俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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法国の奥深くにある、神聖な、荘厳さを感じさせる神殿。
何時ぞや俺がスルメさんのギルド長就任演説という名で好き放題言ったあの地だ。
神聖さを感じるのに、入ってみたら畜生だらけでウンザリしたあの思い出。
俺が転移してからまだ一年たってないはずなのだが、
どうしようもなく、懐かしさを感じずにはいられない。
俺はつい先ほど、『神』扱いされて逃げだした。
だが、あの広まるペースから避けられないと確信し、
『死神』をやっているスルメさんに相談したかった。
供にはナーベラルを連れてきた。
冒険者モモンが活動を控えるようになったから、一緒に来てもらった。
ハムスケは置いて来た。今回は邪魔だからだ。それに事情もある。
ハムスケは与えたワールドアイテム『戦士Lv+1』の効果について、
同じ所持者コキュートスにトブの大森林内の湖で指導を仰いでいる。
あれは熱素石で作った簡易ワールドアイテムなのに魔法いらずで、かなり利便性が高い。
スキルの組み合わせの応用力が凄い。
『気探知』で周囲の感知が可能だし、『聖撃』で聖属性攻撃を加えられるし、
『パリィ』で攻撃を弾き、『気功』で回復しながら戦える。
俺みたいな魔法職だと、所詮Lv1なのであまり使いにくいが、
戦士職なら純粋に強化になる。
転移前に『戦士』として『戦闘』は学んだが、
それ以外も『魔法』いらずで、補える優れものだ。
現に護衛依頼では、『戦士Lv+1』のスキル『気探知』と俺本来の『不死の祝福』の組み合わせで、
ゴブリンからアンデッドまですぐに気配を察知して行動できた。
最初のズーラーノーン事件でも、カジット・デイル・バダンテールの虚をつけた。
コキュートスはリザードマン達と交流してトブの大森林内の湖の守護者になりつつある。
コキュートスには、新しい発見があったと言われていたのだが…
今回、『神』扱いで動揺した俺は、スルメさんと会う約束があると嘘をついてしまった。
後で埋め合わせをしないといけない。
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神殿内に招かれた俺は早くも後悔した。
「フハハハ!『魔王』はともかく『神』扱いは嫌であると。
いや、失礼をば…。『神』風情とは一緒にされたくはない。
これは道理でありますな!…我が従者よ!この言葉をすぐに書き記すのだ!!」
いつもの人を揶揄うことに、命かけてそうな笑い声をあげて戯言をほざくスルメさん。
あ、これダメだ。何でこの人に相談しに来たんだ、俺。
そうこうしていると、スルメさんの少し後方で跪く気配を感じる。
「御心のままに」
薄黒いローブで身を纏い、黒髪の未亡人みたいな泣き黒子の美人。
スルメさんの従者、NPCだそうだ。
俺で言えばパンドラズ・アクターの立ち位置の存在だ。
その美人が『変態』の戯言を書き留める。
やめろと言いたいが、本当に嬉しそうに書き留めているので止めにくい。
でも、あのアク〇ズ教擬きの布教活動をスルメさんと一緒になってやるなよ。
アレ、『番外席次』がガチで凹んでいたからな。
母親よりも母親だった人がぶっ壊れたって。あれだけは『番外席次』が素だった。
ナーベラルは従者としての在り方に感服したのか、
彼女を尊敬の眼差しで見ているが、アレは真似しないで欲しい。
『漆黒の英雄』モモンの脇で、メモ書き込んでいるナーベラルとか見たくない。
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先日、『変態』じゃない、『死神』を襲撃した『魔王』の俺である。
てっきり法国から嫌われているのではないかと思っていた。
ところが、俺が法国に来た途端、神官長達が全力で五体投地してきた。
…話を聞くと、暴走する『神』を止めるわけにもいかず、
このままだと法国の変革どころか国が亡びる寸前だったという。
スルメさんの伝えた真実の歴史とその後の大暴れっぷりに、
『人類至上主義』が成り立たないのは確信したらしい。
俺は、誰にも止められない変態共から法国を救った英雄らしい。
上層部からだけでなく、まともな知識人や見識ある民衆からもだそうだ。
俺、『魔王』なんだけど?どちらかというと『人間』の敵なんだけど。
もはやツッコミが追い付かない。思考を放棄して感謝の言葉を受け取った。
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「さて、我が盟主『魔王』様!…本題を聞かせてはくれませんか?」
ごめんなさい。
逃げ込んだだけなんです本当に。
とはいえ、用事はあった。
例の『カタストロフ・サンドバック』の件だ。
時期は早いが聞く必要がある。今回の法国上層部の反応を見ても悪くはない。
ツアーをどう説得するかだが。
「法国の反応を見てと思ったのだが…『世界』を守る先兵としての活動をする気は?」
まず、これが一番大事だ。
ナザリックも『世界』を守るのに協力するが、
『法国』としてのスタンスを確認したかった。
「フハハハ!笑止!我が宿命は『死神』!
『世界』の敵に『死』をくれてやる者!
…といいたいのですが、国規模となりますとまだまだ根が深い。
我が友が健在ならともかく、私は現在、たった一柱。
最低十数年はかかるかと…折角のご厚意を申し訳ありません。
ここまで我が時代と変わっているとは思ってもいなかったのです…」
そう悲しげに謝るスルメさん。
やはり、まだ無理か…五百年の壁はそう簡単に再構築できるはずがない。
「そうですか…一応言ってだけはおきますが、
俺はあの『サンドバック』で法国精鋭のレベルアップを計画していました」
Lv80台のこの世界の大物。
これを経験値にしたレベリングを俺は考えていた。
目論見は外れた。
『死神』として役目を果たそうとするスルメさんを見て元気も出たし、帰ろうとする。
ふと、後ろから声がかかる。スルメさんだ。
「魔王様。法国ではまだ無理でしょうが、この件を果たすべく必ず場を整えます。
ですが、魔王国だけで取り組まれてはいかがでしょうか?
おそらく簡易なものは計画済みでしょうが、宗教という物は強い。
『魔王』アインズ・ウール・ゴウン様のためならば、
『破滅の竜王』にも怯えぬ者が必ずいます。
それについてはこの私、『死神』スルシャーナの名において保証します」
最後の戦いで一緒に着いてきてくれた『勇者』達がそうでした…
そう悲しげに呟くスルメさん。
…その手があったか。