俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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しかし、自らの『過ち』を受け入れざる負えなかった。
自分の『思い』が重なるために。
「俺は君を愛せない」
俺は確信した。
俺は、目の前の少女、いや『女』を決して愛せないと。
「ええ、知っているわ」
『女』は、俺の言葉がわかっていたとばかりに笑い飛ばす。
「『死の神』すら『私』を『友』の『唯一』の子孫と言いながら、
決して受け入れてくれなかった。『側』においてはくれなかった。
だって、私は『勇者』なんかじゃない。『人間』ですもの」
この『女』が『人間』というのは、比喩だ。
恐らくこの『人間』は、
『力』だけを誇示した『八欲王』を指している。
「でも、あなたは違うでしょう?
私に『世界』を魅せつけた。色んなことを経験させてくれた。
それでもなお、私の最初の『思い』はより強くなった。だから私はもう取り繕わない。
…あなたは、私を愛していなくても『側』に置いてくれるでしょう?」
目の前の『女』は、『俺』のことを『完全』に理解し、そう断言した。
…合っている。
『俺』は『番外席次』を愛してなくとも、『側』に置くだろう。
たとえ『嫌い』な『人間』でも。
「子供のころ読んだ『御伽噺』からずっと想っていた。
その『存在』が目の前に現れた。
だけど、私はあなたの『真実』を知っても『絶望』しない。
だって、あなたは『優し過ぎる』のですもの。
…それなら嫌われようが構わないわ。私はあなたを『愛』している。
ずっと『側』に入れるなら、嫌われようが知ったことではないわ」
そう言い切って、『彼女』は去って行った。
言いたいことだけ言って去った。
俺は『彼女』に、二度『完敗』した。
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先日のカルネ村の実験が終了して数日後。
散々やらかした俺だったが、色々『成果』があった。
それと同時に、本当に、非常に『不味い』大発見があった。
それは、リイジー・バレアレの『発見』であり、『成果』だった。
俺は『破滅の竜王』戦で、リイジーには『賢者の呪帯』を与えていた。
リイジーは『賢者の呪帯』を使い、
失われた『禁忌の薬神』という伝説の存在。
その『名』と似ている『魔法』を発見したらしい。
その『魔法』と『例の薬草』で『青』のポーションを作ったという。
その『魔法』は、ナザリックでは詳細不明の『魔法』のため解析中だった。
この報告で過去の偉人が開発しながらも歴史から失われた『魔法』すら、
『賢者の呪帯』は取得可能ということが確定した。
カジータ達からその推測は元々報告されていた。
『商人』セバスや『英雄』モモンから始まり、最大の『個人』フールーダ。
『魔王国』が正式に誕生してから、この世界の『国家』規模で『魔法』を調べていた。
どんなに『現地』で調べても出てこない、見つからない、推測できない『魔法』が、
『賢者の呪帯』の取得可能な『魔法』の中に存在するというのはほぼ確定していた。
リイジー曰く、『禁忌の薬神』に似た名前の『魔法』があったらしい。
低レベル帯のリイジーだったが、
『破滅の竜王』との闘いで膨大な『経験値』を手に入れていた。
そう、『賢者の呪帯』がレベルアップするくらいに。
高レベルのナザリックでは『賢者の呪帯』の『経験値』を稼ぐのは困難極まる。
ところが、低レベルならあっという間に『経験値』が溜まった。
…発想がなかったわけではない。
ただ、『破滅の竜王』という『手段』を見過ごしていた。
今後は、ナザリックに所属するエルダーリッチ達も『破滅の竜王』と戦わせるべきだろう。
それはともかく、
リイジーは『賢者の呪帯』に初期設定の3つとそれに15個、
計18個魔法取得枠ができたという。
俺は魔法取得については、リイジーに好きにしたら良いと放置していた。
専門外の俺が何かを言うよりも、違う『世界』のナザリックが指摘するよりも、
この『世界』のリイジーに任せる方が、『研究』も捗るだろうと思ったからだ。
そのため、リイジーはその『禁忌の薬神』の『名』のあった『魔法』を取得した。
その『魔法』と『破滅の竜王』の『薬草』を用いて作ったという
『青』のポーションをナザリックに提出した。
その『ポーション』は、もはや『ポーション』の枠を超えていた。
それは、『蘇生』のポーションだった。
しかも、ンフィーレアの開発したポーションと同じ効果。
第六位階魔法相当の回復効果付きの。
俺は全力で秘匿するように厳命した。
まず、真っ先に『回復』を司る『神殿』勢力が敵にまわると確信したから。
第六位階魔法相当の治癒のポーションでもギリギリなのに『蘇生』までできたら、
もう『薬師』の範囲を逸脱し過ぎている。
圧倒的な『個人』の力ですらない『汎用性』のあるポーションだから。
『自国』ですらまだ広められない。
現在の許容『範囲』を完全に逸脱した『ポーション』だった。
俺が、『道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)』でそのポーションを調べたところ、
『蘇生』の効果は、第五位階魔法『蘇生(リザレクション)』以下の効果のポーションだった。
流石に『蘇生(リザレクション)』までは再現できなかったらしい。
それでも十分『脅威』だが。
いずれ『神の血』のポーションにしてやると、
凄まじい『覇気』を飛ばすリイジー。
明らかに、寝不足でテンションが振り切れていた。
もうこれだけでお腹いっぱいなのだが、もっと凄いことに気が付いた。
といってもこれは可能性でしかないが。極低い可能性。
現地の『青い』ポーションが『ナザリック』でも作れる可能性だ。
もちろん、非効率的過ぎて割に合わない。
この『世界』の住民に任せた方が遥かに有意義だろう。
さらに言えば、ユグドラシルの者達、
つまり『ナザリック』では新しい『魔法』は『開発』できない。
だが、『賢者の呪帯』持ちを複数用意すれば、
現地の技術をナザリックで再現することが、
一種のポーションに限定すれば可能かもしれない。
現地の『魔法』で開発されたというポーションを見て、
知った三種類あるポーションの内一つ。
『薬草』を用いないこの『世界』の青のポーション。
『錬金術溶液』とこの『世界』の『魔法』を用いたポーションならば、
『ナザリック』でも製作可能かもしれないと思った。
リイジーはこのポーションを作るのに際して、
『破滅の竜王』の『薬草』を除けば、
『魔法』と既存の『錬金術溶液』しか使っていないと言った。
もちろん、ユグドラシルとこの『世界』ではポーションを含む生産職の『技術体系』はまるで違う。
なので、失敗する可能性の方が高いと思われる。
それでも確実に研究の必要はある。
当初の計画よりも、早期にナザリックの『財』を一切使わない。
『世界』を『現地』で出来る限り守る『計画』。
その『計画』が大幅に更新されるかもしれない『大発見』だった。
この発見をしたリイジーの『褒美』を俺はとても悩んだ。
今後のナザリックの研究結果次第では、
リイジーを若返らせることすら検討するくらいだからだ。
リイジーは『ナザリック』の、この『世界』の『重要人物』になった。
今までもそうだったが、それより遥かに。
もちろん今後、同じことができるようになるンフィーレアも含む。
だが、ンフィーレアが『発見』したわけでも『開発』したわけでもないので、
ンフィーレアには『褒美』を渡せない。
ンフィーレアには、
第六位階魔法相当の『青』ポーションの作成という『名誉』を与えるのが精々だ。
...なので、リイジーには『時飛ばしの腕輪』を与えた。
『功績』に見合わなくて申し訳ないが、先ずは『手付』みたいなものだ。
『腕輪』は本当にかなりあるから問題ない。
寝不足のリイジーには、体力回復のために無難な『褒美』だった。
俺は、ふとリイジーに『禁忌の薬神』に聞いてみた。
この『世界』に、こんな凄い『技術者』がいたなら、
『ユグドラシル』に対抗できてもおかしくないと思ったからだ。
リイジー曰く、『ローブル聖王国』ではそこそこ有名な話だそうだ。
とはいえ、人気がなくて最近では誰も語りたがらない昔話。
『薬師』の間では少し有名な昔話。
陽光聖典からは得られなかった『他国』の昔話だった。
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およそ200年前、万物を極めたという『薬師』がいた。
その『薬師』は『無償』で人々の傷を癒した。
その者は、『死者』すら、生き返らせる『薬』を作ったという。
ところがそれが『神』の怒りを買った。
『薬師』の癒す『薬』は『毒』となり、多くの人々を苦しめた。
『薬師』は人を救うと宣うだけの、汚染された言葉を吐くだけの『禁忌の薬神』となった。
しかも、『薬師』は『それ』を望んでいた。
もはや、かつての面影などどこにも存在しない。
見る者全て汚染する。その変わり果てた姿を見たという
当時の『ローブル聖王国』の『王』は、
『神』の火で『禁忌の薬神』を焼き払ったという。
国中の誰もが喜び、『王』は『聖王』として『神』に認められた。
『聖王国』は『神』に祝福された『国』となった。
めでたし、めでたし。
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この話を聞いた俺は、怪しんだ。
絶対に『違う』と確信した。何故かはわからない。
これが、『恨み』で『世界』を呪った『薬師』の、
本当の話である可能性もなくはないはずなのに。
真っ先に、当時の事情を知ってそうなフールーダに話を呼び出し、話を聞いてみた。
フールーダ曰く、「世情で殺された偉大な『先人』」だそうだ。
…268歳のフールーダが言う先人となると大分年寄りだったに違いない。
我に返り、フールーダに続きを促す。
フールーダは『薬師』の噂を聞きつけ、
帝国から聖王国への『使者』として向かったという。
ところがもう既に『薬師』は処刑されていたという。
明らかに、『神殿』勢力が、『政治』が『薬師』を殺したと『確信』したフールーダは、
それ以降『魔法』に関することだけにのめり込んだそうだ。
『薬師』の偉大なる『英知』に触れられずに死んだことを後悔したという。
…正直、フールーダの今までの行いから、それが無くても変わらないような気がした。
現に、『魔法』を研究させているが、
この『魔法』について未知の『魔法』としか報告していない。
良く考えれば、類推できる『名前』の『魔法』なのに、だ。
俺は、フールーダに別にやることを任せていた。
俺はフールーダに現地の『情報』系魔法を研究させていた。
ナザリックの様々な『隠蔽工作』に万に一つがあってはいけないから。
だから、後回し、若しくは気づかなかった可能性が非常に高い。
恐らくそうだろう。というか、俺の采配ミスだ。
それを含めても、フールーダは『薬師』の件を『過去』として明らかに割り切っている。
これ以上、俺の求めている『話』は聞けそうになかった。
今後、そういう『話』があれば報告するように命じた。
…何個かあるらしい。
任せていた『研究』外のことばかりで、『魔法』に関係ないこともあった。
もっと前に言えよと思った。
…どう考えても、最初の、俺の聞き方が悪かったのだが。
気持ち悪くて関わりたくなかったのが仇になった。
今後はフールーダとしっかり向き合おう。
…嫌だなぁ。
どうしてもこの『薬師』の件が頭から離れない俺は、『法国』に問い合わせようとした。
まだ、スルメさんを除き信用できないところがあるが、
それでも『薬師』について知りたかった。
何故かはわからない。
そこに、
「法国に聞きたいことがあるなら、私に聞けば良いじゃない?」
『悪ガキ』が現れた。
最近、急速に『悪知恵』をつけている『番外席次』は正直相手にしたくない。
だが、道理なので聞いてみた。
後にそれをずっと後悔することになったが。
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『禁忌の薬神』は、本当に『善人』だったそうだ。
それもこの『世界』の『逸脱者』。
フールーダに相当する第六位階魔法の使い手であり、『薬師』だったという。
傷ついている人々が入れば助けに行く『善人』。
『亜人』すら、対話が可能なら『治癒』したそうだ。
だから、当時の法国がいくら招致しても靡きもしなかったという。
自らの『信念』と違うから。
そんな『善人』は、『聖王国』が亜人達に襲われているのを聞いた。
『聖王国』を助けに行ったという。
ここまでは良かった。
問題は、波乱に満ちた『聖王国』に定住してしまったこと。
フールーダのように『魔法』で寿命を延ばせたこと。
『聖王国』で国家総動員令が発動された『大戦争』が終着するまで『聖王国』いたことだった。
『大戦争』が終わり、
ついに『神』の奇跡である『蘇生』すら可能なポーションを上層部に提出した『薬師』は疎まれ始めた。
端的に言って『聖王国』の、今後の『平和』の邪魔になった。
国家の土台として『宗教』で纏まろうとしていた当時の『聖王国』にとって。
『薬師』は邪魔でしかなかった。その有益性を考えても。
...浅はかな考えだとしか俺は思わなかったが。
『薬師』は人間だろうが亜人だろうが癒す。
亜人が、『敵』でなくなったから『対話』を求め始めた。
助けたはずの『民衆』からも不快に思う者がいたという。
これは『薬師』の短慮だと俺は思う。
そこで『聖王国』は、『薬師』の『薬』に『毒』を混ぜ込んだ。
正攻法では排除できないから。
自ら助けた『国』からの仕打ちに『薬師』がようやく『真実』に気づいたころには、
『聖王国』中の誰もが信じてくれなかったという。
国中の、誰からも『憎悪』されていた。
『薬師』が、処刑が実行される前に、
法国が貴重な人類の『戦力』を守るために動いたが、完全に遅かった。
『薬師』はこの『世界』の全てを『憎悪』して死んでいった。
『遺体』を回収した法国が行った『蘇生』すらも拒んだという。
それ以来、元々『宗教』の違いで仲が悪かった法国と聖王国は完全に互いを見限った。
しかも、『聖王国』は全ての『事実』をもみ消した。
『薬師』を『悪』と断罪し、『禁忌の薬神』として国中に広めた。
これは、もはや法国の神官長等ごく一部の上層部だけが知る『事実』だという。
…胸糞悪かった。過去の話とはいえ俺は『聖王国』が『嫌い』になった。
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話が終わった。
『番外席次』の話を聞いて何も言わずに、沈黙する俺。
そんな俺の様子を見た『番外席次』は、こんなことを言い出した。
「だから、あなたは『世界』なんて救わないで、私を孕ませて。
その子を孕ませて、それを繰り返す。私達の子を『世界』中に満たしましょう。
…こんな汚れた連中がいる『世界』を、一々救うよりずぅーと早いわ」
目の前の少女は、いや『女』は『本気』で言っていた。
「ふざけるなよ」
俺はそれしか言えなかった。
…怒りすら感じなかった。
「本気よ。
だって、あなたに連れられて『世界』を見たけど…大多数はつまらないわ。
だったら、あなたと私で『世界』を満たした方が早い。
私とあなただけいれば『世界』は救えるわ」
『本気』で言っている。間違いない。
この『女』は『俺』に『執着』している。
もはや『彼女』を治せないと俺は確信した。
ふと、思った。
「俺のせいか?
…俺があの時、『力』を見せつけたせいか?」
『番外席次』ならば、そうあってもおかしくない。
うろ覚えな『原作』ならば有り得るかもしれない。
だから聞いた。どうか違うことを祈って。
「ええ、そうよ。あなたのせいよ」
断言した。
目の前の『女』は許せない。
だが、俺のせいだとはっきり言った。
…せめて俺は、はっきりと『彼女』を『否定』した。