不幸せな妻に離婚認めず 英最高裁が離婚法めぐり判断

ティニ・オーウェンズさんは家裁と控訴裁でも離婚が認められなかった Image copyright PA
Image caption ティニ・オーウェンズさんは家裁と控訴裁でも離婚が認められなかった

不幸せなので夫と別れたいとの英女性の訴えをめぐり、英国の最高裁判所は25日、離婚は認められないとの判断を示した。

英中部ウスターシャー州に住むティニ・オーウェンズさん(68)は、結婚から40年たつ夫ヒューさんとの離婚を希望しているものの、夫は拒否している。訴訟は最高裁まで争われた。

最高裁は全会一致でオーウェンズさんの訴えを退け、現行法が定める通り2020年まで離婚できないとした。

オーウェンズさんの弁護士は、オーウェンズさんが判決に「精神的に打ちのめされて」おり、「彼女の人生は前に進むことできない」と語った。

イングランドとウェールズの現行法では、配偶者の同意がない場合、浮気や理不尽な行動、逃避などで結婚生活が破綻していると証明できない限り、最低5年間の別居が離婚が認められる条件になっている。

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英司法省は判決を受け、「離婚をめぐる現在の制度は、ただでさえ困難な状況のなかで、敵意を不要に生み出してしまう。政府はすでに、制度改革の可能性を検討している」と述べた。

1978年に結婚したオーウェンズ夫妻の間には、成人した2人の子供がいる。

ティナさんは2012年に離婚を考え始めたと話す。しかし、2015年2月まで別居していなかった。

ヒュー・オーウェンズさんは離婚を拒否している Image copyright PA
Image caption ヒュー・オーウェンズさんは離婚を拒否している

2人の関係は修復できないところまでいっていると、ティナさんは主張。同居を続けるのが常識的に不可能な行動をヒューさんがとったとしている。

一方のヒューさん(80)は離婚に同意せず、ティナさんが言うような行動はしていないと主張している。

ヒューさんは、もし2人の関係が修復不能なまでに破綻しているとすれば、ティナさんが浮気をしたか、あるいは「退屈」しているからだと反論している。

最高裁では今年5月に開かれた審問で「理不尽な」行動や、「過失」をめぐるさまざまな法的主張を検討した上で、25日に判断を示した。

裁判官の1人、ウィルソン卿は、法廷がティナさんの訴えを「ためらいつつも」退けたと説明し、現行法の問題は議会で解決されるべきだと指摘した。

ヒューさんの弁護士は文書で、「自分の結婚を救おうとする当人の努力が不当に批判される」べきではないと述べた。「ヒュー・オーウェンズさんは、自分や妻の私生活に打撃を与えるこの経緯を、喜んでしているわけではない」という。

ティニさんのサイモン・ベックル弁護士は、最高裁には「今後を見据えた、現在の社会的規範に沿う」判断をしてほしかったと語った。

最高裁長官のレディ・ヘイルは、今回の裁判が「非常に憂慮される」案件だったものの、「法改正」は裁判官の役目ではないと述べた。

下級審は、オーウェンズ夫妻の結婚生活が破綻していると認めたが、妻が挙げた理由は「根拠が薄弱で誇張されている」との判断を示していた。

2015年以来、夫妻は別居している。ティニさんは写真左の建物「ヒル・ファーム・ハウス」、ヒューさんは同右の建物「マナー・ハウス」にそれぞれ住んでいる Image copyright SWNS
Image caption 2015年以来、夫妻は別居している。ティニさんは写真左の建物「ヒル・ファーム・ハウス」、ヒューさんは同右の建物「マナー・ハウス」にそれぞれ住んでいる

今回の訴訟は、イングランドとウェールズの離婚法が改正されるべきかをめぐる議論に火をつけた。

離婚法を専門とするキャロライン・エリオット弁護士は、「他国に比べてイングランドとウェールズの離婚法はかなり立ち遅れていて、『無過失離婚』の導入など、改革を求める空気が強まっている」と述べた。

ティナさんの担当弁護士らは、法解釈に焦点を当てた「緩やかな変化」が必要だと主張している。ティナさんが夫の「理不尽な」行動の立証を求められるのではなく、結婚生活の継続が「常識的に不可能」だと証明すれば良いはずだとした。

ヒューさんの弁護チームを率いたナイジェル・ダイヤー勅撰弁護士はこれに反論し、「任意」で離婚が可能になることへの懸念を指摘した。

最高裁判事の1人は、オーウェンズ夫妻の訴訟について「まったく気が乗らない」判断だったとしたが、任意の「無過失離婚」を導入するかは議会が決めなくてはいけないと語った。

別の裁判官は、「惨めなくらいに不幸せな結婚生活」は離婚の理由にならないと、議会によって「定められて」いると述べた。


イングランドとウェールズで離婚が認められるには

離婚が認められるには、結婚生活が破綻していることを証明し、以下の理由のうち1つを挙げなくてはならない。

  • 浮気
  • 理不尽な行動
  • 結婚生活の一方的放棄
  • 2年以上の別居と双方による離婚への同意
  • 配偶者が離婚に同意していないが、少なくとも5年間、別居している

出典:Gov.UK


<解説>クライブ・コールマン司法担当特派員

最高裁の判断がこれほど多くの人をここまで不安にさせることはまれだ。

レディ・ヘイル長官は、「非常に心悩まされる判断」だと述べ、ウィルソン卿やマンス卿も「居心地悪い気持ち」だと口をそろえた。

なぜか。離婚を成立させるため、お互いに責任を擦り付け合うことを強いる法律への深い違和感が存在するからだ。

相手の過失を責めることが、すでに困難で多くのストレスが付き物の離婚手続きで、問題や対立をさらに深刻にしていると、多くの人は考えている。

米国やオーストラリア、スコットランドで認められているような「無過失離婚」への変更を求める声がこれまでもあった。

家庭裁判所で裁判官を務めていたバトラー=スロス女男爵は現行法の改正を議員立法で提出している。

しかし、イングランドとウェールズですぐに法改正が実現するのは見込み薄だ。


(英語記事 Tini Owens loses Supreme Court divorce fight

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