ETC システムの現状と展望

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目 次

ETC導入の目的と今後の展望

日本のETC導入の経緯

欧米のETCの概要

日本のETCの特徴

日本のETCの問題点

「スマートインター」=「不器用なインター」

カナダ407ETRのETC

ドイツ・アウトバーンのETC

アウトバーンでの大型車の取締り

世界のETC運用の動向 

「ヨーロッパETC基準」統一完了

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ETC導入の目的と今後の展望

 日本では、ETCといえば専ら「料金割引の道具」として有名になりましたが、本来は Electronic Toll Collection の名前が示すように、料金収受員によって行われていた収受業務を代行する実用的なシステムです。古くから導入を進めていた欧米では、その目的として次の3点が強調されてきました。

  1. 料金所の通過時間を短縮し、料金所渋滞を軽減する 

  2. 料金支払い時の窓の開閉、財布の取り出しなどの不便をなくす

  3. 料金所周辺の排気ガス、騒音を少なくする

 そして、結果的に大きな料金所では、収受員の人員を減らすことができて、人件費の削減にも役立つ効果もあります。

 加えて欧米では、料金所を本線と変わらないスピードで走り抜けるORT(Open Road Tolling)への変換が進み、更にはガントリー(本線を跨ぐ門型の構築物)に車載器と交信する通信機器などを設置した、料金所が全くないAll-Electronic Tolling (AET)の段階に入ってきていますが、この場合にはETCを付けていない車をキャッチするために必要なナンバープレートの読取ビデオ VT(Video TollまたはVideo Tolling)がセットなっていなければなりません。後ほど詳しくご説明します。

 残念ながら日本のETCは、上記の本来の3つの目的よりは、ETCをつけた車に限って「1,000円で走り放題」にする政策に代表されるような割引制度が乱発され、利用者の歓心をかって、高価な車載器を普及させること自体が目的であるかのような様相を呈してきました。その結果、本来の目的が歪められ、料金体系、料金政策を混乱させてしまっています。

課金区域標識
ナンバープレート読み取りカメラ設置位置表示

 最近では、単に上記の料金収受の目的だけでなく「ロードプライシング」や道路財源調達の方策としての「走行距離課金」( VMT Fee または MBUF)に使用するシステムにとしても世界的に注目され、ドイツのアウトバーンなどでは、後でふれるように既に実用化されています。

 両者とも、基本的にはETC技術と共通する部分が沢山あり、この分野への展開も間近に迫っていると考えます。(世界の動向「走行距離課金」をご覧ください。)

 ロードプライシングは、大都市の中心市街地に入る車に課金して公共交通機関への転換を図り、交通量を抑制して交通混雑を緩和する政策ですが、ノルウエーのオスロで1990年に始まったのが最初のようです。最近ではロンドン、シンガポールのロードプライシングが有名です。

 ロンドンは2003年2月から始められました。「混雑課金」(Congestion Charging)と呼んでいます。平日の朝7時から夕方の6時までに課金エリアに入るのに、2013年5月以降、10.5ポンド(約1,800円 スタート時は5ポンド、2005年から8ポンド)課金されます。1か月または1年分の割引料金の制度や、90日分を限度に前払いして置く方法があります。後払いも可能ですが払い込みが翌日になると14ポンドになり、それ以降、14日以内は65ポンドの罰金が科せられます。それが過ぎると罰金は130ポンドに跳ね上がります。課金の方法はナンバープレートの読取方式 VT(Video Toll)で、ETCの車載機などは使われていません。

 因に、制度の導入によって課金エリア内の交通量は15%減少し、交通渋滞も30%緩和され、バスの運行速度が15%早くなったそうです。

 シンガポールの「混雑課金」は1975年からステッカー方式で始められました。ALS(Area Licensing Scheme) と呼ばれ、規制区域の出入口に監視員が立って監視する方法でしたが、1998年9月からETCと同様に車に車載器を搭載させ、規制区域の境目にガントリーが設置されました。(左図)

 名称もERP(Electronic Road Pricing System)に変わり、単に渋滞緩和だけでなく、利用者にドライブのコストを意識させる(pay-as-you-use)という目的が示されています。日曜日は無料のようですから、渋滞緩和が主目的と思われます。

  システムは日本の三菱重工製です。車載器の値段は150シンガポールドル(以下SG$  約1万円 1SG$=約65円)ですが、開始後1年間は設置費を含め全額政府の負担で取り付けられました。今では全車両への設置が義務づけられています。

 車載器に電子マネー型のICカードを差し込み、カードから引き落す方式で、カードは各銀行の共通仕様です。今では ez-linkカードと呼ばれ、地下鉄、バスなどにも使えるようになっています。

 課金区域も中心市街地だけでなく、周辺の高速道路にも順次拡大されています。料金は、場所、季節、時間帯(朝7時から夜8時まで5分刻み)によって異なり、無料の時もありますが、概ね50セントから4SG$と幅があり、3ヶ月毎に見直しが行われています。

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日本のETC導入の経緯    

 欧米では、1980年台後半からの導入が始まり、2000年の時点で既に定着したシステムとして普及していました。日本でも、道路公団が中心となって早くから研究、開発が進められ、1992年にはメーカー数社の協力を得てフィールドテストの段階に入っていました。

 実用化も間近だった1994年7月に、旧建設省から公団による ETC 開発に中止の指示が出され、以後、ETCは ITS の一環として建設省(現国交省)の主導で、改めて多くの会社が参加する「共同研究」方式で開発が行われることになりました。そのために導入が遅れ、2001年4月からようやく一般利用にこぎ着け、2005年になってようやく、一応、普及の域に達したと言う経過を辿りました。

 国交省の表向きの理由は、ETCは ITS(Intelligent Transport Systems)と呼ばれる近未来の道路交通システムに含まれるものであるから、政府主導で開発する必要があるということでした。

 ITSは、ナビゲーションの高度化、安全運転の支援、公共交通の支援など、9つの開発分野を持つ大きな、それだけに漠然としたシステムの総称です。当時、旧建設省、旧運輸省のほか、旧通産省、旧郵政省、警察庁がそれぞれ独自の分野を異なる方式で研究、開発を進めていて、特に警察庁が熱心で、旧建設省とVICS(Vehicle Information and Communication System)など道路情報システムの開発を競うなど、それぞれの分野ごとに各省庁の権限争いと天下り団体設立の思惑が交錯し、システムの全貌はハッキリしていませんでした。

 VICSは結局、高速道路では旧建設省方式が、一般の道路、街路では警察庁方式が採用され、加えて旧郵政省(NHK)のFM多重放送が加わりましたから、カーナビの値段も高くなっている筈です。お役所は「財団法人道路交通情報通信システムセンター(VICSセンター)」を設立して天下りポストを分け合い「めでたしめでたし」です。

 ETCは、料金収受以外でも車載器が普及すれば、都心部の混雑緩和のため、車の流入制限を行なう「ロードプライシング」にも応用が可能になります。旧建設省は、首都・阪神高速はETCの車載器をつけなければ利用できなくするという案を早々と発表しました。

 これに対して、警察庁では、ロードプライシングには、赤外線方式による別のシステムを採用する考えで実験を完了していましたし、旧運輸省は、ICを埋めこんだ電子ナンバープレート(スマートプレート 下の写真)の研究、開発を進めていました。

ナンバープレート左上が受発信装置
受発信装置部拡大

 旧郵政省でも、ETCに利用されるのと同じ電波(5.8GHz)を使ってドライブスルーでのショッピングなどにも普及させる研究を進め、旧通産省も、情報・通信産業の所管官庁として、料金収受以外の広い用途への利用の研究に取り組んでいました。

 運輸省はその後、建設省と一緒になったのですが、当時のスマートプレートの開発は、ETC担当の道路局ではなく自動車交通局でひっそりと継続されているようです。自動車の個別情報を書き込んだICチップを組込んだ送受信機をナンバープレートに付けておき、当面、車検の管理や、駐車場の料金徴収、フェリー埠頭の出入管理に使うことを考えています。

 このような各省庁の張り合いの結果、料金収受だけでなく、将来、ITSの多くの機能にも対応できるような、高度な仕様が必要になり、1台3万円(他に手数料と取り付け費に約8,000円が必要)もする高価なETCの車載器が作られ、スタート時の普及を妨げる大きな原因になったのです。

 当時、各省庁から出されたETCに期待した機能の多くが、今ではスマートホンと呼ばれる携帯電話で代行されるようになっています。料金収受の機能にしぼった安価な車載機にしておけば、無理な割引までして利用者を増やす必要もなかった筈です。これからでも遅くありません。 

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欧米の ETC の概要

 アメリカでは、ニューヨーク、ニュージャージー、ペンシルバニアの3州の有料道路事業者(公社など)が作った研究グループ IAG (Inter Agency Group)によって1993年から本格的な運用が始められました。機器の開発はIAG が定めた機能仕様に基づいて数社が開発し、最終選考に残った2社の性能比較テストの結果に基づいてカナダの Mark IV社(当時)の製品が選ばれました。

 次第に周辺の各州にも同じシステムが広がり、現在では、東部14州の約50の有料道路が、互換性確保の点からもアンテナなどの道路側の機器、車載器(タグ、バッテリー内蔵型)共このメーカーの製品を採用しています。

 E-ZPass(イージーパス)の愛称が使われることが多く、料金所の標識もほぼ共通、既に約2,200万個の車載器が使われ、ニューヨーク周辺の高速道路の朝夕のラッシュアワーには約70%が E-ZPassを利用していて、料金所の渋滞はほとんど解消しています。

 2010年11月に、オーストリアのETCメーカーであるKapsch TrafficCom社(KTC)が MARKIV社のIVHS(Intelligent Vehicle Highway System)部門をそっくり買い受け、Kapschのアメリカ担当の子会社(KTC North America)にしました。KTCはオーストリア、スウェーデンなどでETCの販売をしていましたから、世界的な規模で今後ETCの分野での強みを発揮しそうです。

 2011年7月には、契約改訂期が来ていたIAGグループから10年間の納入、保守契約を受注しています。当面、E-ZPassの名前もそのままで、利用者にとってはメーカーの変更があったことも分からないかも知れません。

 2014年7月に、KTCがニューヨーク・ステート・スルーウエイから、タッパンジー橋の本線バリア料金所をノンストップ方式(AET all electronic tolling)に改造する工事を受注したとのニュースが発表されました。細部は不明ですが、2015年第3四半期の完成を目指しているとのことです。

左がE-ZPass ORTレーン 右が混合レーン 
タグのフロントガラス取付け状況

 ニューヨーク州の場合、利用者は、保証金(当初20ドルでしたが最近は10ドルに値下げ)を納めて車載器を公社などから借りる方式です。クレジット会社に加入していれば、保証金は免除されます。車載器が不要になれば、返還して保証金を返してもらえます。しかも車載器は、フロントガラスにマジックテープで貼りつけるだけですから取付費はいりません。車から離れるときは盗難防止のために、外してポケットに入れる人が多いようです。

 テキサス、オクラホマなど南部のいくつかの州では、Trans Core 社(旧Amtech社)の製品が多く使われています。この社の車載器はバッテリーが要らないパッシブ方式が中心で、薄いステッカータイプの製品もあり、値段が安いのが特徴です。アメリカ国内では約100万個の普及ですが、スペイン、フランス、ブラジル、香港、タイなど海外での利用が約480万個と広く使われています。また、アメリカ西海岸のカリフォルニア州などでは、SIRIT社の製品が採用されています。

 アメリカの各社とも800~900MHzの周波数を使用していますので、部品が携帯電話と共通のものが多く、価格が安くできるようです。

 地区ごとに車載器が違って不便が無いのか気になりますが、平日のラッシュアワー対策を主目的としていますから、3地区の相互乗り入れの必要性はほとんどありません。長距離トラックのために、3社の車載器の機能を持った多機能品を既に Mark IV社が開発済みでしたが、まだ、需要は出ていないようです。

 イタリアは、長距離道路では世界のトップを切って Autostrade社の技術者が民間会社と共同で開発した Tele-pass(周波数5.8GHz)が使用されています。

 大きな料金所、サービスエリアに併設された Punto blu(Blue Point)と呼ばれる案内所に行って銀行カードを提示すると、銀行の計算センターに直結された端末器でカードの情報を読み取り、本人の口座に一定の預金があることが証明されれば、その場で車載器が貸し出されます。

 Autostrade社の場合、車載器は会社が貸与し、利用者は月額約100円の使用料を支払う仕組みです。割引などの制度はありません。イタリアのシステムでもう一つ興味深いのは、車載器の変遷です。

左が現在のタイプ    右が旧型
現在タイプの拡大

 1989年にスタートした時には、日本の現在の仕様と同様に車載器を車両に固定し、車のバッテリーから電源を引き、車載器にカードを差し込む方式でしたが、現在ではアメリカと同様に、フロントガラスに貼りつけるタイプに替わっていることです(昔のものも引き続き使用可)。技術的に電池の性能が向上したことと、利用者にとってより簡単、便利であることが変更の理由とのことです。

 ドイツカナダについては、別項で書きます。

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日本のETCの特徴

 既に述べたことからもお分かりのように、日本のETCは、欧米各国と較べて特異な性格と規格を持ったものとしてスタートしました。

 1.利用分野がはっきりしない、ITSという漠然とした、範囲のひろい用途にも対応できるように複雑な仕様になっているため、ETC用としては高価な車載器を必要とすること

 2.アンテナなどの道路側の設備、車載器、車載器に挿入するICカードなどが、それぞれ別の、多くのメーカーによって製造されており、システムの厳密な整合性の保持が必要なこと 

 3.利用者は、クレジット会社に申請して、ETC専用のICカードを発行してもらい、自動車用品店などで車載器を購入し、国交省の天下り団体である「財団法人道路システム高度化推進機構」(ORSE)によるセットアップとよばれる手続きと取付工事が必要。車を買い替えた時にも、改めて手続きと取付費用が必要になるなど負担が大きく、煩雑であること

 その後、改善された面もありますが、基本的な特性は変わっていません。

 アメリカの有料道路専門のニューズレターTOLL ROADS NEWSLETTER (注) 2000年2月号に日本のETCについて、要約次のような記事が載りました。その後の展開はまさに指摘の通りでした。いま読み返しても示唆に富むと思われます。

  (注) TOLL ROADS NEWSLETTER は現在、インターネット上のニュースサイト www.tollroadsnews.com/ に代わっています。

 ○世界最大の有料道路を持つ経済大国に、まだETCがないのは不思議だ。原因は日本の制度では公団に独自の行動の機会を与えず、中央集権的な計画でコントロールされているからだろう。互換性を確保する目的であることは理解できる。

 ○しかし日本のETCが実用可能かどうか疑問がある。最大の問題は200ドルを超えると見られる車載器(タグ)の値段だ。

 ○性能が良く価格も手ごろな自動車や、若者に人気のあるポータブルラジオ(ウオークマン?)を生産できる日本が、なぜ高級車ポルシェ的な価格のタグを製造するのか理解に苦しむ。

 ○周波数帯による理由もあるが、大きな違いは、日本のものが贅沢な仕様なことだ。ICカード挿入型で、複数の暗号モジュールを使用し、文字を表示するデイスプレイまで備えていることだ。(注 当初は音声によるガイダンスは無かった。)

 ○カリフォルニアでも最初は同様のタグが使用されたがドライバーからの不満の嵐にあい、シンプルで安価なタグに取り替えた前例がある。

 ○ETCの普及率は、タグの値段で劇的に違ってくる。テキサスでは手数料が30ドル必要だっただけで普及率が40%になるまで10年かかった。実質的に手数料がゼロのニューヨークでは3年間で普及率は60%に達した。

 ○ETCを利用しやすくするために、公団は通行料金を割引いたり、タグに助成金をつけたりするプレッシャーを感じている

 TOLL ROADS NEWSLETTER   編集者(当時) Peter Samuel 

 日本のETCの道路側の設備(路側器)も極めて高価であることにも触れておきたいと思います。車載器が高いことは周知のことですが、路側器も1車線当たり1億円以上という高価なものだと言われています。(詳細未公表)償却期間を7年で計算しても1年1400万円以上。料金収受員7人分の給与に相当します。

 2007年2月からETC を導入した日光宇都宮道路で、8車線分の事業費が17億円だったと報じられました。(2月23日付 東京新聞)1車線当たり2億円になり、上記の数字の2倍になります。

 また、日本の路側器は、1車線毎に1台のコンピュータを必要とするシステムです。ETCレーンを一つ増やすと、もう1台コンピュータが必要になります。欧米では、1台のコンピュータが6車線位まで処理できる設計になっています。大抵の料金所では1台で全車線のETC処理ができます。1車線当たりの価格は数百万円のオーダーで済んでいると思われます。

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日本のETC の問題点 

 スタート直後から国交省の指導による異常なまでのETC の普及策が講じられました。「1,000円で走り放題」に象徴されるような高率の割引制度を導入したり、車載器の購入に補助金を出したり、スマートインター設置をちらつかせて地方のETC普及を促すなどの対策を強力に進めてきました。その成果が上って普及率も80%を超え、料金所の渋滞解消などの目的はほぼ達成されたと見受けられます。その点だけを見れば、それはそれで大変結構なことです。

 発足当初、誤差率が高かった車載器もその後急速に改良が加えられ、必要な精度が確保されるているようです。日本の機器メーカーの技術水準の高さには、敬意を表しておきます。

 ただ、料金収受用には不必要な高度な仕様のままであり、高価な車載器を、面倒な手続きと高い取付料を払って取り付ける不便さは変わっていません。料金割引による収入の減少と無線アンテナなど道路側の高額な設備投資が問題です。  

 これだけ普及すれば、一応、導入を指揮した国交省の面子も立った筈です。もう、この分野から手を引かれては如何でしょうか。ORSEを解散し、高速道路会社の共同運用に任せるべきです。同じ国交省の管轄でも、JRや私鉄の出改札の自動化、無人化は、鉄道各社の自主的な努力によって作り出され、優れたシステムが自然に拡がってきているのではありませんか。

 料金収受のシステムや料金割引のような、最も民間会社の経営の自主性が発揮される筈の分野にお役所が介入すること自体異常です。国交省が余分な定員を抱え、かつ、天下り先の確保に執着している証拠です。

 ETC利用車に対する割引の問題点を指摘しておきます。普及の目的は既に達せられているのにかかわらず、なぜ、まだETC利用者だけを過大に優遇しなければならないのでしょうか。

 冒頭にも書いたように、ETCの利用によってもたらされる道路側のメリットが大きいのですから、そのメリットの範囲内で割引を行うことには異存ありません。しかし「1,000円で走り放題」が選挙向けの人気取りに利用されたことは明らかです。選挙向けの人気取りではないというのなら、ETCを持たない(持てない)利用者にも、公平な料金政策として、例えば「1,500円を超えた分を半額にする」といった割引を行うべきでした。

 最も分かり易い例は、東京湾アクアラインの料金です。普通車の料金は、2014年4月現在、料金表では3,090円(開通時の計画では5,000円)になっているのですが、ETCだと800円です。国と千葉県が差額を負担していますが、それが可能ならETCなしの車も1,500円位まで料金を下げるべきです。ETCと一般車をかくも極端に区別するのは、何故なのでしょうか。

 もう一つの課題が、早急なVT (Video Toll)の導入です。当面、監視カメラの機能が果たされるだけで十分です。高速道路会社も公表をためらっていますが、無人ゲートを良いことに相当数の不正通行が行われているようです。 ETCに異常が発生した時に収受員が車の所まで駆けつける危険な状況を改善することも急務です。ETC車線を横断していた収受員が、トラックにはねられて死亡する事故も既に5件発生しています。

 もっとも、VTで車両は把握できても、通行料金の「運転者支払責任」を変えなければ駄目です。駐車違反と同じく「車の所有者責任」への早急な切り替えが必要です。

 また、料金所の渋滞は解消されたと言っても、一般道路との取り付け部分に信号があって、そこで待たされるインターが結構沢山あります。折角のETCが泣いています。一人前のETCになるまでには、まだ課題が残されています。

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「スマートインター」=「不器用なインター」

 スマートインターはETCを付けた車だけが利用できるインターの別名です。2003年頃から「社会実験」と称して運用を続けて来ましたが、2006年10月に18カ所を本格運用に切換え、その後、次々に追加され、2014年8月現在では70カ所になり、さらに約75箇所が工事中だそうです。

 スマートインターは、(1)従来のインターの間隔が長過ぎるのでSA・PAに出入り口を作れば安上がりにインターの増設が可能なこと、(2)ETC専用にすれば建設費、収受経費が安く済むこと が設置の主な理由とされてきましたが、実は(3)インター設置の要望の強い地方の市町村にETC普及の一役買わせるせること が最大の目的だったと見ています。

(1)は、そういう一面もありすが(2)は、決してそうはいきません。SA・PAに作っていたときは、工事費は安くついたでしょうが、最近では本線上に作るケースが増えていますから工事費では、普通の追加インターとほとんど差は出ません。人件費についてもETC は無人に見えますが、設備の監視、不具合発生時の現場処理のための要員が必要です。この人員は地方部の小さいインター(常時一人勤務)の収受員数と殆ど変わらないのです。

 地方部のSA・PAのスマートインターの交通量は、工場団地を控えた場所などを除けば、1,000台程度が大部分で数百台という箇所もみられます。その利用台数もそのまま鵜呑みにできません。

 あるスマートインターでは、実験段階の利用台数を増やして国交省の認可を受けるために、地元の町が特別予算を計上して、役場の車を用事もないのに毎日90回もスマートインターを利用させていたことが分かり、住民から監査請求が出されたことが新聞で報道されていました。罪深いのは国交省です。

 それはさて置き、折角「本格運用」に入ったスマートインターの利用が少ないのは如何にも「もったいない」ことです。(3)の目的も概ね達成できたのでしょうから、スマートインターを何時迄もETC専用にして置かないで、一般の車も利用できる「普通の無人インター」に作り変えるべきです。

 入口には通行券自動発券機を、出口にはクレジットカードなども使える出口用の料金精算機(新東名、圏央道などに設置済み)を置けば良いのです。自動機械の値段はETC に較べたら10分の1以下でしょう。現在の出口機械は、現金も取り扱うためやや大型ですが、Suica やPASMO などのICカードが利用できるようにすれば、更に小型で値段も安くなると思います。そうすれば利用者も数倍に増えることでしょう。

 今は本格運用とは言っても道路標識も整備されていませんし、地図にもハッキリ載っていません。「ETC 専用インター」と言うことを周知させるのは難しく、知っている人だけが使ってくれれば良いという考えでしょうか。知らないで来てしまった一般の車両に戻ってもらう手間は大変です。特に入口側では、利用者に大きな不便をかけることになります。

 大体、公共の道路でETC という特別の設備を持っている車しか利用できない道路を認めておいて良い筈はありません。警察庁の見解をお聞きしたいものですが、警察も国交省の天下り機関であるORSE に常勤役員のポストを分けてもらって、意見を控えているのでしょうか。

 こう見てくると、スマートインターとは名前だけで、実態は不便で不親切で、何よりも効率の悪い「不器用なインター」であることがご理解頂けたことと思います。一日も早く全ての車が利用できる「普通の無人インター」に改造すべきです。

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カナダのETC

407ETRの車載器(右が乗用車用、左が貨物車用)

 407 ETR (Express Toll Route) は、2001年に全線が開通したカナダ、トロント市内を走る延長108kmの有料の高速道路です。

 この高速道路が、2つの理由で、世界の注目を浴びました。第一に本格的な民営化方式で造られたこと、第二に料金所が全く無い、ETCを使った世界で始めての All-Electronic 方式の有料道路であることです。民営化については、「世界の有料道路 主要国の現状 I」のページで触れていますので、ここではETCについてだけ説明します。

 407ETRには、全線にインターチェンジが約40箇所、出入りランプが約150箇所ありますが、料金所は1箇所もありません。出入り口に、ETC機器用とビデオ撮影(VT)用のガントリーが2基一組づつ設置されているだけです。(下図参照 TOLLROADS NEWSLETTER から引用)

  ETC用の車載器(タグ)は、E-Zpass同様、フロントガラスの上端にマジックテープで貼付けます。月額で3.40C$(年額で21.5C$)の使用料で借りられますし、アメリカ東部各州で広く使われているE-ZPassでも407ETRを利用できます。

 車載器の無い車は、ナンバープレートをビデオで撮影し、車の所有者に請求します。これがVT(Video TollまたはVideo Tolling)と呼ばれるシステムです。

 車載器には、大型車は1台当り50C$の保証金が必要ですし、紛失した場合などにはやはり50C$の支払いが要求されます。 

  (注)C$・・カナダドル 1C$=約90円

 因に貨物車は車種判別が難しいため車載器の装着が義務づけられていて、警察パトロールの取締りの対象になっています。

 請求書を発行するサービスセンターと自動車登録センター(日本の陸運事務所)のデーターベースが通信回線でつながっていて、ほぼ自動的に処理されます。更に、未納金があればライセンスの更新が出来なくなるように、官民の協力体制が出来ているのも羨ましい点です。

 VT利用の場合、一回の利用につき3.95C$の手数料がかかりますから、次第にETCの普及率は高くなり、割引などしなくても、既に70%を超えています。

出口ランプの遠景  左下が407ETR本線

 料金は対距離性で、車種区分は普通車、トラック(5トン以上)、連結トラックの3区分(料金比1:2:3)です。

 ロードプライシング制も採用されていて、平日の午前7時~9時、午後4時~6時にはピーク時料金が適用され、交通量が少ない軽減区間は若干安くなります。因に、キロ当たり料金は、普通車のピーク時が28.30セント(軽減区間は26.90セント)です。 (注)料金は2014年2月現在。開通時に較べると2倍近く、2年前に較べても約7%値上げされています。

 407ETRと同様の方式のETC専用の高速道路が他の国でも増えていますが、それを可能にしているのがVTです。VTはETC 専用ではない高速道路でも、不正通行防止のために不可欠のものとされています。日本のような開閉バーが不要になり、収受員の危険な作業も無くなります。

 ビデオカメラでの撮影は、最初は不正通行取締りが目的でVES (Video Enforcement System)と呼ばれていましたが、407ETRのように、正規の収受方法として採用されるようになりました。ただし、407ETRの場合でも、後部のナンバープレートが読み取れない状態の車には、通行1回毎に50C$が付加されますから不正通行取締りの役目も残っています。 

 日本との制度上の違いが、もう一つあります。日本では、通行料金の支払い義務は、車の所有者ではなく運転者にあります。そのためナンバープレートだけでは運転者まで特定できません。この点を改めるのは、駐車違反の取扱の変更と同じで、それほど難しいことではないと思われます。そろそろ実現して欲しい長年の課題です。

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ドイツ・アウトバーンの ETC

 ドイツの高速道路「アウトバーン」(自動車道)は、ヒットラーが造ったこと、速度制限が無い*ことと並んで料金をとられない高速道路として有名でしたが、1995年1月から、12トン以上の大型車について通行料金の徴収が始められていました。道路上に料金所を作る代わりに料金支払い済みを示すステッカーを購入し、フロントガラスに貼る「ビニエット方式」を採ってきました。因に料金の額は、3軸トラックの場合1日券で約600円、1週間券で約2,000円、1ヶ月券で約7,500円、1年券で約75,000円という具合でした。 *現在は、約半分位の区間で速度規制が行われています。

 2001年8月、ドイツ政府は、料金徴収にETCを導入して走行距離に応じた料金に改めることを決定し、システム開発の遅れから2003年実施の予定よりより大分遅れましたが2005年1月からの運用に漕ぎ着けました。

 EU圏内では、フランス、イタリア、スペインなど有料道路が多く、それらの国々との公平を保つことも要因の一つですが、東西ドイツの統合による道路の改良費が相当な額になるため、利用者(原因者)に負担を求めることが必要になったことが最大の理由だと言われます。

 ドイツのETCシステムは、カーナビにも用いられているGPSと、ヨーロッパの携帯電話方式であるGSM(global system for mobile communications)を使用しています。

 徴収対象は、従来通り12トン以上の大型トラックだけで、乗用車などは当面、対象になっていませんこれは、重量貨物車が道路を痛める率が小型車に比べて圧倒的に高いからと説明されています。(乗用車と3.5トン以下の貨物車については、2016年1月からアウトバーンだけでなく全ての道路で「ビニエット方式」による課金の方針が決められています。トピックスの ドイツ・乗用車通行料金導入へ(2014年7月28日記)をご参照下さい。)

 料金は、1キロ当たり16円~21円(排出ガス量、軸数により差を付ける)で、年間の料金収入は約4,200億円、半分をアウトバーンの維持、改良費に使い、残りは「環境に優しい」(umweltfreundlich) 鉄道 に38%、内陸水運(運河)に12%が振り向けられます。同時に料金分だけ、トラックにかかる他の税金を減税し、負担増を避けているようです。

 システム開発は、方針決定と同時に有力2グループの競争で進められ、ダイムラークライスラー、ドイツテレコム、コフィールート(フランス民営高速道路会社)が共同設立した TOLL COLLECT社に決定し、運用も受託しています。内定の段階で、競争相手のボーダフォングループから決定手続に異議を申し立てる訴訟が提起され、正式の決定が遅れたことも運用開始が遅れた大きな理由になっています。

 もう一つ運用開始が遅れた原因として、システムが欲張りすぎていることにあると見ています。料金徴収の対象がトラックであることに関連しますが、料金徴収だけでなくトラックの運行管理にも使うための設計がされています。例えば車載器はタコグラフとも接続され、GPSとGMS機能を使って、運行会社はトラックの現在位置、走行スピード等の情報をいつも把握でき、労務管理にも利用できるようになっています。

コンソール型車載器(GRUNDIG社製)

     ダッシュボード型車載器(SIEMENS社製)

 欲張りのもう一つは、この車載器を付けておけば、イタリアでもフランスでも、ヨーロッパ中の有料道路のETCが全部利用できるように、5.8GHz(ギガヘルツ)の送受信機能も組み込まれています。更にアウトバーンを跨ぐ約300箇所のガントリー(下の写真)に設置された機器と車載器との交信には赤外線方式が使われています。

ドイツETCのガントリー(監視カメラ、赤外線通信アンテナ搭載)

 車載器の価格は日本の当初価格と同じく約3万円、これは国からの無料貸与ですから良いとして、取付は車輌保有者の自己負担で3~4時間かかり、工賃が3万円程度になるようです。車載器を付ければ便利(自動申告・・下図上段)ですが、付けなくても利用の都度、インターネットか、ガソリンスタンド等に設置されている端末機(toll station terminal)から登録(マニュアル申告・・下図下段)する方法があるのが味噌です。

 GPS,GMS 方式の利点は、車輌の位置確認などのための地上設備が不要になることと考えられていましたが、違反車(車載器を付けず、マニュアル登録もしていない大型車)チェックと運行情報の送受信のためのVT(Video Tolling) 機能も備えたガントリーが約300箇所、高速道路延長12,000km からみると片側で80km 毎に1箇所の割合で設置されています。この数を倍増して40km 間隔にすれば、料金収受の観点からは、カナダ・トロントの407ETR(前項の記事参照)のように、従来のDSRC方式の格安の車載器で充分ではなかったかとの疑問が残ります。

 EUからは、2014年を目標に3,5トン以上の貨物車への課金を求められいましたが、車載機の価格が高価であると言うドイツの特殊事情によって、猶予措置を受けています。12トン以下で3.5トン以上の貨物車については、ヨーロッパ標準型の導入を考えているのかも知れません。

 なお、2014年5月27日の ARD(ドイツ公共放送)の報道によれば、TOLL COLLECT社との契約期限が2015年8月で切れることから、その後の取扱が問題になっていて、議会の反対派からTOLL COLLECT社国有化の要求も出てきているようです。

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アウトバーンでの大型車の取締り   

 ドイツ・アウトバーンのETC のシステムを調べていて、大変興味深い政府の組織があることが分かりました。

 違反者をチェックできるガントリーのVT(Video Tolling)機能によって、車載器も付けず、マニュアル申告(通行の都度行なう申告)もしていない大型車を発見すると、最寄りの「取締り部隊」に無線通報が行なわれ、その車はパトカーの誘導などでパーキングエリアに引き込まれ、事情聴取されて料金(+反則金)の取り立てを受けます。

 この「取締り部隊」が警察ではなく、日本の陸運局の機動部隊と言うべき組織です。通称BAGと呼ばれる連邦貨物運輸庁(Bundesamt fur Guterverkehr=Federal Office for Goods Transport)は、11カ所の地方分局と300台のパトロール車を持ち、常時、警察、税関とも連携しながら、大型トラックの検問を行なってきています。(u は、uの上に " ウムラウト)

 重量制限、高さ制限、危険物違反、運転時間などの他、ETC 導入まで実施されていた「ビニエット」のチェックも行なっていました。ビニエットチェックに代わって、ETC 違反者の取締りに当たることになった訳です。下にBAGの活動する場面の写真を掲げておきます。

違反車両の誘導
タコグラフのチェック
積荷の高さ測定
危険物運搬車の消化器点検

 カナダ・トロントのETC 専用高速道路でも、警察が本線上をパトロールして料金違反車を摘発します。トロントの高速道路は民営会社の経営ですが、その「売り上げ」に警察が協力することが州政府の民営会社に与えた営業免許の中に条件として書かれています。

 最近、日本各地で大型車による死亡事故が目立ちます。欠陥車によるものは論外としても、積載オーバーや過労による居眠り運転が原因の事故が多いようです。事故が起こってから運送会社を立ち入り調査するよりも、日頃からBAG のように直接、道路上で車両、運転手をチェックする体制を整備すべきではないでしょうか。

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世界のETC運用の動向   

イスラエル高速道路のETC 路側システム

2つのガントリーの前方がETC アンテナ 手前がVT 用のビデオカメラ

 世界のETCに関する昨今の関心は、前にも触れましたが、本当のノンストップ=料金所の高速通過 Open Road Tolling (ORT)の実現と、更に進んで料金所のいらないAll-Electronic Tolling (AET) 方式の有料道路の建設に向かっています。

 料金所のいらない有料道路の建設は、カナダのトロントの407ETRが成功の見本になり、新しく計画される高速道路で盛んに進められています。シドニー、メルボルンの都市高速道路に次いで、イスラエル、チリなどで、407ETRと同様のシステムによる料金所の無い有料道路が、次々に出来ていますし、ドイツのアウトバーンもこの方式の有料道路に変身したと言えます。

 2009年7月にカナダ・バンクーバー郊外にカナダ西海岸では始めての有料道路 Golden Ears Bridge (橋長 2410m、取付け道路全長 約13km) が開通しましたが、この道路もAll-Electronic Tolling方式です。

 料金所があっても、その料金所の中央部分をETC車が本線と同様のハイスピードで通過できる「高速レーン」Open Road Tolling (ORT)、 Electronic Toll Express Lanes(ETX)に改造する動きも活発です。

Kilpatricターンパイク料金所配置図

 1991年に開通したオクラホマ州のKilpatricターンパイクのように、最初からETC車がスピードを落とさずに料金所を通過できるように建設された例もありました。

 ETC車載器を付けていない車だけが本線から外れて、料金所で停車します。開通直前にETCのテストを見学しましたが、本線通過車両は160km/hでの読み取りテストを繰り返していました。

 この場所は、均一料金の道路ですが、対距離料金のところでもExpressレーン化が進んでいます。ペンシルバニアとニューヨークを結ぶ幹線道路、ニュージャージー・ターンパイクの例をご紹介します。

 NJターンパイクは、1951年に完成しました。本線延長が190kmですから、ほぼ名神高速と同じで、両端が他の高速道路に接続しているのも似ています。大部分が6車線に、混雑区間は最大14車線にまで拡幅されています。紹介するのは西側の本線バリア(インターチェンジNo.1)です。

NJターンパイク No.1 本線料金所 右上がニューヨーク方向

 この料金所は在来のバリアの場所を東寄りに移設する形で作られました。Express レーンが中央寄りに両方向2車線ずつ、普通車線が入り口側に5車線、出口側に14車線あります。普通車線は全部がETC共用レーンで、ETC専用レーンに切り替えることもできます。ETCには、E-ZPassが使われています。

 中央の建物が料金所事務室で、その2階部分から、収受員の連絡通路が左右に延びています。ETCの平均利用率65%で、料金所渋滞は解消されています。

左2車線が出口Expressレーン
Expressレーンのビデオカメラ

 このような方式が日本の本線料金所でも実現できないでしょうか。残念ながらかなり難しそうです。理由は、日本のシステムが、まだ VT(Video Tolling)の無いシステムであること、ETC の道路側設備が高価過ぎて経営上のマイナスが大きいことが障害になると思います。道路用地が狭くて両側レーンの加減速車線の確保が難しいという制約が一番大きいかもしれません。

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ヨーロッパETC基準」統一完了

 2009年10月7日の日経夕刊に「欧州全域にETC 3年以内システム統一」という記事が掲載され「現在、国や地域ごとに異なるシステムを3年以内に共有化し、EUの加盟27カ国のすべての有料道路が一つの車載器で利用できるように、欧州自動料金収受サービス(EETS) の技術仕様・条件を決めた。」と報道されました。計画通りに進んでいれば、そろそろ完成している頃です。

  EETS は European Electronic Toll Service の略号で、EC ( European Commission ) の副委員長で交通問題を担当するAntonio Tajani 氏は「EETS によって道路利用者は、一つの契約手続と一つの車載器によってEU加盟のすべての国で料金の支払いが可能になる。ドライバーにとって出入国管理の廃止以来の最も重要な改善だ。」と述べています。

 ヨーロッパでは、1989年にイタリアが最初にETC を採用したのが始まりですが、最近では2005年から、ドイツが GPSを利用した独自のシステムの運用を開始したように、国によってシステムが違い、ポルトガルからデンマークまで走ると5個以上の車載器が必要な状況が続き、これらを統合する作業が2004年の EU の決定に基づいて行われてきました。

 この活動は RCI ( Road Charging Interoperability ) プロジェクトと名付けられ、ERTICO( European Road Transport Telematics, Information Coordination Organization )とよばれるEUの産学官共同の ITS 推進組織が中心になって進められました。2008年3月からのフィールドテストも完了し、11月に最終報告書が作成されました。今度の決定はこの報告の承認です。(左図は報告書の表紙)

 現在、ヨーロッパには大別して2タイプ、6グループの ETC システムがあります。第一のタイプが DSRC=専用狭域通信と呼ばれるマイクロ波を使う方式で、イタリア、フランス、スペイン、オーストリアを中心にした国がこのグループに属します。第二のタイプがGNSS ( Global Navigation Satellite System =GPS )を利用する方式で、ドイツ、スイスを中心にしたグループです。この2タイプ、6グループのシステムを統合する車載機の共通仕様が決められた訳です。

 ERTICO がまとめ役になり、各国の有料道路事業者やその連合体にETC 機器の製造業者も参加していますから、実現性が保証されている筈です。3.5トン以上のトラックとバス用の車載器が3年以内に供給が開始され、5年以内には乗用車用の製品が出回る計画なのですが、残念ながら2014年8月時点で、具体的な成果についての報道は聞かれません。。

 有料道路の料金収受の機器としての利用だけでなく、広く「道路課金」に使われることが予定されているものですし、この研究、開発、フィールドテストなどにかかった経費は、全額をEC が負担しているのですから、そろそろ具体的な成果が出て来ることを期待しています。

 日本では、2014年に入って国交省から"ETC2.0"と称する計画が発表されました。「もうETC (料金収受)だけじゃない」というキャッチフレーズを掲げていますが、料金収受にも不要な過大な機能を持ったETC機器を普及させた上に、更に何が本当の目的なのか見極めることが肝要です。

 国交省の権限拡大と、職員の天下り先の確保の意図が隠されていることを見抜き、慎重に対応を考えて下さることを希望します。

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