園子温監督、ハリウッドへ「日本のプロセスに飽き飽きした」
これまでに数々の国際映画祭で受賞し、全くの無名だった吉高由里子をはじめ、満島ひかりといった女優たちの埋もれていた才能をも次々に開花させていった映画界の鬼才・園子温監督。5月にハリウッドにおけるデビューを明かした園監督がこのほど、自由について縦横無尽に語り尽くした『獣でなぜ悪い』(文藝春秋)を上梓した。「自由でいるために挑み続ける」という園監督に、映画業界の今と今後の自身の展望について聞いた。
──ご本に公私のパートナーである神楽坂恵さんのことやご家族のことも綴られていましたが、実は勝手ながら、園監督は結婚をされない主義なのかと思っていました。
園監督(以下、敬称略):ぼくも結婚すると思ってなかったの。
──女優には興味がないとおっしゃっていましたが、神楽坂さんには特別な何かが…?
園:なんだろうな、『冷たい熱帯魚』と『恋の罪』っていう映画で裸の濡れ場も体当たりでやってくれたのを見て、責任を持とうかなっていうか(笑)。まぁ、傷物にしたなぁって感じで、ぼくが面倒みます、みたいな気持ちが多少なりともあったと思うけど。まぁ、いろんなタイミングだと思いますね。
──監督にとって神楽坂さんはどんな妻であり、女優でしょうか?
園:女優という目で見てないです。だってそもそも最初は人間、女性でしかないから。そういう意味で、今の若手の女優には魅力を感じることがほとんどないんですよね。人間力が少ないから。女優としてチヤホヤされてるけど、他に何か尊敬すべき点がないというか。その点、自分の奥さんは、女優であるかどうかは全く関係なくすごく尊敬しているんです。いつも落ち着いて、非常に的確な判断をしてくれるからうれしいなと。
◆活動の場を海外へ
──今、中国の仕事も増えてきていると。活動の場が広がっているのでしょうか?
園:さまざまな国にさまざまな価値観があって、その中では確実に日本での立場とは変わるので、それを面白がるのは非常にいいなと思いますよね。
──低予算の映画からビッグバジェットの映画製作まで経験して、今はまた原点に立ち返りたいとのことですが?
園:日本で映画を作る時にはビッグバジェットで作る意味なんてひとつも感じられないんだけど、何か面白い映画なら低予算でも作りたいなと思いますけどね。今はハリウッドで映画を作ることを中心に考えていて、来年はニコラス・ケイジ主演でアクション映画を撮ります。エンタメに関しては今後ハリウッドを中心にやっていこうかなと思ってます。
──この先はステージを日本からハリウッドへ?
園:日本人の監督がひとりもあっちで活躍できていないのは情けないなと思っていて。
──アメリカではどのように活動していく予定ですか?
園:まず向こうでずっとやり続けるっていうことですね。みんな1本くらい撮ったらすぐ帰ってきちゃってるので、まずは持続してやり続けるのが大切かなと。
──日本での映画はしばらくは?
園:日本人に向けて、日本で撮るべきものがある時だけやりますけど、予算も少ないのにエンタメをわざわざ日本で撮る必要がない。日本なんか製作費2億とか、大きくても15億ぐらいが精一杯っていうのが、今の日本の製作費の状況。15億っていったら、ニコラス・ケイジのギャラなんで(笑)。そういう意味でハリウッドで勝負するのは面白いです。
最初はいわゆるハリウッド的なアクション映画を撮るんですが、ゆくゆくはオリジナルの自分の映画を中心に活躍したいなと思ってるんですけどね。
──すると来年は外国にいる時間の方が長い?
園:それはわからない。完全に住居を移すかどうかはこれから考える。アメリカはでかいじゃないですか。NYに住んで、ロスでミーティングするぐらいだったら、別に日本にいるのとあまり変わらないんですよ。飛行機移動のこと考えると。
──日本の映画業界は縮小しているようですが、これから監督も俳優も全て、関わる職種は厳しくなってくると?
園:日本は世界でもどんどん最低の部類になってますね。どうなっていくんだろうなってみんな危惧はしてる。人手不足の問題もあります。助監督のなり手もいなくなってきていますから。スタッフが足りなくて、もう素人を使おうと思ってるくらい。ギャラが少なすぎてみんな辞めていっていますね。本当にね、このままだと映画の製作現場からどんどん人がいなくなっちゃう。
──それは心配ですね。日本でいい作品を作りたくても予算が…
園:やっぱりこの先、日中合作とかいろいろやって視野を広げないと。日本だけでやってると厳しいですね。
──おそらく中国と日本では俳優のギャラが全然違うと思うのですが?
園:全然違うどころか天文学的に違うよ。
──それでは日本の俳優もハリウッドに限らず、外に出て行くべきでは?
園:ハリウッドは難しいから中国にするといいね。中国だったらまだ可能性はすごくあると思う。中国語が話せなくてもアフレコで大丈夫なら、役者は中国目指した方がいいと思いますね。
──日本の映画業界で監督が闘っているのというはどういうところでしょうか?
園:今はもう、闘いもしてないんで思い出の話になっちゃって(笑)。日本のプロセスに飽き飽きしちゃったからアメリカ行くってのもあるんだけど。日本で映画を作ると映画祭に行って、映画祭で評価されて、その反響でヒットを狙う。そんなサイクルを一生やり続けるなんて疲れるし嫌だなって。アメリカ行っちゃえば映画祭になんて出さなくていいから(笑)。流通的に、ハリウッドで映画祭に頼る映画なんて観たことない。そのまま公開するだけなんで。
──映画祭は重視されないんですか?
園:彼らの社会ではヨーロッパの映画祭なんて価値がないので何の武器にもならないですよ。たとえば『シェイプ・オブ・ウォーター』って映画はベネチアでグランプリ獲りましたけど、アメリカでそれは売りにならないからポスターに全然載せてない。それより、まだ賞を獲る前だったので、ゴールデングローブとかアカデミー賞とか、国内でノミネートされたことをポスターに出してる。
彼らはヨーロッパの映画祭とかコンペでの評価に全く興味がないんですよね。逆にいうとわざわざ出さなくてもプレスの力があるということでもある。世界映画祭ってプレス力のない小国のためのものなんですよ。小さな国が世界に発信するときに、世界映画祭に出すことでやっとちょっと広がる、そういう意味があるんです。サッカーも似たところがあるよね(笑)。
──監督は、人は単独者として力強く生きていくことが大事だと説いています。芸能界ではグループを出てそれぞれの活動を始めた元SMAPを応援する気持ちもあり、『クソ野郎と美しき世界』の監督を引き受けたと。少しずつですが、個々の力を発揮する時代に変わりつつありますか?
園:そうだな…、今もうどんどん日本に手厳しくなってるから(笑)
──手厳しい意見、お願いします(笑)
園:う~ん、まぁ、日本社会はまだまだ甘いと思う、実力主義にならないから。たとえば海外の番組でアメリカンアイドルとか、歌番組のコンテストって、日本と違って外見の良さとかではなく、めちゃくちゃうまい才能のある人しか、のし上がれないじゃないですか。そういう実力主義なところがはっきりスポーツ以外でも出ないと、もう文化は育たないと思う。
こんなにスポーツ番組が多い国もなかなかないなというか、日本って珍しい国で、テレビつけると料理かスポーツばかり。文化への関心が低すぎるんで、とにかく文化度を上げていかないと。オリンピックも近いけど、オープニングの催しも、恥ずかしくなく出せる水準のものが作れるんだろうか。だから演技が良ければ顔は関係ないとか、歌もそうだし、実力主義的なところをもっと芸能にも取り入れていくべきだと思っています。
【園子温(その・しおん)】
1961年愛知県生まれ。映画監督。1987年、『男の花道』でPFFグランプリ受賞。以後、『自転車吐息』『自殺サークル』『紀子の食卓』など多数作品が世界でも高く評価される。『愛のむきだし』で第59回ベルリン国際映画祭カリガリ賞、国際批評家連盟賞をダブル受賞。『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』『地獄でなぜ悪い』など数々の国際映画祭で受賞。他に『希望の国』『TOKYO TRIBE』『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』、オムニバス作品『クソ野郎と美しき世界』など。