田中芳樹の作品の個人的なおすすめランキング。
古いもの多めです。
10位 西風の戦記
敵味方に分かれた男女の戦いと恋愛に、現代からトリップした少女が巻き込まれるというラノベの王道展開。そして王道のロミジュリ路線。
田中芳樹の恋愛描写はかなりぎこちないので、そこを楽しめるかどうかが分かれ目だと思う。
同じロミジュリ設定ならば、藤川桂介「ウィンダリア」のほうがずっといい。名作すぎるので、比べるのはちょっと悪い気もするが。
ただ恐らく苦手だと思われるこういう設定でさえ普通に面白いし楽しめる、という点はすごいと思う。
9位 蘭陵王
日本人には馴染みが薄い(と思われる)中国の南北朝時代の物語。
この時代のことはまったく知らないので、南北朝時代の背景が学べる本としてもありがたかった。
隋が建国される過程も出てくるし、煬帝も出てくる。ここから「風よ、万里を翔けよ」につながるんだなあと分かりやすい。
親族同士も疑心暗鬼なせいか蘭陵王が悲劇的な人物のせいか、とにかく雰囲気が暗い。どれだけ頑張っても八方塞がりで結末も分かっているので、気が滅入る部分はある。
8位 アルスラーン戦記
正直、完結するとは思っていなかった。
余り好きではないのだが、完結したことを祝してこの順位。
アルスラーン戦記は主人公側の無敵感や「正しさ」ぶりが、鼻について仕方がなかった。ヒルメスを応援していたのに…。
アル戦を読んで気づいたことは、自分はナルサスやヤンのように才能があって隠遁したいと言っているのに、周りが放っとかずに仕方なく表舞台に出てくる、という構図が受け付けないんだなということだ。
メタ目線で見ると、すごいナルシズム……と思う。だからナルサスなのか?(たぶん違う)この辺りは好みの問題なので、好きな人はごめんなさい。
二部は斜め読みでうーむ…だったけれど、一部だけならば大半の人は楽しく読めると思う。
ジャスワント、ヒルメス、メルレインが好きだった。
7位 七都市物語
一話完結ものが一冊に綺麗にまとまっている秀作。
無人になった月からの監視システムが未だに機動しているので、高度500メートル以上の軍事行動ができないという設定や、七都市間の思惑からくる駆け引きが面白い。
田中芳樹特有の変人ぞろいの登場人物たちの皮肉たっぷりの会話が思う存分楽しめる。
久しぶりに読んだら、ニコラス・ブルームの扱いがひどく、ちょっと気の毒だなと思った。
漫画になっている! 知らなかった。
6位 風よ、万里を翔けよ
隋末期の話。どのように隋が滅んだかが非常に分かりやすく、この時代の歴史入門書としても読めるところがいい。
隋の二代目皇帝にして最後の皇帝煬帝や唐の太宗李世民など歴史上の人物も出てくる。
「蘭陵王」と同じように、ひとつの王朝が滅亡が背景にあるけれど、王族が主人公ではないのでこちらは爽やかな読み心地。
主人公の花木欄の出番が意外と少ないのが残念だけれど、歴史の要所に巧く絡めてきている。最後に「河南討捕軍」を名乗るところがジーンとくる。
5位 タイタニア
「銀河英雄伝説」よりも気楽に読めるスペースオペラ。個人的には「銀河英雄伝説」よりも好きなくらいだ。思想を対立軸にするよりも、単純に「平凡で幸せな生活を抑圧する体制への反抗」のほうが共感できるからかもしれない。
「タイタニア」は主要登場人物にそれなりに欠点や平凡さ、ダメなところがあるところが好きだった。
ファン・ヒューリックは軍事的には天才だけれど他はごく平凡な若者だし、ジュスランは内政は得意だけれど軍事的にはさほどでもないし、タイタニアを嫌悪しつつもそこから抜け出せない。
アリアバートは物語の初期でいきなり落とされて、田中作品を何作か読んだ人からは「こいつはもう浮かび上がれないな」と思われたと思う。「タイタニア」で一番意外だったのは、アリアバートの出世ぶり(メタ視点での)だ。
イドリスは有能なはずなのに、物語内ではダメなところばかりが目立つ。苦しみながらも責任を果たす父親の背中を見て育つ、とか割と健気だと思うんだけれどな。誰も彼もから馬鹿にされる姿が不憫すぎて、必死に応援していた。
「タイタニア」は女性陣もいい。
ミランダ公女が特に好きだが、悪役もテリーザ夫人やテオドーラなど面白いキャラが揃っていた。
初期のテンションで続いてくれたらよかったのに。
4位 アップフェルラント物語
ボーイ・ミーツ・ガールの冒険活劇の傑作。
国家的な陰謀や大人の思惑と子供の奮闘ぶりとの距離感が奇跡的なバランスで成り立っているうえに、一本筋のストーリーとして最初から最後までワクワクドキドキ楽しませてくれる。
登場人物も善玉は善玉らしく、悪役は悪役らしく、それでいながら全員魅力的。
ほぼ欠点が見当たらず「とにかくよくできている」
「ラピュタ」や「カリオストロ」があれだけ人気があるのだから、今の時代、もう一度脚光を浴びて長編アニメ化してもいいと思うのだが。
実在の国が出てくるから難しいのかな。
3位 マヴァール年代記
これまたよくできている架空歴史もの。
全3卷で話が綺麗にまとまっているところが一番の評価ポイント。
大人になってから読み直すと、主人公カルマーンの苦悩や立場の辛さに同情してしまう。
怪物のようだった父親を殺していい国を創ろうと思っていたのに、どうしても罪悪感がぬぐえない。その事実が政治的にも足を引っ張るところや、ドラゴシュに主君を殺させる、という誤った判断をしてしまうところも、子どものころは「何やっているんだ?」と思っていたけれど気持ちが分かるようになった。カルマーンの地盤の弱さや立場を考えると、苦しいところだったんだろうなと思う。
エフェミアのことも、そういう苦しい立場にいた中での唯一の癒しだったから、本当に大事にしていたんだろう。昔は「日陰の女」としか思えなかったが。
ヴェンツェルやリドワーン、アンジェリナに比べて、主人公なのに影が薄いと思っていたカルマーンだけれど、「マヴァール年代記」はまさにカルマーンの物語だと今は思う。
登場人物では、今も昔もアデルハイドが好きだ。
滅ぼされた国の皇女として人身御供のように侵略国に嫁がなければならないのに「女一人、大国の皇帝と権謀を競えるなんて面白い」と言う姿が恰好よすぎる。
手駒が少なすぎて勝負にならなかったのが残念だ。アデルハイドの活躍をもう少し見たかった。
2位 灼熱の竜騎兵
個人的にはぶっちぎりの一位。
昔から好きだったけれど、久々に読み返したら余りの面白さに目まいがした。
「タイタニア」のところで書いた通り、こういう反体制への抵抗の物語が好きなうえに、地下水脈を使ったゲリラ戦、学生たちがそれをやるところがいい。
しかも体制側は体制側で対立軸やそれぞれの思惑があり、主人公側が知らないところで事態が二転三転して、主人公側はむしろ新しい状況に合わせて方針を考えなければならないところも面白い。
「学生たちの革命ごっこ」に過ぎないと思われて一般市民の理解が得られない様子や、革命を指向する者と一般市民の感覚の乖離、またこの先、革命を進めていくうちに多くの仲間が犠牲になったり内輪もめも起こるのではないか、という負の側面もちゃんと匂わせている。
「銀河英雄伝説」の6卷の巻頭に載っていた「地球滅亡の記録」が、「灼熱の竜騎兵」の行きつく先じゃないかな。同じ四人組だしね。
結局は仲間同士の血で血を洗う権力争いに行きついてしまった「ラグラン市の四人組」も、最初のころはこんな感じだったのかな…と思うと切ない。
シェアワールド化しているようだが、本編の続きを書いて欲しい。
1位 銀河英雄伝説
説明不要のお化けコンテンツ。
新作アニメは不満が多かったが、この先もずっと人気作であり続けて欲しい。
「銀河英雄伝説」については色々と書いているし、これからもたぶん色々と書くので割愛。
(余談)
好きな人には悪いのだが、「創竜伝」はどうも受けつけない。
「夏の魔術」シリーズは好きなんだけれど、入りきらなかった。