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米グーグルは2018年7月25日(米国時間)、エッジデバイス向けのディープラーニング(深層学習)専用チップ「Edge TPU」を発表した。IoT(インターネット・オブ・シングズ)のエッジで機械学習の推論を実行できる。グーグルが半導体チップの外販を始めた。
「TPU(Tensor Processing Unit)」はグーグルが自社開発したディープラーニング専用チップ。これまでは同社の社内サーバーでのみ利用していた。今回発表したEdge TPUは、電力供給が限られるエッジで利用できるよう小型化や省電力化を図っただけでなく、社外にも販売する。チップの大きさは米国の1セント硬貨に収まるほど小さく、電力消費量は2Wだという。Edge TPUは推論にのみ特化し、学習(トレーニング)には対応しない。
Edge TPUではグーグルがオープンソースとして公開するディープラーニングフレームワークの軽量版「TensorFlow Lite」が利用可能。同社がクラウドで提供する「TensorFlow」とサーバー版のTPUのサービスである「Cloud TPUs」で開発した機械学習モデルをEdge TPU上に展開すると、機械学習の推論処理ができるようになる。
チップの処理性能などは明らかにしていないが、同社はEdge TPUのWebサイトで「毎秒30フレームの高解像度の動画に対して、リアルタイムで複数の機械学習モデルを実行できる」と説明している。また浮動小数点演算には対応せず、8ビット/16ビット整数の演算器のみを備える。
同日に米サンフランシスコで開催したカンファレンス「Google Cloud Next 2018」の基調講演に登壇したGoogle Cloud部門のIoT担当バイスプレジデントであるインジョン・リー(Injong Rhee)氏は「Edge TPUは消費電力当たりの性能とコスト当たりの性能を向上することにこだわったチップだ。エッジコンピューティングにとってゲームチェンジャーになる」と強調した。
グーグルはEdge TPUを搭載した小型コンピュータボードである「TPU development kit」を2018年10月に発売する。このボードにはEdge TPUのほか、オランダNXPセミコンダクターズ(NXP Semiconductors)製のCPUやメモリー、Wi-Fiチップなどを搭載する。同ボードを使うことで、ユーザーはエッジデバイスを容易に試作できるようになる。
同時にグーグルはEdge TPU搭載エッジデバイスを実現するパートナーとして、NXPや英ARMといった半導体メーカー、日立製作所の米国子会社である日立ヴァンタラ(Hitachi Vantara)やフィンランド・ノキア(Nokia)などのエッジデバイスメーカーなどを発表している。
エッジデバイス向けのソフトウエアとしては「Cloud IoT Edge」を発表した。Cloud IoT EdgeはOSとして「Android Things」と「Linux」に対応したソフトウエアスタックで、機械学習フレームワークとしてTensorFlow Liteのほか、エッジデバイスのセキュリティを保護するソフトウエアなどを含む。
クラウドと連携するエッジデバイスに関しては米マイクロソフト(Microsoft)も「Azure Sphere」を提供しているが、こちらはセキュリティ強化が中心。グーグルとしては自社開発したディープラーニング専用チップを持つ強みを、クラウドだけでなくエッジにも広げていくことになる。