ただの風邪。

音楽のことを中心にいろいろと書いています。

ヒプノシスマイクガチ勢に贈る、「ヒップホップの女」の今

hypnosismic.com

2017年のスタート以来徐々に注目を集め、この夏いよいよ本格的に「覇権コンテンツ」となりつつあるヒプノシスマイクですが、みなさんエンジョイしてますか? ヒップホップと女性向けコンテンツの融合という時流を捉えたコンセプトに加え、話題性抜群のプロデューサー・ラッパーといった制作陣、そして多彩なライムやフロウをのりこなす声優陣の芸達者ぶり、どれをとっても聴きどころ・楽しみどころ満載です。個人的には、ラップバトルという設定とヒップホップ要素を、おたくコンテンツと(若干力技で)融合させようという気概に、勇気と歪さを感じて惹きつけられます。

一方で、徹底的な女尊男卑のディストピアを描く世界設定と、それとは裏腹にヒップホップのホモソーシャル性・マッチョイズムをひきずった登場人物の言動に、ジェンダー論の観点から疑問を呈する声が聞かれます。自分の見解としては、まだ登場人物も世界設定も掘り下げが充分ではないことから、一概にそうした批判はしがたいというのが現状じゃないかと想います。なにせ、6枚のドラマ付きEPしか手元にはなく、しかもドラマのほうもいよいよ「中王区」なる物語の核心となる闘いの舞台に足を踏み入れたばかり。そもそもその闘い自体どんなものか、一部の登場人物(各ディビジョンのもととなった4人組、The Dirty Dawgのメンバーたち)以外はあんまりわかっていないようです。

とはいえ、ヒプマイという覇権コンテンツを通じてヒップホップのセクシズムやミソジニー女性嫌悪)が過剰に強調されて受容されるとしたらやっぱり残念ではあります。未だその傾向が根強く残っているのは否定できませんが、私見ながら、女性ラッパーの活躍は目に見えて増えています。ラップを単純に「男のもの」と考えるのは、ジェンダー論的に問題があるだけでなく、今の現実を反映してないと思います。ヒップホップについては半可通ながら、ジェンダー論の空中戦ではなく「実際のいまのヒップホップってどうなのよ?」という点をフォローしてる人がいないなと思ったので、覚書程度に書いときます。

たとえばUSにおいてはここ1年、Cardi Bの躍進が凄まじく、彼女はまさしく女性ラッパーがこれまで持っていたチャート記録をがんがん塗り替えている真っ只中です。

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また、Cardi Bの活躍に呼応するように、この10年で随一と言っていい人気フィメールラッパーのNicki Minajは、8月に発表する4年ぶりの新作に向けてリリース攻勢を仕掛けて話題を振りまいています。

あるいは、厳密にはラッパーじゃありませんが、BeyoncéのCoachella 2018でのパフォーマンスは黒人女性シンガー史上エポックとも言うべきスペクタクルとして大きな評価を得ました。

(Coachellaのオフィシャルビデオがなかったんで、最近の代表曲を)

あるいは日本に目を向けても、昨年リリースされたAwichのデビューアルバム『8』は、年間ベストにも匹敵する高い評価を得ていますし、フリースタイルダンジョンでの対呂布カルマ戦で図らずもバズった椿のようにジェンダー・コンシャスなスタイルをとるラッパーも堅実にキャリアを重ねています。

i-d.vice.com

あるいはいまヒップホップシーン内外から最も注目を集める男女デュオ、ゆるふわギャングのNENEもカリスマ的な人気を誇ります。

もっとヒップホップを追ってる人ならば、他にも注目すべきフィメールラッパーをたくさん挙げられると思いますが…… つまり、業界の構造とかシーンの空気感はともかくとして、プレイヤーのレベルで言う限り、いまだ充分ではないといえども、女性の活躍ははっきりと増えているわけです。あとは、個々のラッパーがどうこうではなく、もっと女性ラッパーがいて当たり前という空気感が醸成されてきてなんぼだとは思いますがそれはそれ。

また、個人的に推しているフィメールラッパーとしては、シカゴのNonameがいます。彼女はたとえばCardi BとかNicki Minajみたいなポップで華のあるラッパーとはちょっと違って、抑えたトーンの淡々としたラップのなかで、地元シカゴの暮らしから見える現実を、リリカルで捻りの効いた表現で描き出しています(それだけにたまに出てくる生々しい言葉にぎょっとするんですが)。

Cardi BとかNicki Minajのラップには圧倒される男性や強い共感を覚えて快哉を叫ぶ女性も多いかと思います。タフ、セクシー、しかし男性に媚びるようなスタンスはとらず、パワフルなパフォーマンスを見せる。その一方で、Nonameみたいに地に足ついて、チャーミングで、いつの間にかそのラップに聞き入るようなラッパーもおるぞ、ということです。

もっと詳しい方が丁寧に論じるべき話題かとは思いますが、以上、参考にでもしていただけたら。ヒプマイについてはまた別に楽曲の観点で書きたいことがあるので、まとまったらまた書くと思います。ではまた。