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時代の正体〈618〉圧政の辺野古(上)暴走する権力、矛先は

沖縄考 記者の視点=報道部・田崎基

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2018/07/21 11:00 更新:2018/07/21 11:00

【時代の正体取材班=田崎 基】梅雨が明け、灼熱(しゃくねつ)がアスファルトを焼く6月末の沖縄・辺野古。私は米軍の新基地建設が進む工事ゲート前にいた。濃紺の出動服を身にまとった20人ほどの機動隊員が列をなして現れた。

 「美(ちゅ)ら海(うみ)を壊すなー」「新基地建設に反対だ」。およそ50人ほどが座り込み、声を上げる。機動隊の隊長が人々にメガホンを向けて早口でまくし立てた。

 「警告します。道路に座り込む行為は道路交通法の禁止行為に該当します。速やかに立ち上がり、歩道上へ移動してください。警告に従わない場合は部隊規制をもって移動させます」

 一方的に数回繰り返し、こう言い放った。

 「はい! 部隊規制開始」

 号令と同時に機動隊員が一斉に動く。人々を両脇から抱え、足を持ち上げて運び去る。

 「埋め立て反対だ! 基地反対だ!」。初老の男性が声を張り上げ、訴える。

 「動かないなら、動かすまで」とばかりに腕力をもって自由を奪う。躊躇(ちゅうちょ)はない。10メートルほど離れたところに用意された柵で囲まれた一画にすし詰めにしていく。

 明確な理由も説明せず、人を拘束する。先鋭化した権力が民意を圧殺する現場で、その暴走を目の当たりにする。

 強権の発信源は他でもない、この国の最高権力者たる安倍晋三首相であり、彼が統べる安倍政権だ。

自由


 「道路上に出ないでください!」。写真に収めようとカメラを構えてシャッターを切っていると、背後から機動隊員に怒鳴られた。座り込みをしている人々の目の前に押し出される。

 すると今度は「邪魔しないでください。警告したからな!」と隊長のメガホンは私に向けられた。何がなんだか分からない。

 「ちょっと待って。邪魔してない。道路に出るなと言うから…」という私の声を遮るようにして、隊長は「部隊規制中だ! 繰り返し警告しました」と一方的に言い放ち、私の頭を指さした。

 その瞬間、背後にいた機動隊員が私の背中から抱き込むようにしてぐいと左腕をつかんだ。

 「ちょっと待って」と声を出し、身をよじったが、引きずられるようにして一気に数メートル、体を持って行かれた。

 そこへ、小柄な男性が立ちふさがった。腕をつかむ機動隊員の手に、自らの手を重ねて語りかけた。

 「この人を拘束したら、大変なことになるよ。神奈川から来てるんだよ。記者なんだよ」

 声の主は沖縄平和運動センター議長の山城博治さん(65)だった。

 機動隊員は無言で手を離し、どこかへ行ってしまった。

同根


 その日の資材搬入が終わり、閉ざされたゲートを見つめ、山城さんが言った。

 「国策には抗(あらが)うなというメッセージなんだろうな」

 毎日、毎日、砕石を積んだダンプやコンクリートミキサー車が午前9時、正午、午後3時の3回、合計400台前後が工事ヤードへ入っていく。

 そのたびに抗議の市民が座り込み、腕を組み、声を上げる。

 「機動隊の暴力にひたすら耐える。でも5分や10分足らずで引っこ抜かれる」

 抗(あらが)うこと自体を諦めさせることこそが狙いであり、人の心を蹂躙(じゅうりん)する。二重の暴力が日々繰り返されているのだった。

 だから、山城さんは現場に立ち続ける。「排除されたらまた座ればいいんだと、ケセラ・セラ(なるようになる)だと言ってやってきた」。平和運動を率いて10年余り。2016年には、本島北部の高江で米軍北部訓練場の有刺鉄線を切断した容疑などで逮捕され、5カ月間にわたり拘束された。有罪判決を受け、執行猶予中の身でもある。

 沖縄の基地反対運動のリーダー的存在は眉根を寄せ、私に言った。

 「日々の生活が大事。間違ってはいない。気が重くなるような情報は聞きたくない、知りたくないということもあるだろう」

 でもね、と続ける。「そこで惹起(じゃっき)されている問題について、全く無関心というのは困る」

 「沖縄の問題、福島の問題、東京の新大久保や大阪で行われている在日韓国朝鮮人を差別する排外の動き。他にも大きな問題が身の回りでごろごろしている。それでも『知らない、知らない』で済ますことを続けていれば、必ず回り回って自分に降りかかってくる」

 これはもう遠く異国の地で起きていることではない。非正規雇用が無制限に拡大し、働く仲間の賃金が上がらない。長時間労働で過労死や自殺が止まらない。しかし、残業代を支払わなくて済む労働法制が強行採決された。

 公文書は改ざんされ、自衛隊の日報は隠蔽(いんぺい)され、事務次官がセクハラをしても大臣は辞めない。数万人が国会前を埋め尽くし、抗議しても一顧だにしない。

 そのトップこそが国家の根幹を揺るがす事態を引き起こしておきながら、「自ら膿(うみ)を出す」と言ってはばからない。

 「『政治的社会的な問題に首を突っ込まない』なんてことを言っていると、間違いなく自分にどんどん突き付けられる。軍事費が突出すれば必ず別のところが削られる。年金支給年齢が75歳に引き上げられるかもしれない。医療費の窓口負担も天井知らずで上がっていくかもしれない。人が人としてまっとうに暮らせなくなるだろう。これらは、ここ辺野古で起きていることと、根っこは同じなんだよ」

 強権を振りかざし、「言うことを聞け」「諦めろ」と繰り返す。そうした光景に慣れさせる。矛先は着実に、そして露骨に、この国に住む全ての人へと向けられていく。

 「もうはっきりと警鐘を鳴らすべきだと思う。それは新聞、テレビ、そして政治家の仕事だ」

 辺野古の地を指さし、そして言う。

 「だから大事なのは『ここ』だ」

現場


 ゲート前に歌が響く。

 〈腕組んでここへ ここへ座り込め ゆさぶられ つぶされた隊列を立て直す時はいま〉

 〈引きずられ 倒れても 進むべき道をゆく時は今 旗掲げここへ ここへ座り込め〉

 私は山城さんが機動隊員に語りかけた言葉を思い返す。

 「この人を拘束したら、大変なことになるよ」

 16年8月、同じことが起きていた。北部訓練場にヘリパット建設が強行されていた高江で、地元紙の沖縄タイムスと琉球新報の記者が機動隊に排除され、一時拘束されるという事件が起きた。大きく報じられたが、このとき沖縄県警は「記者だとは分からなかった」という言い訳でやり過ごした。

 辺野古で私を指さした機動隊の隊長もまた、「(記者とは)気付かなかった」と言った。

 横浜の本社に帰り、自問する。一転、私に向けられた権力の矛先。あのとき、私が機動隊に拘束されていたとして、果たして「大変なこと」になったのだろうか、と-。

      ◇ ◇ ◇

 国家権力が暴走し、先鋭化する現場、沖縄・辺野古のいまを伝える。

辺野古新基地建設問題 日米両政府は1996年4月、市街地にある米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の返還を合意。日本政府は99年12月、名護市辺野古沿岸への移設を閣議決定した。政府は2013年3月に埋め立てを県に申請し、仲井真弘多知事(当時)の承認を受けて、防衛省沖縄防衛局が14年8月に着工した。同年11月の県知事選では反対派の翁長雄志氏が初当選。7月中にも、承認を撤回する見通し。

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