近藤雅樹。関東近郊に住む、今年で31歳になる男性だ。
ただ、31歳と思っているのは自分だけで、もしかしたら、自分が「誕生日」と思っている日は自分と全く関係ない日かも知れない。
雅樹には戸籍がない。役所に何度も相談に行き、裁判所に申立てを行なったが、「日本人であるか否か」すら確定されない。
無国籍・無戸籍状態。
それでもこの日本で生きている。
「うちはあんたの本当のオカンやない。あんたのオカンはあんたを産んで間もなく死んだんや」
雅樹がそれまで「母」だと思っていたオカンからそう聞かされたのは14歳のときだ。
本当のオカンには戸籍がなく、託された義母は雅樹を登録することができなかったと言う。
雅樹は義務教育も受けていない。近所の同年代の子どもたちがランドセルを背負って登校する姿を見ながら、この国には「学校で勉強するグループ」と「家で勉強するグループ」があって、自分は後者だと思っていた。
まるで「誰も知らない」(是枝裕和監督)そのものの生活。
義母の紹介で働き始めたのは16歳のとき。会社の寮に住み始める。
19歳で自分を証明する全てを失う。義母が火災に巻き込まれて死亡したのだ。
以来、雅樹はひとりで生きて来た。どこにも登録されないまま、行政からの援助はもちろん、保険証すらない状態の中で、「自分は誰か」を問い続けながら。