「戦争」に例えられるほど激しさを増す米中の貿易摩擦は、両国による経済覇権の争いを示している。間に立つ日本は何をすべきか。目の前の現実と役割を冷静に見極める時を迎えている。
世界の経済の約四割を占める米中の報復合戦が日本や世界経済に及ぼす悪影響は貿易や投資、生産や消費の萎縮などいくつもの試算が公表されている。新たな不況や紛争、悲劇につながりかねない。トランプ大統領と習近平国家主席に、自省と自制を強く求めたい。
米中の対立は何を示し、何が起きているのか。内外でさまざまな議論が繰り広げられている。
一九八九年のベルリンの壁崩壊から冷戦が終結し、一党独裁、計画経済に対する民主主義、市場経済の勝利は「歴史の終わり」と語られた。しかし目の前の現実は、衰えの見え始めた民主主義のリーダー米国と、台頭する新興勢力で一党独裁の中国との安全保障もからむ先端技術の争い、経済覇権争いの様相を強めている。
民主主義国ではグローバル化と金融資本主義の膨張が二〇〇八年のリーマン・ショックとなり、米国はもちろん、欧州にも広がった深刻な経済格差と分断は収まる気配がない。
一つは米国が主導し、築いてきた自由貿易や多国間主義、自由や民主主義という価値観を自ら否定し、壊そうとしていることへの厳しい批判だ。
その一方で、既得権益の恩恵を独占するエリート層への抗議、固定化した秩序への反発がトランプ大統領を支えているという現実もある。
崩れかねない多国間の貿易の枠組みに米中を引き込み、保護主義や排斥ではなく、ルールと国際協調、自由な貿易を維持する地道な努力は不可欠だ。
アジアでは豊かな国が増え、中国は経済力ですでに日本を超えている。この地域の安定と繁栄には中国、韓国との確かな信頼関係を保つ必要がある。
短期的には多国間貿易の枠組みをしっかり堅持することだ。もとより日本は貿易立国であることを忘れてはならない。
長期的には富の再分配で、より平等で堅実な社会のあり方を世界に示すことも大きな意味を持つはずだ。
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