骸骨魔王のちょこっとした蹂躙   作:コトリュウ
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第15話 「嫌爺魔王」

 帝国の請負人(ワーカー)に舞い込んだ急ぎの依頼。

 それはエ・ランテル近郊に現れた遺跡の探索だ。そう、『突然現れた』遺跡の探索なのだ。

 怪しいことこの上ない。

 情報が虚偽であると断ずるべきだろう。

 だが、遺跡の存在自体は本当のようだ。王国の冒険者組合も動き出しており、遺跡周辺をウロウロする冒険者、及び組合員の姿が目撃されている。

 このままであれば、遺跡の探索権を所持しているエ・ランテルの組合が冒険者を送り込んでくるだろう。他国の請負人(ワーカー)などに出る幕はない。

 王国が正常であれば――だが。

 帝国の“とある貴族”は、王国の秘匿情報『戦士長行方不明』を手に入れ、そこに目をつけた。

 

『王国の上層部は大混乱だ。特に国王は病床に伏すほど……。であるならば、遺跡の件などに構っていられるわけがない。遺跡探索の許可は宙に浮く。チャンスは今しかない』

 

 戦士長の件は驚きだが、確かにそれなら王国も混乱するだろう。スレイン法国で起きた大噴火騒動も含めると、遺跡盗掘の請負人(ワーカー)などに手勢を割いている余裕はないはずだ。

 

「――いけるかもしれない」

 

 組合の規則に縛られている冒険者と違い、請負人(ワーカー)は自由だ。国の許可など糞喰らえ。責任は自分でとらなければならないが、それは当たり前の話だ。

 それより新発見の遺跡に一番乗りをして、手付かずのお宝を獲得できる可能性を重要視したい。

 エ・ランテルの近郊にありながらも今まで大きな被害が発生していないのであれば、中にいるかもしれない先住者の危険度は比較的低いと判断できるだろう。

 貴族が提示してきた条件自体も悪くない。

 魔法具(マジックアイテム)を発見した場合は無条件提出――というのは痛いが、それ以外の宝物に関しては折半、加えて移動手段や宿泊食事、消耗品の提供など、魅力的なバックアップが盛り沢山だ。

 これならエ・ランテルに寄り道する必要もないので、冒険者との余計な摩擦は避けられる。

 

「――それに集ったワーカーチームの実力からすれば、事故は限りなくゼロに近いかも?」

 

 遺跡への突入を請け負ったのは全部で四チーム。

 いずれも帝国では名の知れた実力派である。ただ、腕前ほど人格的にも優れているかというと……、当然そんなわけはない。

 他国の所有物にちょっかいを掛けにいくのを良しとする連中なのだ。森妖精(エルフ)を戦奴隷として連れ歩き、人前で暴力を振るったりする者もいる。

 

「――殺した方がいいと思う」

「私も賛成! 遺跡の中でやっちゃおうよ。サクっと」

「イミーナさん、声が大きいですよ」

 

「お前らなぁ、他に言うことあるだろ? 前を見ろよ前をっ」

 

 リーダー“ヘッケラン”のぼやきに、請負人(ワーカー)チーム“フォーサイト”のメンバーたちは、大型馬車の外へ視線を送る。

 

「――これが、遺跡?」

「うそでしょ?! どんだけデカいのよ!」

「帝城の城壁より立派に見えますねぇ。破損も無さそうです」

 

「つまり、大儲けできそうだってことだよな?」

 

 歴史を感じるわりには傷一つなく、巨人をも遮りそうな大きさと厚みを持つわりには美しささえ感じる。そんな城壁の近くを馬車で進みながら、請負人(ワーカー)たちは歓声を上げざるを得ない。

 中に遺されている宝物の価値は、建造物の規模に比例するからだ。

 もちろん、防衛力や罠の強力さも同様であろうが、ミスリル級冒険者に匹敵する請負人(ワーカー)にとっては過剰に警戒する必要もない。

 行く手を阻む敵がたとえ“死者の大魔法使い(エルダーリッチ)”や“骨の竜(スケリトルドラゴン)”であろうとも、容易く粉砕してみせよう。

 

「――どの文献にも記載がない遺跡。つまり王国や帝国よりも古い。中を覗き見た者の話では霊廟があったとのこと。よってこの遺跡は“古代墳墓”、モンスターがいるとすればアンデッドの可能性が高い。というか間違いなくアンデッド」

 

 情報の周知と再確認。フォーサイトの魔法詠唱者(マジック・キャスター)“アルシェ”は、この地へ来る前に開示していた知識を淡々と呟く。

 

「踏み込む先が“墳墓”だと判っていれば対策が楽だよな。ほんと貴族様様だぜ。エ・ランテルの冒険者組合から情報をとってくるなんて、スパイでも送り込んでんのか? ってな」

 

「フェメール伯爵、だっけ? 結構危ない橋を渡るもんよねぇ。王国が混乱している隙をついて盗掘なんて、冒険者組合も怒り狂うわよ」

 

「他人事ではないですよ。王国の冒険者は今のところ遺跡へ入れませんけど、遺跡から出てきた盗掘者を討伐することは禁止されていません。それに王国のワーカーも……。皆さん、十分に注意を」

 

 神官“ロバーデイク”の自戒ともとれる警告を最後に、大型馬車数台は野営予定地へと走り込み、事態は慌ただしく動き出した。

 帝国の雇われ冒険者が野営地設営と動く一方、四組の請負人(ワーカー)チームは墳墓の正面口を遠目から観察できる位置へ移動し、中へ入る前の簡単な偵察を行う。

 

『綺麗すぎる。雑草が生い茂っていて当然であろうに……』

 

 誰の呟きかは不明だが、アルシェは心の中で頷いてしまう。

 確かに、手入れされていると確信できる丁寧な仕事だ。一切の妥協が無いために『動像(ゴーレム)の手によるものか』とも思ったが、繊細且つある種の誇りが感じ取れることからして、魂を持った何者かの存在を――

 

『偵察など無駄だと思うのですが……、さっさと行きましょう。先陣は私が引き受けますよ?』

 

 ――死ねばいいのに、そう思いたくなったのはアルシェだけではないのだろう。

 刀を備え、三人の森妖精(エルフ)奴隷を引き連れる自称最強剣士の提言を前にして、請負人(ワーカー)たちはやれやれと(かぶり)を振ってしまう。

 

『王国の邪魔か入る前にコトを済ませるのは確定事項しゃかのぅ。事前の準備はしっかりしておこうそ。野営地へ戻って腹を満たし、暫しの休息。遺跡侵入はそれからしゃ』

 

 最年長の御爺さんが言うように『急ぎであること』は最初から判っている。だが『急ぎ方』にも色々あるということだ。

 本来であれば他の請負人(ワーカー)チームが準備不足で先走ろうとも、苦言を呈すことなどない。商売敵でもあるのだから、全滅してくれるのは大変結構なことである。でもまぁ、今回は同じ遺跡への侵入だ。抜け駆けしてお宝をかすめ取ろう、というのは許されない。

 

『では汝ら、いったん戻ろうぞ』

 

 山小人(ドワーフ)のような全身鎧の請負人(ワーカー)は仲間を促しつつ、兜から突き出た角を野営地の方角へ向ける。

 

「だなっ。野営地での飯は奢りなんだから、食っとかねぇと損だぜ」

 

 我らがリーダー、ヘッケランの軽いノリに『そりゃそーだ』と何人かの顔見知りが笑いながら答え、歩き出す。

 後に残るは、オドオドしている森妖精(エルフ)奴隷と憮然とした自称天才様だけ。

 本来であれば、弱者たる他の請負人(ワーカー)チームに同調するつもりなどないのであろうが、全体の指揮に従うと言ってしまった手前、勝手な行動は己の価値を下げるだけである。

 自称天才剣士の“エルヤー”は「雑魚に足を引っ張られるのは気に入りませんが、まぁ仕方ありません」などとほざき、奴隷の森妖精(エルフ)を軽く殴りつけると「ノロマがっ、さっさと動きなさい」不満げな表情を隠すことなく野営地へと足を向けるのであった。

 

 

 

「――最低」

「やっちゃおうよ。私はいつでもいけるよ」

「まったく、イミーナさんに同意したくなる酷さですね」

 

 周囲へのアピールとして振るわれた暴力であったため、当然フォーサイトのメンバーも殺意で応えてしまう。言うまでもなくエルヤーに対する殺意なのだが、リーダーのヘッケランとしては止める側に動かざるを得ない。

 

「気持ちは解るけど、ヤルのは無しだ。この地へきたのは遺跡のお宝を持ち出すためで、殺人じゃない。つーか、止めるのはロバーの役目だろ? なに一緒になって騒いでんだよ」

 

「はは、これは申し訳ない」謝罪を口にするロバーデイクでも、半分程度は本気だったのかもしれない。イミーナに関しては九割がマジだろう。アルシェは十割が嫌悪感で、殺すつもりはなかったようだ。ただ女性に暴力を振るう自分勝手な男の姿に、自分の親を重ねてしまっただけである。

 

「さぁ、これから忙しくなるんだからな。食うもん食って、身体休めて、エ・ランテルの同業者が出張ってくる前に、貰えるもんは貰うぞ!」

 

「――了解」

 

「は~い、わかったわよ」

 

「もちろんです。しっかりと稼がせてもらうとしましょう」

 

 リーダーの掛け声に、フォーサイトのメンバーは異論なく従う。

 特段、不満などは無いようだ。

 イミーナ自身も理解しているのだろう。ここで同業者のエルヤーを殺害するということが、どんな意味を持つのかを。

 請負人(ワーカー)同士の殺し合いなど珍しくはないし、嫌われ者の“天武”を排除したとして誰からも文句は出ない、と言いたいところではあるが、現在は同じ依頼を請け負った仲間なのだ。

 依頼そっちのけで仲間殺しをしている請負人(ワーカー)など、その界隈では忌避される。

 次の依頼も期待できないだろう。

 まぁ、引退するつもりなら構わないかもしれない。無論、他のチームに迷惑がかかるので、それなりの覚悟と逃げ道を用意して刃を振り下ろすべきだ。

 

「――それにしても」アルシェはふと振り返り、沈黙している墳墓を見つめる。「こんな場所に、いつから存在していたの? どうして今まで見つからなかったの? 魔法による隠ぺい? いえ、こんなに巨大なモノは……」

 

 小柄な魔法詠唱者(マジック・キャスター)から零れ落ちる多くの疑問に、答えをくれる者はどこにも居なかった。

 ただ、その呟きを聴いている異形の者たちは、数えるのも億劫なくらい、その場に佇んでいたのだが……。

 

 

 ◆

 

 

『お主らは先に潜るといい。地表の探索は儂らか引き受けよう。後ろからやってくるかもしれん、王国のワーカーともに対する警戒も必要しゃろうからな』

 

 最古参の請負人(ワーカー)チームが地上に残ると言い出して皆困惑気味であったが、背後の警戒を請け負うから奥で得た収入の一部をよこせ、との取引には納得だ。

 大きく儲けることを諦めて、危険な奥地への侵入をすることなくそれなりの金貨を獲得する――その決断には賞賛を送りたくなるものの、請負人(ワーカー)としては失格だろう。

 チームメンバーの不満な様子からも判る通り、巨大な墳墓から得られる宝の規模は想像を超えるはずだ。

 ここで行かないでどうする?

 退いてどうする?

 一攫千金こそが請負人(ワーカー)の本質だろう! なんて文句が聞こえてきそうだ。

 

『かかか、四方にある霊廟にもお宝はあるしゃろうし、もしかすると儂らの方が大儲けするかもしれんそ?』

 

 そこまで言われたら拒否する理由は無い。エルヤーだけが背面警護の支払いに不満げであったが、特にそれ以上の議論が発生することもなく探索は始まった。“天武” “ヘビーマッシャー” “フィーサイト”が中央の大きな霊廟へ突入し、老公“パルパトラ”率いるベテランチームが地表周辺を見て回る。

 請負人(ワーカー)チームはいずれもミスリル級に匹敵する強者どもだ。墳墓の攻略は数日で終わるだろう。王国の冒険者が足を運んだ時には、からっぽの墳墓が残されているはずだ。

 

 

 

「本当によかったんですかい? 老公」降りていった同業者の気配がなくなってしばし、残っていた請負人(ワーカー)の一人“戦士”が、納得していない感じに口を開く。

 

「ああ、お主らは不満かもしれんか、この墳墓はマスイ。これたけの規模からして、奥に竜級(トラコンクラス)のモンスターか待ち構えていても不思議てはない。ますはカナリアを先に進ませて、様子を見るへきしゃな」

 

「まぁ、老公の判断なら間違っていないとは思いますが……」

 

 それでも命を懸ける価値はあったのでは? と“魔法詠唱者(マジック・キャスター)”は、発見されたかもしれない未知の魔法具(マジック・アイテム)を想像してしまう。

 墳墓の魔法具(マジック・アイテム)は依頼主へ提出する契約ではあるが、発見者であるなら格安で購入できるので、手元に置ける可能性は高かったのだ。

 だからこそ、もったいないとの想いが消えない。

 

「お主ら、落胆するのは早過きるそ。地上の霊廟にも面白いモノかあるかもしれんしゃろ?」

 

「ははは。そんじゃま、とっとと――」

 

「お話のところ、失礼いたします」

 

 “盗賊”がやる気を見せだしたその時、丁寧でハキハキとした女性の声が請負人(ワーカー)全員の耳を誘い、視線を一点に集中させてしまう。

 老公“パルパトラ”が見つめる先は、中央霊廟から城壁入口へ向かって五十メートルほどの開けた場所。先程請負人(ワーカー)四チームが歩いてきた平地であり、身を隠す場所の無い開放的な空間である。

 

「な、なんしゃと?」

 

 驚愕の理由は二つ。誰にも気取られることなくその位置に立っていたこと。そして、立ち並ぶ六名の女性が皆メイド服のようなモノを纏っていて、全員が天上の美を具現化したかのように美しかったことだ。

 

「皆様にお知らせすることがありまして参りました」コツコツと六人分の足音にしては小さすぎる規則的な音を響かせて、中央の黒髪を結い上げた眼鏡のメイドが語りかける。「では御清聴願います」弓矢や魔法での攻撃が十分に届き、接近戦も挑めそうなほどの中距離にまで足を進めたメイドたちは、攻撃を受けるかもしれないとは露ほども思っていないかのように整列し、背筋を伸ばし、美しい唇を大きく広げる。

 

『魔王の城に挑まぬのであれば勇者にあらず。勇者でなければこの場に居る資格はない。資格なき者には死を、慈悲深き死を与える。……ちなみに、ジジイは勇者としてイマイチだ。ふふ、魔王にだって好みがあるんだぞ。悪く思うな』

 

「以上、御主人様からの御言葉です」眼鏡のメイドは、御主人様とやらの軽い笑いまで忠実に再現し、深々と頭を下げる。と同時に、他のメイドからも一糸乱れぬ丁寧な礼が行われていた。

 その美しい光景は、請負人(ワーカー)たちに礼を尽くしたというより、御主人様への敬意だったのかもしれない。御勅命を見事にこなす完璧なメイドの姿をご覧あれ――とまぁ、そんな感じなのだろう。

 

「魔王? 勇者? 慈悲深き……死、しゃと?」

 

 こっそりと戦闘準備を整え、仲間たちに目線で配置を指示する。パルパトラは時間を稼ぎつつ、戦うか、逃げるか、の決断を下そうとしていた。

 

「疑問に答えて差し上げたいところではありますが」眼鏡をくいっと整え、リーダーらしき黒髪のメイドは「あなた方には死んで頂きます。ええ、そうですね。自己紹介もまだなのに、とは思いますが『名乗るほどの相手ではない』とのことですのでご容赦を」と口にすると、並び立つ五名のメイドへ指示を飛ばす。

 

「ボ……、失礼しました。――私の可愛い妹たち! 皆殺しになさいっ!」

「おっけ~っすよ、うひゃひゃ!」

「ユリ姉様? 可愛いって?」

「ああ、決め台詞ってヤツじゃないかしら? 練習していたもの」

「…………最後の台詞は自分で考える。モモンガ様の御指示」

「う~ん、確かに私たちは可愛いけどぉ、ユリ姉様ぁ、妹を自慢し過ぎぃ」

 

「あ、あなたたちぃぃ!!」長女の格好良過ぎる号令一過、五名の戦闘メイド(プレアデス)請負人(ワーカー)へと襲い掛かり、瞬殺。そしてユリがドヤ顔で軽く礼をして、華麗な任務完了となるはずだったのだが……。

 中々上手くいかないものである。

 結局、襲いかかったのはルプスレギナだけであり、一人でパルパトラを含む五名をドでかい十字型の聖杖で殴り倒している。他の妹たちは、ユリの決め台詞にあれやこれやと注文を付ける有様だ。

 ユリの籠手(ガントレット)が猛威を振るうのも仕方がない。

 

「うぅ、いたい。どうしてゲンコツされたのかしら?」

「思っていたより恥ずかしかったのでしょ。まぁ私もちょっと痛いわ。姉さんの打撃は私にも有効なのだから、もっと優しくしてほしいわね。……それよりルプーがみんな殺してしまったわよ。一人は私が溶かす予定だったのに」

「残りはわたしが食べるぅ。新鮮なおにくぅー」

「…………死体は好きにして良いとの御言葉。でも食い過ぎ」

 

「はいはい、無駄口はそこまで」両手をパンパンと打ち鳴らすユリは、はしたない奇声を上げて請負人(ワーカー)チームを肉塊へと変えているルプスレギナにため息を吐くと、残った妹たちへ「外の野営地も潰しにいくわよ。実戦経験の少ない私たちのことを考えて、モモンガ様が与えてくださったお役目なのだから集中しなさい!」と激を発していた。

 

「はい、ユリ姉様! モモンガ様の御勅命、全力で遂行します!! 〈飛行(フライ)〉!」

「ちょっとナーベラル? 一人で行かないで!」

「ソーちゃんがんばっす。ナーちゃんのフォローは任せたっすよ~」

「…………ルプーもいく。サボタージュは駄目」

「おにく美味しいぃぃ。――あれぇ? ユリ姉さまぁ、何かぁ言ったのぉ?」

 

「……はぁ」とりあえずルプスレギナの首を背後から引っ掴まえ、モグモグしているエントマを小脇に抱えてユリは走り出す。向かう先は侵入者たちの野営地――なのだが、先に飛んでいったはずのナーベラルは、何故か正反対の方向へ。地上からソリュシャンが「そっちじゃないわよ!」と呼びかけてはいるものの、ポンコツ魔法詠唱者(マジック・キャスター)が聴き取った気配はない。

 

「よく考えたら、創造されてから初めて経験する外敵との戦闘なのよね。張り切り過ぎて空回りするのも仕方がないのかしら」

 

「そ、そ~っす。だか――ら、も、ちょ、力を緩めっ、ぐぐ、くび、首が締まっ」

「もどすぅ、もどしちゃうぅぅ。ユリ姉さまぁ、お腹が潰れちゃ――」

 

「…………嬉しくてはしゃいでいるともとれる。でも、ユリ姉だって人のことは言えないかも?」

 

 シズの分析によれば、無駄に力が入っているユリも同類らしい。

 こんな調子では任務達成に支障をきたすかも? と少しばかり不安になるが、それもこれもモモンガ様にとっては予想の範疇なのだろう。

 

「…………でも、甘えてばかりはよくない。しっかりお仕事、する」

 

「そうね、頑張りましょう」

 

 赤毛と小柄なメイドを地面へ落とし、『やっぱり私の救いはシズくらいね』と長女にあるまじき台詞を漏らすと、ユリは妹たちと共に視線の先にある野営地へと足を向けるのであった。

 







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