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政府の知的財産戦略本部は2018年7月25日、「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」の第4回会合を開催した。海賊版サイトへのアクセスを遮断する「サイトブロッキング」についてイギリスやドイツの法制度を専門家が説明したほか、日本でブロッキングの法制度を整備するうえでの論点を各委員が示した。
イギリスは120サイトをブロック
会合に出席した明治大学の今村哲也准教授によると、イギリスは著作権法に基づき、裁判所がインターネット接続事業者(ISP)にサイトブロッキングを命令できる。
ブロッキング実施の是非を巡りコンテンツ事業者とISPが争った2011年の裁判では、ISPが「ブロッキングは回避可能で、効果的でない」と主張。これに対して裁判所の判事は「多くの利用者にとって、実際に迂回行為を行うには、現在有している以上の専門知識が必要になる」としてブロッキングの効果を認め、ISPにブロッキング実施を命じたという。
イギリスでは現時点で120ほどのWebサイトおよび関連する数千のミラーサイト、プロキシサーバー、後継URLがブロッキングの対象になっている。
ドイツの事例を紹介した早稲田大学教授の上野達弘委員によると、ドイツでは2017年までブロッキング実施の実例がなかったが、2018年2月にミュンヘン地裁が権利者によるブロッキング請求を認容する判断を下した。
ドイツの裁判所はブロッキングを認容する条件として「権利者が海賊版コンテンツの削除へ努力を尽くしているが、奏功する見込みがない」ことを求めており、今回のケースで初めて「努力を尽くしていた」と認められたという。
「カジュアルユーザーのアクセスを困難にする」効果はある
東京大学教授の宍戸常寿委員は憲法の観点からサイトブロッキングの是非を議論した。
前回の会合で議論が紛糾したブロッキングの効果について「冷静に議論を進めるには、まずブロッキングの目的や利益を明確化すべき」とした。例えば目的を「海賊版への全アクセスを遮断すること」でなく「カジュアルユーザーによるアクセスを困難にすること」とすれば、ブロッキングの「効果」は見込めるとした。
この「効果」と通信の秘密の侵害との比較衡量を前提に、ブロッキングの対象となる海賊版サイトは真に必要な範囲に限定し、その基準も明確にすべきと主張した。基準の一例として「もっぱら著作権侵害コンテンツだけを配信していること」や「海外にサーバーがあることに加え、削除措置が困難であることが客観的に明らかである」などの案を示した。
個々の海賊版サイトについて行政が基準に基づきブロッキングの可否を判断するのは、憲法が定める「検閲の禁止」の観点から難しく、裁判所が可否を判断する司法ブロッキングが望ましいとした。
その後の自由討議で、カドカワ社長の川上量生委員は「『ブロッキングの要件は厳しくすべき』との宍戸委員の意見に賛成だ」と賛意を示した。「私は中村(伊知哉)座長から『唯一のブロッキング推進派』とのレッテルを貼られているが、私はブロッキングについて慎重派。ブロッキングは最後の手段だと思っている」とコメントした。
外部DNSのブロックは是か非か
続いて議論は、DNSブロッキングの回避策の一つである「Public DNSへの接続」を無効化してブロッキングの効果を高める技術的手法「OP53B(Outbound Port 53 Blocking)」の是非に移った。
OP53Bは、DNSが利用する53番ポートへの接続をISPが遮断するなどして、外部DNSを使えないようにする手法である。今回の会合で日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)副会長の立石聡明委員が示した資料にもOP53Bについて言及があった。
カドカワの川上委員は、立石委員が示した資料について「優れた資料。前回の『無責任だ』という発言を撤回したい」と言及したうえで「53番ポートを閉じる対策(OP53B)は技術的には簡単な一方、その回避策(DNS over HTTPSなど)はユーザー全員が取れるものではない」とし、OP53Bがブロッキング回避の対策として有効だと主張した。
これに対して立石委員は「OP53Bはそれ自体が通信の秘密の侵害に当たる」として慎重に検討すべきと主張。同じく日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の前村昌紀委員も「OP53Bは、私が以前に資料で懸念を表明した『ブロッキング連鎖』そのものだ。ブロッキングの連鎖が深まることだけは止めたい」と反論した。
「勉強会」で情報収集を継続
今後、同タスクフォースは正式な会合とは別に、各国の法制度や国内法の枠組み、ブロッキングの利益と副作用などについて情報を収集する「勉強会」を開催するとした。
成果は委員で共有し、第5回以降の議論に役立てるという。宍戸委員は勉強会を公開の場で実施することを求めたが、事務局は勉強会の枠組みについて「検討中」として明言を避けた。