今回のオファー、「まさか」が正直な感想でした。僕には無理だろうと思ったし、何日か悩みましたね。
ほら僕、滑舌が悪いっていつも言われるから、セリフなんてしゃべれるのかなぁって。だけど、この年齢でやったことのないことにチャレンジしてみたいっていう、甘い考えが湧いちゃったんですかね。
ようやく腹をくくって、いただいた台本に「凡人は経験から」と書きました。
短いセリフだったんですけど、「突っ込めー!」なんて叫ばないといけないので、練習する場所に困りました。気持ちを入れて声を出そうと思っても、それをどこでやればいいんだろうと。
それで、うちのプロレス団体の道場でやってみると、本を手に何をやってるんだ?と若い選手たちが集まってくるんですよ。こりゃいけない。
次に自宅のテラスでやろうとしたけどご近所からクレームがきそうだし、最後はやっぱり風呂場しかなかったですね。夜な夜な、風呂場で叫びました。
リハーサルというものも初めて経験しましたが、要領を得ないもんだから、ずっと本気でセリフを叫んでいました。すると一発でノドがやられました(笑)。みなさん、あんな緊張感の中でいつもやってらっしゃるんですねぇ。
鈴木亮平さんはリハーサルから気持ちが入っておられましたね。彼が思い描く西郷さんをずっと頭に置きながらやってらっしゃるんだろうなと思いましたよ。
そしてやってきた撮影当日。ものすごく緊張しながらスタジオに入った瞬間、僕の入場テーマ曲が大音量で流れましてね。びっくりすると同時になんか拍子抜けして、おかげで緊張の糸がぷつっと切れました。
鎧(よろい)をつけたのも初めての経験で、その重さに驚きました。こんな重いもの着けて昔の人はよく戦ったなぁと思います。まぁ僕みたいな体の大きな人間は、当時はそういなかったかもしれないですけどね。
演出さんから特別な演技の要求はなかったので助かりましたけど、ひとつだけ、「ここでラリアットをぜひ」と言われましてね。本当にいいのかなと思いつつ、やらせてもらいました。
立ち回りなんて初めての経験でしたが、周りの兵のみなさんが僕にうまく合わせてくださって、助けてもらいました。しかし、撃たれて死ぬというのは難しいもんですね。鎧があるからひざをうまくつけることもできないんですよ。
まぁとにかく、いい勉強をさせてもらいました。みなさんがどうご覧になられたのかまったく見当もつかず……ただ素直に知りたいです。