自国第一主義を貫いて同盟国に負担増ばかりを求め、連帯感どころか敵意すら感じさせる-そんなトランプ米大統領に、欧州は愛想を尽かしているようだが、安全保障にきしみが出てはなるまい。
米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)は、二〇一四年のロシアによるクリミア半島併合後、各国の防衛費を二四年までに国内総生産(GDP)比2%とする目標を設定したが、満たしているのは二十九加盟国中、3・57%の米国など五カ国だけ。不満を募らせていたトランプ氏は、十一日のNATO首脳会議で突然、目標を4%に倍増するよう要求した。
共同宣言は「2%以上の目標達成」に落ち着いたものの、宣言採択直後のツイッターに「GDPの2%を支払え。直ちにだ」と不満たっぷりに投稿した。
一九四六年、米国で演説したチャーチル英元首相は「鉄のカーテン」が下ろされたと冷戦の到来を指摘し、米英の「特別な関係」の大切さを訴えた。NATOはその三年後、ソ連の脅威に対抗するため設立された、七十年近い伝統を持つ絆だ。当時、ソ連が交通封鎖した西ベルリンに、米国などは食料を空輸し続けた。そんな歴史が培ってきた同盟国の米国に対する感謝や親愛の情を、トランプ氏の言動は踏みにじるかのようだ。
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は「お金は大切だが、真の連帯はもっと大切」と苦言を呈し、二〇〇一年の米中枢同時テロ後、米国との連帯のため、欧州諸国からアフガニスタンへ派遣した兵士の犠牲者は八百人以上に上る事実を軽視するな、とも訴えた。
温暖化防止のための「パリ協定」や、イラン核合意からの離脱など、トランプ氏の米国は、欧州が協調してつくり上げてきた政策を次々と否定してきた。米欧の溝は深まるばかりだ。
米国への思いが冷めつつある欧州は、中国への接近が目立つ。
事実上獄死した中国の民主活動家、劉暁波氏の妻、劉霞さんをドイツが受け入れた。メルケル首相が李克強首相と交渉し、中国を軟化させた。今月半ばにはトゥスク氏、ユンケル欧州委員長が訪中する。貿易問題で米国との溝が深まる中国にとっても欧州との安定した関係は重要だろう。
国際協調を重視していた米国はすっかり様相を変えた。これまでの付き合い方はもう通用しない。
欧州の模索は、米国一辺倒からの脱却を考える上で示唆に富む。
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