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【社説】

欧州難民危機 決裂回避へ粘り強く

 難民受け入れを巡る欧州連合(EU)、さらにはドイツの政治対立はともに、新たな難民施設設置で合意し、決裂の危機はひとまず回避した。対応の具体化に向け、粘り強く話し合いを続けたい。

 先月末のEU首脳会議では、人道的に救うべき難民か、それとも就労目的だけの不法移民かを審査する施設を、北アフリカなどEU域外のほか、EU加盟国にも新たに設けることで合意した。

 地中海を渡る難民らの玄関口となっているイタリアは、受け入れの分担を強く求めている。新政権は反移民を掲げる極右政党「同盟」と、ポピュリズム(大衆迎合主義)色の濃い「五つ星運動」が連立を組む。首脳会議にも強い姿勢で臨んでいた。

 しかし、難民施設設置場所は具体的に決まっているわけではない。到着国での難民申請手続きを義務付けるルール「ダブリン規則」の見直しも先送りされた。

 欧州を目指した難民は、二〇一五年だけで百万人超。一七年は二十万人超と沈静化したが、負担を巡る加盟国の不公平感は強い。

 混乱は寛容政策のドイツにも広がった。ゼーホーファー内相は、他のEU加盟国で登録後ドイツに入国しようとした難民の強制送還を主張、受け入れられなければ内相を辞任する、とまで表明した。

 内相は、ドイツでの難民の玄関口となっている南部バイエルン州の地域政党党首。メルケル首相率いる保守政党の姉妹政党として連立政権を組むが、十月に州議会選を控え、反難民を掲げる新興右派政党に票が流れるのを恐れる。

 政権崩壊も取り沙汰されたが、オーストリアとの国境に難民審査施設を設置することで合意した。他のEU加盟国からの難民らは送還する。寛容政策は後退した。

 EU、ドイツでの合意のいずれも玉虫色で、その場しのぎにも見える。しかし、合意できたことをまずは評価したい。

 イタリアへの配慮はEU官僚主義からの脱却の兆し、バイエルン州の地域政党が対案を出すのは地方分権が機能している証拠、と前向きに受け止めることもできる。

 EUはこれまでもユーロ導入、拡大、ギリシャ経済危機などの課題に直面。首脳らは時に徹夜し、時間をかけて合意をまとめ上げてきた。難民問題でも打開策を模索していくことは可能なはずだ。

 夏休みを経て仕切り直し、十月の首脳会議で議論を続ける。拙速に決裂させてはならない。

 

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