ブロックチェーン技術で終わる世界、変わるメディアの未来
- ブロックチェーンで世界は“分散化”されていく
- 中央集権のデータは信用できない
- 篠原氏が「なるほど」と思ったトークンとは?
ビットコインに代表されるブロックチェーン・仮想通貨の技術。この技術の普及に努めているのがHotaru Inc.のCo-Founder兼CEO篠原ヒロ氏だ。
去る6月22日、フジテレビ社内でFNNプライムセミナー#01「ブロックチェーン技術で終わる世界、変わるメディアの未来」が開催された。
篠原氏は、単に価格の上がり下がりだけがニュースになる事も多い「仮想通貨・ブロックチェーン」について、その本質と実際に起きている大変革について、具体的な事例も交えながら、詳しくわかりやすく語ってくれた。その模様を前後編に分けてお届けしたい。
破壊と創造
今僕が何をやっているかというと、「Hotaru」というブロックチェーン・仮想通貨関連の会社を作る会社をやっています。共同創業者と一緒に「ブロックチェーン技術は本当に世の中のために使わなければならないから、イチからインフラを作ろう」と、Hotaruという会社を作りました。
少し仰々しいかもしれませんが、根底にあることは「そもそも我々は平等であるべき」ということです。そして、ここで考えていることが「破壊」と「創造」なわけです。今の社会は多くの点において間違っていると思っていて、それは一度「破壊」しなければならない。その先に新たな「創造」がくるべきなんです。
ただ僕はそこまで気が長くなく、「創造」までできるかわからないので、役割的にもキャラ的にも「破壊」だけでもやろうかなというのが現時点でのアプローチです。
現在、この大変革を狙う企業たちがいます。でもその存在をほとんどの人たちが知らない。なぜならブロックチェーン・仮想通貨は、その本質的なところが見られていなくて、「価格が上がった下がった」というところしか注目されていないからです。ものすごい変革がすでに起こっているのですが、ほとんどの人がまだそこには気づいていないのです。
そこで我々が目指しているのが、世の中を本当に照らそうとしている“蛍”を集めて、蛍が生きていける環境をつくるということなのです。仮想通貨やブロックチェーンの企業を無数に集めて、企業連合をつくるというのがHotaruが目指しているところです。
世界は“分散化”されていく
これからいろんな事例を出しますが、要は「世界は分散化されていく」ということです。この“分散化”が世間には正しく認識されていないので、自分が知っている3つの事実から説明します。
まずひとつめの事実として、インターネットの進化の歴史を思い出してみましょう。たかだか20〜30年の歴史に何が起こったかというと非常にシンプルで、インターネットはただひとつのことしかしなかったんです。
それは“中間搾取”を無くしてきたことです。
本を購入したい時の基本的な流れは、「お客さんが本屋さんに行って、本屋さんから印刷屋さんに連絡がいって、そして権利者に…」とすごいプロセスがあり、本屋さんに本が届いてそれ取りに行く必要があるとか、すごいステップがあった。
それが今はkindleで1クリックすればダウンロードできるわけです。
インターネットがやったことはただひとつで、中間にあったものを削除してきたんです。
その結果、C2Cマーケットが拡大してメルカリが上場するという世界がやってきた。インターネットの流れを考えれば当然であって、こうなるに決まっていたんです。AirbnbやUberのバリュエーションが高いのも当然で、中間搾取をなくす会社だからです。
そういったC2Cのマーケットが誕生したことで、人間はより便利になり、その間にいた企業は多くの利益を取ることができています。そうやって新しい経済圏のC2Cマーケットが誕生したわけですけども、でもよく考えてみてください。まだ間に誰かいますよね?
冷静にネットの歴史を紐解いていけば次の一歩は間違いなく、この人達がいなくなる社会です。最後のプレイヤーがそこからいなくなる社会がこれからやってくる。それは間違いありません。そこで、現在急成長している企業は、既にブロックチェーンの会社をたくさん買収していたり、そういう新たな独自の技術の開発を考えているんです。
中央集権の情報を信用できない
ポイントは、「なぜブロックチェーンなのか?」ということです。それには、「誰が中央集権が持っているデータを信用するのか?」という社会になり始めているという実情があります。
元米・NSA(国家安全保障局)職員のスノーデン氏が発表したとおり、NSAがすべての情報を監視しています。ということは、例えばクラウド上の情報が改竄されている可能性だってあり、アルゴリズムがそんな情報を信じて判断する社会なんてこないと思っています。
誰かが改竄した可能性のある情報を利用するなんてありえないので、大企業がデータをたくさん持っていることにも何の価値もありません。最近日本でも、大手企業がデータの改竄とかさまざまな問題を起こしていますけども、そこでは古い会社とか大きな会社とかあんまり関係ないんですよね。
「そのデータを信用できるのか?」
ただそれしかないと思ったときに、僕はそういう大企業が持っているデータは全く信用できないと思っています。
ビットコインは非中央集権的な社会で動いている
そして今の中央集権でなくて、中間に人がいなくなった社会で、実際にひとつ動いているのがビットコインです。ビットコインは、管理する会社も人もいない、ただそこにはビットコインという思想があって、その思想に基づいて、皆がビットコインをより良くしようとして動いた結果、ビットコインの市場価値が上がっていく。さらにビットコインの技術を使った新しい技術も次々と誕生している。これは会社でもなければ特定の組織が中間にいて、銀行を肩代わりしているわけでもないのです。
ただ、ここには間違いなく次世代の銀行があります。決済でビットコインが使われるようになるかどうかはわかりませんし、もちろん今の銀行を完全に置き換えることはできないでしょう。しかし、少なくとも銀行が必要であった時代が終わりを迎えようとしていることは明らかです。
ビットコインがあれば銀行が担っていた多くの機能が不要になり、もっと言うと、もう人類が騙されなくて済む、ということでもあります。これまで続いてきた銀行や国家の仕組みは、どこまでが本当だったのかほとんどの人が知らないと思うんですけども、ビットコインに関してはブロックチェーン上に書き込まれるのでうそをつくことができません。
それがいいことかどうかは、まだ分かりません。ただ、うそをつくことができないのは間違いないのです。
お金に置き換えられるのは基本的にビットコインだけ
ここから先は、次のファクターの話をします。
一般的に分散型社会がやってきて、何が世の中を変えるのかと言うと、「ビットコインです。ビットコインが銀行を置き換えるでしょう。以上です」っていう話がほとんどです。
ビットコイン以外にも、ものすごい数のブロックチェーン系の技術やオープンソースプロジェクトが誕生していますが、ほとんど知られていません。価格が上がったとか、そういうニュースしかでてこない。けれどそれらはお金じゃないんです。
この話の前に厳密なことを言うと、基本的にはお金を置き換えることを目指しているのはビットコインだけです。ビットコインは銀行を排除してお金の代わりとなる仕組みを作りました。でも、イーサリアムはお金と考えていないです。イーサリアムの例をいうならば、世界中に分散しているコンピュータの利用料金というのをETH(イーサリアムの通貨の単位)で払っているということです。
つまりETHの価格が上がるというのは、「イーサリアムというコインの値段が上がった」のではなく、「世界中に分散しているイーサリアムコンピュータを利用する権利の値段が上がった」ということです。このように一個一個見て行くと、ビットコインのように純粋に通貨を目指しているものは本当に少なくて、ほとんどがお金ではないものなんですね。
メディア産業で注目のプロジェクト
そんな中、メディア産業で未来を考える上で重要な問題提起をしているプロジェクトをこれから2つ紹介します。これが成功するかは分からないです。
プロジェクトが健全ですばらしいという推奨をするつもりもありませんし、技術的な実現性を全面的に認めて支持を表明しているわけでもありません。また、このトークン(コイン)を買えとも言わないです。かなりリスクがあることだと思います。どこまで本当に実現できるか分からないけども、言っていることは「なるほど」と思うプロジェクトです。
そのひとつがSingularDTVです。これが何かというと誤解を恐れずに言えば“分散型ネットフリックス”です。彼らはネットフリックスをディスラプト(破壊)する側に立っていて、ネットフリックスがやられる側に立ったということです。
SingularDTVはコンテンツを作成する時に皆が簡単にICO(新規仮想通貨公開)に近い事が出来るのが特徴です。
Singularのネットワーク上でコンテンツ制作している人が、例えば「4週間以内にこういうドキュメンタリーを作りたい」というプロジェクトを発表すると、そこに面白そうだと“出資”する人、面白そうだから見たいと事前に購入する人が出ます。
その資金でコンテンツ制作がされた場合、収益が出資比率等によって分配されるようになるというコンテンツ配信/コンテンツ制作ネットワークを分散型でやっています。
彼らが明確に定義しているプロジェクトの目的は、コンテンツ制作/配信の過程における中間搾取の業者をすべて排除することです。
コンテンツ制作の過程で関わるさまざま管理会社や権利会社、あるいはそれを配信する会社、そのすべてを排除することが可能だということを技術的に証明するプロジェクトなのです。さらに、すべて閲覧したければそのトークンがなければできないようになっているので、違法コピーのような著作権の問題も起こりえません。ブロックチェーン/仮想通貨の技術を利用して、コンテンツの分散管理を実現しているのです。
広告が一切でないブラウザ
それからもうひとつ、Braveブラウザ、BATというプロジェクトが個人的にはすごいなと思っています。
これは広告がなくなるというプロジェクトです。メインプロジェクトはウェブブラウザで、Braveというライオンの顔をしたブラウザがあるんですけども、広告が一切出ません。
広告が出ないということは、トラッキングコードを一切読み込まないことになるので、ウェブページの表示が今の何倍も高速化します。さらに、バッテリーの持続が良くなるというデータもあります。つまりあらゆるトラッキングコードを無効化すれば、エコであるというところに行き着くのです。
しかも高速だから人の時間を奪わない。誰も見たくもない広告を見せられる社会ではなくなるんです。それがBraveなんですけども、こんなことやっても儲からないので潰れるじゃないですか?
でもBATは違うんですよ。BraveブラウザがやっているこれはICOプロジェクトで、BATトークンというものを販売します。そして購入したBATトークンは、自分がいつも見ているウェブサイトのオーナーにあげることができます。
直接お金を払うということです。「あなたの記事は面白いのでお金を払わせてください」と、トークンで払うことができるんです。これの何がいいかと言うと、仮想通貨なので、0.数円という少額でも送金が可能になります。
そしてこの記録がブロックチェーンに残るということは、誰がどのコンテンツを評価しているということが明らかです。ということは、よく閲覧するブログが更新されたときにその広告が配信されてきても、もはやそれは“広告”ではなくて“プッシュ型のコンテンツ配信”になるわけです。
その時に、広告配信料金としてBATトークンを使えるというモデルを目指しています。簡単に言うと、直接ユーザーがコンテンツ制作者に投げ銭することができ、その投げ銭されたお金でコンテンツ製作者は次の広告を発信することができる。でもそれは広告ではなくて、自分のコンテンツに興味があることを証明された人に配信されるので、無作為な検索キーワードで広告がでる社会ではなくなるのです。
このBATは広告における中間搾取の企業をすべて排除することを目指しています。ユーザーとコンテンツ製作者、それが直接やりとりできる世界をつくる。そのなかに、中央にいた広告配信企業は不要です。そういうプロジェクトです。このプロジェクトは開始当初はICOとしては史上最速の金額を集めました。とにかく期待が高くて何がすごいかというと、絶対にグーグルにはできないんです。グーグルの90%以上の収益は広告なので、Braveに勝つことは不可能だと思っています。
もちろんBraveはまだまだ開発過程ですし、まだBATのエコシステムは成り立っていないので、今言ったようなことが本当に起こるのか、本当にコンテンツ制作者にお金が入ってそれで回るのか、まだ機能はしていません。
ただ、少なくともこんなやり方があって、すでにやっている人がいて、史上最速でお金を集めたプロジェクトの一つです。そして、参加者同士が直接つながるP2Pの時代はすでに始まっているのです。
(後編:「ブロックチェーンで“お金”の価値がなくなり、“信用”の社会がやってくる」は20日に公開予定)