鴻海、大陸反攻ならず。シャープのスマホ事業、中国撤退へ

SHARP、中国市場撤退?なぜ?

 7月22日、シャープの携帯電話部門の責任者・羅忠生氏が他業務の責任者になり、シャープ携帯の公式微博(ウェイボー)の内容が削除され、シャープブランドの再びの中国市場撤退が濃厚になったとの「北京商報」報道を、人民網(中国共産党機関紙人民日報のWeb版)の日本語版が伝えました。

 報道によれば、大型ECサイト「京東」のシャープ公式ショップでは「アクオスS3mini」しか取り扱っておらず、他のモデルは「在庫整理のための投げ売り」価格だったとのことです。

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(AQUOS S3 mini)

 シャープ中国市場撤退について人民網日本語版では、「シャープ携帯が中国市場で売上を伸ばせないのは、ブランドの販売チャンネル構築と関係がある。現在の市場で主流のメーカーに比べると、シャープのチャンネル構築ははるかに及ばない。総合的なチャンネル構築を行わず、オンラインでもオフラインでも、通信キャリアのチャンネルでも、シャープ製品の流通には限界がある。こうしたわけで、シャープはECチャンネルでは京東に頼るしかなく、その他の大型プラットフォームにコマを進めることができなかった。より重要なことは、シャープが独自の販売チャンネルをもたなかったことだ」との業界関係者の見方を紹介していました。

 蘋果日報はシャープ機の「反攻大陸」だと報じ、シャープは台湾鴻海による買収以後、中国大陸での販路を拡大して業績が回復しているとの話もありましたが、残念な結果に終わることになりそうです。

SHARPの中国スマホ市場の歴史

 シャープのこれまでの3度にわたる中国市場展開もあわせて、鴻海の「ブランド化」失敗を中心とした論評記事が搜狐に掲載されていたので、ご紹介します。

 「『ベゼルレスディスプレイの元祖』がベゼルレスディスプレイ時代に退場する」とは、感慨に耐えない。

 それと同時に、シャープは隠れた身分がある、それは鴻海ブランド化の尖兵である。業界関係者が指摘するに、シャープの再度の敗北は、鴻海ブランド化戦略の最終的な結果としての意義も有する。

 思えば部品メーカーの鴻海がシャープを買収したのは、エンドユーザー向けのBtoCビジネスへの本格参入でもありました。それが大きな挫折を迎えたと指摘します。

 シャープは中国市場について、詳しくもあり、見知らぬところもあった。詳しいのは、十数年前すでに業務を展開していた点であり、見知らぬところは、今に至るも中国の消費者に受け入れられていない点である。

 公開資料によれば、2003年、シャープのモバイル通信端末は初めて中国消費者の視野に入り、2年後、松下や京セラなどその他日本ブランドとともに撤退を宣言した。

 最初の「出征」の経験を得て、2008年シャープが捲土重来したときには自信を増していた。二つ折りケータイの名作、シャープ9010Cの成績も良好だった。

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(SHARP 9010C)

 しかしその後のスマホ時代を迎え、シャープはまたも戦勢非にして、2013年に2度目の撤退をする。

  昨年、「ベゼルレスディスプレイの元祖」との称号をひっさげ、シャープAQUOS S2が中国に帰ってきた。一度は市場に「シャープはついに春が来た」との錯覚を与えた。しかしブランドの名声と市場の販売台数はともに低空飛行を続け、既にすべては明らかになった。

中国で話題にもならなくなったAQUOSスマホ

 百度の指数が示すとおり、今回の復帰に際して「夏普手机(シャープスマホ)」の検索指数は3384の最高値に達した後、右肩下がりとなり、今年6月には500前後の最低点にまで落ち込んだ。最近は少し持ち直したが、それは「中国市場撤退」の情報が伝えられたからだ。「出ていけば最高値になる」とからかわれている。

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 図版を見ればわかりますが、本当に「中国市場復帰」と「中国市場から撤退か?」というときしか検索件数が増えていませんね。

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販売台数も低迷

 販売台数では、復帰後のAQUOS S2は京東公式ショップで5.7万の評価を集めた。発売から1年になろうという機種の成績としてどうか、読者自身で判断できるだろう。

 華為、小米などの強豪を挙げるまでもなく、3カ月遅くリリースされた「锤子坚果Pro2(Smartisan Nut Pro 2)」と比べても、AQUOS S2の販売台数とは桁が違う。そして最近、AQUOS S2の販売価格は2499元と3499元から1099元と1799元まで値下げされた。

 思いこされるのは復帰発表会での、当時のシャープスマホCEOの羅忠生による「2017年の年末までに、今日お越しの皆さんはみなスマホを買い替えることになる」との発言だ。今から思えば、スマホを換えることは換えたが、シャープに換えた人は少ない。

 「锤子(スマーティザン)」も中国で苦戦している中国国内メーカーですが、シャープはそれと比べても桁違いの惨敗だったようです。

羅忠生さん、ただの「通信に詳しい人」に

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 羅忠生本人も、すでに換えられてしまった。微博(ウェイボー)では「深通信人士、数码博主(通信に詳しい人、デジタルブロガー)」の肩書になっている。同時に、シャープスマホの公式アカウントも、内容はカラになっている。羅忠生の率いる中国チームも、すでに解散したとの情報もある。

どうしてこうなった?

 主な原因は二つある。一つは中国国内スマホ市場環境の「隙間」が小さかったこと、もう一つはシャープ自信の実力不足だ。

 羅忠生は以前、「スマホ業界の同質化の流れを変えたい」と話していた。昨年下半期、iPhone Xの出現にあわせて、中国国内ブランドは一斉にノッチディスプレイをリリースした。ここからも、AQUOS S2の価値がわかるだろう。しかしシャープは現実を認め、今年4月にリリースした30モデル目となるベゼルレスディスプレイスマホAQUOS S3では、iPhone Xと同様のノッチディスプレイ設計を採用した。

 そして中国国内スマホ市場は、前回シャープが追い出された後、中国国産ブランドによって占められた。華為、小米、OV(OPPOとvivo)は認知度において既にアップルと比肩するまでになった。ブランド飽和のほかにも数量でも、中国信息通信研究院によれば、上半期の中国スマホ市場の出荷量は僅か1.96億台となり、前年同期比で18.7%下落した。

 この背景において、シャープが発展するのは容易ではない。しかもシャープブランド自身も弱く、復帰を達成する決め手に欠いた。デザインでいえば、OVが今年見せたイノベーションに及ばない。価格でも価格の破壊者小米の敵ではない。営業でも、中国国産ブランドに勝てない。ブランドへの愛着でも、日系ブランドのソニーに秒殺される。

 国内スマホ市場の隙間はさらに狭まろうとしている。今回の撤退は、基本的に永遠の別れになるだろう。

 こうやって見ると、そもそも中国市場で勝ち目がなかったということでしょうか。

鴻海ブランド化の夢も終わり

 昨年10月、台湾経済日報の報道によれば、鴻海とシャープは4,000人以上のチームを結成、2018年のグローバル展開を目標に、世界5強を目指すとしていた。

 羅忠生はシャープの2018年グローバルスマホ市場での展開について、自信満々だった。これはシャープのスマホへの期待でもあったが、鴻海に向けての保証でもあった。なぜなら羅忠生は当時、シャープスマホの責任者であったと同時に、鴻海グループ富士康資深の副総裁だったからだ。

 今更ですが、なかなか随分な大ぶろしきを広げていたんですね。

 中国市場での失敗は擱くとしても、国際市場において、シャープのスマホは予想していたような旋風を巻き起こすことはできなかった。

 各機構が発表している市場ランキングでは、どれも「SHARP」というブランドを目にすることができない。Counterpointが発表した今年第1四半期のデータでは、上位5強はサムスン、アップル、華為、小米、OPPOだ。

 そして大敗を喫したシャープのスマホは、鴻海ブランド化戦略の重要点だった。

 薄利のODMに甘んじるつもりのない鴻海にとって、ブランド化の野望は捨てきれない。情報筋によれば、アップルのiPhoneとPad向けに生産する営業利益率は3%前後とのことだ。

 鴻海は既に、シャープとノキアというスマホブランドを手に入れた。しかし数年たっても、大多数の消費者にとって、鴻海のイメージはいまだにODMメーカーで停まっており、スマホ市場での存在感はゼロに近い。

 そればかりではなく、最近鴻海はシャープによって面倒を引き受けることになった。

 先にも挙げたとおり、シャープのAQUOS S3はiPhone Xと同様のノッチディスプレイを採用している。初めて伝えられた時、騒然となった。鴻海はアップル最大の代理生産メーカーであり、シャープは鴻海の主要ブランドである。設計コンセプトがここまで似ていると、パクリの疑いは免れない。当時、「AQUOS S3は流産するだろう」という声もあった。

 他ブランドのスマホを代理生産するメーカーから脱却しようとしても、既存ブランドのデザインに似たものを出すと問題になる……。なかなか難しいですね。ましてや、今のようにベゼルレス・ノッチディスプレイが主流になると差異化は極めて困難なだけに、無茶ぶりな感すらあります。

今後の日本と中国の産業

 その他の日本企業を見るに、ここ数年来シャープも含め、東芝の白物家電、NECの個人向けパソコン業務など、次々と中国企業に買収された。ここから日本自慢の家電製造業衰退を唱える人もいる。

 しかし同時に、世界規模で見れば日本は科学技術のイノベーションでその他の国家よりはるか先を歩んでいると警鐘を鳴らす人もいる。その道程は米国にも似ており、高技術に精力を傾注し、たとえばロボット、新材料、生物医薬、物流ネット、人工知能などであり、選択と集中からローエンド産業を切り捨てたのだと。

 一方中国を見れば、全ての産業が大躍進の勢いにあり、インターネットやネット決済などでは、世界の先頭を走っている。しかしTencentの馬化騰CEOが最近の講演で話したように、中国の多くの産業は科学技術応用の段階にとどまっており、表面上の繁栄に過ぎない。基礎科学研究において、中国全体ではかなり薄弱だ。少し前の「ZTE事件」は、核心となる技術を掌握しなければ民族企業はひとつの禁止令で倒れることを、中国人民に思い知らせた。

 最後に、シャープのスマホの撤退は、確かに中国国産ブランドの隆興を証明した。しかしもし国産ブランドの競争点が価格や販売などの基礎段階にとどまれば、もしグローバル市場を席捲したとしても、技術の核心部分はよそに握られることになり、次のZTE、シャープの運命をたどるだろう。それはあり得ないことではない。

 日本が最終消費者向けの産業から技術屋として脱皮できるのか、それは現時点でなんとも言えないと思います。論評を読む限り、米国政府のZTE制裁は、寝た子を起こすヤブヘビ措置だったかもしれませんね……。