43歳ライター「わが熱中症体験記」~本当に、死の危険を感じて… 甘く見てはいけない。命を守るために
今年の夏の暑さは異常だ……と思っていたら、熱中症になってしまったライターの嶺竜一氏(43歳)が、本当の危険性を、実体験をもとに語る――。
孤独死で一番多いのは熱中症
5年ぶりに最高気温40度を記録。日本列島が文字通りの猛暑に襲われている。7月12日~18日までの1週間で1万人以上が熱中症の症状を訴えて病院に救急搬送され、治療を受けているという。
そして、この40度に近い猛暑が7月いっぱい続く見込みだというから、恐怖である。
筆者がかつて取材した特殊清掃業者(腐敗した遺体及び室内を掃除・リフォームする業者)の話で印象に残っているのは、孤独死で清掃の仕事に呼ばれるケースで最も多いのが、熱中症だということだ。
夏の夜、ベッドや布団の上で熱中症にかかり、動けなくなり、そのまま人知れず息をひきとる。あがいた様子もなく、寝た姿勢のまま腐敗しているケースが多いのだという。
真夏の遺体は数日で腐食し、皮膚が破けて全身から脂と体液が流れ出し、筆舌に尽くしがたい状態になるそうだ。通報される要因は、たいていは異臭なのだが、「天井から凄く臭い液体が垂れてきた」という下の階の人からの通報で発見される例もよくあるという。
特殊清掃業者の社長は、「数十年前に比べて日本は格段に暑くなっている。寝るときに冷房を切るのは、最も危険な行為。冷房はつけたまま、枕元にミネラルウォーターを置いて寝てほしい」と切に語っていた。
「熱帯夜」(最低気温が摂氏25度を下回らない夜)という言葉が昔ほど聞かれなくなったのは、それがあまりにも当たり前になってしまったからだ。
今週もすでに多くの方が熱中症で亡くなっている。熱中症は、症状が悪化すれば突然死に至る危険なものである。にもかかわらず、こんな灼熱地獄の中でもランニングをしたりゴルフをしたりしている人がいる。
熱中症を甘く見ている人は多いと思う。若いから平気だろうとタカをくくっている人もいるだろう。
また、熱中症は「一時的に具合が悪くなる」症状だと思ってはいないだろうか。冷房の効いた部屋に移動して経口補水液を取って安静にしていれば程なく治るものだと思っていないだろうか。だとしたらそれは、とんでもない思い違いだ。
そこで、私が先週末に身をもって体験した熱中症の、恐るべき症状について伝えたい。
死をも意識した
7月15日午前、私は神奈川県道志川のキャンプ場で、熱中症を発症した。それはもう、経験したことがないほどの、具合の悪さだった。
14日の夕方から道志川の河原のテントサイトにキャンプを張り、友人と焚火をしながら深夜3時まで飲んでしまった私は(睡眠不足も原因の一つ)、朝7時のとんでもない暑さに飛び起きた。
前日、キャンプ場が混んでいたために、木陰にテントを張ることができず、原っぱに張ったテントは、朝の直射日光によって、一瞬で高温サウナになった。そして、私も2歳の息子も、あわててテントを飛び出した。
別のテントで寝ていた友達親子も飛び起きてきた。4人はタープの下に隠れながら子供に食事を取らせたが、私は全く食欲がわかなかった。私はクーラーボックスに入っていたお茶を飲んだ。
私は次第に気持ちが悪くなり、血の気が引いて貧血のようになった。タープの下で椅子に座っているのもしんどくなって、横になりたくなったが、横になれる場所はテントしかない。風が通ればいくらか涼しくなるだろうとテントの窓を全開にし、一人ふたたびテントの中に戻って横になった。
それから10分、15分ほど経った頃だろうか。あまりの暑さに命の危険を感じ、汗びっしょりでテントを這い出した私の平衡感覚は、明らかにおかしくなっていた。頭が痛く、とんでもない吐き気に襲われる。そこで私は生まれて初めて、「熱中症」を体感した。
なんとかしないと危険だ。幼い息子も危ない。そこで私は息子の手を引いて自販機に行き、息子にリンゴジュースを、自分にアクエリアスを買って、日陰を見つけて倒れこんでガブ飲みした。
それでも暑くてたまらない。キャンプ場には冷房の効いた逃げ場がない。本当に身の危険を感じ始めていた私は、息子の手を引いて吊り橋を渡り、支流の沢に入った。沢は、木が覆いかぶさっていて、下には水が流れていたため涼しかった。
おそらく直射日光の当たっていた河原よりより5℃から8℃くらい涼しかったと思う。小さな滝の下にたどり着き、膝から下を川に漬けて倒れこんだ。息子は沢で遊んでいたが、私は2時間ほどの間、ピクリとも動けなかった。
日が暮れるまでずっとそこにいたいぐらいだったが、そういうわけにもいかない。飲み物もないから、危険だ。なんとか午後1時にキャンプ場に戻ったら、相変わらずの灼熱地獄であった。しかし友達は撤収作業を始めていたため、私も作業に加わった。
友人親子は暑さ対策のため、30分の作業ごとに、川に浸かって体を冷やすというルールを作っていた。私もそれに従い、少し作業をして死にそうになったら、息子を浅瀬で浮き輪に入れて浮かべ、自分の身体を川に沈めた。キャンプの撤収が終わるまでの2時間ほどで、3回、川に入った。
しかし川にも直射日光が照りつけていたため、体は冷えても頭はクラクラしたままだ。
片づけを終えて3度目に川に入ったとき、突然、右足の中指が攣った。手で攣った指を伸ばす。すると今度は、左足の中指が攣った。手で左足の指を伸ばすと、今度は右足の薬指が攣る。あわてて薬指を伸ばすと、今度は左足の薬指も攣った。
両足の指が4本攣っている状態になった。必死に腱を伸ばすが、攣ったまま、元に戻らない。どうしようとも治らない。こんなことは生まれて初めてだった。浅瀬に逃げ、身体を引きずって陸に上がり、10分ほど休んでいるとようやく治まった。
友達が車を取ってきて冷房を入れてくれたので、車に逃げ込んだ。後で調べてみると、熱中症は筋肉の硬直・痙攣を引き起こすらしい。
1週間経っても治らない
なんとか帰宅して、倒れるように眠ってから、今日で7日。21日土曜日、未だ熱中症は治っていない。この間、冷房の効いた部屋で、ほぼ寝込んでいた。体中の筋肉が痛く、だるくてほとんど動けない。外に出るなんてとんでもない。寝っぱなしというぐらい寝ていた。
部屋を出てトイレなど少しでも暑いところに行くと、たちまち頭がふらふらし、気持ちが悪くなる。全身が痺れ、一瞬で身体が熱を帯び、すぐに汗が噴き出してくる。脈が速く、下痢が続いている。
あと、これは熱中症と関係があるのかわからないが、あちこち蚊に刺された痕が腫れたまま、かゆみがいっこうにひかない。
私は熱中症の恐ろしさを、今この時も身をもって体感しているのである。
<熱中症の後遺症とは>
日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2015によると、熱中症の症状は�度~�度に分けられるそうだ。
�度:めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、筋肉痛、筋肉の硬直(こむらがえり)意識障害を認めない
�度:頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下
�度:中枢神経症状(意識障害、小脳症状、けいれん発作)、肝・腎機能障害、血液凝固異常
とある。私は�の症状はすべて当てはまり、�の症状はほとんど当てはまるので、かなり危ないところまでいったのだと思う。
これほど長引くとは……
熱中症にならないためにはどうしたらよいかといった情報は、連日報道されており、また、ネット検索すればたくさん出てくるのでそちらを参照してほしいが、私がここで伝えたいのは、熱中症が危険だということに加えて、後遺症が相当に危険だということだ。
熱中症が相当に危険で、症状が悪化すれば死に至ることがあるのはご存じの通りであり、私もそうした知識はある程度持っているつもりだった。
しかし私は、熱中症の後遺症についての認識はほとんど持っていなかった。水分と塩分を取って、涼しい場所で安静にして対処していれば、体調はほどなく元に戻るものだという程度に甘く考えていたといえる。
熱中症の症状がこれほど長引くものだとはまったく思っていなかったのである。
調べてみると、熱中症の後遺症はかなり恐ろしい。�度になってしまうと、内臓や神経などの身体機能が破壊されてしまっているため、救命救急措置を経て命を繋いだあとも、長期にわたる治療を要することになる。
�~�度であっても、体調がもとに戻るまでに数日から1週間程度を要するのが一般的で、1ヵ月以上かかるケースも珍しくないという。しかも一度熱中症になった人は再び熱中症にかかりやすく、かなり慎重に行動するべきだ、ということだ。
まさに私がそれである。
今年の夏はもう海にもキャンプにも行けない。行く気にもならないが。
命の危険を意識してほしい
今年の暑さははっきり言って異常だ。異常すぎる。
私が熱中症になった道志川は決して標高の高いところではないが、それでも山間部で、川が流れているところである。平野部よりは涼しかったはずだ。さらに、何度も川に入って体を冷やした。それでもこんなに酷い目にあっている。
そしてここ数日、冷房の効いた部屋を転がりながら私は、日本全国でとんでもない数の熱中症患者が発生しているだろうと想像し、実際に、熱中症で搬送されたり、亡くなられた方のニュースを読み、恐ろしさに震えている。
西日本豪雨の被災者の方々、支援の仕事やボランティアの方々、屋外で仕事をされる方々、外回りの営業マン、接待ゴルフの人、スポーツマン、ファミリー…。
とにかく、気を付けて欲しい。この週末、気軽に屋外に遊びに行かないで欲しい。
「水分補給をこまめに」なんてレベルじゃない。命が危険だ。