ジャーナリストの三上智恵さんと大矢英代さんが共同監督を務めたドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」が那覇市の桜坂劇場で公開中だ。初日の舞台あいさつは満員の約300人が詰め掛けた
▼日本軍第32軍の周辺で起きた本島中南部の激戦を「表の沖縄戦」とすれば、映画が描くのは北部の少年ゲリラ兵部隊「護郷隊」や八重山の戦争マラリアなどの「裏の沖縄戦」。綿密な取材による証言と資料映像で、6月23日以降も続いた遊撃戦の実相をつづる
▼北部各地から10代半ばの千人が召集された護郷隊。中高生の年頃の少年たちが背丈より長い銃を担ぎ、敵陣への突撃、スパイと疑われた仲間の処刑などに追い込まれたという。生存者の生々しい証言に胸が痛む
▼映画は住民同士の密告のシステムを暴き、軍への協力を拒めなくなる過程も描く。無垢(むく)な被害者という側面だけではなかった住民の姿が浮かび上がる
▼軍隊は地域に忍び入り、住民同士を監視させ、物資を徴用し、機密を知った者や邪魔になった者は「始末」する。映画が掘り起こした史実は、特定秘密保護法ができた現在とつながる
▼先島では国防強化の名のもと、自衛隊配備が進む。「情報戦」は既に始まっているかもしれない。70数年前、やんばるや波照間島で何が起きたか。再び誰かに利用されないために知る必要がある。(田嶋正雄)