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【社説】

名古屋城木造化 シンボルになり得るか

 名古屋城天守閣の木造再建で「忠実な復元」を訴える河村たかし市長はエレベーター設置を拒否している。だが、巨額な税を投入する公共施設だ。このままで本当に市のシンボルになり得るのか。

 河村名古屋市長は二〇〇九年、耐震を理由に天守閣の木造再建を提起。一七年三月に市議会が基本設計費などの予算案を可決し、五百五億円の巨大事業がスタートした。市長は一七年四月の市長選でも木造化を争点の一つに掲げ、「天守閣には実測図があるから強烈な本物性がある」と、史実に忠実な復元にこだわる理由を訴えた。

 確かに、一九三〇年の国宝指定直後の実測図や写真が戦災を免れ、「忠実に復元できる唯一の城」との専門家の意見もある。

 選挙戦で市長は「百年で大抵、国宝になります」と述べたが、あくまで実測図に基づく「木造新築」である。築城時の天守が現存する姫路城などの国宝と同様に価値を論じるのは無理があろう。

 旧天守は空襲で焼失。市民が費用の三分の一に当たる二億円を寄付し、「二度と燃えないように」との思いを込め、一九五九年に鉄筋コンクリートで再建した。

 確かに、市長だけでなく議会も木造復元を認めた判断は重い。だが、有識者による「石垣部会」は「江戸時代から残る価値ある石垣を、復元で傷める恐れがある」と警告。復元の許可権限を持つ文化庁も、それを重くみている。

 事業費は完成後の入場料収入などでカバーできると主張する市長は「百億円を寄付で」と呼びかけるが、まだ二・二億円余。焼失天守再建時のような熱き思いは市民に共有されているだろうか。

 市長は五月末、はりや柱が忠実に復元できないとして、エレベーターを設置しない方針を表明。障害者団体は抗議のハンストを行い、「高齢者や障害者など誰もが登れる名古屋城に」と訴えた。市長提案の、搭乗可能なドローンなど十一の「新技術」は現実味に乏しく、むしろ反発を強めた。

 現在の法律では火災対策のスプリンクラー設置なども必須であり、「忠実復元を理由にエレベーターだけ排除するのはおかしい」とする障害者らの訴えは、すこぶる合理的な問題提起である。

 市民の不戦平和への思いが詰まった現在のコンクリート製天守には、文化庁も言うように「本物」の価値がある。あえて「本物」を壊して造る-。その意味をいま一度、十分かみしめるべきだ。

 

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