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ワンワン物語 ~ 金持ちの犬にしてとは言ったが、フェンリルにしろとは言ってねえ! ~ 作者:犬魔人
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第21話 倒した! と思ったら大団円だった!

世界一低俗な怪獣決戦(´・ω・`)決着

 収束された白い烈光と、燃えさかる蒼い獄炎は、うねりを持ってぶつかり合い、そのエネルギーを拡散させた。


 その余波は洞窟を削り、焼き尽くし、あらゆる場所で崩落を招いた。


 魔力の奔流はまばゆいばかりの白い閃光を呼び起こし、あまりの眩しさに俺は目を閉じる。


 そして徐々に閃光が収まり、静まり返った洞窟で目を開けると、そこには全身から黒煙を上げるドラゴンの姿があった。


 巌のような巨体がぐらりと傾く。


「GUROOO……(わしの、負けじゃ……)」


 ずうん、と重い地響きを立てて、蒼竜レンヲヴルムはくずおれた。

 長い首が、俺の直ぐ側に横たわる。


 傷だらけのドラゴンは息も絶え絶えに口を開いた。


「GAROOO……(まさか、このわしが敗れる日が来るとはのう……。しかもこんな変態に……)」


 変態言うな。

 ペロペロしたいのは犬のサガじゃ。


「GUROO……(いやはや、長生きはするものじゃな……)」


 地に伏したドラゴンは、静かにその目を閉じる。


「GUROO……(わしはもう満足じゃ。さぁ、とどめを刺すが良い……)」


「わん(いやあの、雰囲気出してるところ悪いんだけど、刺さないからね?)」


 そもそも今回の戦いは、誤解から生まれたわけだしな。

 レンヲヴルムだったか。こいつがもう戦う気はないっていうなら、これ以上やりあう必要なんてない。


「GAROOO……(なんと、わしの命を救うというのか。竜殺しはほまれじゃぞ?)」


「わん(知らん知らん。ペットがそんなもん手に入れてどうすんだ)」


 俺が欲しいのは、甘やかされながら食っちゃ寝する怠惰な毎日だけだ。

 それ以外に欲しいものなど何もない。


 何度でも言おう。

 駄犬生活ペットライフは最高である、と。


「GAROOO……(ふっ、豪気な上に寛容で謙虚な男子おのこよ。変態であることを除けば優良物件よなぁ……)」


 千年級喪女ドラゴンから、熱いターゲッティングを感じる。


 しかし俺はケモナーじゃないので、まったく嬉しくない。

 あと、変態言うな。


 それより、こいつの怪我は大丈夫なのだろうか。

 切り傷に焦げ跡だらけで、かなりひどい状態なんだが。


「GUROOOO……(ふ、案ずるでない。この程度の傷、少し休めば勝手に癒える。そなたとの喧嘩は存外楽しかったぞ)」


「わんわん(俺はもう二度とやりたくないね。まぁでも、こんなところで一人でいるのは寂しいだろ。また今度遊びに来てやるよ)」


 こうして話してみて分かった。

 レンヲヴルムは悪いやつじゃない。

 色々迷惑をかけちまったし、ジェイムズのおっさんの料理を土産に挨拶しに来るくらいは良いだろう。


「GAROOO……(こんなところとはひどいやつじゃ。わしの巣をこんなになるまで破壊したのは、半分おぬしじゃろ)」


「わん(……はい、すんませんでした)」


「GAROOO……(クハハ、冗談じゃよ。わしはもう寝る。巣にあるものはなんでも好きに持っていくが良い。竜退治にお宝は付きものじゃからのう)」


 そういうと、レンヲヴルムは体を丸めて、目を閉じてしまった。


「わん(それじゃあな、レンヲヴルム。また会おうぜ)」


 レンヲヴルムは大きな尾の先をひらひらと振って答える。

 俺は自分と似通ったその怠惰な姿勢に苦笑して、ゼノビアちゃんを起こしに向かった。



   †   †   †



「くーんくーん(ゼノビアちゃん、起きてくださいなー。ペロペロタイムのお時間ですよー)」


 頭で肩をつっつくが、ゼノビアちゃんは起きる気配はない。


 竜零草の入ったカバンはすでに見つけてあるので、あとはゼノビアちゃんを起こして屋敷へ帰るだけなんだが。


「くーんくーん(寝顔をペロペロしても楽しくないんですよー。起きて泣いて悔しがっているところをペロペロしたいんですよー。起きてー起きてー)」


「にゃーん(なかなか業の深い性癖をお持ちのようですね、ロウタさん……)」


 後ろからいきなり猫の鳴き声がした。

 俺はびっくりして飛び上がる。


「わふっ?!(ふぁっ?! な、ナフラ?!)」


「にゃー(はい、わたくしナフラです。ご主人様がそろそろ決着がついてるはずだから迎えにいけと仰るので、こうして参上いたしました)」


 最初からそこにいたように、ナフラが俺の背後に座っていた。

 驚く俺をよそに、のんきに顔を洗っている。


「わんわんっ(迎えにって、追いかけてきたのか?!)」


「にゃーん(いえいえ、まさか。ロウタさんとかけっこして勝てるわけないじゃないですか。空間魔法の一種ですよ。ロウタさんを座標アンカーにして空間を跳び越えてきたんです……ですにゃ)」


 魔法すげえ。

 瞬間移動とかできるのかよ。

 あと、あいかわらず『にゃ』の取ってつけた感が半端ない。


「わんわん(ナフラ、お前、実はすごいやつだったんだな)」


「にゃーん(それほどでもー。私の魔力では三箇所に座標を設定するのが限界ですし。ご主人様の工房と、ガンドルフ様のお屋敷と、あとロウタさん)」


 俺かよ。

 個人にマーキングするとかありなのかよ。


「わん(……それ、俺の許可取ってないよね……?)」


 いつでもどこでも俺の前に現れられるってことでしょ?

 ペットにだってプライバシーはあるんですよ!


「にゃーん(ご主人様のご命令なので……。許してにゃん♪)」


 ナフラは猫の手を顔の横に添えて、招くように動かした。


 かーわーいーいー。

 ゆーるーすー。


 くそう。あざとい。ナフラあざとい。


「にゃーん(それじゃあ、帰りましょうか。あちらで眠っている怖いドラゴンさんが起きないうちに)」


「GARROOO……(聞こえとるのじゃぞー……)」


「にゃっ!(はわわ! 急ぎましょう急ぎましょう!)」


 眠たげな声でうなるレンヲヴルムに驚いたナフラが、ゼノビアちゃんの膝に飛び乗る。


「にゃーん(それじゃあ、転移しますよー。忘れ物はありませんかー)」


 ナフラを中心に、白い空間が広がっていく。おそらくこの範囲内のものを瞬間移動させる魔法なのだろう。


 カバンは持った。

 大剣は捨てておきたいが、残念ながらゼノビアちゃんのすぐ横に落ちている。


「にゃおーーーーーん!」


 ナフラが高く鳴くと、景色が陽炎のようにゆがむ。

 次の瞬間、そこは暗い洞窟ではなく、お屋敷の広い中庭になっていった。


 見慣れた庭園に、大きな木、きらびやかな噴水。

 その奥にでんと構える豪奢なお屋敷。

 見慣れた我が家だ。


「わん(本当に一瞬だったな……)」


 俺たちが戦っている間に、太陽はもうずいぶん高く昇っていた。

 明るい場所へ急に出たので、日差しが目に眩しい。


「はい、お帰りなさい。上手く行ったようねえ」


 魔女ヘカーテが帽子の広いつばをつまんで、俺たちを出迎えてくれていた。


「わんわん(これが竜零草であってるか? 数は足りてるか?)」


「あってるわぁ。充分よぉ」


 カバンにぎっしり詰まった竜零草をヘカーテに渡す。


「それじゃあ、霊薬の精製をしてくるわねえ。ナフラはゼノビアちゃんをてあげてちょうだい」


「にゃーん(はーい。了解です、にゃ)」


「わんわん(頼んだぜ、ヘカーテ)」


「任せなさぁい」


 立ち去るヘカーテを見送って、俺はお嬢様のところへ走った。


 非常に惜しいが、ゼノビアちゃんの泣き顔ペロペロは次の機会だ。


 廊下を駆け抜け、メイドさんとすれ違い、走ってはいけませんと怒られながらも、俺はお嬢様の部屋へと急ぐのをやめなかった。


「わんわん!(お嬢様! 薬取ってきたやで! これですぐ良くなるからな!)」


 前足を使ってドアを開け、お嬢様の部屋に駆け込む。


「あらあら、ロウタ。どこへ行っていたの? お嬢様が心配していたのよ?」


 メイドのミランダさんが椅子から立ち上がった。


 お嬢様にずっと付いて看病してくれていたらしい。

 目の下には少し疲労の跡があった。


「わん(ごめんやで!)」


 ミランダさんに謝りつつ、お嬢様のベッドに前足をかけてその顔を覗き込む。


「……ロウタ?」


 熱に浮かされた様子で、お嬢様が目を開く。


「ロウタぁ……!」


 その目はすぐに涙でにじんだ。


「どこへ行ってたんですかぁ……。ずっと、いなくて……、心配したんですよ……!」


 首に手を回され、ぎゅうっと顔を押し付けられる。

 お嬢様の身体は火のように熱かった。


 ヘカーテの熱冷ましの薬があってこれだ。

 とてもつらかったろう。

 半日とは言え、そんな心細い状態のお嬢様を放っておいたことに胸が痛む。


「くーんくーん(ごめんよ、お嬢様。だけど、お嬢様の病気を良くする薬、ちゃんと取ってきたから)」


「ロウタぁ……ロウタぁ……。どこへも行っちゃ嫌ですよぅ……」


「くーん(はいはい、もうどこにも行きませんからねー)」


 ぐずつくお嬢様の抱擁は、ヘカーテが薬を精製して持ってくるまで続いた。



   †   †   †



 霊薬を飲んだお嬢様の熱は、みるみるうちに下がった。

 夜にはベッドから起き上がれるまでになったお嬢様に、パパさんが泣きながら頬ずりしている。


「おおおおお、メアリぃぃいぃぃぃぃ! 良かった! 本当に良かったああああああああ!!」


「うふふ、お父様、お髭がくすぐったいわ」


 すがりつくパパさんをお嬢様は優しくあやしている。

 ああやっているとどっちが親子か分からんな。


「お嬢様!!」


 そこへ、ゼノビアちゃんが飛び込んできた。


 ようやく意識を取り戻したらしい。

 ナフラが治療したのか、レンヲヴルムとの戦いで負った怪我も治っているようだ。


「あっ、ゼノビアさん」


 お嬢様がゼノビアちゃんの来訪に笑顔で迎える。


「お嬢様、ご病気は……!?」


「ええ、もうすっかり良くなりました。ゼノビアさんがお薬の材料を取ってきてくれたんですよね。ありがとうございます」


「ゼノビア君! 私からも礼を言わせてくれ! 本当にありがとう!」


 滂沱と涙を流しながら、パパさんがゼノビアちゃんの手を握る。


「私も入手しようと方々へ手を回していたので知っているのだ。竜零草は龍の巣にしか生えない幻の薬草というではないか。危険を顧みずそのような場所へおもむき、メアリのためにドラゴンと戦ってくれたのだろう?」


「は!? いえ、あの……!」


 困惑するゼノビアちゃんを、パパさんは怒涛の勢いで褒めちぎる。


「夜中、ここからでも遠くで光の筋が空を走るのが見えた。凄まじい戦いだったのだろう。あれはやはりゼノビア君だったのだね。さすがは元SS(ダブルエス)級冒険者だ。きみをこの屋敷に招いて本当に良かった。ぜひお礼を。なんでも言ってくれたまえ!」


「いえ! 違います! 私はなにも出来ず……!」


 ゼノビアちゃんにとっては大きな誤解だろう。

 結果だけ見たら、ゼノビアちゃんのやったことって、場を引っ掻き回しただけだからな。

 最後は気を失って、気がついたら屋敷にいて、勝手に英雄扱いされている。

 そりゃ困惑もするわな。


「違う……? しかし、竜零草はこうして……。ゼノビア君ではないのなら、一体誰が……?」


 ゼノビアちゃんの強い否定に、今度はパパさんが困惑する。


 昨日屋敷を留守にしていたのは、ゼノビアちゃんと、もう一匹。

 該当するのは、俺だけだ。


 みんなの視線が俺に集まる。


「わふっ(……あっ!)」


 や、やっべええええええ!

 竜零草を取りに行くことで頭が一杯で、その後のことをごまかす手段を考えてなかった。


 フォローしてくれるヘカーテはこの場にはいない。

 遠目にでも戦闘が見えた時点で、誰かがドラゴンと戦っていたのは知られてしまっている。

 さすがにドラゴンと戦う犬なんて、みんなおかしいと思うだろう。

 このままじゃ、俺の正体がバレちまう。


「ロウタ……?」


 メイドのミランダさんが恐怖を湛えた瞳で見下ろしてくる。


「きゅーんきゅーん!(ちがうよミランダさん! ぼくはただのかわいくて白い仔犬だよ! そんな疑いの目を向けないで! まじで! お願い! この生活を手放したくないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!)」


「ロウタ、まさか、お前が……?」


 パパさんまで震える声で俺に問うてきた。

 その声には怯えが混ざっている気がした。


 あ、あかん。当主であるパパさんにまで疑われたらおしまいや……!

 どうする……! どうする……!

 いかん、なんにも思いつかん……!


「まさか、ロウタ、おまえは……」


「──は、はははは!!」


 快活な笑い声が、その場の沈黙をかき消した。


「気づかれてしまっては仕方がありませんな! そうです。私がドラゴンを倒し、竜零草を持ち帰ったのです! 手強い相手でしたが、いやあ、私の手にかかればこの通り!」


 ゼノビアちゃんが胸を張って、得意気に話しだした。


「くーん(まさか、助け舟を出してくれてるのか……?)」


 凄まじい大根役者っぷりだが。

 ゼノビアちゃんの性格上、手柄を横取りするような真似は一番嫌うはずだ。

 その上でこんな演技をしてくれるということは、すべては俺のため?


「おお、やはり、そうだったのかね! 流石はゼノビアくんだ!」


「は、はっはっは! それほどでもありませんよ! ロウタも何かの役に立たないかと連れて行ったのですが、怯えるばかりでなんの役にも立ちませんでしたよ! やはりただの犬ですな! はっはっはっは!」


 やっぱりゼノビアちゃんは、俺の正体を隠そうとしてくれている。

 心にもない嘘を言うその手が、震えるほど握りしめられているのがその証明だった。


 堪忍や。堪忍やでゼノビアちゃん。

 ここは俺のためにそのまま耐えてくれ……!


 パパさんたちによるゼノビアちゃんSUGEEEEは、その後もしばらく続くのだった。



   †   †   †



「がっふがっふ!(うめえ! めっさうめえ! やっぱおっさんのメシは最高じゃぜ!)」


 最初の熟成を終えたばかりの魔物イノシシの腰肉を、塩コショウだけして焼いたステーキを俺はがっつきまくる。


 オーブンを使って極低温でじっくり火を通されたあと、強力な直火で余分な脂を落とされた分厚い肉は、表面はカリッとしているが、中はほどよくレアだ。

 火はしっかり通っていて生臭さは少しもないが、ジューシーさはそのまま健在。噛むほどに旨みが肉汁となって溢れ出てくる。


 美味すぎる! 達人の焼き加減やでこれは!


「にゃーん!(本当に、美味しいですね! ロウタさん!)」


「わんわん!(せやろ! 最高やろ! せやけど、ナフラさん、ワイのご飯を横から取るのはやめて?)」


 これ俺の! あなたのはヘカーテが用意してくれてるでしょ!


「にゃー(えー、けち臭いこと言わないでくださいよう。半分こしましょ。ねえ、半分こ♪)」


「わんわん!(半分も食う気だったのかよ! その図々しさにびっくりするわ!)」


 可愛く言っても許さないんだから!


「ちゅーちゅー(そうじゃぞ。身の程をわきまえんか、駄猫め)」


 ちゅー?

 今なんか変な鳴き声がした気がするんですけど。


「ちゅーちゅー(ううむ、しかしおぬしが言うとおり、この肉はすこぶる美味じゃ。良いぞ。もっと持ってまいれ)」


 肉の乗った俺の皿を見下ろすと、小さな鼠がちょこんとふちに座っていた。

 両手を器用に使って、肉の欠片をぱくついている。

 その毛は珍しいことに、鮮やかな蒼い色をしていた。


「にゃー!(ね、ねずみー!? ねずみ怖い! ロウタさん倒して! ぺってやって!)」


 ナフラが悲鳴を上げて跳びずさる。


「わふ……(猫のくせにネズミが怖いとか……。お前、本当に属性の多いやつだな……)」


「ちゅー(まったく、騒がしいやつじゃ。のう、ぬし様よ)」


 蒼い鼠が俺の脚を伝って頭まで登ってくる。


「わふっ(お、おい)」


「ちゅー(なんじゃ、また会おうと言うたのはおぬしじゃろうが。じゃから、わしがこうしてわざわざ出向いてやったのではないか。ちゃんともてなさぬか)」


 このふてぶてしい喋り方、聞き覚えがあるぞ。


「わん!(おまえ、まさか! レンヲヴルムか?!)」


「ちゅーちゅー(うむ、ようやく気付いたか。元の姿では人族を怖がらせてしまうからのう。こうして目立たぬ姿で忍んで参ったというわけよ。わしはちゃんと時と場所と場合をわきまえる賢い乙女じゃからの)」


 そのTPOを出会ったときにも発揮してほしかったぜ。


 つーか、そんな自在に姿を変えられるのかよ。

 もしかしてドラゴンの目撃情報が極端に少ないのって、他の生き物に変身して生活してるからなんじゃ……?


 いかん。

 世界の秘密の一端を知ってしまった気がする。

 一介の犬には過ぎた知識だ。忘れよう。


「ちゅーちゅー(ま、そんなわけじゃ。しばらく厄介になるぞ、ぬし様よ)」


「わんっ!?(はぁっ?! なんで?! 帰らないの?!)」


「ちゅー(わしの巣を破壊したのは誰じゃったかな?)」


「……くーん(ぼくです……)」


「ちゅー(分かっておるなら良い。ううむ、おぬしの毛皮はなかなか寝心地が良いのう。よし、ここをわしの新たな巣とする!)」


 巣って、俺の毛皮に住むのかよ!

 しかし他人の家を壊してしまった手前、強くは言えない。

 ダニでも飼ってる気分だ……。


「ちゅー(それからな、わしを倒したおぬしはつがいとして申し分ないと判断した。変態なところが心配じゃが、アバタもエクボじゃ。そのうち婿にしてやるからありがたく思え)」


 この駄鼠だねずみ、とんでもないことをいい出した。


 俺は即答する。


「わん(お断りします)」


「ちゅー!(な、なんじゃとー! わしを竜族一の美姫と知っての狼藉か!)」


「わんわん!(だから、俺はケモナーじゃないって言ってんだろうがあああああああ!!)」


 耳元で叫ぶ蒼鼠に、俺は怒鳴り返す。


「にゃーん(お肉、美味しいですねー)」


 ナフラの声に反応すると、俺の前にあった皿がない。


「わん!(あっ、あいつあんな離れたところで、ひとりだけ肉食ってやがる!)」


「ちゅー!(なんと、欲深な駄猫め! やってしまうのじゃ、ぬし様よ!)」


「わんわん!(ナフラ! おめーに一つだけ教えといてやる! 食い物の恨みほど恐ろしいものはないんじゃあああああ! おらあああ! 肉よこせ、肉ぅぅぅぅぅぅっ!!)」


「ぎ、ぎにゃー!?(い、いやあああああああ!!?)」


 これが、この先大変に長い付き合いとなる、駄犬・駄猫・駄鼠のトリオが結成された瞬間だった。



   †   †   †



 竜零草を持ち帰ったあの日から、一週間が経った。

 霊薬がしっかり効いたようで、お嬢様はもうすっかりお元気だ。


 慌ただしかった屋敷は日常に戻り、俺は駄犬生活を満喫している。

 今日もおっさんの昼飯をしこたま食って、木陰で昼寝をしているところだ。


 まぁ、背中には蒼い鼠が住み着いてるし、俺の頭上の木の枝では紅い猫がいびきを掻いている。

 もうそこは目をつぶろう。こいつら言っても出ていかねーし。


 お嬢様は病気が治っても相変わらず俺にべったりで、俺に抱きついてくぅくぅと寝息を立てている。


「おい、これは貸しだからな」


 木の裏側からゼノビアちゃんの声がした。


「気を失っていた私には、一体何が起こったのか分からない。だが、全てはお前がやったことなのだろう?」


 俺はゼノビアちゃんの問いに答えない。

 なぜなら俺はただの飼い犬だから。 


「まったく、私にあのような法螺ホラまで吹かせて。恥ずかしいことこの上なかったぞ。だが、貸しと同時にお前には大きな借りがある。私一人ではどうにもならなかった。お嬢様を助けてくれて、ありがとう」


 ひえっ。

 ゼノビアちゃんからお礼言われちゃったよ。

 明日は雹でも振るんじゃなかろうか。


「それだけだ。勘違いするなよ。お前のことを信じきったわけではないからな。お前が魔性を取り戻すような事があれば、そのときこそ叩き斬る」


 最後にそう脅して、ゼノビアちゃんは立ち去っていった。


 まったくもう素直じゃないんだからぁ。

 ほんとペロペロしたい。


 初夏の日差しは段々と強くなってきたが、木陰の下はまだまだ涼しい。

 もう少し昼寝を楽しもうかと、組んだ前足に顎を乗せる。


 その時、ざぁっと強い風が吹いて、お嬢様が目を覚ました。


「ふにゃ……」


「わんわん(おや、お目覚めですか、お嬢様。お勉強はまだお休みだし、ボール投げでもして遊びますかい?)」


 寝ぼけ眼のお嬢様へ問いかけると、にへらっと表情を崩して、ふたたび強く抱きついてきた。


「良かった。ロウタ、ちゃんといました。……もうどこにも行っちゃ嫌ですよ」


「わんわん(はいはい。ロウタはずっとお嬢様のおそばにおりますよ。約束です)」


 お嬢様は俺の目をじっと見つめて、それから大輪の花が咲くように笑った。


「ロウタ、大好きです!」


 この顔を見れただけで、これまで苦労は全て報われた。


 何度でも、何度でも、何度でも言おう。


 ペットライフ最高おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!

これにてワンワン物語の第一章は完結になります(´・ω・`)続く第二章でもよろしくお付き合いくださいませ!


いつもブクマ・評価・感想・レビューなど、本当にありがとうございます!

皆様の応援のおかげで、飽き性の私がこうして一つの話を書き上げることが出来ました。

物語はまだまだ続きますが、一つの区切りとして、ここにお礼申し上げます。

ご高覧、誠にありがとうございました!

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