2018年07月21日
【ビジネスモデル】『ダントツ企業―「超高収益」を生む、7つの物語』宮永博史
ダントツ企業 「超高収益」を生む、7つの物語 (NHK出版新書)
【本の概要】
◆今日ご紹介するのは、久々に今月の「Kindle月替わりセール」からの作品。ビジネスモデル好きならば、満足できること必至の1冊でした。
アマゾンの内容紹介から。
セブン銀行の収益率がセブン‐イレブンの40倍なのはなぜか?長野の中央タクシーはなぜ他社の2.5倍を売り上げるのか?アイリスオーヤマが家電で圧勝する理由は?ダントツ企業の経営手法を知れば、ビジネスの秘訣が見えてくる。不況でも「超高収益」を生み続ける7社に注目し、読みやすいストーリー仕立てで「儲かる仕組み」を明快に解説する!
中古がまだ400円しますから、送料を加味するとKindle版に軍配が上がります!
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【ポイント】
■1.消費者金融も顧客にしたセブン銀行2年目の成果は、提携会社(つまり顧客)を、銀行だけでなく、クレジットカード会社、信販会社、消費者金融会社などへ拡大していったことであった。
意外に効果が大きかったのが消費者金融会社との提携だ。それまでのATMは出金だけであったが、大手消費者金融会社の要望により、出金(借入)だけでなく入金(返済)もできるATMを実現したことが大きかった。
それまで人目を気にしながら消費者金融のATMを使っていた利用者が、コンビニ店内でキャッシングや返済ができるようになったことから、想定以上に利用件数が増えていったのである。しかも、消費者金融会社の出金手数料は、銀行口座からの出金手数料よりも高めに設定されていたため、この顧客セグメントの利用者は、セブン銀行にとっても収入を増やすうえで効果があった。
■2.ネスレ日本オリジナルの「アンバサダー」
ネスレがオフィスグリコを参考にしながらも、新たに考え出したのが、「BtoC@B」というビジネスモデルであった。つまり、職場(@B)の中の個人(C)をターゲットとするという発想だ。これこそが、「ネスカフェアンバサダー」というビジネスモデルなのである。BtoBではあるが、ターゲットはあくまで個人であるのが、その特徴だ。
ネスレのコーヒーマシンを職場に導入したいと手をあげた「個人(=アンバサダー)」に無料でマシンを送る。その代わり、定期的にコーヒーをネスレから購入し、職場の同僚からコーヒー代を集めてもらうという仕組みだ。ネスレは商品補充と代金回収を行うスタッフを雇う必要はない。料金回収のリスクも負わない。リスクを負うのはアンバサダーである。したがって、その条件を受け入れた人にしかコーヒーマシンを送らない。ネスレにとっては理想的な代金回収手法だった。
■3.「価格先決め」するアイリスオーヤマ
アイリスオーヤマでは、「ふたを開けたら赤字だった」ということはありえない。その理由は、価格を決める仕組みにある。まず決めるのが、売り場での値ごろ感のある価格だ。コスト積み上げ方式で価格を決める場合、製品価格は足し算で決まる。原料費、製作費、人件費、広告費などを足し、それに利益を上乗せして価格を決める。しかし、そうして決めた価格では売れないので値下げすることになり、結局利益を削ることになる。
これに対してアイリスオーヤマは、まず「売れる価格」を先に決める。そして、値引きしない。その販売価格で利益率10%を確保するようにコストを抑える。どうしてもその利益率が確保できないものは作らない。アイリスオーヤマは金型作製から材料として使う釘やネジまで内製化している。利益を確保するためのコスト計算は徹底している。部品代や加工賃はもちろん、物流費や税金などすべてのコストを計算する。
■4.「洗濯指数」を発明したウェザーニューズ
前述したようにオーシャンルーツ日本法人時代の石橋氏は、船会社以外の顧客創造を熱心に進めていた。その1つが放送局などのメディアである。アメリカでは、すでにそうしたサービスが行われていた。民間の気象情報会社の気象予報士が活躍しており、よく当たる予報士は人気を集めていた。そして、「ニュースステーション」の天気予報コーナーを担当するチャンスを得た。
当時はまだ独自の天気予報は禁止されていた。そこで、雨とか、曇りとか、降水確率とかいった気象用語を使わなければよいのだと考えついた。そして、洗濯指数、傘指数、ビール指数といった独自の指数を創造していったのである。気象庁が雨と予報しても、自社が晴れだと確信したら、洗濯指数100と言えばよいではないか、石橋氏はそう考えたのである。
規制に挑戦するために生み出したこの考え方は、実は非常に顧客視点に立った考え方であった。つまり、家庭の主婦が天気予報を知りたい理由が洗濯物を干せるかどうかを判断したいのであれば、降水確率よりもむしろ洗濯指数のほうがわかりやすい。
■5.「二本柱」で稼ぐARM
ライセンスフィーは数億円で、ライセンスするCPUの技術内容などによって異なる。ロイヤルティーは、実際に販売されるLSIにつき、販売価格の数%を受け取る。したがって、新しいCPUを設計すると、まずライセンスフィーが入り、顧客がそのCPUデータを組み込んだLSIを販売する数年後からロイヤルティー収入が入る仕組みだ。(中略)
LSIの販売数量だけでなく、ARMのCPUコアを組み込むLSIの品種が増えると、それに応じてARMのロイヤルティー収入も増えていくことになる。ライセンスフィーは一度きりであるが、ロイヤルティー収入は、LSIが販売される限り継続する。長いと20年以上にもわたって続く場合もある。 ARMは新しいCPUの開発コストをライセンスフィーで回収し、その後に得られるロイヤルティー収入はすべて利益となるように設計している。これがARMの基本的な収益モデルである。
【感想】
◆冒頭でも触れたように、ビジネスモデル好きならば、十二分に楽しめる作品でした。もっとも、セブン銀行のATMのお話は、この方のツイートにもあるように、そもそもが現金補充が一番のキモになっておりまして。
ホントはそちらをご紹介しても良かったのですが、以前こちらの本で初っ端に取り上げた関係で、今回割愛した次第です。
成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある
参考記事:【ビジネスモデル】『成功企業に潜む ビジネスモデルのルール――見えないところに競争力の秘密がある』山田英夫(2017年11月28日)
ただ、上記ポイントの1番目の消費者金融とも提携していた、というのは知りませんでした。
確かに消費者金融のATMを使う位なら、セブンのATM使った方がよほどひと目は気にならないかと。
◆続く上記ポイントの2番目のネスレの「アンバサダー」システムも、広告では見たことがありましたが、こんなビジネスモデルだとは知りませんでした。
【公式】ネスカフェ アンバサダー お申し込み|ネスレアミューズ
まさか「オフィスグリコ」をヒントにした上で、それを一歩進めて、代金回収まで消費者自身が行っているとは!?
さらにネスレのスゴイのは、「イノベーションアワード」と題して社内でアイデアを募って、イノベーションを仕組み化しているところで、その第3回の大賞が、この「焼きキットカット」でした。
KIT KAT BREAKTOWN |ネスレ キットカット ブレイクタウン|焼いておいしいキットカット
ただしこの大賞は、第1回から3回まで、該当候補に他の役員は皆反対したものの、すべて社長が押しきって選んでおり、それがすべて成功したという。
結果的に社長のアイデアを評価する力量だけが際立ってしまったのですが、さすがに第4回の「キットカット ショコラトリー」では、全会一致したのだとか。
……それを聞くと、高岡社長のこの本も、ちょうど今カドカワさんのセールで「50%OFF」ですから、読んでみたい気が。
ネスレの稼ぐ仕組み 自宅と職場をカフェにした、利益率20%の秘密 胃袋の数が縮小する日本でネスカフェが売れる理由
◆また、ポイントの3番目のアイリスオーヤマは、個人的にツボだった「値決め」の話を選んでいますが、一番のスゴさは、下記目次にもあるように「超スピード商品開発」」にあります。
他の家電メーカーから転職してきた技術者は、前職で1~2週間かかっていた調整が、たった1日で終わることに驚くのだそう。
具体例が挙げられていたのが、某鉄道会社の広告看板を後ろから照らすLED照明のプレゼンに参加したお話。
金曜日に各社プレゼンをしたものの、結局「全社基準に到達せず」という結論になったのですが、アイリスオーヤマだけは翌週明けた月曜の夜に、改良品を持ち込んできたという……。
本書ではその舞台裏についても解説されており、そのスピード感には圧倒されました(会議は机の周りで立ったまま行う等)。
さらに、昨今人件費削減で店頭で対応する店員が減ってきているのに、アイリスオーヤマでは、全国約1000店舗にスタッフを派遣して商品説明をしているのだとか。
ただし彼らには、実は説明以外の使命もあり、それが商品開発に役立っているのだそうです(詳細は本書を)。
◆一方、気象情報サービスの最大手なのが、上記ポイントの4番目に登場するウェザーニューズ。
そのコンセプトは「あなたの気象台」というもので、顧客のニーズに合わせた気象情報を提供しています。
利用者は、仕出し弁当屋から船会社、航空会社まで多種多様。
結局上記ポイントの「洗濯指数」も顧客ニーズあってのお話ですから、方針としてはブレてないわけですね。
ちなみに、最後のポイントのARMは、孫正義が3.3兆円で買収したことで話題になった会社。
半導体の会社なのに、シリコンバレーではなくて、イギリスにあるの会社なのも、その成長の経緯を読むと納得です(これまた詳細は本書を)。
◆本書では紹介していている会社が7つあるため、2つは割愛してしまいました。
1つはMKタクシーの長野版とも言える中央タクシー。
もう1つが、砥石メーカーとしてスタートし、今や営業利益率23.4%を誇るディスコです。
この2つは劣っている、というわけではなく、引用しやすさから後回しになっただけですから、ぜひとも本書にてご確認いただければ、と。
特に中央タクシーの徹底したサービスぶりは、リッツカールトン並みではないか、と思う次第です。
ビジネスモデル好きなら読むべし!
ダントツ企業 「超高収益」を生む、7つの物語 (NHK出版新書)
第1章 セブン‐イレブンをしのぐ40倍の超高収益―セブン銀行
第2章 ネスレはなぜコーヒーマシンを無料で配ったのか?―ネスレ日本
第3章 3年で4000種類の超スピード商品開発―アイリスオーヤマ
第4章 伝説を作り続ける地方タクシー会社―中央タクシー
第5章 世界最大の気象情報会社はなぜ日本で生まれたか?―ウェザーニューズ
第6章 「切る・削る・磨く」のニッチで世界一―ディスコ
第7章 ソフトバンク孫正義が3.3兆円で買収した謎の会社―ARM
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【ビジネスモデル】『事業創造のロジック ダントツのビジネスを発想する』根来龍之(2014年02月09日)
【編集後記】
◆本日の「Kindle日替わりセール」から。読書の価値 (NHK出版新書)
偶然同じ「NHK出版新書」の作品ですが、当ブログで下記のようにレビュー済みの読書術本。
森先生の人気もあってか、中古に送料を足すと700円近くしますから、このKindle版が300円ほどお得な計算です!
参考記事:【読書】『読書の価値』森 博嗣(2018年04月12日)
ご声援ありがとうございました!
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