい。彼女の『歪み』を。

 

 

だが、『執着』は想定していなかったのだろう。スルメさんのこの反応だと。

 

…最後の言葉の間が隠しきれていない。

 

『執着』のことは言うべきではなかった。俺は後悔した。

 

 

「こちらこそ預かっておきながら…すみません」

 

謝るしかない。『執着』させたのは俺の責任だから。

 

 

「いえ…」

 

スルメさんはそう言うと黙り込んだ。

 

 

沈黙が続く。

 

 

「そういえば、法国はどうですか?」

 

無理やり話を変える。

 

スルメさんには、『番外席次』の責任は、俺が取ることは約束した。

 

 

だから話を変える。

 

 

 

「ええ、請負人(ワーカー)は死ぬべきだと思います」

 

物騒なことを脈絡もなくぶっこんで来た。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

スルメさん曰く、法国を捨てたワーカーの『エルヤー・ウズルス』という奴が、

 

折角停戦したエルフ国へ、勝手に法国の名を、『神』の名を騙り攻め込んだという。

 

あわや両国の戦争再開の危機に陥ったらしい。

 

 

自分の、『死神』の復活を信じずに、

 

『神』の名の下に『人間』の偉大さを語り攻め込んだ屑を見て激怒したらしい。

 

 

こんな屑のために『人』を救ったわけではないと完全にキレていた。

 

 

法国でも重大犯罪者として人権を剥奪したらしい。

 

…何をしているかは流石に聞けなかった。

 

 

そのワーカー、エルヤーに対する憎悪は凄まじく、

 

『例外』は知っていているし、認めたくはないがワーカーは基本糞だと言い切った。

 

 

 

俺は冒険者をやっていたためわかる。確かに糞が多い。

 

 

ワーカーにもよるが、金になるなら本当に何でも引き受ける。

 

暗殺でも運び屋でも何でもする。状況次第ではワーカー同士で殺し合いをする。

 

ルールを嫌う者が多いので秩序に反する行為も平然とする。

 

 

もちろん、仕方がなくワーカーになったとか、善人もいなくはない。

 

冒険者モモンとして会った者の、数名はそうだった。

 

 

だが、ワーカーは、そういった性質を割り切れば使いやすい『駒』だ。

 

現に帝国でも使い捨て用の請負人(ワーカー)を何チームか確保していたと聞いている。

 

 

…確か『天武』というチームのリーダーが『エルヤー・ウズルス』だった気がする。

 

 

スルメさんとのメッセージのやり取りを終えた俺はレイナースを呼んだ。

 

 

『魔王国』の治安維持のために請負人(ワーカー)の情報を聞いておきたかった。

 

勿論、帝国支配のための情報収集で聞いてはいた。しかし、その時が最後だ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

レイナースの報告は、事前に貰った報告書通りの内容だった。

 

だが、直接見聞きしたレイナースの意見は大変参考になった。

 

声を直接聞いた方が文面から読み取れない感情が見えてわかりやすい。

 

 

しかし、レイナースは途中で気になることを言った。

 

「フォーサイトという、ミスリル級程度の強さを持つワーカー。

 

フールーダ様が注目していた没落貴族の娘がいるワーカーが解散したそうです。

 

 確か、『魔王国』誕生直前に解散したと聞いています。

 

『魔王』様の商会にその娘、アルシェ・イーブ・リイル・フルトが就職したとか」

 

…覚えている。確か『原作』にあったフールーダの弟子でタレント持ちだ。

 

 

商会の帝国支部は初期と中期に数度しか視察はしていない。

 

…見落としていた。『商会』の規模が大きくなり過ぎた弊害か。

 

 

だが、報告に上がっていないということは身寄りがない、

 

最悪、そこに閉じ込めても問題ない人材と判断されたのだろう。

 

『商会』は、借金の追手なぞ相手にしない程の規模にはなっている。

 

 

闇稼業が、敵に回してはいけない『企業』なのだ。もはや。

 

 

実際、『商会』では生来のタレント等で迫害された者も多く存在している。

 

有害なタレント持ちでも、全て平等に『従業員』という方針にしていた。

 

 

…本当に差別しないことを大前提にし過ぎたか。

 

有能なタレント持ちが埋もれている可能性が出てきた。

 

 

「ありがとうレイナース。仕事中にすまなかったな」

 

レイナースは、部下だが、何となくこう、扱いにくい。

 

表現できないが、面倒くさい。

 

 

「勿体なきお言葉!どうか、どうか私なぞいくらでも使い倒してくださいませ!」

 

…俺はレイナースと話しているとドMと話している気になるのだ。

 

 

しかも、本人の自覚はないみたいなのだ。面倒なことに。

 

注意もできない。『忠誠』だと理解しているから。

 

 

…この間、レイナースと俺のやり取りを見ていたシャルティアが、

 

凄まじい勘違いをして俺の『椅子』になろうとしてきた。

 

 

俺の私見は多分間違っていない。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『商会』に問い合わせた俺は、アルシェに会ってみた。

 

フールーダ曰く「自分に到達し得る逸材」ということだったので。

 

『商会』の真の支配者として二人きりで会う。

 

 

 

…俺に会った途端にアルシェは吐いた。

 

発狂寸前になって、漏らしている。何をとは言わない。

 

 

なお、この行為はアルシェのタレントを確認したかったのでわざとやった。

 

 

どう考えてもやり過ぎたと反省した俺は、

 

『獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)』と『清潔(クリーン)』、

 

『重傷治癒(ヘビーリカバー)』の三つの魔法をアルシェにかけた。

 

 

恐慌状態から回復させるのと、身を綺麗にするのと、最後のが本命だ。

 

 

「へ、『重傷治癒(ヘビーリカバー)』!?有り得ない!!」

 

想定通り驚いてくれた。完全催眠状態で見えているアンデッドなら使えない信仰系魔法。

 

アルシェの『常識』が覆る反応を見たかった。

 

 

「魔王だからな。こんなこともできる」

 

そう言って俺は『魔王』から『人間』に戻して、

 

完全催眠で魔力を認識できないようにする。

 

 

「あ、ありえない!常識的に考えてありえない!!」

 

『魔王』の前なのに敬語使わない少女だなぁと思った。

 

そして、この少しのやり取りで、反応を見て気づいてしまった。

 

 

この子はただの『才女』だ。

 

 

凡人が持てる才能を極限まで磨き上げた、そんな人間だ。

 

それはとても凄いことだが。求めていた『人材』ではない。

 

 

というか俺は比較対象が間違っている。

 

 

あのフールーダという『狂人』を前提に考えていた。俺、馬鹿だった。

 

タレントも有能だが、探知や情報系魔法に優れた人材のいるナザリックには不要だ。

 

とはいえ、目の前の少女にそんな暴言を吐けはしない。言う資格もない。

 

 

父と母を捨てて、妹達を守った根性がある少女だと知っているから。

 

 

「――あの」

 

アルシェが恐る恐るという感じで声を出す。

 

うん。『化け物』に遭遇したらそうなるわ。…漏らしていたしな。

 

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。『魔王』だ」

 

改めて名乗る。『商会』の真の支配者として。

 

 

「――何の御用ですか?」

 

『狂人』を前提にあなたをスカウトに来ました、なんて言えない。

 

 

「私は可能性が欲しいのだ」

 

そんなことおくびも出さずにでっち上げることにした。

 

この時の俺は、とにかく『仕事』を増やしたかったのだ。

 

 

「――可能性ですか?」

 

アルシェが疑問を抱いている。

 

当然の反応だ。俺だって今思いついた。

 

 

「君は、『今』の、『商会』の一従業員で本当に良いのか?」

 

優しい声色で尋ねる。

 

もはやなりふり構わずに、ワーカーチームから脱退した経緯は知っているから。

 

 

無くした『誇り』を刺激する。

 

マジックキャスターとして、元貴族という隠れたところまで刺激する。

 

 

「――私は『今』に満足しています」

 

そう返すに決まっている。妹達が大切だから。

 

だからこそ使える。刺激できる。

 

 

「私のことは既に知っているだろう。私は『魔王』。…この世の全ての財を集めた『王』だ」

 

この少女に『財』としての『魔王』が見ていると、自分の価値を刺激させる。

 

 

もはや、行き場がなく、なりふり構わず来たアルシェなら食いつく。

 

無くした物を取り戻したいという心の奥に微かに残る『欲望』。

 

相手が『才女』だからできる勧誘法。

 

 

「――何が言いたいのですか?」

 

ほら、食いついて来た。

 

 

「私が君に『道』を与えよう。君は『発見者』としての栄誉を得るだろう。

 

 醜い『過去』を全て塗り替えよう。…君ならできる。

 

 『世界』を変えて楽しもう。きっと面白い『世界』が君を待っている

 

 私のために働いてはくれないか?

 

 アルシェ・イーブ・リイル・フルト。…いや、アルシェ」

 

そう言って俺はアルシェに手を差し伸べた。アルシェのみを見つめて。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

アルシェの勧誘は無事成功した。

 

突発的ならば中々良かったのではないだろうか?

 

 

アルシェには、今後、ユリ達と一緒に『魔王国』の『学園』を作らせることにした。

 

 

『学園』は研究所も兼ねている。勿論、人材流出はさせない。情報流出も、だ。

 

『魔王国』のみで働いてもらう。『国』の学校だ。

 

他国への情報の流出はナザリックが管理する。

 

 

…これは前々から考えていた。

 

 

スーラータンさんが皆を巻き込んで作った『ナザリック学園』のデータを発見したからだ。

 

結局、ナザリック内では作らなかったが。

 

確か、ぶくぶく茶釜さんにぶん殴られて頓挫していた。

 

ペロロンチーノさんが殴られていた。

 

スーラータンさんに乗せられただけなのに。

 

 

『学園』をこの『世界』で再現したいと思っていた。

 

 

 

もう数年先に、カルネ村付近に建設する予定ではあった。

 

ダミーの魔法研究所を、作成する。公表しても良い『魔法』を発表させる。

 

 

ナザリックで研究した、失われた『魔法』を再現させる。

 

形を変えて、若しくはそのまま『再発見』させる。

 

 

あの『薬師』の偽りの歴史を塗り替える。国が隠蔽した以上数年では無理だろう。

 

だが、数百年かかってもあの偉大な発見の恩は返す。

 

あれは『世界』を守る宝だ。

 

『薬師』が世界を恨んでなくなったとしても、『薬師』の信念は絶対間違っていない。

 

 

 

…アルシェは申し訳ないが利用させてもらう。

 

『才女』なら創ることはできなくても、『再現』はできる。

 

 

もう既にあるものを作るわけだから、アルシェならできる。

 

言い方は悪いが、アルシェはフールーダに錯覚させる程の『努力家』だ。

 

 

『開発』はフールーダ等に任せる。

 

『再現』はアルシェ等に任せる。

 

 

この方針で行く。ナザリックで再現した魔法のスクロール等を渡そう。

 

完全催眠で誤魔化せばスクロールの材料に気づけない。

 

第三位階の魔法しか込められないが十分だ。

 

さらに魔法を解析した資料を渡す。エルダーリッチ達に『魔法』そのものを見せる。

 

 

第三位階まで取得しているアルシェならばいずれ『再現』可能だろう。

 

何せ先人の行った『道』をなぞるのは『努力家』が一番理想だから。

 

フールーダのように深淵を覗くのとは、また別のベクトルの力が必要だ。

 

 

アルシェも「――頑張る」と言っていたし大丈夫だろう。

 

 

実にやる気に満ちた目をしていた。

 

アルシェには、準備のための勧誘だと言って置いた。実際まだできていない。

 

 

直ぐに資料は送り、『商会』内で研究させると言っておいた。

 

『商会』で集めた人材の中から、有能な者で『名』を上げたい者がいれば参加させる。

 

彼らは、俺の脅しのせいか毎日、物凄く必死に勉強しているのだ。

 

 

きっと、ストレス発散になるだろう。

 

『名誉』という報酬で我慢して貰いたいものだ。

 

 

 

ちなみにアルシェは他のフォーサイトの面々は知らないと言っていた。

 

まぁ、話を聞いた限り善人でかつ、この『世界』の強者。

 

 

どこかで上手くやっているだろうとこの時は気にしていなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日、エンリから元気の良い連絡が来た。

 

『メッセージ』だった。エンリはレベル上がったから普通にメッセージが使える。

 

というか、『指揮官』なら使えて当然だった。

 

 

俺に何度も会っているし、メッセージは送れて当然。

 

要件自体も重要なものだった。

 

 

『フォーサイト』のヘッケラン・ターマイトとイミーナはカルネ村の新規村人候補らしい。

 

 

どうもエンリがレイナースから、

 

俺がワーカーについて尋ねていたことを聞いたらしい。

 

 

 

別に秘密にするほどのことじゃなかったし、レイナースにはそう言っておいた。

 

しかし、翌日にわかると思わなかった。

 

 

なお、何故かレイナースと番外席次、エンリは仲が良い。

 

だが、ラナーとエンリが話すところは見たことがない。

 

 

ラナーはエンリのことを『村娘』とか言っていたし、イジメていないか心配だ。

 

罵詈雑言吐くラナーと、純朴なエンリでは相性が悪いのだろうか?

 

 

情報収集と人材確保に余念がないエンリ村長の報告を聞いて俺は思った。

 

 

『フォーサイト』の二人をカルネ村の狂信者にされたら、

 

今後アルシェとの関係が非常に面倒になると。

 

 

なので、エンリにアルシェのこと、『魔法学園』の計画を話した。

 

下手に『魔王』の、『宗教』を吹き込まないようにやんわりと伝えた。

 

 

その瞬間、物凄く嫌な予感がしたので、慌ててカルネ村にして欲しい4つの方針を伝えた。

 

 

一つ目、産業の育成 

 

カルネ村は薬品の重要拠点だ。

 

今後、さらに魔法使いが増えるであろうカルネ村の重要性が増すことを伝えた。

 

さらに『魔法』産業の発信地になると伝えた。『魔王国』内の重要機関だ。

 

 

カルネ村はLv30台の屈強な村人達とゴブリン軍団であふれるこの世界の『魔境』だ。

 

正直、法国や竜王クラスでないと脅威になり得ないだろう。

 

ここほどナザリック外で安全なところはない。ナザリックの警備抜きにしても。

 

 

…アルシェが重要であり、ヘッケランとイミーナは大事な仲間だったと伝えた。

 

エンリは「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

二つ目、人の交易、流入 

 

既にリザードマン達を始め、色々交易盛んだが、今後ンフィーレアの薬の取引も始まる。

 

流石にンフィーレア達を直接出すわけにはいかない。

 

本当はナザリックに呼びたいがエンリがカルネ村の村長だし無理だ。

 

勿論、大多数はエ・ランテルに卸すつもりではいる。

 

だが、『商会』ではなく、『魔王国』として交易しなければならないので、

 

より一層人の行き来があるだろうことを伝えた。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

三つ目、人口増

 

カルネ村が、人材が行きかう以上発生が予想される。

 

なので、今のうちに要塞化したカルネ村をより広くするかもしれないと伝えた。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

四つ目、地域の中心地化

 

もはや、既に村ではないカルネ村。

 

それをいずれエ・ランテルに匹敵或いはそれ以上の都市にする計画だ。

 

もはや、エンリの存命の間には不可能だろうが、その『下地』を作って欲しいと頼んだ。

 

これも「わかりました!」と元気な声で答えてくれた。わかってくれて良かった。

 

 

…俺が頼んでおいて何だが、『村長』の枠組みを大幅に超えている。

 

 

だから、ラナーの協力不可避だ。

 

カルネ村が、元王国な以上関わりあって貰わないといけない。

 

 

ラナーと仲良くしているか聞いてみた。

 

「はい!尊敬するお姫さまです!」

 

眩しい。

 

ラナーはエンリのこと『村娘』と呼んでいたことを俺は言えなかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

お茶会でラナーは、

 

「疲れ知らずの魔王様、知っていますか?

 

 王族や貴族がその重圧から解放させる手段として、『異性』を使うんですよ」

 

酷い下ネタぶっこんできた。

 

 

「…それよりもこの、王国の税管理システム一元化についてだが」

 

無視する。聞いてない。先ほどのエンリとは大違いだ。

 

 

「何か不快なことを考えていたようですが、まぁいいでしょう。

 

 ええ、『健全』な王国になるでしょう?話をそらさないでくださいね」

 

内心がバレているが、本当に気になることがあるので問題ない。

 

 

「これ、統一の『ルール』がないと、税部門ごとに衝突して結局意味なくなるだろ」

 

ピシっと固まるラナー。

 

ラナーは、発想はこの時代においては凄まじいが、

 

勉強した俺の『未来』にはまだ勝てない。

 

 

過去に同じことやった国があったのだ。

 

…統一の規則がないせいで、政府内部で税金を取り合って、グダグダになりすぐ元に戻った。

 

 

統一のルールを作る強権がなかったからこそ『企業』に支配された。

 

あの汚染された『世界』になったのだ。

 

 

そんなことを考えていると、

 

「要は、王権を行使すれば良いだけです!」

 

中世の発想で『未来』が負けた。

 

凄く悔しい。

 

 

ラナーに言い返そうとしたら、

 

「モモンガ様!いい加減私に愛を!!」

 

アルベドが突っ込んできた。

 

 

ラナーはさらに言いたいことがありそうだったが、

 

グダグダになってお茶会は中止になった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

お茶会の次は、デミウルゴスの牧場だ。

 

どうも、高レベルの『羊』から取れるスクロールだと、高位の魔法を込められるらしい。

 

 

その結果、目の前には第四位階魔法を込められるスクロールがある。

 

 

完全催眠で『破滅の竜王』と戦わせて、

 

レベルを上げれば高位魔法が込められるスクロールが取れる可能性が示唆された。

 

 

正直、もの凄くやりたくない。

 

ナザリックの『財』を極悪人に使うのは、不快だ。

 

だが、デミウルゴスの言う通り、検証する価値があった。

 

 

なので、まずはPOPモンスターで試すように命じた。

 

そこから高位のスクロールが取れるなら、初めて実施することとした。

 

 

時間が無駄にかかるが、

 

それくらい『極悪人』にナザリックの財を使いたくなかった。

 

 

そう思っていると段々具合が悪くなり、ふと意識が飛び、倒れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

冒頭に戻る。

 

これがたった二日でやった仕事だ。

 

しかも雑務を含めないで、だ。

 

 

…かなり無茶苦茶をやっていた。

 

 

ストレスで倒れてもおかしくないかも知れない。

 

 

休もう。『旅』に行こう。

 

 

俺は心の底から、素直にそう思った。

 

 

 

 

…俺はこのとき、罪悪感を隠しきれていないデミウルゴスに気が付かなかった。

 




???「働き過ぎで計画狂うところでした!」







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。