モモンガ様は胃が痛い   作:くわー
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†モモンガ†

 ナザリック地下大墳墓第九階層ロイヤルスイート、モモンガの自室。

 

 

(王国と帝国はともかく、法国に手を出すのはしばらく様子を見てからの方がいいな)

 

 ルプスレギナとエントマをはべらせ、モモンガは肘をついて椅子へと腰掛けていた。

 思案するのはこれからのナザリックのアクションについて。"異世界"に転移するという非常事態に遭遇し、すでに一ヶ月が経つ。もちろんその間何もしていなかったわけではなく、鬼のように多忙だった状態から昨日ようやく解放されたところだ。

 アンデッドであるモモンガは各種疲労を感じることはないが、それでも鈴木悟の残滓がある以上ストレスは溜まる。部下たちの眼差しと上がってくる有益な情報に一喜一憂しながら、ようやっとの思いで当初の目的であるナザリックの新たな防御体制を完成させた。

 

 部下たちはすでに行動に移っている。特に手応えを感じているのは、リ・エスティーゼ王国へ送り込んだセバスとソリュシャンの二人。ソリュシャンが貴族の娘、セバスはその執事に扮し、王国中枢の情報を探らせている。

 王国は台頭する三国の中でもっとも弱く脆い。世襲制や封建制度がいまだ蔓延っており、にもかかわらず国王の発言力が非常に小さいのだ。王派閥と貴族派閥が国の実権をめぐって争っている。ここまで諜報に適した国があるだろうか。

 王派閥はともかく貴族派閥はそれぞれが別個で力を主張しているので、二人を潜り込ませるのは非常に容易だった。

 

 ちなみに、活動の元手は適当な盗賊や野党を皆殺しにして奪わせた。死体はナザリックで有効活用できるし、王国としては知らない間に賊が消えていて幸運だろう。

 王国には戸籍など存在しないのでバレる心配も無い。

 

(王国で注意すべきは、戦士長ガゼフ・ストロノーフと蒼の薔薇……とくにイビルアイ。あとは王女ラナー。この三人をどうするかだな)

 

 モモンガはテーブルに置かれた資料に目を通しながら、目下最大の壁である人物たちについて思案する。

 そんなモモンガを熱が篭った視線で凝視する、二つの気配を無視しながら。

 

(武力で支配するのは簡単だ。ただそれだと評議会や法国の漆黒聖典に目をつけられる。それに……もし他にプレイヤーがいれば厄介だな)

 

 現状、ナザリックを脅かす可能性があるのはこの三つだ。評議会は生存する竜王。法国が保有する、詳細不明の六色聖典。そして、いまだ情報が全くない他に生存しているプレイヤー。

 

(もしプレイヤーがいるなら、すべてにおいて後手に回ってしまう現状、こちらの名前を出すのは得策じゃない)

 

 アインズ・ウール・ゴウンのギルド名は秘匿する。それが、モモンガの決めた方針だ。

 確かに他のプレイヤーとの接触を図るなら、ユグドラシルで知らない者はいないであろうギルド名は広く流布すべきかもしれない。しかしそれが"悪名"である以上避けるべきだ。

 

 黄金期では専用wikiが十分おきに更新され、ギルドメンバー一人ひとりに攻略ページが存在した、ユグドラシルにおける最悪最凶のDQNギルド。こんなのが来てたら、他のプレイヤーがどういう行動をとるかなど想像に難くない。

 「複数人で来ています」という印象を与えてしまっては、話し合いの機会を設ける時間も無いまま、脅威と感じたプレイヤーたちがナザリックに攻め入ってくる危険性が高いのだ。さらには過去にプレイヤーとの関わりがありそうな法国とも敵対してしまう懸念がある。

 そもそもモモンガは、ギルドメンバーがこの世界に訪れている可能性は無いと踏んでいた。37人は完全引退――モモンガに装備を譲り渡してキャラクターデータをデリートしている。器が存在しない以上、この状況に陥っているとは考えられない。

 残りの3人は、円卓でログアウトした。モモンガが自分の目で見届け、その後ログインしていないのは間違いない。同期ズレを起こしている可能性も考え、円卓の扉前には交代で一般メイドを配置しているが、変わった様子は無い。モモンガよりも先に来ているならば、特に急ぐ必要もない。

 

 かつての参謀、ぷにっと萌えは口を酸っぱくしてモモンガに情報の重要さを説いていた。そしてモモンガはそんなぷにっと萌えの唯一の弟子でもある。兎にも角にも今は情報を収集し、精査し、じっくりと力を付けていくべきだ。

 

(そうなると、アルベドかデミウルゴスを送るべきだろうけど……)

 

 それは出来ない。確かにこの二人のどちらかを三国のどこかへ潜り込ませれば、瞬く間に必要な情報を吸い上げ内側から瓦解させるだろう。

 しかしそれは出来ない。アルベドは内政、デミウルゴスは外政。二人がナザリックにいてこそ真価が発揮される。

 

(……いや、そういえば一人代わりがいたな)

 

 モモンガの精神沈静化が発動する。NPCが設定どおりの個性を取得しているのなら、モモンガの脳裏に浮かんだアレは間違いなくモモンガの胃が精神沈静化でぐしゃぐしゃになるだろう。

 

(……また今度にしよう)

 

 設定どおりなら、アレは二人の参謀の頭脳を足したような存在だ。わざわざ使い急ぐこともない。せっかく二人主導でナザリックを整備したんだから。

 そう自分に言い聞かせ、モモンガは頭を振り、喋って踊る影の記憶に蓋をした。

 

 いずれにせよそろそろ行動に出るべきだ。第一に優先すべきがナザリックの保守とはいえ、じっとしていてもジリ貧になるだけ。年内にはセバスとソリュシャンを一時撤収させる予定で、次の手は考えておかなければならない。

 

(やっぱり冒険者として打って出るべきだろう)

 

 王国を標的にした理由の一つが、冒険者として大成できる可能性が高いからだ。帝国では冒険者の地位が低く、法国にはそもそも冒険者が存在しない。政治の道具として使われることがなく、独立した立場で活動できる。名声を上げれば容易に昇格できるという点も魅力的だ。

 この世界の戦闘力は著しく低い。第三位階の魔法を使えれば魔法詠唱者として大成しているなんて、モモンガとしては笑い話にもならない。ということは、第四位階魔法なんて使いでもすれば、王国だけでなくほかの国にも目を付けられる。

 魔法詠唱者を重用しておらず、戦士系の冒険者が評価されやすい王国は絶好の踏み台と言えた。

 それに階級が上がれば、国を離れて未知の場所へと探検や冒険に出られる。それも大切な情報収集・売名だし、こなせばこなすほど人間社会で動きやすくなる。

 

 まぁ――モモンガの私情が絡んでいることは否定できないが。

 

(ナザリックにはアルベドとデミウルゴスがいればいいし、ぶっちゃけ俺が留守番している必要が無いんだよなぁ……やっぱり自分の目で見て回らないと)

 

 モモンガは内心、子供のような笑みを浮かべる。いくら人間の頃の感情が抑制されているとはいえ、根にある男の子としての冒険心が消えることはない。自分の足で地図を彩り、誰も知らないダンジョンを踏破する。伊達にユグドラシルで12年間を過ごしてはいない。冒険欲は、鈴木悟の本能でもあった。

 それに、なにもモモンガの私情だけではない。人間社会に一番精通しているのはほかでもないモモンガだ。信頼関係を築き上げるということに関しては、誰よりも経験と自負があった。

 

 とは言うものの、やはり支配者が直接出向くというのは、配下としては頷き難いものだった。

 何故モモンガ様が、私達を使い倒してください、モモンガ様のためなら――守護者やプレアデスの反対には鬼気迫るものがあった。本当は一人で行くつもりだったが、流石にシャルティアとマーレに泣かれては押し通すことなど出来ない。モモンガが折れるかたちで、一人供をつけることとなった。

 

 あとは、タイミング。どうせなら英雄的な登場で、人々の印象に残る方が良い。しかしそう旨いタイミングで事件が起こるはずもなく、起きたとしても他の冒険者たちが既に動いている。組合を通さずに勝手に解決すると後々まで尾を引くかもしれない。

 

 

 特にすることもなくこれからの動きに思考をめぐらせていると、モモンガのもとに<伝言/メッセージ>が入ってきた。

 

《モモンガ様》

 

 声の主はアウラだ。彼女にはトブの大森林の探索を命じており、ナザリックから最寄の人里であるカルネ村を監視してもらっている。リ・エスティーゼ王国領内の村でありながら兵士たちの警邏ルートに入っておらず、年に一度戦場になるカッツェ平原に近いというのに、他国からの略奪への警戒心が低い村だ。

 アウラ曰く、トブの大森林の南方を住処とする魔獣を恐れて必要以上に近寄らないからとのこと。

 

「なんだ、アウラ」

 

 わざわざ秘密にしておく必要もないので、声に出して返事をする。モモンガに誰かから伝言が入ったということを悟ったルプスレギナはモモンガのすぐ傍に控え、エントマはモモンガの命令を受けいつでも行動できるように扉の前へと移動していた。

 

《カルネ村の南西から60名ほどの騎馬兵が接近してきてます。鎧は……バハルス帝国のものですけど、シモベたちがどうも怪しいって》

「怪しい?」

《はい。防具に魔法がかかっているみたいで、感知できる魔法装備を斥候に持たせるのはどうも……》

「ふむ」

 

 確かに怪しい。そもそも国境付近、しかもカッツェ平原の緩衝地にあるカルネ村周辺へ、所属のわかる鎧を着せた兵を送り込むなんて愚策にもほどがある。

 モモンガは顎へ手をやり、考える。このまま放置していれば、敵国であるバハルス帝国兵にカルネ村が襲われ、略奪か攫われるのは明白。

 人口が減るのは悲しいことだが、モモンガとしてはどうでもいいことだ。アウラも別に村一つが滅ぼうがどうとも思わないだろう。『トブの大森林付近の動向を詳細に報告しろ』というモモンガの命令に従ったに過ぎない。

 

 モモンガの脳裏には、バハルス帝国現皇帝の情報がまとめられた資料が浮かんでいる。もしもあの評判どおりならば、なんの裏も無しにこのような馬鹿な真似はしないだろう。別に国は三つだけじゃない、わざわざ周辺諸国の評判が下がりかねない真似をするだろうか。

 

「スレイン法国の欺瞞工作か」

 

 確証は無く、例えそうだとしても目的は不明だが、あの"人間のため"を掲げている法国がこの行動にでるくらいだ。注意しておいて損はないだろう。

 

《どうします、無視ですか?》

「いや、手は打つ」

 

 もしかすれば法国の情報を得るチャンスだ。逃さない手は無い。

 

「部隊はそれだけか、アウラ」

《ちょっと待ってください! ええっと……あっ、15キロほど西から57名の騎馬隊がけっこうなスピードで向かってきてます!》

「帝国か?」

《いえ、リ・エスティーゼ王国のものです》

 

 モモンガはテーブルの端に浮かべていた遠隔視の鏡を手元へ引き寄せ、作動させる。低位対情報系魔法すら普及していないこの世界では、この遠隔視の鏡は絶大な効果を誇る超強力なマジックアイテムだ。

 まずは仮称帝国軍。特に気になる点は無いが、確かに帝国軍であることを隠そうという気配が見当たらない。最有力としてはスレイン法国、もしくは帝国と敵対しているどこかの国の仕業と見て間違いなさそうだ。

 

 次は王国軍。兵たちを率いる黒髪黒目の男には、見覚えがあった。

 

「ガゼフ・ストロノーフ」

 

 モモンガの頭の中で点と点が線でつながった。

 テーブルに立てかけていたレプリカ・スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手に取ると、モモンガはゆっくりと立ち上がる。

 ルプスレギナとエントマはモモンガへ深く一礼し、ルプスレギナが自分たちへの指示を仰いだ。

 

「私達はいかがいたしましょう」

「エントマはエイトエッジアサシンとともに、透明化を使いカルネ村を包囲して後詰と捕獲の準備だ。アウラと合流し、厳戒態勢をとれ」

「畏まりました」

「一応ナザリックの警戒レベルも引き上げておけ。シャルティアに第一階層で待機するように伝えるのだ」

「はっ」

 

 エントマは一礼し、部屋をあとにする。閉じられた扉の向こう側から「うふふぅ……モモンガ様に話しかけられちゃったぁ」などと聞こえた気もするが、モモンガとしては何も聞いてないことにした。

 

「ルプスレギナは私と共に来い。ドレスルームで装備を見繕い、カルネ村へと向かうぞ」

「わかりましたアインズ様!」

 

 先ほどまでの淑女然とした雰囲気は何処へやら、ルプスレギナは両手を胸の前でグッと握り締め目を輝かせている。モモンガとしても自分と一緒に来ることを命じただけでここまで喜ばれては、嫌な気はしない。ある程度もう慣れていた。

 

《モモンガ様、王国軍の後ろに法国の魔法詠唱者の部隊がつけているみたいです》

「確定だな」

 

 アウラより齎された情報に、モモンガはほくそ笑む。

 

(終わったら何かご褒美上げなくちゃな)

 

 今日より始まる二人の冒険者の英雄譚を、心の中で書き上げながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中を少女は走る。けたたましく響く悲鳴、一方的過ぎる蹂躙に心のたがが外れた笑い声。そんな雑音を背中に受けながら、エンリ・エモットは妹、ネムの手を引いて必死に走る。

 母がまるでゴミのように殺される瞬間を見た。父は自身の命を顧みず、娘を救うため侵略者に挑みかかった。

 

 一体自分たちがなにをしたというのか――ありふれた疑問を胸に抱きながら、二人の少女は迫り来る死の気配から逃げ続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 すぐ後ろから聞こえてくるのは、普段聞くことなど無い金属が擦れる音。振り向かなくともその正体はわかる。平穏な日常に突然現れた虐殺者たち。辱めることなどせず、ただ罪の無い村人をその手に持った剣で死体へと変えていく。

 滅多に走ることがないからか、エンリの心臓は鼓動の早さに負けはち切れそうだった。疲労で崩れ落ちそうになる両足を奮い立たせ、ただただ前へと走り続ける。

 

 右手には愛しい温もり。ネムの存在だけが、エンリに力を与えてくれた。

 

 絶対に見捨ててたまるか。妹と別れれば助かるなどという考えを一蹴する。ネムは自分を信じている。きっと、二人で逃げ切れると、姉を信じている。

 舌を噛み切ってしまえば一瞬の苦痛で終わることができる……そんな馬鹿げた真似などできない。後ろを振り向く暇があるなら少しでも前へと進め。そう自分の魂を鼓舞させながら、生き残るために命をすり減らす。

 

「死んでたまるか!」

 

 醜いまでの生への執着。疲労による失禁でズボンを濡らしながらも、閉じることを忘れた口から唾液が伝っていても、エンリは足を止めない。手を離さない。

 父は自分たちのために命を懸けたのだ。姉が、妹のために命を懸けないでどうしろというのだろうか。

 

「きゃあっ」

 

 しかし、そんな覚悟もエンリだけのものだ。エンリは身体の限界を超えて走り続けていたが、ネムは既に体力は底をついている。エンリに手を引っ張られ、それにつられるようにして足が動いていただけだ。

 小さく幼い足はもつれ、悲鳴を上げながら、ネムは地面へと転がった。

 

「ネム!」

 

 固く握っていたはずの手からすり抜けたネムの感触に、エンリは急ブレーキをかけて後ろへと弾ける様に跳躍した。無理な動きに耐え切れず、筋肉が切れた音がエンリの耳へと伝わる。燃え盛る炎へとかざしたような痛みが、電流とともに身体の中心線を突き抜けた。

 苦痛に耐え、エンリは倒れているネムを庇うように抱きかかえる。

 

 これは――もう間に合わないと悟った少女の、本能だ。

 

「手間かけさせやがって……」

 

 すぐ傍で金属音は止まっていた。顔を上げると、フルプレートの鎧に身を纏った騎士が、少し息を荒げた様子で二人を見下ろしていた。

 片手には血塗られた剣が握られている。鎧や兜にも血しぶきが跳ねている。皮肉なほど美しい鮮やかな赤色が、先ほどまでの惨劇を物語っていた。

 

 濃厚な死の香り。兜のせいで騎士の顔は窺い知れないが、おそらく昂ぶった感情が仮面のように張り付いているだろう。エンリはその表情を想像し、薄ら寒い感覚が背中を伝う。

 一度止まったエンリの足は、もう動かない。ネムの体重分も引っ張ってきた身体は、酷い倦怠感とともに、断裂した筋肉が激痛を訴えてきているだけ。

 

「諦めな」

 

 嘲笑の篭った言葉に、エンリは酷く納得してしまった。ただの村娘と、程度はあれど訓練し体を鍛えている騎士。結果は、初めからわかっていたことなのに。

 

 それでも。

 

「ネム……」

 

 それでも、妹だけは助けたい。

 自身の生存本能を棄て、エンリは妹の命を選ぶ。

 

 逃げることをやめたエンリに対し、騎士はゆっくりと剣を上段へと掲げる。ためらいは無い。そのまま、エンリの首元へと振り下ろした。

 

「――っあああ!」

「ぐぎゃ」

 

 破竹の勢いで立ち上がり、エンリは剣よりも速く騎士の顔面へと拳を叩き込んだ。

 骨が砕ける音と、兜が衝撃で反響する音が響く。エンリの拳は、原型を留めないほどにグシャグシャに潰れていた。躊躇いも遠慮もない一撃を避けることができなかった騎士はたたらを踏み、そのまま背中から地面へと倒れこんだ。

 

「このクソアマぁ!」

「ネム、逃げて!」

 

 悲鳴のような金切り声でエンリは叫ぶ。万感の思いで、胸元のネムを騎士たちの逆方向へと突き出した。ネムは姉の元へと戻ろうとするが、その瞳を見て、その幼い魂に灯がともる。あふれ出そうになった涙を押し留め、森へと這うようにして最愛の姉に背を向けた。

 すでに体力が尽きているその体では、走ることすらできない。それでも、姉がその命を呈して作ったチャンスなのだ。

 

「なめるなああっ!」

 

 先ほどまで見ているだけだったもう一人の騎士が逃げるネムを見て動き出すが、腹の底から絞り出した叫び声とともに、エンリは騎士の腰へとタックルを仕掛ける。走る体勢に入っていた騎士は堪えることができず、エンリとともに地面に突っ伏すかたちになった。

 

 次の手は、無い。元から何も考えてはいない。

 

「死ね、ゴミが!」

 

 拳を叩き込まれた騎士がいち早く立ち上がり、全身の激痛で倒れたまま動くことができないエンリに向かって剣を振り上げる。先ほどとは違い、侮りも油断も無い、ただただ殺意に満ちた凶刃は、血に土が付着して汚れていた。

 

 エンリは死を覚悟する。しかし心残りは無い。

 ネムは逃げてくれた。だが、森へ逃げ込もうにも見張りやモンスターに捕まる可能性はある。所詮は自己満足だ。

 

 それでも――この最期に納得できる。

 

 

 迫り来る死に、痛みに、エンリ・エモットは瞼を閉じ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合ったようだな。さて、小さな世界を救うとするか」

 

 

 漆黒の背中が、エンリを全ての害悪から守るように、そびえ立っていた。

 

 

「あ、なたは」

 

 

 エンリは、当然の疑問を口にする。先ほどまで吹き荒れていた死の気配はこの背中に阻まれ、まるで母の胸の中にいるような暖かさが、エンリの心に注がれる。

 

 

「私か? 私は――」

 

 

 彼は諭すように、包み込むように、言った。

 

 

 

 

 

「モモン・ザ・ダークウォリアーだ」

 

 

 

 漆黒の大英雄は、少女の前に降り立った。

 

 

 

 

 




 お待たせしました。忙しいのと一話丸々没になったので遅くなってしまいました。しばらくは月2~3更新になると思います。

 いよいよカルネ村編、モモンガ様頑張る。







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