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二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む 作者:木塚ネロ

第五章

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第24話 帰還者、泥棒の皮を被った小物どもを潰す。

おはようございます!

『二度目の勇者は復讐の道を嗤い歩む』

コミックス第一巻 8/23発売! 

書籍第6巻 8/25発売!

改めてよくここまで来れたなとびっくりです。よろしければ購入していただけると幸いです!


「っと、やっぱり来た事もない場所に、自分の魔力を目指して転移するのは楽じゃないな」


 跳んできた場所は、目標としていた『闇精霊の衣』に染みついている俺の魔力のある場所から少し離れた場所だった。目印にした『闇精霊の衣』は跳んできた建物の地下深く、やたらと多くの人の気配がある区画の隣の区画にあるようだ。


「思ったよりも近場だったみたいだし、MPはかなり余裕ができたな」


 MPの減り具合から言って、学校からはそう遠くない場所にあるらしいその建物は、大西の話通り大掛かりな研究所のようだった。


 真っ白い壁で囲まれた部屋の中は、用途もよくわからないいくつもの機材がそこら中に置かれ、部屋の中央には五つの半透明のカプセルのうち三つは、俺が求めていた俺の皮鎧、異世界の衣服に、ナイフが何本か入っていた。これは運がいい。


 闇精霊の衣以外は、そんなに濃い魔力を宿しているわけでもないから、運び込まれた場所で探し回る必要があると思っていた。

 だが、これでしらみつぶしに探し回るような真似をしなくても、一直線に『闇精霊の衣』がある場所まで向かっていけばいい。


「だ、誰だ君はっ、いったいどこから現れたっ!!」


 俺が状況把握に努めている間に、俺の登場に呆然としていたその研究所の職員たちも目の前の事態を飲み込んだようだった。

 白衣を着た人間のなか、一人が代表するように声を上げた。


「さてと、それじゃあとっとと地下に向かうか、っせぇーのっ」


「おい、聞いてるのか君、は……」


 バガァアンッ!! という音と共に握りしめた拳を突き出すようにそのカプセルに叩きつけた。

 魔力で強化して振り切ったその威力は、プレス機に掛けられたガラクタのように機材をただの金属板に変えた。

 別にそこまで力を入れずとも問題なかったが、若干、いや、かなりイラついてたから仕方がない。


(ミナリスとシュリアが手を入れてくれた装備をぞんざいな扱いをしやがって。布の端いくらか切り取りやがったこいつら)


「よし、収納収納っと」


「そ、そんな、馬鹿な……。強化アクリル製の防護ケースだぞ……?」


 呆然と呟く男を無視して振り抜いた手と反対の手で受け止めた装備を収納し、残りの二つのカプセルも叩き潰す。


「ぁぁああっ!? な、なんてことを……っ!! その機会が一体いくらすると思ってるんだっ!!」


「いや、知らねぇし。いくらすんの?」


 残りの私物も丸袋へと収納し、八つ当たりを終えて多少すっきりしたので返事を返してやった。


「一機当たり五百億はする代物なんだぞっ!?」


「あっそ」


 やべ、聞かなきゃよかったと思いながら、俺は肌感覚の探知よりずっと正確な建物の構造と状況を探るために魔力でソナーを打つ。


(まぁもともと、俺を爆発事故に見せかけて俺を殺そうとした警察の上層部とやらへの意趣返しでこの施設はめちゃくちゃにする予定だったから構わないと言ったら構わないんだが……)


 警察上層部の犯人を洗い出すような手間をかけるぐらいなら、とっととあっちの世界に戻りたいと考えていた。

 俺はこの世界に、長居しすぎている。小物に手間はかけられない。


「……そうだよ、あほらし、何変な気を回してんだ俺は」


 俺は、残った二つの機器も拳で叩き潰した。


「「「「ギャァァアアアアアアアッ!?」」」」


 手間をかけず、手あたり次第色んな所を壊して進む。

 この施設の責任者が責任を取らされて、上層部とやらが痛いと思えばそれでいい。

 ただ働かされてるだけの可能性がある研究員を殺す趣味はない。

 だから、その歓迎方法は俺にとっては逆にうれしいものだった。


「ほう、すげぇな日本の技術。裏っ側ではここまでSF化が進んでんのか。アニメみたいだな」


 長い直線の廊下にわらわらと現われてきたのは、どっかのアニメに出てきてるような、寸胴型のロボットだった。

 突き出た銃口は殺意が高そうな感じだ。

 機械らしく、ルリアリリ、ルルルリと何かよくわからない電子音が鳴り響いている。


「ちょうどいいなぁ。こっちに戻ってきてからずっと訓練してなかったわけだし、体に積もったほこりを払うくらいには……」


「『あー、あー、侵入者に告げる。私はこの施設の管理・代表を任されている者だ。至急降伏し、施設の破壊をやめたまえ。不当に奪った研究資料は国に依存するものだ。君個人が所有していてよいものではない。宇景くん、どうして君がここにいるかは知らないが、自分のしていることがどれほど国の利益を阻害して……』」


 ドバガァァァンッ!! と、蹴り飛ばされたロボの一体が吹き飛んでひしゃげ、スピーカーとカメラの埋められた壁にめり込む鈍い音と、吹き飛んだロボが爆発する重低音が鳴り響いた。


「……前言撤回だぁ、だぁれも殺さないつもりだったが、お前だけは殺しに行く」


 スピーカー越しに話しかけてきた男、俺が誰だか知っているようだった。偶然知っていたなんてありえない可能性を外せば、無理矢理俺から奪い取った物だと、知っているということになる。

 あれが、俺を殺そうとして、無理やり奪い取ったものだと、知っているということになる。

 見逃す理由は、何もない。


「ハァアアアアアアアアアッ!!」


 俺は弾かれるようにその場を駆けだした。

 それとほぼ同時に、数体のロボから、合計で二十門以上ある戦闘ロボの銃口が火を噴く。


「邪魔だガラクタァアアアッ!!」


 目の前を飛んでくる弾幕を両手に作り出した日本の心剣で切り飛ばし、その大群の中に突っ込んでロボットたちをコマ切れな金属片へと変える。


 斬る、斬る、斬る、斬る、斬る!


 ロボットを、壁から突き出るセンサーガンを、道を塞ごうとするシャッターを。

 全てをコマ切りに切り飛ばして進み続ける。


「ドケェええええええええ……っ!!」


 ダダダダダダダッと銃声の雨の中を壁を、天井を、そして『天駆』で宙を駆けて行く。

 アドレナリン全開で死線の上を駆け抜ける。

 深く、深く、深く、空気の濃さに沈み込むように深く。


「っ、ラァアアアアアァアアアァアッ!!」


 どんどんと集中力が濃くなっていくのが分かる。

 弾丸を切り飛ばすだけじゃ効率が悪い、弾き飛ばして攻撃に変える。

 天駆を足場に使うのが勿体ない。いい位置にある弾丸を足場に、天駆は弾丸を受け流す盾の代わりにしてこの弾丸も攻撃に利用する。


 数舜を引き延ばして、殺意の雨の中を駆け抜けていく。


 そのたびに無駄をそぎ落とし、何十体と機械を壊して進んで行く。


 全てを飲み込むように壊しつくして、長いような短いような時間を駆け抜けて、ようやく獲物が潜んでいる部屋の手前までたどり着いた。

 広めの運動場ぐらいの広さと三階分ぐらいの高さがある大部屋の入口向かいの真正面。

 嵌め殺しのガラスの向こう側に、運よく転がり込んできた獲物と、『闇精霊の衣』もあるのを感じる。


「『あー、あー、正直驚いたよ、君、絶対に人間じゃないだろう。調べるまでもなく人として出せる数値を超えている。こんなことならこの前野くんの言うことをよく聞いておけばよかったよ』」


「……」


 ガラスの向こう側に立ってこちらを見下ろすのは、見るからに偉そうな白髪と皺ばかリの神経質そうな男と、その隣には前野先生、いや、前野のクソがいた。

 いやまぁ、ソナーを打った時から気が付いてはいたけれど、運がないなアイツ。


「『いやぁ、悪いね宇景くん、検査結果はどう考えても普通の人間なんだが、君の傷の回復速度は明らかに異常だった。どうにかして色々調べたかったんだが……、僕の伝手はここにしかなかったが、ここでの研究は生物を対象にはしていなくてね。今日も頼み込みに来ていたんだが……、まさか君から来てくれるとはね』」


 スピーカー越しに前野の声が聞こえてくる。

 気持ちの悪い目で見てきたことは確かだが、何一つ実害はなかったので放置するつもりだったのに、最後の最後でこの場に来ちゃうとか、ホントもう、運がないとしか言いようがない。


「……」 


「『君は気が付いていなかっただろうがね、君はその部屋に誘導されていたんだよ。どうやったかは分からな……』」


「あー、もういいからとっとと用意してたもん出せよ。せっかく下手な道案内についてきてやったんだから」


 俺は長い話に我慢できなくて、前野の横に立つ権威だけは凄そうな男の言葉を遮った。

 もっと最短ルートを通ることもできたが、どうもシャッターを利用したり、わざとらしく機械の密度が薄い箇所を作ったりして誘導しようとしているみたいだから、態々遠回りして進んできたって言うのに。


「これでもいい感じにSFッポイ敵が出てきて、テンションもいい感じに上がってるんだ。しかも、放っておこうと思った獲物がわざわざ自分から口の中に飛び込んできて、なのにテンポ下げるような真似すんな。前座は良いからメインディッシュ寄越せ」


「『………君は、少し調子に乗っているようだね? 旧式の自動警備ロボ、それも数が少ない方へ少ない方へと誘導してきたから何か勘違いしているようだ。早めの降伏を望むよ。生きていたほうが情報はより多くとれるからね』」


 ブツッ、とスピーカーの切れる音共に、俺が入ってきた扉が落ちる。

 そして、ガコンと音を立てて両側の扉が開いて、そして……。


「『さぁ、圧倒的物量に押し潰されたまえ、ここは廊下や小部屋のように少数ずつを逐次投入せねばならなかった場所とは違う』」


 さっきのガードロボの白銀だったボディが黒銀になっただけの2Pカラーがワラワラと大量に出てきた。数だけで言えば、今まで倒してきた機械の数の倍は以上はあるだろう。


「……ふ、ふ、ふ」


「『あまりの戦力さに声も出ないかね? 正規版としてグレードアップされた最新版の警備ロボは、射撃の威力も連射速度も比べ物に……」


「ふざけんじゃねぇええええっ!! 俺の期待を返せボケがっ!!」


 そのあまりの肩透かしに真面目に剣技で戦う気も失せた俺は、炎の形の刃を持つ【炎車の陽剣】と赤みのかかる緑色の刀身をした日本刀、【風鼬の鎌刀】を作り出す。

 テンションがだだ下がりした俺は、交差させた二つの剣を左右に払った。


「『爆炎連鎖・溶鉱』『風切・羅刹刃』ッ!!」


 瞬間、爆発の轟音と金属を引き裂く様な風切り音が鳴り響く。

 俺の周囲を除いて、連鎖する爆発と幾百の風の刃が混じり叫ぶ。

 数秒後、昇りあがる煙の中にあったのはガラクタの山と化した警備ロボたちだった。


「『ばっ、馬鹿なっ!? 貴様っ、いったい何をしたぁっ!? 私の用意した特殊合金製の警備ロボが、鉱も安々と!? あり得ないっ、ただの爆発程度でどうこうなるような設計はしていないっ、先ほどまでの鋼鉄製の警備ロボとは強度が……っ!?』」


「あー、くだらね、こんなことなら遠回りなんてするんじゃ……」


「『っ、あれを出せっ!』」「『待ってくださいっ、研究長っ、あれはまだ調整が済んでいませんっ、暴走の危険が……っ!!』」「『なにをしているっ、早くしろっ!!』」


「お……?」


 よほど焦ったのか、スピーカーを切るのも忘れた様子で、偉そうな男は部下に指示を出していた。ちなみに、前野はその横でただオロオロしていた。

 ビーッ、ビーッ、ビーッ、と明らかに緊急警報っぽい音が鳴っている。


「おおおーっ、それだよそれ。強さとか期待してないから、そういうロマン兵器が俺は見たかったんだよ」


 今度は正面の壁の右サイドがパッカリと口を開き、から高さ10メートルはあるだろう木偶人形のような人型の巨大ロボが現れた。


「やっぱり、SFって言ったら人型巨大兵器か、合体ロボだよなっ!!」


 俺はぺろりと舌を舐め、割と素早い動きで腕を振り下ろしてきた巨大ロボの腕を避ける。

 警備ロボの残骸が上げる煙の中か飛び出して、顔と胸らしき一から飛んでくる弾幕を、天駆で作った足場の上を跳ねるようにジグザグに避けながら、その顔を切り飛ばす。


 そして、その断面に【炎車の陽剣】を突き立て、その内部を数千度になる高温の炎で焼き潰す。


 巨大ロボはそれであっけなく膝をついて、大きな振動と轟音とともに倒れる。


「『ば、馬鹿な……、こんな一瞬で』」


「さてと、そろそろ終わりにして帰るとしようか。


 ザンッ、と【炎車の陽剣】を五枚重ねになっていた強化ガラスに突き立てる。

 そしてもう一方の手に持った【風鼬の鎌刀】で切り裂いて中への入り口を作り、その部屋へと踏み込んだ。


「き、きさまぁっ!!」


「ひ、ひいっ!?」


「ふぅ、なかなか楽しいアトラクションだったよ。お礼に一瞬で終わらせてやる」


 二人とも腰が抜けてしまったようで、床にへたり込んでいた。

 俺は心剣を体の外側へと振り上げる。


「やっ、やめろっ!! 私の頭脳がどれだけこの国に貢献していると……っ!!」


「申し訳なかったっ、あやまるから、助け……っ」


「さようなら」


 ザンッ、ザンッ、と斬り下ろしと斬り上げの軌跡がV字を描き、その首を落とす。

 痛みも感じずに即死しただろう彼らから視線を外し、まるでインテリアか何かのようにショーケースに入れられた『闇精霊の衣』の元へと向かう。


「やれやれ、思ったよりも疲れたな。後は、あの女の化けの皮を剥いであっちの世界に帰るだけか」


 俺はショーケースを切り裂いて、『闇精霊の衣』をその背に羽織り、俺は転移でその施設を後にした。






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