7月9日、仙台地裁はヤフーに対し、その運営する匿名掲示板サイトtextream(テキストリーム)の投稿を削除し、慰謝料等として15万円余りの支払いを命じる判決を下した。
問題となった投稿は、何者かが原告男性の実名、職歴とともに、男性が在日朝鮮人であるとの虚偽の記載を行うものであった。
興味深い争点は、本件投稿が本人の権利侵害となるかどうかという問題であった。
この点、ヤフー側は、名誉毀損の問題と捉え、本件投稿は「〇〇、通名××こと、在日朝鮮人△△君を本社に呼び戻そう!」という内容で、原告が会社にとって必要な人物だという印象を与えるから名誉毀損には当たらないと主張した。
これに対して判決は、本件投稿の問題は名誉毀損にはなく、「氏名及び出自・国籍を第三者に正しく認識してもらう人格的利益」の侵害の問題であり、本件投稿は氏名等について虚偽の事実を摘示することによってこうした利益を侵害したため、削除されるべきであるとした。その上で、削除せず放置したことについて損害賠償を命じた。
こうした判断は裁判官の苦心の結果だろう。投稿者の意図としては、原告を貶める趣旨で「在日朝鮮人」と書いたのだろうが、言うまでもなく、在日朝鮮人であることは違法なことでも反道徳的なことでもない。
差別的な偏見を持つ一部の者にとってはネガティブな印象を与える記載であるかもしれないが、良識ある一般人にとってはそうではないはずで、名誉毀損とは言い難い。かといって、本件のような事案では、プライバシー侵害とも言いにくい。
そこで裁判所は、「氏名及び出自・国籍を第三者に正しく認識してもらう人格的利益」というものを編み出し、その侵害だとしたわけである。
このように、名誉やプライバシー、肖像権のような確立した人格権では対応できない権利利益の侵害が問題となる事案では、いわば新しい人格権を編み出していく必要性が生じている(他にも、同性愛者であることの指摘などはそうである)。
他方で、サイト運営者側にとっては、確立した人格権以外のものについては、権利侵害があったかどうか判断が難しいものであるから、裁判段階で事後的に権利侵害を認定し、削除、さらには損害賠償まで命じることには納得しがたいものがあるかもしれない。