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【社説】

夏山シーズン 十分備え、無理せずに

 夏山シーズンが本番だ。ただ山の事故には、十分気を付けてほしい。昨年一年間の山岳遭難は統計を取り始めて以来最悪だった。山に親しむのなら、事前準備を怠らず、無理な行動は極力避けたい。

 中高年を中心に、登山ブームは相変わらずのようである。沢登りなども含めた広い意味での登山人口は、国内で七百万人は下回らない(レジャー白書など)という。

 ブームを背景に山岳遭難も高水準で推移。特に昨年は、警察庁のまとめでは、全国で一年間に二千五百八十三件(前年比八十八件増)発生、遭難者は三千百十一人(百八十二人増)、うち死者・行方不明者は三百五十四人(三十五人増)で、どれも統計が残る一九六一年以降で最多だった。

 遭難者の特徴は近年、ほぼ同じ傾向が続いている。

 まず、中高年の事故の多さだ。昨年も、六十歳以上が遭難者の半数を超え、同じく死者・行方不明者の六割余を占めた。

 事故の形態は滑落・転倒などより道迷いが四割を超え一番多い。遭難者全体の三割以上が単独登山であることも毎年同じである。

 変化があるとすれば、訪日外国人の増加で外国人の事故が増えてきたことだ。スキー場のコース外を走るバックカントリースキーなど雪山でのケースが多いが、昨年は、二〇一三年の二・八倍の百二十一人が遭難した。今後は長野県などが行っているような多言語での啓発がより必要になろう。

 中高年や初心者らに心掛けてほしいのは、力量に合った山選びやゆとりある計画、装備の選択など事前準備の徹底である。

 単独登山は深刻な事故につながりやすく、なるべく控えたい。また低山ほど登山道や標識などが未整備で侮ってはならない。

 事前準備では登山届の警察などへの提出が命綱だ。日程やルートが分かり、万一の際、迅速な安否確認や救助に役立つ。例えば、岐阜県は条例で北アルプスや御嶽山、白山の入山者に提出を義務化したが、提出率が上がったという。今はインターネットのアプリなども使え、必ず出したい。

 昨年三月、長野県の消防防災ヘリが松本市内の山中に墜落、隊員九人が亡くなった。これは訓練中の惨事だったが、山岳遭難では助ける側も時に命がけだ。

 山は常に危険と隣り合わせ。猛暑期には熱中症の恐れもあり、天候異変や体調不安を覚えたら引き返す勇気を持つことが、命を守る鉄則だ。

 

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