この記事について
この記事ではAndroid Thingsを触ってみた感想をつらつらと記載している。あくまで個人的な感想を記載してあり、異論は多々あるだろう。しかし控えめに言ってAndroid Thingsは最高だった。1ヶ月ほど遊んでみてこれは面白いことができそうという感想しか出てこない。IoTデバイスの今のトレンドはAIをはじめとするエッジヘビーな処理、デバイス管理、セキュリティなど求められるものが多くなっている。そしてAndroid Thingsはいとも簡単にこれらの要件を叶えてくれる。ちなみにAzure IoT EdgeとかAmazon Free RTOSなんかはこれから触りたい候補に入っているので「それ['Azure IoT Edge' | 'Amazon Free RTOS']でもできるよ」という話は知りたいし、たくさん突っ込んでほしい。
1. なぜAndroid Thingsなのか?
2018年5月にGAから1.0.0正式リリースになったのを気にAndroid Thigs使ってみるかという機運になった。またGCPのCloud IoT Coreとかその辺りを触っていて、エッジ側のOSとかの使い勝手も知りたくなり手を出してみた。最初は軽い遊びのつもりだったけど本気になってしまった。反省はしていない。
2. Android Thingsプロフィール
まずはAndorid Thingsのプロフィールについて見てこう。
2.2. Android Things
大雑把に説明するとAndroid ThingsはAndroid Oから派生して作られている。Android のCore framework APIにI/Oなどを直接コントロールできるようにしたThings APIを追加したものになる。これ以外にAndroidとは以下のポイントが違う。
- 設定などを行うシステムアプリがないこと
- 1つのアプリケーションしか実行できない
- 起動時にアプリケーションが自動的に立ち上がる
こうすることでにAndroid Thingsは組み込みアプリケーションを実行するプラットフォームとして最適化されている。AndroidスマホをIoTデバイスとして使おうとかそういう甘っちょろい考えとはそもそも次元が違うのである。ただし開発環境は普通のAndroid と同じようにAndroidStudioが利用できる(利用せざるおえない)。私はIntteliJ IDEAを使っているけど問題なく使える。
Overview | Android Things | Android Developers
2.3. Android Thingsで使える。ハードウェア
Android Thingsが動くハードウェアは決まっている。一番入手しやすいのはRaspberry Pi 3 Bだろう。それ以外でホビー用だと公式入門キットに付属しているNXP Pico i.MX7Dが使えるそうだ。商用ではSnapdragonなんかも動くようだ。自分はおとなしくRaspberry Pi 3 Bを使っている。自分で用意するのであれば一択な気がする。
Supported hardware | Android Things | Android Developers
2.4. Android Thingsのインストールについて
Android ThingsのインストールはAndroid Things Consoleにユーザ登録するところから始まる。ユーザ登録後、インストールツールがダウンロードできるのでツールを使いSDカードへOSを書き込むことができる。Android Things Consoleはツールのダウンロードだけでなく、カスタムイメージの作成やアプリケーションの配布がきでる。(後述)
3. Android Thingsが最高なポイント
じゃあ、Android Thingsの何が最高なのか、何ができるのかを見ていきた。
3.1. Peripheralの操作ができて最高
I/O, I2C, SPI, UART, I2Sなど一通りのペリフェラルを扱うことができる。最近のプロトタイピングボードを使ってやりたいことはそのまま実現できる。しかもこれがAndroidの開発環境から開発できる。Javaさえ書ければ思いのままに扱うことができる。さらにAndroidStudioのデバッグ機能が使えるので、ソフトウェア周りのデバックはこれで十分である。printfデバッグのためにひたすらprint分を埋め込んだりしなくていい。AndroidThingsを始めるにはRainbowHATを買うのがオススメ。2018年7月22日現在スイッチサイエンスでは在庫切れだ。Amazonでは割高で売られている。なんとか在庫復活してほしさある。
RainbowHATはAndroidThingsのcodelabやチュートリアルで採用されているボードなので、一通りの機能をすぐに触ることができる。
しかしRainbowHATだけで遊ぼうと思ってたらいつの間にかディスプレイとカメラを買っていた。ただただ最高かよ。
3.2. ユーザドライバ開発ができて最高
Androdi ThingsではAndroidのデバイスドライバをUser-space driversという形でアプリケーションの一部に実装することができる。例えばPeripheralにGPSや加速度センサを接続してアプリケーションから直接I2CやUARTを叩いて情報を取ることができる。しかしUser-space-driverとしてこれらのデータをラップすると普通のAndroid端末と同じようにAndroidのframeworkを介してそれぞれの値を取得できるようになる。例えばSPI接続の安いRasPi用ディスプレイはSPIでタッチパネルのデータを受け渡す。これをUser-space-driverを介さずに利用しようとすると、SPIでX,Yの座標を受け取り、UIの座標と当たり判定して。。。と実装する必要がある。しかしHIDのポインティングデバイスドライバとしてSPIをラップして書けば、通常のAndroid端末のタッチパネル操作と何ら変わりなくただViewを実装すればHIDの処理はOS側がイベントとして処理してくれる。SPIでとってきたデータを意識する必要はない。ちなみにこれを1.0.1向けに実装したのものは以下のリポジトリにある。
動くとこんな感じなる。
User-space-driverはLocation HID Sensor, LoWPANなど4種類サポートされている。
IoTサービスの初期検討ではデバイスがないのでAndroidスマホで実装する。そのフィードバックを元にハードウェア要件を固めAndroidThingsで実装する。スマホで作ったアプリのソフトウェア資産をAndroidThingsに移植することでソフトウェア開発を簡素化できる。こういったIoTのプロジェクトを進める上でとても強力な開発プロセスを提供してくれるのではないだろうか。IoTサービス開発にも役立って最高かよ。
3.3. BLEが使えて最高
Android ThingsはもちろんBLEも使える。Raspberry Pi 3BのBLEも制御することができるらしい。らしいというのはまだ触っていないのでこの部分については語れる部分がほとんどない。1ヶ月以上遊んでてもまだ試すことが多いの最高かよ。
3.4. カメラが使えて最高
Android Thingsではカメラを使うことができる。Raspberry Piの公式カメラを利用することができる。ただしUSBカメラを接続して使うのはRaspberry Piでは今の所できないようだ。少々残念なところだけどUSBのカメラのドライバを用意するなどAndroidでは難しい部分もあるのだろうか。もちろん撮影した画像はファイルに保存できるし、画面に表示することもできる。画像が取れることで画像認識など夢が広がりまくって最高かよ。
3.5. デバイスでのAIが簡単すぎて最高
画像認識
Android はtensorflow-liteやFirebase ML Kitといったモバイルデバイス向けディープラーニングのフレームワークを使い物体認識などを実装することができる。同じ方法でAndroid Thingsも利用することができる。サンプルも豊富にあって既存モデルを使うだけであればすぐに実行することができる。例えば一般物体認識のサンプルは以下。Raspberry Piでも動く。
大きくtensorflow-liteを直接実行する方法とFirebase ML Kitを使う方法があるが後者をおすすめしたい。どちらもtensorflow-liteとそのモデルを利用するみたいだが(と思ってる)Firebase ML Kitでは何種類かのよくありそうな認識モデルを提供してくれる。OCRや顔発見、シーン認識、ランドマーク認識だ。もちろんtensorflow向けに用意したカスタムモデルを圧縮して使うこともできる。ここまで読んでRaspbianでも同じことできると思ってしまう。しかしtensorflow-liteのビルドなど面倒な環境構築作業が必要だ。Android Thingsでは環境構築をすっ飛ばして目的のアプリケーション実装に取り組めるところにアドバンテージがある。さらにFirebaseからモデルファイルをアプリケーションへ配信してデバイスのモデルを更新することができる。こういった管理機能まで含めて利用することができるのだ。そして、Android Things上での実装も数十行で終わる。たとえばFirebase ML Kitだとこうなる。もちろん実際にはカメラで画像をとってくるなど処理はあるが。
private void recongnizeText(FirebaseVisionImage image){ FirebaseVisionTextDetector detector = FirebaseVision.getInstance().getVisionTextDetector(); Task<FirebaseVisionText> result = detector.detectInImage(image) .addOnSuccessListener(new OnSuccessListener<FirebaseVisionText>() { @Override public void onSuccess(FirebaseVisionText firebaseVisionText) { StringBuffer sb = new StringBuffer(); sb.append("Result: "); for (FirebaseVisionText.Block block : firebaseVisionText.getBlocks()) { sb.append(block.getText()); sb.append(", "); Log.i(LOG_TAG, "Recognize text: " + block.getText()); } textView.setText(sb.toString()); } }).addOnFailureListener( new OnFailureListener() { @Override public void onFailure(@NonNull Exception e) { Log.e(LOG_TAG, "failed recognize text", e); } } ); }
顔認識をやりたければDetectorの種類を変えるだけだ。さらにクラウドAPI を使う処理にしたい場合もそれ用のDetectorを使えばいいだけだ。リファレンスがなくてもかける気がする。簡単に最新のAIをIoTデバイスに取り込めるの本当に最高かよ。
音声対話アシスタント
今はやりの音声対話アシスタントもAndroid Thingsを作ることができる。こちらはVoice KitのソフトウェアをAndroid Thingsで動かせるようだ。まだ試していないがぜひやってみたい。マイクやスピーカも使えるっぽい。Peripheralにモータとセンサをつなげればコミュニケーションロボットも簡単に作れそうで最高かよ。
3.6. クラウド連携が至れり尽くせりで最高
当然、クラウドとの連携も充実している。
アプリケーションとしてクラウドを使う
Google Cloud IoT Coreとの連携にはクライアントライブラリが公開されている。これを使うと簡単にGoogle Cloud IoT Coreと接続することができた。これでAndroid Thingsで取得したセンサデータや画像認識の結果をGoogle Cloud IoT Coreに投げCloud Dataflowを経由し、BigQueryに投げ込むことができる。後のデータ処理や可視化は思いのままだ。
Googleのクラウドプラットフォームへのコネクティビティが整備されてて最高かよ。
管理方法としてクラウドを使う
クラウドとの連携はアプリケーションだけではなく、デバイスの運用においても力を発揮する。Android Thingsをインストールするときに利用したAndroid Things Consoleを使えばアプリケーションの配信やアップデートができるようになる。また、OSの更新はOTAで実行できるようになる。つまりプロダクトとして実運用に入っても至れり尽くせりになっている。この部分は先ほどのFirebaseのAIモデルの配信も同じだろう。そもそも向こうはスマホアプリを対象としているのでこういう機能がないと実用として使えないのだろう。デバイスの数が増えても最高かよ。
IoT端末のソフトウェアを管理できるツール「Android Things Console」を使ってみました - GIGAZINE
3.7. IoTデバイスとしての取り回しが楽で最高
AndroidThingsは電源を入れたらOSが立ち上がり、そのままアプリが起動する。電源一発ぽんだ。変なアプリケーション立ち上げ操作やそのための設定は必要ない。また、デバイスの電源はそのままデンプチできる。これでOSは壊れることはない。(一応そういうことになっている。)そのためにOSの設定をする必要はない。まさにIoT向けOSで最高かよ。
4. Android Thingsの弱いところ
ここまでAndroid Thingsの最高なところを見てきた。しかし光あれば影がある。最高じゃない部分だって多々あるのだ。
4.1. LTE接続や3Gサポート
Raspberry PiだとLTEモデルドライバなどサポートがない。QualcommがSnapdragonあたりで使えるようにするみたいなニュースがRaspberry Piでもなんとかならんだろうか。今後に期待したいところだ。
Qualcomm to announce LTE chipset for Google’s IoT, Android Things
またUSBやUARTのLTEモデムを接続し、ATコマンドで無理やりSMS送ってる人はいる。自分でドライバとか書けばなんとかなるんだろうか修羅の道な気もする。 これにSORACOMつなげたいんじゃと思いつつ、SORACOM Kryptonでソラコムのサービスにつなぎ込むんでいくのがいいのかもしれない。
4.2. Javaで開発
Androidなので開発言語はJava、Javaだと辛い人は辛い。ただしIDEを使えばそこまで辛くはないと個人的には思っている。AndroidStudioはIntteliJ IDEAをベースにしているので開発環境としてもいい方だと思っている。このIDEの使い方を知ればむしろJavaを書くのが楽しくなると思う。どうしてもJavaとか嫌だという人はKotlinを使うことができる。
4.3. Androidの知識
これまで最高ポイントで「Android開発と同じ知識で」や「Androidと同じソースで」などと書いた。しかし裏を返せばAndroid開発の知識やスキルを強制的に求められるのだ。これはAndroid開発初心者には学習コストが必要になる。しかし、幸いにも世のAndroid 開発者は多い。トラブル発生時のググラビリティは非常に高い。また、Googleのcodelabなど上質なチュートリアルやドキュメントも揃っている。Androidだけなら書籍もあるのでそんなに困らない。事実私はAndroid開発ほぼ初心者だがAndroid Thingsは難なく使えるようになった。もちろんAndroid Things 固有の問題だと辛いけどPeripheral周りとかかな。
4.4. まだ少し不安定
1.0.0とはいえこの安定性はどうなんだという状況がたまに発生する。まず最初に遭遇したのがWiFiの問題だ。家でWiFiを設定すると突然再起動を繰り返すようになった。WiFi設定後だったので電源の問題かと3AのACに変えたが状況が変わらずだった。途方に暮れてバグとして報告をした。
https://issuetracker.google.com/issues/110793391
結果として類似の報告が上がっているらしく、特定の設定のWiFiアクセスポイントが近くにあると起こる問題とのこと。。。家の中で別の部屋に移動するだけで再起動は発生しなくなった。また外に持って作業することもあるが今の所外では発生しない。本当に特異な状況だったのだろう。再起動をかなりの回数繰り返すうちにOSが起動しなくなる事象も確認している。この辺りも電プチが原因なのか、再起動ループが原因なのかは不明だ。今後改善されることを願う。
4.5. 対応ハードウェの選択肢が少ない。
Raspberry Pi 3 Bが使えればそんなに困りはしないが、もう少し選択肢があってもいい気がする。また新しいボードに対応するまでのタイムラグもきになるところだ。ちょっと前まではIntel Edisonなども使えていたようだが奴のことはもう忘れよう。これからシングルボードコンピュータが新規に作られたらぜひAndroid Things対応ボードにしてほしい。
5. まとめ
Android Thignsは最高だった。確かに難はあるしイロモノ感も否めない。しかし、控えめに言って最高かよだった。盛り上がりはイマイチな気がする。もちろん使ってる人もいるにはいるが、よく見るって感じでもない。正式リリースされてまだ日が浅いというのもあるかもしれないが、これから日本でも盛り上がって欲しい。この記事を見てAndroid Thingsに興味を持ってくれたら嬉しい。また、Android Thingsのもくもく会を企画してみたので実際に触って見たくなったら是非参加して欲しい。
このブログでもAndroid Thigsは追っていきたいテーマだ。