「強いチームをモデルにする」
それは日本代表にとって、正当な強化アプローチの一つだろう。しかし例えば、ロシアW杯で優勝した世界王者フランスを、日本は模範にできるだろうかーー。
7月15日、モスクワ・ルジニキスタジアム。雷鳴が轟く中、次第に旗色は鮮明になっていった。
フランスはクロアチアの攻撃を引き受けながらも、大きくは崩れない。ポール・ポグバ、エヌゴロ・カンテ、ブレーズ・マチュイディのような屈強な選手を中盤の防御線に並べ、前線にはキリアン・エムバペという遊撃的スピードスターを配置。誘い込むように守り、電光石火のカウンターが脅威となっていた。
一方のクロアチアは丹念にボールをつなげながら、左サイドでイバン・ペリシッチが起点を作って、執拗に攻撃を仕掛けている。あと一歩までは何度も迫った。試合を優勢に動かしているように見えた。しかし、フランスの術中にはまっていた。
フランスはラインをコントロールしつつ陣形を組み、それぞれがポジションを堅牢に守った。運動量は限定的で、むしろ相手の足を使わせ、消耗させている。リアリストの戦いだった。クロアチアがエモーショナルでセンチメンタルな戦いだっただけに、その堅実さは際だって見えた。
そして、この戦いにはかすかな既視感があった。ヴァイッド・ハリルホジッチが目指した境地と似ていたのだ。
フランスのトップFW、オリビエ・ジルーは大会無得点に終わるも、全試合に出場している。ディディエ・デシャン監督の信頼は極めて厚かった。ポストワークに長け、ヘディング能力も高く、守備センスも備えた点が評価されていた。
「決定力に欠ける」と非難を浴びたが、実は得点は求められてはいない。彼の仕事は前線でボールを収め、ポイントを作ることで、得点を任されていたのはジルーの両脇のエムバペと、アントワーヌ・グリエーズマンだった。
翻って、ハリルホジッチもトップにはゴールを強く求めていない。岡崎慎司よりも大迫勇也を頼みとしたのは、群を抜くポストプレーと高さがあったからだろう。
一方で、サイドの原口元気、久保裕也、あるいは本田圭佑、宇佐美貴史らサイドアタッカーをゴールゲッターに見立てていた。さらに言えば、エムバペのようなスピードスターを血眼で探し、永井謙佑、浅野拓磨の雄飛に賭けていたのだ。
また、ハリルホジッチは中盤でボールを奪い返せる井手口陽介、今野泰幸、山口蛍の3人のMFを好んで選出している。3人ともポグバのように圧倒的なフィジカルはなかったものの、インターセプトを得意とし、1対1の守備力の高さがセールスポイントだ。
指揮官は、中盤でプレーメイクする発想は持っていなかった。相手の攻撃を破壊し、カウンターを発動するゾーンと位置付け、局面的な守備力の高い選手を好んだ。
それは一つの戦法ではあるが(実際にロシアW杯では鮮やかなカウンターを決めた)、代表選手の支持は得られなかった。「すべて蹴れ」という指揮官の指示は頑迷すぎた。日本人選手の適性を無視してしまった。
例えば日本人MFを見渡したとき、ポグバ、カンテ、マチュイディに比肩する、戦士のような肉体の持ち主は少ない。フランスリーグにはこのような資質を持ったMFが溢れており、彼らはその中から選び抜かれている。