夢眠書店開店のため、出版業界の色々な方にねむちゃんがお話を伺いにいくこの連載。今回のテーマは復刊です。
前回は復刊までのステップや制作の裏側などをお聞きしました。復刊ドットコムではインターネットでリクエストを受け付けて復刊する本を決めているとのこと。でも、要望があっても必ずしも売れるとは限らないようで……?
今回の対談相手
澤田勝弘(左)株式会社復刊ドットコム 編集部 副編集長(昭和のカルチャーが大好きです!)
印口 崇(右)同 編集部 編集担当(幅広い分野・世代の漫画の復刻を手がけています)
――票数がたくさん集まっても売れない作品もあると伺いました。ユーザーの声と売上が一致しないのは不思議ですよね。
夢眠ねむ(以下、夢眠):そんなこと、あるんですね……。
澤田勝弘(以下、澤田):インターネットでの投票なので、いい部分と悪い部分は常に両面ありますね。とはいえ投票したから必ず買わなくてはいけないという義理はないし、これが本来の姿かなと思っています。
夢眠:投票する人は男性が多いと思っていたんですが、男女半々なんですね。驚きました。
印口崇(以下、印口):傾向として女性の方が投票するし、発信もするんです。情報発信力は女性の方が強いですね。
澤田:ただし、お金はなかなか落としてくれない……。
夢眠:そうなんですか!? 私が住んでいるオタクの世界では、女性ほどお金を落としているんですよ。特にちょっと池袋寄りの若い女性は、すごくお金を出すんですけれど……。
印口:傾向として女性の方が投票するし、発信もするんです。情報発信力は女性の方が強いですね。服に払うか本に払うか、それだけの話だと思いますよ。CDに払うのか、DVDに払うのか……、要するにそれが何なのかということですよね。うちが出している本なのか「うたの☆プリンスさまっ♪」なのか(笑)。
夢眠:あはは! まさにそれですね!
夢眠:この『世界の民話館』というのは童話集ですか?
澤田:児童書ですね。
印口:うちは「オズ」シリーズも出していますよ。
夢眠:『オズの魔法使い』ですね。
印口:それだけじゃないんですよ。「オズ」シリーズはもともと14巻あるんです。ご存知でしたか?
※ちなみにシリーズ2作目のタイトルは『オズのふしぎな国』です。
夢眠:知らないです! 「魔法使い」止まりです。
印口:「オズ」シリーズは20世紀初頭の作品なんですが、作者本人が十数年間にわたって書いてるんですよ。
夢眠:一般の方は代表作しか知らないですよね。
印口:日本では1974年から1994年まで、20年かかって早川書房から刊行されました。2011年からは、復刊ドットコムから新訳版を全巻刊行しています。
夢眠:新訳で!
澤田:僕らは「残していかなくてはならない本」というのもあると思っているんですよ。たとえばこの『はせがわくんきらいや』は、1950年代に起きた「森永ヒ素ミルク事件」を題材にした本です。もちろん企業は一生懸命努力しているし補償もしていますが、そういう事実があったことは残しておくべきだと思って復刊しました。そして、そういう本はちゃんと版を重ねるんですよ。
夢眠:これは2003年に復刊ドットコムさんから刊行されたんですね。
澤田:もともとの本が出たのは1970年代あたりじゃないですかね。「当時によくこれを出せたな」というのもありますけれど……。
印口:これは今見ても絵がポップです。
夢眠:版画みたいですよね。
印口:最初に出版されたのは結構古いですね、数十年前です。『はせがわくんきらいや』は、ぜひ読んでみてください。
夢眠:一度出版されて絶版して、また出版されて売れ続けているということは、やっぱり皆が求めているということなんじゃないかなと思います。今って、発言すること自体が怖かったりしますよね。私も終戦記念日などにイベントに呼んでいただくことがあるんですが、何か言うと「アイドルのくせにそういうことしゃべるな」と言われることもあって……。
澤田:夢眠さんにしろ長谷川さんにしろ、会社などの後ろ盾なく自分の名前で商売しているわけじゃないですか。そういう人たちは尊重されるべきだと僕は思います。
夢眠:泣きそう(笑)。
澤田:僕らがそういうことをできるかというと、どうしても躊躇すると思うんですよ。でもご自分の名前で世の中に対して発信する・できるというのは、ひとつの文化として昔から積み重ねられていることです。なので「戦争について発言してはだめだ」という部分には耳を貸さず、ご自身の主張をすればいいと思います。それに対する世間の反応を全部気にしていたら、仕事なんてしていられないじゃないですか。
夢眠:ありがとうございます。今この場をそのまま居酒屋に移したいくらいです(笑)。良し悪しは別として、そういうことは言うべきだ、あっていいということを、本ならこうやって示せるんですよね。表現として一度世の中に出したものをダメにしないというのは、書いてる人にとっても救われることだと思います。
澤田:そうですね。ただケースバイケースの部分はありますよ。たとえば「中学時代の写真は出してくれるな」とか。「ただでさえ昔のことは忘れたいのに、なぜ今更……」という作家さんもいらっしゃいます。
夢眠:黒歴史みたいなものですね!
澤田:絶版になっている理由はさまざまなので、権利を持っている方とお近づきになって、なんとなく探るんです。
夢眠:聞いていると神経がすり減るお仕事のような気がしてきたんですが……。
澤田:もうストレスでたまんないですよ(笑)。声を大にして言いたい!
一同:(笑)
印口:僕はそうでもないですよ。苦労知らずです(笑)。
夢眠:私は本が好きなので「夢眠書店」という書店をやりたいと思っています。それで今こうして色んな方にお話を伺っているわけなんですが、「本が売れづらくなっている」という話を聞くことが多いんですよね。いかがですか?
澤田:そうですね。でも古い小説や漫画なんかを読んでいると、どうやら出版は昔から食えない商売みたいなんですよ(笑)。もちろん出版で儲かればいいんですが、それだけじゃない部分、つまり“志”で皆やっているんですよね。だからもしせっかく書店をやるのなら、夢眠さんならではのお店をやってほしいです。ちょっと尖っていて来た人を驚かせるくらいのお店になったらいいなと思います。
印口:今は作家のコーナーを企画している書店も多いですよね。ジュンク堂書店池袋本店では、今年の4月から半年間『機動戦士ガンダム』の安彦良和さんが「安彦良和書店」をやっていました。先ほど紹介した『もも子探偵長』もそこでおすすめしてくださっていたんですよ(先週公開の開店日記を参照)。
印口:「安彦良和書店」では意外に漫画が少ないのですが、あえて取り上げてPOPまで書いてくださっていて、光栄でした。おもしろかったのは『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』のPOP。安彦先生が「宇宙戦艦ヤマト」に携わったときの思い出を交えて書いていらっしゃって……。
夢眠:業界を知っていたらめちゃくちゃ面白いやつですね。そのPOPを読むだけでニヤッとしますよね!
印口:そのPOPは現在もジュンク堂書店さんのHPで見ることができますよ。
本を復刊するのには「ファンが求めているから」だけでなく「世の中に残しておくべきだから」という理由もあるんですね。本を作る側にも売る側にも “志” がなければやっていけないというお話を聞いて、ねむちゃんは一体今、夢眠書店をどんなお店にしようと思っているのでしょうか? 復刊ドットコムさんとの対談は次回で最後。ねむちゃんの描く「夢眠書店」の姿がまたひとつお披露目となります。お楽しみに!