関脇御嶽海(25=出羽海)が、涙の初優勝を果たした。勝てば優勝の一番で、平幕の栃煌山を寄り切りで下した。名門出羽海部屋では80年初場所の横綱三重ノ海以来38年ぶりで、節目となる50度目の優勝。長野県出身、平成生まれの日本出身力士では初めてなど、記録ずくめの優勝となった。
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「泣くつもりじゃなかったのになぁ」。優勝直後のNHKのインタビューで、御嶽海は涙が止まらなかった。普段、泣く“キャラ”とは見られていない。だが、こういうときに心優しい「素」の一面があふれた。
92年12月25日深夜0時。御嶽海はまだ、母マルガリータさんのおなかの中にいた。予定日は10日後。母は故郷フィリピンでカトリック教会のクリスマスパーティーに参加していた。すると腹痛を覚え始めた。「豚の丸焼きの食べすぎかな?」。深夜3時にはもう耐えられない。診てもらうと「あれ、もう産まれるよ」。
料金が高いため病院に行くことを敬遠しがちなフィリピンでは、めでたいクリスマスだけ無料。朝5時46分、とても親孝行な息子の誕生だった。「クリスマスジャストに生まれたから、ミドルネームは『ジャスティン』」(母)になった。
やんちゃでわんぱく。“ジャスティン”久司少年は長野の自然に囲まれて自由に育った。父春男さんに「絶対するな」と言われたケンカもこっそりした。ただ、自分より強い人とだけ。
後に保母さんに言われたことがある。生まれつき障害のある子と手をつないだり、遊戯を嫌がる園児が多い中で「久司くんは違ったんです」。運動会では自分が1番に走り終えた後、その子が困っていると戻って一緒に手をつないで走った。助けなければいけない人を守る-。「小さいときから、そういうところはあったね」。父は振り返った。【今村健人】
<御嶽海久司(みたけうみ・ひさし)アラカルト>
◆本名 大道久司(おおみち・ひさし)
◆生まれ 1992年(平4)12月25日、長野県木曽郡上松町生まれ。父春男さん(69)、母はフィリピン出身のマルガリータさん(48)。180センチ、167キロ。血液型O。
◆相撲のきっかけ 運動神経に自信があった小学1年の時に長野・木曽町の大会で相撲に初挑戦したが、体が小さい子に負け、悔しさからのめり込む。小学生の時は父と約束し自宅の庭石の上で毎日400回、四股を踏むことを日課に。
◆プロ入り 長野・木曽青峰高から進んだ東洋大4年時にアマチュア横綱と学生横綱の2冠。当初は和歌山県庁に就職が内定していたが、出羽海親方(元前頭小城ノ花)の説得でプロ入りに傾く。反対する両親を説得して、クリスマスイブ直前に決断した。幕下10枚目格付け出しで角界入り。同期は北勝富士、宇良ら。
◆しこ名 故郷の長野県木曽郡にある御嶽山から「御嶽」を、出羽海部屋から「海」をもらった。「長野には海がないので、自分が“長野の海”になろうと思った」。
◆スピード出世 15年春場所で初土俵を踏み最速タイの所要2場所で新十両昇進を決める。長野県出身力士では、元幕内大鷲以来47年ぶりの関取。さらに15年九州場所で、史上2位タイの所要4場所で新入幕を果たす。
◆若手のリーダー 16年九州場所で新三役。その場所は負け越したが、17年はただ1人、年6場所すべてで勝ち越し。同年春場所から三役に定着しており、次の目標は長野県出身で江戸時代に活躍した伝説の力士・雷電以来の大関。
◆好物 すし、プリン。プリンは自分で作ることも。
◆好きな力士 武双山。
◆特技 母の母国語のタガログ語を話せる。
◆趣味 ダーツ。
◆おちゃめ サービス精神旺盛で、巡業では塩をわざと客席に向けてまいたりするパフォーマンスも。今場所前の七夕企画では、短冊に「イケメンになる」と書き込んだ。